[0438] ホラー小説全盛時代を作った男

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0438   1999/10/09.Sat発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 14206部
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 <そのときのうれしさといったら!>

●デジクリトーク
 ホラー小説全盛時代を作った男
 十河 進

●デジクリトーク
 編集者体質な私(!?)
 カネマキトモコ

●公募案内
 Digital Entertainment Program 99
 入賞者にはさまざまな特典、締切は10月30日



■デジクリトーク
ホラー小説全盛時代を作った男

十河 進
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書店を覗くと、相変わらずスティーブン・キングの本が並んでいた。スティー
ブン・キングの筆力は驚異的だ。毎月のようにキングの本が出ている。何かが
取り憑いて書かせている、としか思えない。昔は永井淳さんや深町真理子さん
が訳していたが、最近は誰が訳しているのだろうか。まったく読まなくなって
10年以上になる。

初めて翻訳されたキングの本は「キャリー」だったと思う。新潮社から出たは
ずだが、あまり話題にならなかった。キングにとっても、処女作である。映画
「キャリー」(ブライアン・デ・パルマ監督・1976年)の方は、シシー・
スペイセクという地味な女優の主演だったが、評判になった。当時からパルマ
は血まみれシーンが好きだった。

「キャリー」では、パイパー・ローリーというキャリーの母親役の女優さんが
映画ファンの間で評判になった。何しろ名作「ハスラー」に出てきたきりで、
その後、ほとんど出演作がなく、久しぶりの(それも母親役)日本公開作だっ
たからだ。「ハスラー」では足が悪いインテリのヒロイン役で、最後に自殺し
てしまう。かわいそうだった。

その後、集英社から「呪われた町」のハードカバーが出て一部で評判になり、
僕もその時に初めてキングを読んだ。オーソドックスな展開に「れれれっ」と
いう感じもしたが、その圧倒的な筆力と伏線の張り方や盛り上げ方には感心し
た。その頃、ホラー小説は死滅したジャンルだったのだ。いや、ホラー小説と
いうジャンルがなかった。創元推理文庫で出ていたラブクラフトなどは怪奇小
説と命名されていたし、「ドラキュラ」などもその範疇だった。

現在のホラー小説の隆盛はキングの影響である。キングが登場しなかったら、
こんなにホラーブームにはならなかっただろう。キングが出てきた頃は、「現
代のゴシックロマン」というような言われ方をしていた。ゴシックロマンとは
「嵐が丘」や「ジェーン・エア」をイメージするとわかりやすい。

キングの凄いところは、純文学系の作家にも影響を与えたことだ。村上春樹と
吉本ばななに影響を与えたと慧眼の小林信彦は指摘するが、キングがまだ一部
ファンしか獲得していなかったころ、村上春樹は文芸誌に「ステファン・キン
グ論」(Stephen Kingをこう表記していたはずだ)を掲載した。

この作家論の連載には「都市小説としてのチャンドラー」という回もあり、単
行本になるのを待っていたが、あれから十数年、未だに本にまとまらない。村
上さん、何とかなりませんか。

「呪われた町」を読んで以来、新作の翻訳を待ちかねていたが、ミステリマガ
ジンのコラムで「キングの最高作『シャイニング』紹介」を読んで、ますます
首を長くしていた。「シャイニング」は1977年に書かれた3作目で、日本
では翌年に出た。

「シャイニング」を出したのはパシフィカ。1980年に映画化された時、映
画のスチルを使ったカバーにして出し直したが、その後、絶版になり、文春文
庫で復刊するまで、数年、手に入らなかった。

「シャイニング」は確かにキングの最高傑作だった。誰のものかわからない不
安なモノローグ。主調低音を作り出すような「レドラム」という言葉の繰り返
し。すずめ蜂の巣のイメージ。凄い小説だった(スタンリー・キューブリック
の映画化はひどかったけれど)。

その頃、早川文庫NVから怪奇小説のアンソロジーが出た。「闇の展覧会」と
題されたアンソロジーの中にキングの中編「霧」が入っていて、これが読み出
したらやめられない。ヒッチコックの「鳥」(原作はダフネ・デュ・モーリア。
この人も「レベッカ」というゴシックロマンの名作を書いている)と似た感じ
の設定で、霧が出る前の嵐の描写など異変が起こる雰囲気作りが本当にうまい。

こんな話だ。
メイン州の湖の近くの別荘に住む小説家は嵐の翌日、息子を連れてスーパーへ
買い物に行く。途中、湖水の上に奇妙な霧が出ているのを見て不安を感じる。
スーパーで買い物をすます頃には、町を濃い霧が包み込んでいた。表に出た人
が叫び声を上げたまま戻ってこない。「霧の中に何かいるぞ!!」と誰かが叫ん
だ……。

