[0449] ファッションモデルという存在

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0449   1999/10/23.Sat発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 14160部
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 <信用するのは良い事だ。でも信用しない方がもっと良い>

●デジクリトーク
 ファッションモデルという存在
 十河 進
 
●デジクリトーク 「CIAO from Italy」復活編
 ウソつきはナポリ人の始まり?:その1
 アキ・ダモーレ 
 


■デジクリトーク
ファッションモデルという存在

十河 進
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「許さないぞ、直美」と怒鳴る父親に背いて出ていった娘が、ドアを開けて帰
ってくる。スタイル抜群の黒人女性である。「誰?」と問う父親に「ナオミよ」
と答える、ナンセンスで笑えるエステのCM(博報堂の黒須美彦さんの仕事だ
ったはず。名作です)でナオミ・キャンベルは日本でもすっかり有名になった。
一般的レベルで有名になった唯一のスーパーモデルではないだろうか。

先日、久しぶりにヴォーグ・ニッポンの新聞15段全面広告にナオミ・キャン
ベルが登場した。まだまだ魅力的だが、やはり年齢を加えたのがわかる。手元
にあるデビュー当時の写真を見ると本当に若くて、美しいというより可愛いと
形容したい感じだ。

しかし、スーパーモデルにも一時の勢いはなくなった。クラウディア・シーフ
ァー、シンディ・クロフォード(確か女優デビューした)、リンダ・エヴァン
ジェリスタ(夜中に宝石屋のスポットCMにやたら出ていた)などなど、抜群
のスタイルと容貌でさまざまなメディアに登場していたが、最近はあまり見か
けない。

個人的には、僕が作った『プロフェッショナル・デジタルフォト』というムッ
クの口絵に出てくれたクラウディア・シーファーが好きだったが、彼女も全く
見かけない。ヨーロッパあたりの金持ちと結婚した話も聞かないし、引退して
モデル・エージェンシーを始めたなどという話はもちろん聞かない。

美しさを消費されるモデルは、稼げる年数は短い。短期間でたっぷり稼ぎモデ
ル・エージェンシーを開く、というのが金持ちと結婚できなかったモデルの正
しい人生設計(?)である。モデルクラブやキャスティング会社に女性の社長
が多いのは、それが理由だ(と思う)。仕事柄、そういう人に会うこともある
が、彼女たちは人に見られることを仕事にしていたからか、何となく雰囲気が
違う。

『パリの恋人』という映画がある。ファッション雑誌がモデルを作り上げ、パ
リコレにデビューさせるというのがメイン・ストーリーの映画だ。1957年
の制作。オードリー・ヘップバーンとフレッド・アステアが主演した。オード
リーの相手役は、いつも年寄りばかりだが、この時もオードリー27歳、アス
テア57歳である。もっとも、さすがにアステアのダンスシーンに歳は感じな
い。見事な動きだ。

原題は『ファニー・フェイス』でブロードウェイのヒット・ミュージカルであ
る。ジョージ・ガーシュインとアイラ・ガーシュインが作った。このミュージ
カルから『スワンダフル』というスタンダード・ナンバーが生まれている。ジ
ャズメンもよく取り上げる名曲だ。

もっとも、映画はガーシュイン兄弟のミュージカルのタイトルと曲を借用した
だけで、オリジナルストーリーであるらしい。監督はスタンリー・ドーネン。
名作『雨に唄えば』を作ったミュージカルの得意な人だ。

タイトルバックは、ビュアーの上に載せられた4×5や8×10サイズのカラ
ーポジフィルム。写っているのはファッションフォト。リチャード・アヴェド
ンの作品である。彼はこの映画の色彩設計も担当した。当時、アヴェドンが仕
事をしていた『ハーパーズ・バザー』の編集部が協力したという(ずっと僕は
『ヴォーグ』編集部がモデルになっていると思っていたのだが)。

映画はファッション・マガジン『クオリティ』の編集長室から始まる。古強者
らしい女性編集長が編集部員を集めて、校正紙をまとめた束を持ち「こんな雑
誌は読者への裏切りよ」と怒鳴る(僕も一度やってみたいものだ)。更に「今
年の流行はピンク」と宣言して成功する。次に彼女が企画したのは「ファッシ
ョンに関心を持たない知的な女性のためのファッション」である。

