[0881] 人生の勝ち負け?

投稿:  著者:  読了時間:22分(本文:約10,800文字)


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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0881    2001/06/15.Fri発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 18288部
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■デジクリトーク
 人生の勝ち負け?
 十河 進

■デジクリトーク インターネットの紆余曲折(10)
 番外編(2) フランス料理はいかが? ~後編~
 8月サンタ



■デジクリトーク
人生の勝ち負け?

十河 進
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●金がすべてという価値観

青年は世の中のすべてを金でしか換算できなかった。より多くの金を手にする
こと、それだけが彼の目的だった。金さえあれば、自分の望みがすべて叶うの
だと信じて疑わなかった。

10代の頃に飛び出した家を思い出すこともなかった。彼が父親の訃報に接して
帰郷することにしたのは、事業資金に借りた大金の返済を迫られていたからだ。
彼の目的は父親の多額の遺産を手にすること。彼以外には相続する人間はいな
いはずだった。

だが、父親は彼には古い車を遺しただけだった。すべては彼が存在さえ知らな
かった、自閉症で何十年も病院に入っている兄に譲渡されていた。青年は兄が
相続した300万ドルの遺産を手に入れようと、兄をホームから連れ出しカリフ
ォルニアへ向かう。

彼にとって自閉症の兄はお荷物でしかない。だが、そのお荷物には300万ドル
の価値があるのだ。彼は300万ドルのために世話の焼ける兄を仕方なく連れて
歩く。兄はKマートでしか買い物ができないし、決まったパターンでしか行動
しない。

その兄が数字については天才的な記憶力を持っていることを青年は知る。青年
はその能力で金を稼ぐことを思いつき、兄を使ってカジノで大儲けをする。だ
が、それもつかの間、兄の能力を見抜かれて彼らはカジノを放り出される。

しかし、兄との旅が青年の記憶を徐々に呼び醒ましていく。ホテルの風呂にお
湯を入れている時の兄の反応で青年は記憶を甦らせる。青年がまだ幼かった頃、
彼を風呂に入れようとして熱湯に気付かなかった兄。弟を傷つけることを怖れ
て、両親は兄を病院に入れることにしたのだ。

青年は子供の頃の自分のヒーローを思い出す。彼の面倒を見、彼を救ってくれ
たレインマン。それは自分が創り出した空想のヒーローだと思っていたのだが、
そのレインマンこそが兄だったのだと記憶の底から浮かび上がってきた真実に
気付くのだ。

「レインマン/RAIN MAN」(1988/135分)は、まったく違う世界に生き、ま
ったく違う価値観を持ち、まったく違う人生を歩んできた兄と弟が出会い共に
旅を続けていく中で、互いに影響しあい「家族や人生とは何か」を学んでいく
映画である。

そして、「金がすべて」という価値観しか持っていなかった青年が、別の価値
観を得る物語でもある。そのこと自体はいかにもハリウッド映画的であり、使
い古されたテーマでもあるが、だからこそ永遠のテーマであるとも言えるのだ。
どんな使い古されたテーマでも、そこに真実が存在すれば人を感動させること
はできる。

アメリカン・ドリームとは、端的に言えば金持ちになることである。その現代
の典型がビル・ゲイツだ。かつてはロックフェラーであり、カーネギーでもあ
った。アメリカという競争社会においては人生の成功者と敗残者の分類は簡単
である。アメリカには、金を儲けた奴か、儲け損なった奴しかいない。

●「いい仕事をすること」自体の達成感

「レインマン」はベルリン映画祭グランプリを皮切りに、アカデミー作品賞、
監督賞(バリー・レビンソン)、主演男優賞(ダスティン・ホフマン)ほか主
だった賞を総ナメにしたが、主人公の青年を演じたトム・クルーズだけは無冠
だった。

だが、彼は「この映画に出られただけで幸せだ」と語った。努力した結果が受
賞という形で人々に認められるのは嬉しいことだろうが、「いい仕事をするこ
と」それ自体に価値観を持つ人もいる。

