[0483] リメイクとパクリとインスパイアと

投稿:  著者:  読了時間:16分(本文:約7,700文字)


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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0483   1999/12/04.Sat発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 14570部
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 リメイクとパクリとインスパイアと
 十河 進

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■デジクリトーク
リメイクとパクリとインスパイアと

十河 進
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女「聞いてほしいことがあるの」
男「今更、何を聞くんだ。涙を流して『いろいろ訳があるんです』か。俺はも
う、美しい唇から出る言葉も、真珠のような涙も、信じないことにしてきた。
4年だ。ひと口に4年といえば短いが、朝が……」
女「1500回、昼が1500回………夜も同じだけあったわ」

行方不明になった恋人を捜し続けていた主人公が、4年ぶりに別の男の妻とし
て現れた女に向かって言う。うまいのは、このセリフだけで主人公が恋人と会
えなくなった日々を指を折るように数えていたとわかることである。

そして、行方不明だった恋人も同じように日々を数えていた。そんなにまで二
人は愛し合っていたのだと、今も愛し合っているのだと、このセリフはわから
せてくれる。

この映画は、このセリフだけで存在価値がある。言い方を変えれば、このセリ
フ以外に見るべきもの・聞くべきものはない。このセリフの押さえとして、最
後に恋人とその夫を送り出す時に、主人公が「僕たちは1500回の昼と夜を
取り戻した」というシーンがあるが、しかし、これも付け足しの感が否めない。

外国航路の航海士だった主人公は、恋人と結婚するために船を降りた。だが、
娘は教会へ向かう途中、車にはねられ行方不明になってしまう。主人公は狂っ
たように恋人を探すが、杳として行方は知れない。

絶望した主人公は、やがてヨコハマにクラブを開いてオーナーになり、密出国
の斡旋をする裏の顔を持つようになる。恋人に裏切られた過去が、彼をクール
に振る舞わせる。

ある日、主人公の酒場に東南アジアの某国の革命指導者が現れ、日本からの密
出国を依頼する。彼の恋人は、その男の妻として現れたのである。こんな話、
どこかで聞いたことはありませんか?

そう、これはあの有名な「カサブランカ」ですね。ハンフリー・ボガートとイ
ングリッド・バーグマンの大メロドラマ、有名な決めゼリフが数分に一回は出
てくるという、ハリウッドの古典である。

女「昨夜、どこにいたの?」
リック「そんな昔のことは忘れたね」
女「今夜、逢ってくれる?」
リック「そんな先のことはわからない」

映画が始まってすぐにこの調子だ。こんなセリフ、素面じゃ言えません。ハン
フリー・ボガートだって、きっとそう思っていたに違いない。

同じようなシチュエーションが前述のリメイク版にもある。「カサブランカ」
では酒場のピアノ弾きが歌うが、リメイク版は主人公自らがピアノを弾いて歌
ってくれる。もちろん主人公を演じる俳優が歌手としても大変に有名だからだ。

白人の女がピアノにもたれて言う。
女「昨夜、楽しかったわ」
主人公「…………(ピアノを弾き歌い続ける)」
女「今夜、あいてるけど」
主人公「…………(ピアノを弾き歌い続ける)」

女は日本語で言ったのだから、主人公に通じなかったわけではない。主人公の
クールさを見せる場面である。しかし、彼はただ自分の持ち歌を歌っているだ
けだ。これも観客サービスなのだろう。彼の歌は今でもカラオケで歌い続けら
れている。(僕も時々歌う)

それにしても、ちょっとひどかないか。冒頭に紹介したセリフは元の映画を越
えたと思うけど……。

この映画は1967年に公開された(オリジナルの「カサブランカ」の制作は
1942年だが、日本初公開は1946年6月13日だった)。

さて、この頃、彼の主演作は年に何本も公開されたが、1966年に出演した
ある映画では、将来有望なジャズ・ピアニスト役を演じた。主人公が久しぶり
にニューヨークから帰ると、自分の部屋で恋人が見知らぬ男と争っている。そ
の争いの中、男から拳銃を取り上げて間違って発射し、恋人を殺してしまう。