次のシーンはアステア扮するファッション・フォトグラファーのスタジオ。お
そろしく足の長い、スタイル抜群のモデルがポーズをとっている。アステアが
「次はブラームスにして」と背後に言う。4人の室内楽団が生でBGMを演奏
するゴージャスさだ。アヴェドンがアドバイザーになっているのだが、もしか
したらアヴェドンは生のBGMを実際にスタジオに流していたのかもしれない。

このシークェンスに登場したモデルがスージー・パーカーである。1950年
代、最も有名だったモデルだ。海野弘さん(愛読しています。『マリ・クレー
ル』で連載した『プルーストの部屋』の単行本は高くて買っていませんが)の
本『黄金の50年代アメリカ』(講談社新書)によれば……。

「スージー・パーカーは50年代のアメリカのモスト・フェイヴァリット・モ
デルであった。10年間に『ライフ』をはじめとする60以上の雑誌のカバー
ガールとなり、数千の広告に登場したと言われる。彼女は『ハーパース・バザ
ー』のファッション・フォトグラファーであったリチャード・アヴェドンのモ
デルとなり、あっという間に50年代で最も売れっ子になった」

しかし、僕はアヴェドンの名前は仕事柄(というか学生時代から写真雑誌を読
んでいたので)知っていたが、スージー・パーカーについては知らなかった。
スージー・パーカーが活躍したのは、ほぼ10年間。『パリの恋人』では、頭
の空っぽなモデルを演じていたが、本当はカミュやサルトルを愛読する才媛だ
ったらしい。

『パリの恋人』のオードリーの役は、もしかしたらスージー・パーカーがモデ
ルなのだろうか。哲学娘の書店員ジョー(オードリー)はパリに行けるという
ので、ファッション雑誌『クォリティ』のモデルを引き受ける。パリのカフェ
で共感主義の哲学教授に会うのが夢なのだ。これはもちろん実存主義のサルト
ルがモデル。サンジェルマン・デ・プレのカフェ・ドゥ・マゴの2階にはサル
トルの指定席があったという。

僕もサンジェルマン・デ・プレのカフェ・ドゥ・マゴには一度行きたいと思っ
ている。サルトルを偲ぶというより、『深夜プラスワン』のムッシュ・カント
ンことルイス・ケインに敬意を表したい。名作ミステリ『深夜プラスワン』は
ドゥ・マゴから始まるのだ(渋谷の東急文化村にできた支店には一度行ったが、
ずいぶんスカしたカフェで好意は持てなかった)。これは余談。

日本にもパリコレに出るような国際的なモデルは何人かいた。山口小夜子さん
が活躍したのは70年代だったと思うが、現在、がんばっているのは川原亜矢
子だろう。吉本ばなな原作の映画『キッチン』でデビューしたのが17歳くら
いだったが、その後、モデルとしてパリコレ・デビューした。

モデルから女優になる人は多いが、女優デビューしてモデル修行をした人は珍
しい。最近はJR東日本や旭ペンタックスのCMやポスターに登場しているけ
ど、あの足の長さ、スタイルの良さは奇跡的だと思う。

モデルという職業は、自分の容貌やスタイルを消費される存在である。自分自
身をアピールするより、身につけたファッションやメイクを魅力的に見せる役
割を担う。どんなに有名なモデルであってもそれは同じことで、無名性を期待
される部分がある。そこが女優とは決定的に違う。一種の無名性であることを
期待されるモデルは、仕事を辞めてしまえばスージー・パーカーのように人々
の記憶から消え去ってしまう。

1960年代末に『装苑』によく登場したモデルがいる。大倉舜二さんや斎藤
亢さんが写真を撮っていた。名前は森和代。芥川賞受賞作の『赤頭巾ちゃん気
をつけて』(1970年・東宝)で映画デビューし、『初めての旅』(197
1年・東宝)に何シーンか出演し、森本レオと結婚して引退した。今も記憶に
残っているのは彼女がモデルという記号的かつ抽象的存在から、女優という実
存的肉体に移行した後に引退したからだと思う。