人に認められるか認められないかは、結果にしか過ぎない。どんないい映画を
作ったか(どんないい仕事をしたか)ということに価値を持っていれば「いい
仕事をした満足感」は得られるはずだ。そして、「もっといい仕事をしたい」
気持ちになるはずである。それはプロとしての誇りだ。

金持ちになることに価値観を持つのか、いい仕事を仕上げるプロとしての自尊
心を満足させることに価値観を持つのか、同じように一生懸命仕事をしていて
も、そこには大きな違いがある。

たとえば、その人が会社組織の中での出世を人生の最大の価値観として持って
いれば、平社員のまま終わった時に深い挫折感を味わうことはあるだろう。プ
ロとしての誇りを持った仕事をすることに価値観を見い出していれば、たとえ
評価されず不遇のまま組織人としての人生を終えたとしても自らの生き方に誇
りを持てるはずだ。

最近、日本でもしきりに「勝ち組・負け組」という分類が使われる。アメリカ
のような競争社会が日本でもスタンダードになり、金と地位を得た者を勝ち組
と称し、金と地位を得られなかった者を負け組と称しているようだが、「勝ち
組・負け組」という言い方を僕は好きになれない。

人が生きてきた結果を「勝ち組・負け組」ということだけで分類するのを僕は
承服できない。どういう価値観(基準)で勝敗を決めるにしろ「勝ち組・負け
組」などという言葉を人が生きてきた結果に対して使うべきではない、と僕は
思う。

●勝ち組・負け組の基準は何?

人が生きていく上には様々な要素が存在する。だから、ひとつの世界で挫折感
を味わっても、別の世界で何かを手にすることもある。ひとつの価値観に囚わ
れ、すべてをそこからしか見られなくなった人は、「○○だけが人生のすべて
ではない」というスタンスを持ちにくくなる。

逆に「○○だけが人生のすべて」と思い込んでしまった人は、その世界だけで
の勝敗にこだわり、そこで敗北することによって徹底的に打ちのめされること
もある。時には、それから先の人生を生きていけなくなることもあるだろう。

「勝ち組・負け組」という言葉を中吊りの週刊誌の広告などで見かけると、思
い出すふたりの編集者がいる。ふたりとも写真雑誌の編集長として活躍した人
たちだ。ひとりは消息がわからなくなり、ひとりは名の通った出版社の社長に
なった。

30年近く前、AさんとBさんは同じ写真雑誌の編集部にいた。

その出版社に組合ができた。1970年代前半のことで、労使の交渉もかなり揉め
た時代だ。Aさんは、その社内のゴタゴタが厭で退社した。Bさんは組合には入
らず編集長になったが、数年後に会社は倒産した。

倒産した時に組合はすぐに労働債権をすべての債権に優先しておさえ、出版労
連の支援を受けて職場確保のために泊まり込みを始めた。Bさんは組合にオル
グされ、労働組合に加入することになった。Bさんはいつもパイプをくわえた
ダンディな人だった。多くの人が「編集長」という言葉からイメージするよう
な人だった。

倒産争議は長引いたが数年で解決し、労働債権もある程度は回収できたし、労
働債権として雑誌の商標も確保できた。組合員たちの何人かと一緒にBさんは
新社を起こし、昔の雑誌名で本を出した。ただ、かつてのように月刊誌を出す
力はなく、撮影テクニックの特集誌を不定期で出し始めた。

しかし、新しい会社も行き詰まった。その後、Bさんは酒浸りになったという。
家庭もうまくいかなくなったのか、奥さんが子供を連れて家を出たと、僕はB
さんと親しい写真家のTさんから聞いた。

Aさんの方は退社後、大手出版社に入りカメラ雑誌を立ち上げた。その若者向
けカメラ雑誌が成功し、Aさんはやがて編集長から統括編集長になり、カメラ・
映像関連の出版部門として独立事業部になるまでに育てた。

