[1008] Powerbook Publishing Project ~ (2) 漫画が生まれる現場の話

投稿:  著者:


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1008    2002/01/17.Thu発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 19937部
情報提供・投稿・広告の御相談はこちらまで mailto:info@dgcr.com
登録・解除・変更・FAQはこちら http://www.dgcr.com/regist/index.html
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 <結果が出るまで凧上げでもして待っていればいい>

■デジクリトーク
 Powerbook Publishing Project ~ (2) 漫画が生まれる現場の話など
 8月サンタ

■デジクリトーク
 アイデアはいかにして生まれるか 
 永吉克之

■サイト案内 Too企画サイト
 「クリエイターズ・カフェ」、第7回目にひらいたかこ氏登場



■デジクリトーク
Powerbook Publishing Project ~ (2) 漫画が生まれる現場の話など

8月サンタ
───────────────────────────────────
前回はMacOSXとPDFの関係が、もしかして、新しい出版のベースになるかも?
ということについて書いた。

書いておいてなんだが、問題は山積である。実は、日本の商業印刷業界におい
ては、未だ対応・導入可能な見込みもないのが現状なのだ。この「業界」とい
うところがミソなのだが、原稿を書くライターから編集・入稿・印刷・出荷・
取次・配本・書店での販売までの、入り口から出口の間までにある細分化され
た工程のなかに、採算とクォリティを考慮しつつも、新しいものを取り入れる
余裕は、この右肩下がりの状態ではほとんどない。これは、よりよい環境に向
かって進む"Reserch & Development"にかける権限・人員・予算の余裕がない
ということ。

もう一つ、いずれ何週間にも渡って書かなくてはならないけれど、「日本語の
不自由の未解決」。OpenTypeフォントになって、標準で使える文字数が増えた。
でも増えたところで、焼け石に水だと、言う人は言う。書体だって数が少ない。
これで「表現と言えるのか」と、言う人は言う。この辺はきちんと会うべき人
に会ってお話を聞くべく準備を進めている。結局思い切り話を要約して言えば、
「日本語の機種依存問題」はこの期に及んでもまだ、解決されていないのだ。

その辺を伝え聞きつつ、何故今更MacOSXで"Powerbook Publishing"なのか。

それは、「個人」の可能性だ。「業界」に余裕はなくても、「個人」には余裕
がある。ハードウェア、ソフトウェア、インターネットが、あきれるばかりの
低価格化によって、個人に解放されてきている。Powerbook170が登場した当時
の1台分の価格で、PBG4とInDesignとIllustratorとPSプリンタが買えるのであ
る。そのチャンスを使って、出版という仕事を、外側からゆっくりなぞってみ
たい、というのが基本的なスタンスだ。

●だめなら、戻ればいい

業界内部のいろんなダメダメ屋さんに会って話を聞くと、その分野の、間違い
なく誇り高きプロフェッショナルなのに、頭から否定言葉しか用意していない
人が多くて驚いたけれど、幸いなことに、そんな人だけでは無かった。

例えば「DTP界全部がつぶれたって構わないんだ。俺達は生き残っているから。
また昔へ戻ればいいんだ。何も、今すぐ世界が終わるわけじゃない。写植だっ
て、活字だって、まだまだ頑張ってるところは頑張ってる。文字が足りなけり
ゃ、作ればいいんだよ」と根元的な立場から力強く言う、現役ばりばりの写植
屋さんに会えた。

ダメなら、戻ればいい。俺達は死んでない。このメッセージは最高だ。確かに
DTPなんて、ここ15年ほどの歴史しかない。こういう言葉は、やってみようと
いう人を萎縮させず、とても楽にしてくれる。最近、こういうセリフを吐ける
大人が本当に減った。言葉こそが力で、それも現実なんだよ、ということをみ
んな忘れてしまったかのようだ。

そして、商業印刷だけが世界ではない。DNPだけが印刷ではない。トーハンと
日販だけが流通ではない。だから、「使えねえ」と大声を出す業界人の話は、
半分くらい割り引かなくてはならない。

大体、書物の入り口から出口までの流れを具体的に見聞きしたことのある人は
ほとんどいない。2大取次と再販価格維持制度が、自分の著作物と収入に、ど
れほどの影響を与えているかも、考えたことすらない人が多い。そして一方、
自分の目先の収入に興味のないひともほとんどいないわけで、要は自分のポジ
ションだけのお話で精一杯なのだ。

というわけで、この連載ではそれぞれの現場の話もするつもりだ。特に書店で
手に取ることの出来る書物にはほとんど載らない、取次店の現場の話も書く。
幸いにも大学時代、ある書店の実質店長として、大阪摂津の日販に車を飛ばし
て在庫を引っ張りに行っていたし、トーハンの飯田橋の出荷・返品本の仕分け
の現場なども、ある人の手引きで実際に見たことがある。(スゴイよ)ちょっ
とは興味深い話が書けると思う。

あと、PDFの話を書くなら、もちろんXMLの話も書かなくてはならないし、TeX
の話も書かなくてはならない。まあゆっくり、そのうちに…

●書き手と読み手のあいだ

漫画のお話から始めようと思う。

日本の出版産業は、漫画によって支えられている。全ての出版物の半分以上を
漫画が占める。文芸=高尚、漫画=低俗という価値観はどこへやら、現実に日
本の誇る、素晴らしい文化であり産業だ。