ちなみにスーパーモデルと呼ばれるための条件は、年間に稼ぐギャラの額が億
を越えることだと聞いたことがある。何億か、何十億か、円かドルかはわから
ない。まあ、美しさを大衆社会に消費され忘れ去られたとしても、それだけ儲
けられればいいですよね。

【そごう・すすむ】DG@genkosha.co.jp http://www.genkosha.co.jp/dg/
玄光社勤務。現在は季刊DG(デジタルグラフィ)編集長。記憶を確かめるた
めに、いつも資料を調べて書いているのですが、それにけっこう時間がかかり
ます。『パリの恋人』を見直していたら、いろいろ別の発見がありました。今
度、「ヴォーグ vs ハーパーズ・バザー」「アヴェドン vs アーヴィング・ペ
ン」の話も……。

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■デジクリトーク 「CIAO from Italy」復活編
ウソつきはナポリ人の始まり?:その1

アキ・ダモーレ http://users.iol.it/akicaterina
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イタリアに『Fidare e' bene, non fidare e' meglio.』という諺があります。
『信用するのは良い事だ。でも信用しない方がもっと良い』という意味になり
ますか……。初めてこの諺を聞いた時には「なんか酷い諺じゃない、冷たい感
じ!」と思った私ですが、最近では自ら話の合間に、この諺を引用してしまい
ます。

他人を信用していたら物事何も進まない……そんなナポリでは、ビジネスも普
段の買い物も知人を通して行われる事が多いのです。知人であれば少しでも優
遇されるからでしょう。洋服や雑貨、家具を買いに行くのも、その店にはいい
物が置いてあるから……という理由より、その店には知人がいるから……と言
った具合で店舗の選択がなされたりします。

実際、この方式は、ここでの生活で欠かせない条件だと実感しています。イタ
リアの伝統的商売スタイルというのは、店舗にある品物をお客は手に取れず、
店員に希望を述べてその店員が色々と提示してくれる物の中から選ぶというも
の。ナポリでは今でもそのスタイルの店舗が多く、文房具屋でさえも、カウン
ターがあり「これこれが欲しいのですが……」と話をして、ようやく品物を手
に取れるという感じです。

しかし知り合いもいない店舗に行けば、適当に品物を提示され、適当にあしら
われる。値段でさえ適当に言われたりします。行く度に毎回値段が変わるミニ
スーパーなども(笑)。「あら? この前は3000リラだったけど、どうし
て今日は3400リラなの?」と申し出ると、本当の値段は3200リラだっ
たりもします。

ミニスーパーでコレですから、もっと値段の張る買い物の時は、やはり知人の
いるお店を選ぶのは、当たり前といえば当たり前の事でしょう。しかも知人で
あれば、親切丁寧なサービスを得られ、品切れで注文という事になっても、早
めに届く事もありますし、通常価格から相当割引して貰えるという利点も見逃
せません(笑)。

そんな訳で万事を知人友人経由で行っていく……というライフスタイルがある
のですが、『知人なら信頼出来るのか?』という問いに『ノー』と答えなけれ
ばならない事も。

私が家具の製作を頼んでいる大工さん。私の主人の旧友です。始めはキッチン
をオーダーしました。が、納品されたのは約束の半年後。次はリビングの家具。
が、コレも納品されたのは約束から1年後……。そんなに遅れた納品でも我慢
するしかなかったのです。彼は腕もいい、こちらの希望通りに完璧に作ってく
れる。しかも友人価格で割安!! こんな状況ですので、納期に関して完璧に
いい加減な彼を甘受していました。

しかし次にベッドルームの注文をした時には「約束の納期に間に合わなければ、
もういらないからね!」と100回は念を押し、彼も「はい。今回はちゃんと
作ります」と資料の表紙に大きく『納期:○月○日』と書いていました。

が、届かない……(まぁ、仕方ない。始めからダメに決まってると思ってたし
ね)。とあきらめ、数カ月待つ。しかし彼は連絡もよこさないので、こちらか
ら「どうなってるの?」と詰め寄ると、「忙しくって! あ、でも木材もしっ
かり買ってあるんだから、今から断らないでくれ!」と哀願していました。

そして数カ月。又彼の工房へ行く。「ほら、コレ! コレがアキ宅用の木材だ
よ。もうカットもしてあるよ。それにタンスはもう半分出来てる。コレがそう」
と必死になって作業状況を教えてくれました。

(そういう事なら、こっちものんびり構えて待ってあげよう)と思っていたの
ですが、納期から1年が経過した時に、主人が真面目になって彼に詰問してみ
ると「出来ない。実は木材すら買っていない。前に見せたのは、他の仕事の物
だった」と白状したのです!!

