[0489] 犬に噛まれる

投稿:  著者:  読了時間:17分(本文:約8,000文字)


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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0489   1999/12/11.Sat発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 14636部
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 <ライダーキックをいれたろか>

●デジクリトーク
 犬に噛まれる
 十河 進
 
●イベント案内
 RealNetworks Conference & Exhibition'99/TOKYO

●プレゼント情報
 毎日、先着50名にフルカラー名刺をプレゼント

●キャンペーン情報
 「手書きの文字をフォントにしますキャンペーン」3月31日まで

●デジクリトークの原稿募集!
 テーマ:わたしにとって「1999年最大の危機」とその対処

 


■デジクリトーク
犬に噛まれる

十河 進
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「犬が人を噛んでもニュースにはならないが、人が犬を噛めばニュースになる」

誰がそんなことを言ったのかはしらないが、きっと犬に噛まれたことのない奴
に違いない。犬に噛まれた人間には深い深い心の傷が残り、一生、犬に近寄れ
なくなる。人生における一大事なのである。

こう書くからには、もちろん犬に噛まれたことがある。自慢じゃないが妻も子
供もいる30半ばになってからのことだ。幼い頃に父親が犬に噛まれるという
トラウマを背負った我が家の子供たちは、すっかり犬を怖がるようになってし
まった(あんたが噛まれた噛まれたと騒ぎすぎたのよ、とカミサンは未だに非
難する)。

当時、僕は太り始めた体を恥に思う心がまだ残っていた。中年に向かって確実
に、僕の腹はせり出し始めていた。「人生の堕落は腹の出具合に比例する」と
いうのが口癖だった人間としては、堕落した中年にならないためにも体重を落
とさなければならなかった。何をすればいいか、と考えてジョギングをするこ
とにした。

走るのは苦しいが得意だった。運動神経に後れをとる人間としては、唯一、誇
れるのが長距離走だった。中学の体育の時間に初めてクラスでトップをとった
のが1500メートル走だった。高校でも8キロの山道もあるロードレースで、
450人中50位以内に入る成績を2年間続けた(あまり大したことはないけ
ど)。3年のロードレースでは、1年の時にふられた女生徒が沿道から大声で
声援してくれた思い出がある。

高校を卒業して15年近くたち、再び「走ろう」と決意した。カムバックを決
意したマラソンランナーのように、僕は誓ったのであった(というほど大げさ
なものじゃないけど)。そこで、朝日新聞社から出ていた「42.195キロ
への道」という本を買ってきた。

1年かけてフルマラソンを走るためのプログラムがそこには書かれていた。1
日目のメニューから365日間のプログラムが載っており、それに従ってこな
していけば「1年後、あなたはきっとフルマラソンが走れます」と保証してい
た。走る有名人や読者たちのインタビューが間に挟まれていて、読み物として
もよくできていた。

スタートした。一日目は走らない。早足で5分間、歩くだけだ。次の日は7分
間、さらに次の日は10分間、4日目は休息、5日目に軽くジョギング、とい
うように徐々にメニューは増えていった。

コラムの中にランナーズ・ハイについての話が出ていた。「走り始めて3カ月
めに入った頃でしょうか。突然、私はランナーズ・ハイを感じたのです。足立
区・Aさん・34才」などという体験談が載っていたのである。ああ、一度、
ランナーズ・ハイの状態に入ってみたい、と思った。

当時、僕は誘われればつきあったが、ほとんど酒を飲んでいなかった。クスリ
もやっていなかったから、ハイになったことがない。どちらかといえば憂鬱症
で人見知りが強く、ふさぎの虫に取り付かれていることが多かった。一度、解
放されたハイの状態になってみたいものだと切望した。

そのせいか、ジョギングは持続した。夜も仕事が終わればすぐに帰り、11時
くらいでも走りに行った。基本的には朝走ることにしていたが、毎朝、走れな
いこともあったのだ。3カ月めに入り、一日に走る距離も8キロに増えていた。
8キロ走るとなると、時間もけっこうかかる。しかし、それだけ続ければ習慣
になり、走れない日があると気持ちが悪くなった。