数年前、Aさんは手腕を買われて系列の出版社に社長として赴くことになった。
昨年の秋に僕は久しぶりにAさんに会った。相変わらずスリムな身体を上等な
ダークスーツに包んでいたが、苦労の跡を忍ばせるように白髪は増えていた。

AさんとBさんの人生を一面から判断すれば、同じ編集部にいた青年たちが30年
経って勝ち組と負け組に別れてしまったと言われるのかもしれない。

●自分の価値観を根底から問い直す言葉

数年前、写真家のTさんと新宿のゴールデン街で飲んでいる時、久しぶりにBさ
んの話が出た。
「Bさん、どうしてるんですか」
「禁酒して、新宿の街を掃除しているよ」
「掃除って? 清掃会社?」
「自分がどこまで耐えられるか、生きていけるか試してみる、と言っていた」

かつて業界でも独自の位置を占めていた写真誌の編集長だった人である。その
ことに過剰なほどのプライドを持っていた人だ。編集長としてのスタイルにこ
だわっていた人だ。そこまでの決意をするのは大変だったと思う。

Bさんは、自分がどこまで本当に生きていこうとしているのか試すために、あ
えて人の目に晒される過酷な職業を選んだのだろう。もちろん人々は彼の過去
など知らないし、関心を払うことなどないかもしれない。だが、彼は自らの試
練として人目に晒されることを選んだのだ。

学生時代、僕はビルのメンテナンス会社でアルバイトをしたことがある。それ
も帰省中のことだ。僕は高松市の主要企業が入っている大きなビルを回って、
朝から晩まで清掃をしていた。僕以外は年輩の人たちばかりだった。そんなア
ルバイトをしようという学生はあまりいなかったのかもしれない。

しかし、仕事中のオフィスを回ってゴミ箱を集めたりしていると、やはり何と
なく社員の目が気になった。さすがに女子トイレの掃除は命じられなかったが、
午前中はビルのトイレ掃除と廊下のワックスがけなどもやらされた。

アルバイトを始めて数日後のことだった。ビルのガラスドアを磨いている時に、
ひとりのOLが廊下をやってきて驚いたように立ち止まった。僕は彼女が高校の
同級生だったことに気付いた。

彼女は一瞬とまどい、僕に声を掛けようか知らない振りをしようか迷っている
のがわかった。結局、彼女は用事を思い付いたように踵を返して廊下を戻って
いった。彼女の背中を見送りながら「俺、アルバイトなんだ」と、僕は心の中
で言い訳じみた言葉を繰り返していた。

アルバイトの僕でさえそうだったのだ。かつて雑誌編集長だった50過ぎの男が、
新宿で大勢の人の目に晒されて街を清掃するということがどういうことなのか
想像した。そして「自分がどこまで耐えられるか、生きていけるか試してみる」
というBさんの言葉を僕は噛みしめた。

それは、再生への固い決意を感じさせる言葉だった。今までの自分の価値観を
根底から問い直す言葉だ。

人の生き方は、ひとつの価値観では計れない。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
雑誌編集者。緊急入院してしまった。6日で退院できたが、4日間は寝たきり点
滴状態。やることがないので本ばかり読んだ。立松和平「光の雨」1000枚、大
沢在昌「心では重すぎる」1300枚、ブリジッド・バルドー「イニシャルはBB」
1000枚、都筑道夫「推理作家の出来るまで・上巻」800枚で、合計4000枚強。
これだけ書くのに何年かかる?

昔書いた文章が「投げ銭フリーマーケット」に出ています。デジクリに書いた
文章も数編入っています。
http://www.nagesen.gr.jp/hiroba/

バリー・レビンソン
http://cinema.media.iis.u-tokyo.ac.jp/person.cgi?pid=p22
http://www.aya.or.jp/~soe/man/barry.htm
http://ww4.tiki.ne.jp/~s-ishii/barry_d.html

日本自閉症協会「あなたの隣のレインマンを知っていますか 自閉症のAtoZ」
http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~asj/

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■デジクリトーク インターネットの紆余曲折(10)
番外編(2) フランス料理はいかが? ~後編~