やがて出所した主人公はヨコハマのホテルに落ち着き、恋人の過去を探ろうと
するが、そこでひとりのミステリアスな雰囲気を持つ未亡人と知り合う。主人
公をつけ回すベテラン刑事は、女が財産目当てに富豪の夫を殺したと疑われて
いることを主人公に教えるが、主人公はどんどん女の魅力に惹かれていく。

この映画でも主人公は、ホテルのラウンジでピアノを弾いて「風に揺れる~小
舟のように~揺れる~こ~こ~ろ~」と歌う。そこへ、ヒロインが帰ってくる。
紗がかかり光がにじんだ画面にヒロインがアップでとらえられ、「あなたに疑
われたままじゃ、私、生きていけない」と彼女は言う。

こんな話、どこかで聞いたことはありませんか?
そう、「カサブランカ」ほど有名じゃないが、フランソワーズ・アルヌールが
主演した「過去を持つ愛情」(1954年・フランス)である。

「過去を持つ愛情」は舞台がポルトガルのリスボンということもあり、ファド
の女王と呼ばれたアマリア・ロドリゲスの歌う「暗い艀」が使われてヒットし
た。1966年にリメイクされた日本版の中で主人公が歌う主題歌が少し気怠
いのは、「暗い艀」の影響なのだろうか。

アマリア・ロドリゲスは先頃、朝日新聞に死亡記事が出て「まだ、生きていた
のか」と思ったが、79歳だった。

中村とうよう著「ポピュラー音楽の世紀」(岩波新書)によれば「ファドと呼
ばれるこの国独特の歌はとりわけ節回しが細かく複雑なのだが、波に揺れるよ
うなファドの抑揚を、伸びやかによく響くアマリアの声で聞いていると、激し
く上下するリズムとあいまって、頭がクラクラ船酔いしそうになるほどの鮮烈
さ」であるという。

ちなみにアルヌールはある世代に抜群の人気を誇り、文春文庫の「女優ベスト
150」においては、オードリー・ヘップバーンをおさえて1位になっている。
アルヌールがジャン・ギャバンと共演した「ヘッドライト」(1955年・フ
ランス)は、仲代達矢と藤谷美和子で「道」(1986年・東映)としてリメ
イクされた。

おわかりだと思うが、2本のリメイク版の主人公を演じたのは石原裕次郎。も
ちろん、相手役はどちらも浅丘ルリ子である。「カサブランカ」のリメイクは
「夜霧よ、今夜も有難う」であり、「過去を持つ愛情」は「帰らざる波止場」
という映画になった。

僕はここまでリメイクという言葉を使ったが、実は2本ともリメイクであるこ
とを明らかにしていないし、原作・原典のクレジットはしていない。(「道」
は原作セルジュ・グルッサールとクレジットし、リメイクであることを明らか
にしている)

つまり、よく言えば翻案、身も蓋もなく言えばパクリなのである。もっとも、
「カサブランカ」のパクリは邦画でも数本あるらしく、東映の時代劇として翻
案され美空ひばりが主演したと何かで読んだことがある。また、「ローマの休
日」も東映で時代劇として翻案されたことがあるらしい。

まあ、今のテレビドラマのタイトルは剽窃ばかりだし、内容も最近はハリウッ
ド映画からのパクリが多い。ハリウッド映画はさすがに権利にうるさい国らし
く、きちんと脚本を買ってリメイクしているようだ。

リュック・ベッソンの「ニキータ」(1990年・フランス)が「アサシン」
(1993年・アメリカ)になったり、黒澤明の「用心棒」(1961年・東
宝)が「ラストマン・スタンディング」(1996年・アメリカ)になったり、
面白いとなれば外国映画もいろいろリメイクしている。

黒澤明の「用心棒」をそのままパクった「荒野の用心棒」(1964年・イタ
リア)が日本公開になり、さすがに見とがめた黒澤プロが抗議して全世界の配
給収入の何パーセントかを支払わせることになった事件があった。これは日本
公開されたのでバレちゃったが、監督のセルジュ・レオーネはまさか自分の映
画が東洋の果てで公開されるとは思っていなかったに違いない。