「この、ウソつき野郎~~~~~!!!!」と私は激怒し、それから彼に会っ
ても一切挨拶もせず、断絶状態になりました。あんなウソつきを信じた私がバ
カだった、と反省しながら(笑)。

が、主人の方が受けた打撃が大きかったと思います。旧友がまさかこんなにい
い加減なヤツだったとは……。私が前々から「あんな人に頼むのはもうやめよ
う」と言っても「もうちょっと待ってあげようよ」と最後まで彼を信じてあげ
ていたのですから……。

しかし、こんな大工のウソなど、まだまだ序の口だ……と実感する事件が、私
を待ち受けていたのです。しかも又主人の旧友からの……。(つづく)

【あき・だもーれ】イタリア在住/フリーのグラフィックデザイナー&イラス
トレーター。ナポリの悪口ばかりデジクリで書いている私だが、でも本当はナ
ポリが大好きなのである。自分の土地だという確信があり、ここにやって来た
事に今まで一度も後悔していない。ただ『ウソ』については、何度も悩んだ。
一体何が真実で嘘なのか、さっぱりわからないから。でも今はナポリ流のウソ
を見分ける能力もついたので、悩み?もなく、楽しいナポリライフを送ってい
ます(笑)。

イタリア&ナポリ情報サイト『LA MATTINA』
http://users.iol.it/akicaterina
STUDIO D'AMORE(akin@iol.it)

アキ・ダモーレ、他サイト&メルマガでも活躍中!
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がんばるオレンジ◆『アキ・ダモーレのイタリアンSOHO生活』
女性向けサイトにてお仕事にまつわるお話を書いてま~す。月一回更新
http://www.senshukai.co.jp/SHOPPING/bin/page.exe?ID=6261615310064174224991520210031&NO=1033

Mio Mare通信◆『イタリア大好き!』
不定期発行のメルマガにイタリア情報を載せています。サイトにもバックナン
バーなどのコーナーが出来る予定。購読はMio Mareサイトホームから!
http://www.miomare.ne.jp/

マッカー◆『ナポリの日常と非日常』
Mac関連のサイトにてイタリアのMac事情を月一連載。スタートは10月15日から!
http://www.dgcr.com/mac/

日刊デジクリ◆アキ・ダモーレが、文字原稿連載を奇跡的に書き上げたという
『伝説』(笑)のメルマガ。これからもたまに登場させていただきま~す。

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■編集後記(10/23)
・SOHOになってからあまり食べる機会のないもの。それは「かつ丼」だ。
勤め人ときは、今日は午後からもガンバルぜって決意したときは、ひれかつ丼
など奮発したもんだ。もちろん、おしんこは付属以外に特別注文と大散財(?)
である。自分でつくるとどうしてうまくないのか。あの平らな鍋から垂直に棒
の立ったようなのが必要なのか。アメリカに半月いて帰ったとき、最初に食べ
たのが「かつ丼」だ。女房はロスでもハワイでも我慢できずラーメン食べてい
たが。塀の中にいたときも、夢に見たのは「かつ丼」だ。<ウソよ 宝島社文
庫「実録!刑務所のなか」は、番外でフランス・ムーラン刑務所でビッグスタ
ーになった日本人の話があり興味深かった。入りたくないけどね。(柴田)

・ここの星占いは謎めいていて好きだ。当たるとか当たらないとかそういうこ
とはどうでもよくて、この文章が好き。勿体ぶらないで~、何を貴方は知って
いるっていうの~! といつも思う。大体、占いに凝る時期って悩み事が多い
時なんだよね。まぁ次から次へといろいろあるもんだ。(hammer.mule)
http://www.elle.co.jp/

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デスク     濱村和恵 
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