8月サンタ
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●魅力的な「食」の本

前回、4冊の食を楽しむ本を紹介させていただいた。気が付いたら一週空いて
しまって申し訳ないのだが、再度読み返しても、たっぷりとしたご馳走を味わ
った気分になる至高の4冊である。私の相棒は「美味礼賛」を読んで、夢に料
理が出てきたと言っとります。日常の世界がごはんを通じて、ちょっぴり広が
った気がする。お薦めです。(日刊デジクリ[#871]参照)

グルメブームを経て、日本の書店には食にかんする本が山ほど並ぶようになっ
た。内容・品数ともに大変な充実ぶりである。私は食べ物の本を読んでお腹を
さすって寝るのが趣味だが、最近のヒットは斎須政雄さんの「十皿の料理」。
泣く子も黙るミシュラン三つ星のパリ「ランブロワジー」で事実上のシェフを
していた人の語り書きで、幾多の執拗な誘いがありながら、とうとう最後まで
「料理の鉄人」に出演しなかったということでも名声が高い伝説のシェフ。

私は料理人がテレビに出るのも、料理がショーやエンターテインメントになる
のも全然OKだと思う。世界の料理ショーという番組が大好きだったし、「あわ
てるなよスティーブ」という台詞は私の小学生時代のネタだった。料理の鉄人
だってよく見ていた。でも時代の気分とは関係なしに、自分のしたいことだけ
をする人がいる、というのもまた痛快なことだと思うので、非常に興味深くこ
の斎須シェフの本を読んだ。

斎須氏の三田にあるレストラン「コート・ドール」はワイン抜きでも簡単に一
万円を越えるそうなので、いつ食べにいけるんだかわからないけれど、こんな
人のつくる料理を食べてみたい、と素直に思える本だった。

●料理の本と、世界の広がり

私は映像型ではなく、書物型、活字型の人間だ。TVが壊れてから8年になるし、
勿論ビデオも持っていない。映画館に行ったのは昨年夏の「チューブ・テイル
ズ」が最後。その前はさらに二年前の「ノッティング・ヒルの恋人」で、しか
もどちらも自分のロンドン好きのサイトのイベントとして、みんなで見にいっ
たのだった。

でもテレビや映画を見ないからと言って、娯楽を拒否しているわけではない。
むしろものごとを味わい尽くすことには、かなりどん欲だと思う。例えば本な
ら、気に入ったら暇さえあれば同じものを、何度も何度も読み返す。いい本は
再読に耐える。何度読んでも新しい発見があり、快感がある。ついにはぼろぼ
ろにして、まるごと暗記してしまう。

田崎真也という人をご存じだろうか。ソムリエ世界一のワイン評論家である。
ちょっと前のワインブームの時は、それこそテレビにも出ずっぱりだったので
ご存じの方も多いと思う。

ほとんどの人は、この田崎真也という人をうさんくさく感じるのではないだろ
うか。だって勿体ぶった手つきでワインを飲んでうんちくを傾ける人に共感し
ろ、なんて言われても、なかなか出来るもんじゃないですもんね。外見もちょ
っとはげていて脂っこくてイヤラしいし。でも私はこの人がかなり好きだ。

私も最初はうさんくさい水商売の人だと思っていた。しかしある時、この人の
本を読む機会があった。その頃図書館の料理本のコーナーを、あ行から棚ごと
全部読む、というのに挑戦していたのだ。評論家としての能力と、文章を書く
能力は違うから、やっぱり聞き語りのインタビューをライターがまとめた本だ
ったけれど、かつて世界一とされていた、フランスはヴィエンヌのレストラン、
ピラミッドに田崎氏が初めて行ったときのエピソードに衝撃を受けた。

何しろ世界一の料亭で、非常に緊張していたそうなのだが、普通の日本人は一
体何が書いてあるやらさっぱり分からない、当店マダムの自筆のメニューを見
て、料理がすらすら注文できたので、田崎氏はいきなり一目置かれることにな
ったという。