そんな冬のある夜、確か10時半くらいだったと思う。東京都の外れ、もう少
しで埼玉県という所にすんでおり、周りにはところどころ野菜畑などが残って
いる地域で、運河沿いに走り住宅街を抜けて帰って来るというのが、その日予
定したコースだった。あまり人通りはない。といって、そう物騒なコースでも
ない。本来なら何事もなく終わる一日だった。

住宅街に入り、角を曲がった瞬間だった。道路の真ん中に犬がいたのだ。こち
らも驚いたが、向こうはもっと驚いたようだ。何しろ、冬の夜のことだから、
頭には毛糸の耳当て、おまけにフードを被っている。

犬は、身構えている。やばい、と思った。このまま背中を見せればやられる、
と直感した。ノドを噛み破られる己の姿が浮かんだ。悪いことにスティーブン
・キングの狂犬小説「クージョ」を読んだばかりだった。死ぬ、背を向ければ
死ぬ、と確信した。幼い子供たちの顔が浮かんだ。お父さんがいなくなっても
立派な人間になるんだよ、と死を覚悟してつぶやいた。

ジリッ、ジリッと僕は後退した。視線は外さない。相手も固まっていた。「バ
カヤロー、放し飼いにするんじゃねぇー」と、ようやく飼い主に対する怒りが
湧き起こってくる。犬は首輪をつけている。誰かの飼い犬だ。自分が犬好きだ
からって世の中の全員が犬好きじゃない、ということをほとんどの飼い主は自
覚していない。

公園で大きな犬を放しているおばさん。小さな子供が怖がっているのに、「大
丈夫よ、うちのルルちゃんはおとなしいから」などとニコニコしている。ライ
ダーキックをいれたろか、と思う瞬間である。

断っておくが、僕は犬好きを非難しているのではない。「他人は自分と違う」
ことに無自覚な、「うちの子(犬)に限って」と思いこんでいる盲目的で、ど
うしようもなく鈍感な人間を非難しているのである。

さて、僕は角まで後退した。パッと身を翻して、一目散に走ろう、と決意した。
息を吸い込み、瞬発力に備える。視線を犬からギリギリまで外さない。今だ、
と声をあげ、身を翻した。

その瞬間、僕は太股に衝撃を感じた。ワン、と一声あげた犬が飛びかかり、噛
みついたのである。ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア~とい
う己の悲鳴が、凍って澄みきった冬の夜空に響き渡った。このまま倒されたら
死ぬ、と思った。後は、一目散である。

どおくまん作「嗚呼、花の応援団」の主人公、青田赤道が逃げる時のように、
僕の両足はきっと回転して見えたに違いない。擬音を入れるなら「ピューウ~」
である。自宅のマンションが見え、階段を駆け昇り、ドアを閉めてから「ハア
ハア」と息をした。玄関脇に風呂場があり、物音に驚いたカミサンが浴室から
顔を出した。

「どーしたの?」と聞くが、こういう場合、妙に間が抜けて聞こえてしまう。
「か、か、噛まれた」「何に」「い、犬」という会話の後、カミサンは笑い、
一緒に顔を覗かせていた娘は泣き出した。しかし、僕がスエットパンツに空い
た2本の犬歯が作った穴を見せると、さすがに真顔になる。恐る恐るスエット
パンツを脱ぐと、見事な傷が現れた。

悲惨だったのは翌日である。まず、近くの医者に行った。「どうしたんですか」
と医者に聞かれて「犬に噛まれました」と答えると、医者はおろか看護婦まで
が声をあげて笑ったのである。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、と
いうくらいひとしきり笑った後で何と言ったと思いますか。僕はあれから医者
を信じない。

「あんた、何か変なこと、したんじゃないの」

「いえ、ジョギングしていただけです」と僕はムッとして答える。まあ、見て
みようということで、スーツを着たままズボンだけをずりさげた。亭主が帰っ
てきたので慌てている間男のようだ。間抜け、である。