1979年、ジョン・カーペンター(キング原作「クリスティーン」は彼の監
督だ)というホラー映画ばかり撮る監督が「ザ・フォッグ」という映画を作っ
たが、てっきりキングを原作にしているものと思っていたら違った。まあ、こ
ちらも濃い霧の中から海中に沈んでいたゾンビが現れるという内容だったけど
……。

キングは書くことをやめられない作家らしい。あまり数を出すと売れなくなる
から、というエージェントや版元の判断から、キング・ブランドでの小説は1
年1作くらいにしていたのだが、そのペースではどんどん原稿がたまるらしい。
そこで別名義(リチャード・バックマン)で出したのが「痩せゆく男」「バト
ルランナー」などだ。しかし、キング・ブランドでないと売れないと判断した
のか、文春文庫ではキング名義で出版した。

キングの小説はほとんどが映像化されている。「シャイニング」もキューブリ
ックの映画版の他にテレビ版もある。キング本人も映画好きで、自分で出演し
たり監督したりしたこともある。それまで映像化されたものには、いろいろ不
満があったようだ。

僕はクローネンバーグ監督の「デッドゾーン」(1983年、日本公開は19
87年)が好きだったが、キング原作で初めて映画的に評価されたのは「スタ
ンド・バイ・ミー」(1986年)である。「恐怖の四季」と題された中編集
の中の一編「ザ・ボディ(死体)」を忠実に映画化したもので、リバー・フェ
ニックスを一躍人気スターにした。キーファー・サザーランドの日本デビュー
もこの映画だった。

この「恐怖の四季」には4編の中編が収められているが、映画化に向いている
のか「刑務所のリタ・ヘイワース」を原作にした1994年の「ショーシャン
クの空に」は、キネマ旬報読者選定ベストワンになった。これも、かなり原作
に忠実だ。

映画でモーガン・フリーマンが演じたナレーターが、冤罪で終身刑に服したひ
とりの男のストーリーを語る。彼の刑務所の部屋の壁にはリタ・ヘイワースの
ポスターが貼られていた。そのポスターは新しいスターに変わったが、初めて
ポスターが外された時……。

余談だが、リタ・ヘイワースである。「ギルダ」(1946年)のリタ・ヘイ
ワースである。「ギルダ」で初めて彼女が登場するシーンとその時のセリフを
知らないアメリカ人はいない。イングリッシュ・アドベンチャー(ちょっと古
いかな)の髭おじさん・天才オーソン・ウェルズを惑わせ捨てたリタ・ヘイワ
ース(ウェルズは新妻を主演に「上海から来た女」を監督主演した)。晩年は
アルツハイマーにかかり、全米のファンを嘆かせたリタ・ヘイワース。

「恐怖の四季」の中の「ゴールデン・ボーイ」も映画化されて、今年、日本で
も公開された。原作は、とんでもなく悲惨な話で救いがないから、見たくない
なと思っていたら、かなり結末を変えているらしい。原作のままの結末だった
ら映画を見終わってから、席、立てないでしょう。

毎月1冊ずつ刊行し、全6巻出た「グリーン・マイル」はかなり評判がいいが
トム・ハンクス主演で映画化されたらしい。ちょっと期待している。

【そごう・すすむ】DG@genkosha.co.jp http://www.genkosha.co.jp/dg/
玄光社勤務。現在は季刊DG(デジタルグラフィ)編集長。パシフィカ版ハー
ドカバー上下2巻本「シャイニング」を持っているのが自慢。でも、「闇の展
覧会」は誰かにあげてしまった。早川でももう手に入らない?

・わたしもキング好き。だけど原作は「シャイニング」くらいしか読まず、も
っぱらWOWOWで見ている。キューブリックの「シャイニング」はわたしは
すごくいいと思う。冒頭の空撮カットなんかため息が出るほど美しい。逃げ回
る妻の顔がどんどん<蛇女ふうに>こわくなってゆくのがこわいが、演出の狙
いではないと思うが。キングが監督した(?)長編のテレビ版も見たけど、男
がウットーシー饒舌な奴で……。原作は本当に面白かった。(柴田)

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■デジクリトーク
編集者体質な私(!?)

カネマキトモコ
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インターネットウルマ編集部です。

高木さんがどういう経緯でこの仕事をもってきたのかとかはともかく、とりあ
えず高木さんとの出会いは沖縄関係のメールマガジンのオフ会だったわけです
から、はじめからこうなる運命だったのかもしれません。

当時の私は沖縄に来てまもなく、頼りは沖縄に来るときにもってきたPCとメ
ール友達だけという寂しい状況で、なんとしても、オフで会えるPC友達がほ
しかったわけです(笑)。出会ってからいくつからのサイト作成のお仕事を本
業(専門学校のデジタル系の講師)の傍ら、ちょこちょことさせていただいて
おりました。