何故かというと、田崎氏はそのピラミッドを日本に紹介した辻静雄氏の本に載
っていた、ピラミッドの手書きのメニューをずっと日本の修行時代から飽きる
ことなく眺めていて、字は読めなくとも、何が書いてあるかまるごと暗記して
しまっていたので、苦もなく読めるふりをして注文できたというのだ。

その本とは「フランス料理の手帖」辻静雄著・新潮文庫刊。ピラミッドのメニ
ューは32ページと33ページに載っていて、片方が「最高のメニュー」、もう一
方が「本日のメニュー」。前菜のフォア・グラ・フレからデザートまで、私も
全てソラで言える。

田崎氏が貧乏時代に飽きることなく眺めて、ついには暗記してしまったそのメ
ニューを、私も全く同じようにして暗記してしまっていたのだ。辻静雄氏の本
は、はっきり言って文章は最悪なのだが、他のどんな本にも代え難い、フラン
スの、本物の風が詰まっていた。だから、たった二枚の手書きのメニューを眺
めているだけで、何時間でも空想にひたることが出来た。

私は今もそうだが当時は本当に貧乏で、年間間違いなく365食以上、自分でス
パゲッティをゆでて食べてくらしていた、「パスタの年?として記憶されるべ
き時代だった。でもいつかは最高のレストランで、最高の晩餐を、と思ってい
たので、同じ本の同じページを毎日眺め、味を想像していたのだった。

だから、このエピソードを読んだとたん、田崎氏と私は時空を越えてつながる
ような気がした。間違いなく、同じ本の同じページだ。普通の人には分かって
もらえないかも知れないが、同じあこがれを持って同じことをしていたアホウ
が他にもいたんだ、と思うと胸が熱くなった。もしお会いすることがあったな
ら、きっと、忘れられない出会いになると思う。

●「店を語って味を語らず」

でもいくら情報を詰め込んでも、食事とは個人的なものだ。特に「味」はそう
だ。私にとって美味しい味が、貴方にもそうだとは限らない。だから、本場の
ヨーロッパであっても「味」にこだわってレストラン巡りをすることは、相当
にスノッブなこととされている。

でも、食の体験とは味だけではない。前回述べたように、半分は「演出」だ。
彼らはこの演出においても一歩先を行く。味は輸入できても、サービスはなか
なか輸入が難しい。

例えば、日本において、レストランにおける「サービス・演出」のみにフォー
カスして書かれた本は、実はたったの一冊しかない。それは「東京いい店やれ
る店」 ホイチョイ・プロダクションズ著 小学館刊である。「店を語って味
を語らず」とはこの本のキャッチ・コピーであり、レストランを楽しむときの
具体的な演出指針について書かれているので、店の情報は古くなっても、本の
内容は古びることがない。

タイトル通りナンパ指南書の体裁をとって、女の股を開かせるという下品な用
語が満載なので、普通の女性は読まないと思うが、読まないでいいです(笑)。
著者の意図もそうだと思うが、こういうある種まっとうな本は、自分だけの秘
密としてとっておきたいから。

ただでさえ、今食べ歩きの場数において、20代~30代の女性には普通の男は敵
わない。昔はメッシーなどと言ってただでレストランで奢ってもらっていた女
性たちも、今や好きでもない人間に下心込みで出される料理より、自腹で気の
あった仲間と食べる料理の方が余程美味しいことを知っている。そして十分な
可処分所得があって、本物志向の好奇心があって、夕方5時半には会社を出ら
れるとあれば無敵である。本当に彼女たちはレストランを良く知っている。

でも不幸なことに、彼女たちはお客としてのキャリアをいくら積んでも、パー
トナーとなるべき相手側に、食の楽しみの素養が育っていないために、満たさ
れることがない。日本のレストランには奇麗な建物があって、奇麗な女性がい
て、美味しい料理があるかも知れないが、歓びの空気だけがない。これは本当
にいろんな人から、いろんな場所で聞くことだ。

楽しむための食事が出来るプレイヤーは圧倒的に不足している。クリエイター
を名乗るのであれば、興味を持っていいことだと思うんだけど、どうでしょ?