「ひどい傷だねぇ」と医者がいい、いきなり、麻酔なしで傷の中に細い針金の
ようなものを差し、糸くずなどを取り出す。激痛が走った。「深いねえ」と言
う。所詮、医者にとっては他人の傷だ。「まあ、狂犬病の危険はないと思うけ
どね」と、医者は言って消毒した。それから1週間、僕は毎朝、その医者の前
でズボンをずりさげなければならなかったのである。

その日は、カメラ記者クラブの例会日だった。カメラ雑誌のメカ担当記者が集
まり、各メーカーが新製品を持ってきて発表するのである。僕は、当時「フォ
トテクニック」というカメラ雑誌の編集部にいて、毎月、担当者として出席し
ていた。そこへ、僕は足を引きずりながら出席した。

「どうしたの」とみんなが聞く。「ジョギングしていて犬に噛まれました」と
言うと、全員がアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、
というくらい笑った。

人の不幸は蜜の味。

このときに笑ったほとんどの人が、現在、カメラ誌の編集長になっている。

当然のことだが、ジョギングは医者に禁止された。1カ月はやめなさい、と言
う。しかし、1カ月後、僕はもうすっかりジョギングする気力をなくしていた。
孤独に自死したマラソンランナーの遺書の言葉が甦ってきた。

××おいしゅうございました。もう走れません………

【そごう・すすむ】DG@genkosha.co.jp http://www.genkosha.co.jp/dg/
玄光社勤務。現在は季刊DG(デジタルグラフィ)編集長。大江健三郎に「河
馬に噛まれる」という連作長編がある。連合赤軍事件をどう文学化するか苦闘
した重い小説です。河馬に噛まれた体験談ではありません。

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■イベント案内
RealNetworks Conference & Exhibition'99/TOKYO
http://www.jp.real.com/conference/index.html
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<以下は主催者情報>

日時 12月17日(金)10時~17時半
会場 東京国際フォーラム ホールC
参加費 無料(定員になり次第締め切り。当日会場では抽選会実施)
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ようやく扉があいたデジタル・エンターテインメントの世界。扉の向こうに見
えるもの、それは映像配信や音楽が融合する大きなコミュニティ。アーティス
トやレーベル、リスナー、誰もが同一のステージに立ち、相互のコミュニケー
ションが創れる、新しいエンターテインメントのカタチ。これからのデジタル
・エンターテインメントを創るのは貴方たち。リアルネットワークスはデジタ
ル・エンターテインメントの可能性を追求し続けます。
<ウーン、もっと具体的に書いて欲しいな!
 
10:30~12:00 キーノートセッション
メディア配信の近未来構想 ~The Future of Media Delivery~ Rob
Glaser Founder, Chairman & CEO RealNetworks Inc.

13:30~14:30 レクチャー1
インテル(R) WebOutfitter(SM)サービス と ストリーミングテクノロジーの最
前線 インテル株式会社 マーケティング本部 栂野平

14:30~15:50 レクチャー2
Strategies for Increasing Site Stickiness ~コンテンツ・デリバリーとス
トリーミング・メディア配信~ インクトゥミ ジャパン株式会社

16:00~17:30 スペシャルキーノート
CCCの情報流通革命
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)代表取締役社長 増田宗昭 
<このスペシャルキーノートは聞きにいきたいものだ

問い合わせ RealNetworks Conference & Exhibition '99/Tokyo事務局
TEL.03-5371-9267 realconf@realnet.co.jp

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■プレゼント情報
毎日、先着50名にもれなくフルカラー名刺をプレゼント
http://www.netcraft.co.jp/
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カラーオリジナル名刺が簡単に注文できるWebショップ「カードクラフト」
では、毎日先着50名全員にフルカラー名刺20枚をプレゼント。ただし裏面
には協賛企業の広告が入る。申し込みはメールで。ただし連日午前0時からは
メールラッシュのようである。
問い合わせ先 株式会社ネットクラフト 東京都新宿区下宮比町2-28 
担当者 吉住(yoshizumi@netcraft.co.jp)TEL:03-5609-332