しかし「荒野の用心棒」は世界中でヒットし、レオーネ監督はその後ハリウッ
ドに進出したし、イタリアへ流れた二流役者だったクリント・イーストウッド
もハリウッド復帰が叶い、大スター・大監督になる。また、この映画がきっか
けで、イタリア製西部劇はマカロニウェスタンとして世界市場に売れた。

しかし、黒澤プロの対応は当然かもしれないが僕は無粋なことだと思う。「用
心棒」のストーリーパターンは、ダシール・ハメットの「血の収穫」である。
ひとつの町で対立するふたつのギャング団。政治家たちもどちらかに肩入れし
ている。主人公はそのふたつの勢力をけしかけ、自滅させる。小林信彦は、ハ
メットの短編「町の名はコークスクルー」が「用心棒」の元ネタだろうと指摘
する。

黒澤も身に覚えがあると思うが、「七人の侍」のエピソードにも、いろいろな
原典が見え隠れしている。映画の世界は、そういうものなのだ。いちいちパク
リに目くじらを立てるものではない、と僕は思う。

最近、「権利の国」アメリカの影響で、そういういい加減さがどんどんなくな
っている。いやだなあ。ああ、あの小説からとったなとか、あの映画のシーン
をパクったなとか、それを見抜くのも映画を見る楽しみなのに……。

薬師丸ひろ子主演「Wの悲劇」(1984年・角川事務所)も盗作騒ぎに巻き
込まれたことがある。僕は盗作されたといわれるアーウィン・ショーの「憂い
を含んで、ほのかに甘く」という短編を読んでいたが、盗作だとは思わなかっ
た。騒ぎになってからも読み返したが、あれを盗作といったら映画は作れなく
なるし、小説も書けなくなる。あれは小説からインスパイアされた、というこ
とだと思う。

だから「知的所有権」も何だかな、と思っている今日この頃です。

【そごう・すすむ】DG@genkosha.co.jp http://www.genkosha.co.jp/dg/
玄光社勤務。現在は季刊DG(デジタルグラフィ)編集長。15年くらい前の
こと、「1500回の夜」という短編を書いて「オール読物新人賞」に応募し
たら選考を通って誌面にタイトルと名前が掲載されましたが、次の選考で落ち
ました。裕次郎のセリフにインスパイアされたストーリーです。

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WEBSTAR-S
小学館のデジタルクリエーター・オープンコンペ、12月8日開始
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小学館のデジタルクリエーター・オープンコンペ「WEBSTAR-S」のベ
ータ版がオープンしている。なんやら施設が複雑にあってめんどうだが、いろ
いろ眺めてようやくこんなものであろうという姿をつかんだ。

COMPE HALL(コンペホール) は、世界中のネットワーカーからの投
稿作品が掲載されている場所。投稿作品はすべて、ギャラリーのアクセスによ
ってランキング表示。作品タイトルをクリックすると、アクセスポイントが1
加算され、さらにCLASPボタンで+1、BOO!ボタンを押されると-1
となるシビアな仕組み。1週間で新規投稿作品に更新する。

作品カテゴリごとに、チャンネルは9つ。1stステージはだれでも投稿OK
で、投稿すると資格が「ウエブデピュタント」になる。1stステージで上位
にランキングされると資格が「ウエブマスター」となり、2ndステージへの
投稿資格を得られる。チャンネルは以下の9つ。

1ch「Oh! BACAMERA」デジカメ写真部門
2ch「セクシーパフォーマンス」ヌード写真部門
3ch「デジコミ爆笑王」デジタルコミック部門
4ch「CGキャラ・ハリウッド」3Dオリジナルキャラクター部門
5ch「ストリーミング 素敵な私生活」ストリーミング生映像部門
6ch「MP3サウンドアート」デスクトップ・デジタル音源部門
7ch「創作ゲームマニアックス」オリジナルミニゲーム部門
8ch「突撃! ウェブキャスター」スクープ映像部門 (閲覧無料)
9ch「特ダネサーチャー・タブロイド」ディープ&クールサイトURL部門
(閲覧無料)

2ndステージでトップランキングされると大賞を受賞する。トップにランク
されなくても編集部が優秀と認めた作品は特賞を受賞する。賞金は1万円。資
格は「ウエブスター」となり、小学館ARENA(アリーナ)に作品をアップ
ロードして、プロデビューする。