そんな折、大きな仕事があるからと高木さんにお誘いを受け、思い切って転職
した結果の仕事が「インターネットウルマ」だった、というわけです。もとも
と東京で雑誌の編集をやっていましたので、作る仕事に戻るという話は願って
もないものでした。そしていざ作成にとりかかります。

もともと編集者体質(?)な私は、締め切りギリギリにならないと仕事ができ
ず、その上プレッシャーにめっぽう弱く、作成はプレッシャーとの戦いでした。
上(笑――高木さんのことです)はプレッシャーをかけてくるわ、ストレスは
たまるわ、なんだかわけがわからなくなっておりました。

とりあえずフラッシュを1週間で覚えなきゃいけなかったり、風邪をひいたり、
二日酔いをしたり、死にそうでした。個人サイトは運営していますが、オフィ
シャルのそれもこんな大掛かりなサイトははじめてです。

迷いと、躊躇と、プレッシャーの中で、私は作り手としての自信さえ失いつつ
ありました。配色はこれでもいいのかという不安、レイアウトはこれでもいい
のかという不安、不安だらけで気が狂いそうでした。

その中で救いとなったのは、サイトの記事ネタとしてご協力いただいているレ
ギュラーのライターさんたちの存在でした。ライターさんたち、というとまる
でギャラを支払って記事を書いてもらっているようですが、すべてライターさ
んたちは私の個人的なお付き合いの中で無償で協力してくれているいわば、友
人、知人ばかりです。

あんなにがんばってもらったのにここで私がくじけたらお話しになりません。
せっかくいいネタを書いてもらっているのに、ここで私ががんばらないでどう
するんだ! という最後の最後のギリギリの部分でした。

結局、開設ギリギリでサイトを完成させ、細かいミスを多発させながらもどう
にかサイトにアクセスがはいりはじめたときの充実感! そして、「ちえの1
人で飲む店」に紹介されている店に行き、マスターたちにノートPCでページ
を見せつつ酒を飲んだときときのうれしさといったら!

「月刊ウルマ」オフィシャルサイト、という看板を背負ってはいますが、「イ
ンターネットウルマ」は「インターネットウルマ」でしか見ることのできない
情報が満載です。個人個人のコーナー担当者が持っている個性を最大限にみせ、
それをまとめあげるのが編集長である私の仕事だと思っています。

「ちえの1人で飲む店」
http://www.u-r-u-m-a.co.jp/internet/chie/index.htm

インターネットウルマ
http://www.u-r-u-m-a.co.jp/

【カネマキトモコ】
インターネットウルマ編集長。1975年生まれ。東京での編集者生活(笑)
に挫折し1年半前沖縄に移住。
LOVE-CREATE<http://love-create.com/>代表

・沖縄で(デジタルで)活躍する人を連続で紹介したいと思います。(柴田)

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■公募案内
Digital Entertainment Program 99
入賞者にはさまざまな特典、締切は10月30日
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ソニー・ミュージックエンタテインメント主催公募「Digital Entertainment
Program 99」の締切が近い。以下は主催者情報。

・公募部門/ネットワーク部門(WEB デザイン、CGIプログラム、Shockwaveな
どネットワークを前提としたもの)/その他部門(ゲーム企画やCGなど)
・応募方法(定型の応募用紙はない)詳しくはWebサイトで。
・応募資格/一切無し。提出物は企画書などでも可。但し、応募者がその権利
を有すること。
・応募期間/9月1日から10月30日まで(当日消印有効)
・表彰/2000年1月にSME白金台ビルで行う。

・応募先/〒108-8634 東京都港区白金台5-12-7 ソニー・ミュージックエン
タテインメント DEP事務局
・審査方法/SMEスタッフによる書類及び作品選考
・賞について/入賞者数名には賞金として30万円が授与されます。またDE
Pルームの利用を始め、SMEとの業務を行うなど、Depperとして様々な活動
をする機会があります。
・応募作品について/応募する作品は応募者が権利を有するものであれば発表
済みのものでも構いません。応募作品の権利は入賞の如何にかかわらず応募者
に帰属します。

http://www.dep.sme.co.jp/dep/dep99/

・公募の「権利関係の記述」はじつに正しい。これでなくちゃ。(柴田)

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■編集後記(10/9)
・今日は午後から京都リサーチパークで取材しているハズである。木曜日の夜、
金曜分、土曜分をほぼ仕上げてハマムラデスクに送り、金曜朝から西国に来て
いるのだ。でも、大阪まで来て、またもやデスクとはすれ違い。いったい何時
会えるのでしょうか。創刊以来、ふたりで話した時間は合計してたぶん3時間
くらい。それでもチャント発行できているんだからスゴイ???(柴田)

・と、トラブル全開。送付が遅くなり申し訳ありません。(hammer.mule)

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発行   デジタルクリエイターズ
     <http://www.dgcr.com/>

編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 
        森川眞行 

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 担当:濱村和恵
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