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■キャンペーン情報
「手書きの文字をフォントにしますキャンペーン」3月31日まで
http://www.enfour.co.jp/media/new/tegaki.html
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有限会社エヌフォー・メディア研究所で、毎月抽選で10名に、手書きの文字
をMacintosh用2バイト TrueTypeフォントにするサービスをプレゼント中。抽
選対象は、期間中に対象商品を購入しユーザー登録ハガキを送付した人。詳細
はサイトを。

問い合わせ先 有限会社エヌフォー・メディア研究所
http://www.enfour.co.jp/media/
〒151-0051東京都渋谷区千駄ヶ谷 4-19-12 津田ビル5F
TEL:03-5411-7736 FAX:03-5474-8934

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■デジクリトークの原稿募集!
テーマ:わたしにとって「1999年最大の危機」とその対処
文字数自由 締切20日(月)正午
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あますところ3週間弱。デジクリでは「わたしにとって『1999年最大の危
機』とその対処」をテーマに原稿を募集します。ふだんから無料で楽しませて
もらってすいません、トいうあなた、ぜひデジクリにご寄稿ください。たとえ
ばマックが火を噴いたとか、銀行口座の残金も冷蔵庫の中も空だった数日間を
過ごしたとか、著作権の侵害を被ってえらい問題になったとか、教育熱心のあ
まりセクハラ疑惑になったとか、目がさめたら締切から24時間過ぎていたと
か、だいじなプレゼンテーションで舞い上がってあたま真っ白になったとか、
デジクリさんの直面したトンデモない危機(あくまで本人にとって)を、どう
解決したかを含めて、おもしろおかしく書いてください。掲載は随時、年内は
25日まで発行します。ナントその日は記念すべき500号達成の日。

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■編集後記(12/11)
・今週は風邪の1週間。ひとりでやっていたら休刊したかもしれない。レギュ
ラー筆者さんとデスクのおかげで、なんとか乗り切った(レギュラーも2人が
風邪でお休みしたが)。年内のあと11号は、ぜひ読者のみなさんにもご協力
をいただきたい。上記テーマで原稿書いてください。来年からはもっと読者参
加型に移行すべくいろいろ企画していますが、読者のみなさんも「こんな企画
どや?」とか「こういう記事が読みたい!」とか「レギュラー筆者になってや
るわ」とか、ご意見ご提案ください。その方が面白いって。
きのう「デジイメ3美女」という3作家の共同企画で「風邪完治セット?」が
送られてきた。ドリンク剤やあったかい飲み物などのバラエティで、わたしは
風邪ひいてよかったな~とシミジミ思ったのであった。ありがとう。(柴田)

・風邪のせいで、ひさびさに本を読んだ。「アルケミスト」これは何度も読み
返している大好きな本。宝物を探しにピラミッドまで旅する羊飼いの少年の話。
この本を読みたいと思わない時期は心が病んでいるのだと改めて認識した。そ
のくらい読む人によって印象の変わる本じゃないかな。うちの母は「リトル・
トリー」の方が好きだと言っていた。/他人のことならいざ知らず、どうして
自分のことを上手くコントロールできないのだろうと悩む。弱いよな、頭悪い
よなぁ、と思う。そういう時期にはかならず、私が自己嫌悪に陥っているのを
知らない友人たちから何らかの連絡がある。数年ぶりというものまである。/
とても素敵な年上のO型な女性がいらっしゃって、彼女と話していたら、いち
いち悩む自分って何?と思った。つまんなぁい、と思った。まぁ、性格は変わ
らないだろうから、も少し社会人としてどうにかしないと。ここ数年の自分の
かっこわるさといったらもう! リハビリ中!(hammer.mule)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9970097881
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9910750848
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9972946541

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■ 日刊デジクリは投げ銭システム推進準備委員会の趣旨に賛同します ■
http://www.shohyo.co.jp/nagesen/ <投げ銭システムをすべてのhomepageに>
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発行   デジタルクリエイターズ
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編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 
        森川眞行 

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