アリーナ公演はすべて完全有料制の課金コンテンツのため、そのアクセス売り
上げに応じた印税が、作品の著作権者である「ウエブスター」にギャラとして
支払われる。たとえば、1回アクセス=100円のコンテンツの場合もし10
万ヒットをカウントすれば、ギャラはざっと100万円!(印税率10%の計
算)トノコト。

このほか、一ツ橋ACADEMIA(アカデミア)、アカデミア付属STUD
IO(スタジオ)などがある。アカデミア付属LIBRARY(ライブラリ)
は、コンペホール各チャンネルの2ndステージで大賞・特賞を受賞した歴代
のウエブスターたちの作品のすべてをアーカイブとして収蔵。アカデミア登録
会員が、教材としていつでも閲覧できる。

セミナーハウス「GALATRIUM」(ギャラトリウム)は、デジタルクリ
エーター入門者のための「実践セミナー」をシリーズで公開。アカデミア付属
BBS「FAME Ave.」(フェイムアベニュー)は、アカデミア会員のた
めの情報交換掲示板。

問題は、有料のアリーナにお客がそんなに集まるかということだ。有料といっ
てもいくらなのか、まだ発表はない。だが、100万人の会員登録まで、サポ
ーター会員(有料)登録者すべてに1カ月の無料パスを発行している。メール
アドレス、ハンドル名その他を入力すれば、1カ月間、何度でも自由にコンペ
ホールのコンテンツのすべてを見られる。「100万人の会員登録まで」とい
うところがすごい自信だが、金を払っても見たいというくらい優れた投稿作品
が集まらないと、サポーター会員も集まらないわけで、このシステムの存在自
体があやしくなってくる、と思うのだが。

オープン記念で、いま投稿すると抽選で、以下のようないいことがあるそうだ。
・デジタルクリエーター用プロツールソフト 相当数を予定
・一流メーカーデジタル機器 相当数を予定(いずれも協賛企業とその提供賞
品が確定しだい発表)
・一ツ橋ACADEMIA(4月開校予定)特待生=1年間授業料免除20名

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■セミナー案内
「日本語の文字と組版を考える会」第17回セミナー
組版が立ち現れるまでに~明解日本語文字組版再構築
明日12月5日(日)13時より
http://www.pot.co.jp/moji/
─────────────────────────────────── 講師 鈴木一誌
協力 前田年昭 向井裕一
日時 12月5日(日)13時~16時半(開場12時半)
会場 シニアワーク東京 地下2階講堂 (飯田橋駅から徒歩6分)
参加費 2000円(当日申し受けます)
定員 200名
主催 日本語の文字と組版を考える会

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■編集後記(12/04)
・松尾貴史の「オカルトでっかち」(朝日文庫)が面白かった。オカルト否定
論者の軽妙なエッセイである。ガッチガチの否定論者である大槻義彦教授のア
プローチとは違って、一歩引いてこの世界の持つ「オマヌケ感」を俯瞰で見る
ことを勧めている。もっとも、大槻教授の絶妙のツッコミもまさに芸能だが。
参考図書が2段組で13ページも要する、本格的にまともな、まじめな、とっ
ても軽い読み物だ。頭いいなあ。この男、キッチュにはずいぶん昔、伝説的怪
人・サンガリア加納真士の紹介で会ったことがある。挨拶しただけだが。あの
頃からわたしは関西の闇に魅入られてしまったようである。    (柴田)

・読書らしい読書をしていない。雑誌や新聞もちらっと目を通すだけだ。その
代わりリファレンス本とにらめっこ。これがまぁ楽しい本と楽しくない本があ
るんだよな。最近、家にいる時間が少なくて、ネットもあまりしていない。T
Vもあまり見ていない。それでも駅売店に並んでいる新聞の大見出しと、車内
吊り広告で、ある程度流れはわかるんもんだなぁと思う。(hammer.mule)

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■ 日刊デジクリは投げ銭システム推進準備委員会の趣旨に賛同します ■
http://www.shohyo.co.jp/nagesen/ <投げ銭システムをすべてのhomepageに>
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発行   デジタルクリエイターズ
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デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 
        森川眞行 

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