●フランス料理はいかが?(東京フレンチ情報)

フランス料理は上記の「東京いい店やれる店」のなかで、ズバリ外角低めの決
め球、とされている。勝負の店、というわけだ。でもフランス料理に親しんで
おくことは、手本となるスタイルがすでに確立されているし、今更流行り廃り、
というのもないから、とてもいいことだと思う。

たまたま先月、パリからイタリアの友人、マッシミリアーノの紹介でステファ
ンという男が来ていた。31歳で、今までに四冊の本を出しているグラフィック
デザイナーだ。歳も近いし、話も合うので、一気に仲良くなってしまった。し
かし彼は流石にフランス人だった。

ステファンはビンボーなりに、来日前から東京のフレンチレストランを回るつ
もりで、パリの紀伊国屋書店でめぼしい店を見つけておいて、東京で各店にそ
れぞれ三回通ったという。(彼曰く、レストランを評価するなら三回行かない
とダメだ、とのこと)それぞれシェフにまで会って話を聞いてきたそうで、い
ろいろ教えてくれた。

そのいささかスノッブな食べ歩きの結論。
●原宿の「オー・バカナル」は全く、全然、ダメらしい。(超有名店なのに)
クチを極めてののしってました(笑)。
●今回一番良かったのは「ル・プチ・ブドン」だったそうで。(結構有名だ
そうで)

フランス人によるフレンチレストランの生評価と言うことで、何かの参考にな
れば幸いだ。ステファンは今年、もしかしたら柴田書店の招きで10月にまた来
て本を作れるかも知れないとのことで、気持ちのいいやつなので、有名になっ
たらいいなあ、と思う。まだまだみんな修行中。

ちなみにスターバックスには近寄りもしなかった。(笑)何かあるのではと思
う。和食をいろいろご馳走したけれど、喜びはするものの、とうとう一度たり
とも「美味しい」とは言わなかったし。ははは・・・。

では是非とも好きな人と、美味しい物を食べて、良い週末をお過ごし下さい♪

【8月サンタ】ロンドンとル・カレを愛する32歳 santa@londontown.to
ところでトルシエ監督の通訳が何かと話題らしいのだが、OLに聞いたら「フロ
ーランでしょ?いけてるよね~」ってみんな知ってた。流石だな~。

ロンドン好きのファンサイト
http://www.londontown.to/

▼デジクリサイトの「★デジクリ・スターバックス友の会★」また増えてます!
http://www.dgcr.com/

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■編集後記(06/15)
・雨が小降りになるのを待って「陰陽誌10大裳」を買いにいく。このマンガは
原作よりも難解である。たんなる絵解きじゃないのだ。その情報量は原作を超
えている。よほどこの分野の素養がないと理解できないのではないか。売れて
いるけど、買った人はちゃんと読めるのか。手塚治虫文化賞マンガ大賞が、手
塚治虫の息子の嫁に授賞されるなんて、神様の設計かも。面白い。 (柴田)

・不思議な人がいる。こだわりがない。へらへらしたフリの人っているけど、
その人は本当に何も気にしないのだ。見栄もない。人がうらやむ地位と収入は
あるのに、家や服小物で他人と差をつけようなんて考えない。なくなったもの
は、仕方ないと諦めるでもなくさらりと流す。なくなったことは現実だから。
自分が居心地いいのが一番、と言う。見栄というのはコンプレックスの塊で、
コンプレックスとは他者との比較。自己顕示欲もない。いわゆる野心もない。
そんなものに気力を使い果たすよりは、したいことをしよう、なのだ。他人を
尊重しないわけではないので、嫌われることもないようだ。自分というものを
よく知っていて、周囲に左右されない強い人だなぁ、と思う。(hammer.mule)
・若い頃に哲学書を読破し映画三昧だったらしい。達観したってことかなぁ。

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デスク     濱村和恵 
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