日本の漫画産業が、純粋な受け手の読者だけではなくて、「漫画を描きたい」
「漫画家志望」の人間の数が、驚くほど多いことをベースに成立していること
を、理解している人は少ない。毎週・毎月、どの雑誌でも新人賞を用意して、
新しい描き手を募集しているし、その募集に対して、毎日のようにおびただし
い新人が原稿を手に、成功を夢見て、出版社にやってくる。

日本の出版界の中では、漫画界ほど実力主義の世界はないだろう。間口は広い。
誰でも応募出来る。それぞれの個性に応じたマーケットがある。年齢・性別・
国籍・外見・人脈は問われない。必要なのは実力だけだ。不況だ、漫画が売れ
ないとよく言うけれど、一般書籍の初版発行部数のお寒さ加減に比べれば、ま
だ経済的にも成功といえる収入を手に出来るチャンスがある。

よく漫画家志望の連中が「編集がバカだからよ~」と自分がデビュー出来ない
ことについて文句を垂れているのを見かけるが、ならば作品を他の編集部へ持
ち込めばいいだけのこと。星の数ほど、とは言わないけど、驚くほど多くの出
版社が描き手を求めている。それが気にくわなければ、今度はコミック・マー
ケットへ行って、直接客と向かい合って勝負することすら出来る。

間口はとにかく広い。必要なのは実力だけだ。世渡りがウマイだけで大成功を
収める漫画家はいない。世渡り上手だけで乗り切れるとすれば、それはほんの
わずかな期間だけで、結局は実力が正面から問われる、とても厳しくて面白い
世界だ。

●ある少女漫画家とアシスタントの話

少女漫画界では三本の指に入るある出版社で、アニメ化もされた人気連載を持
つ少女漫画家のA先生というのがいる。21歳デビューで、今も20代だ。彼女の
所に、編集部経由で紹介されて面接にきた、アシスタント志望者は、最初にこ
う言い渡される。

「うちでは一人暮らしの人はお断りしています。ギャラは一昼夜当たり6000円、
それと交通費くらいしか出せません」

漫画家のアシスタントと聞いて、存在を知らない人はないと思うが、作家の作
品を仕上げるために、原稿の消しゴムかけから始まって、墨ベタ塗り、スクリ
ーントーンがけから背景書きに至るまでの、種々の労働をこなす人のことであ
る。要求される能力は現場・作家によって様々だが、多くは睡眠時間は申し訳
程度、後はひたすら机の前での作業が続くのが普通だ。楽な仕事ではない。

隔週の本誌に連載される作品のために、A先生のアシスタントは月に10日程度
は拘束される。基本的に睡眠時間は一日3時間程度、それ以外はほとんど仕事
に当てられる。つまり、ここの仕事だけでは、漫画家志望で地方から出てきた
一人暮らしの女の子は、部屋代を払い生活費を工面して、食べていくことが出
来ない。だから、自宅通いの、安給料に耐えられる人しか雇わない。

A先生はちょっと極端だけれど、ライバル作家と目される20代後半のB女史も、
アシスタントに対する待遇は似たようなものだ。しかし、アシスタントに対し
それだけの給与しか払う余裕が、ないわけではない。アニメ化された作品を持
つ、A先生の昨年の年収は1億円を超えるだろう。思ったより作品の人気が伸び
なくて、水を空けられた観のあるB女史も、昨年は5,000万円は稼いだだろう。
海の見える高台に、家を即金で購入した。

最初は二人とも、本当にアシスタントを雇う余裕がなかった。A先生も21歳で
デビューした時は、風呂無しのアパートで、週一回やっと銭湯に通える生活だ
った。1990年代の東京での話である。そして原稿料は、その会社では新人は1P
当たり7000円が基本だった。連載はまだ月に一回で16ページ、新人として先の
見えない状態では、編集部も余り助けてはくれない。18歳デビューのB先生は
自宅で関東近郊に住んでいたから、もう少しマシだったが、収入に関しては似
たようなものだった。

少女漫画界自体が、ギャラは安く、支払いは遅いのが常識だということもある。
この二人の作家の共通点は、アシスタントとしての修行時代がなく、いきなり
デビューして成功を収めたということだが、そのことが余計に普通のアシスタ
ント志望者に対しての無理解を生んだ。この低賃金の条件でも、憧れの先生の
もとで働けるならと、次々に志望者は現れる。この両作家の場合、アシスタン
トというのは、使い捨ての労働者として見られ、扱われた。

実は、目に見える経費が画材と人件費と取材費と家賃くらいしかない漫画家稼
業では、年収2~3千万円を超えた当たりから、アシスタント一人に日給1000円
払おうが、日給5万円払おうが、(何も対策を取らなければだが)実質の手取
り年収は変わらなくなる。税金が重くのし掛かってくるのだ。

だから、気前のいい先生は、アシスタントに平気で日給5万円を払う。それは
その先生の、考え方である。(どうせ税金に取られるなら、とアシに誰でも
5万払ってる先生は、少なくとも2人、実在する。少なくとも97年にはいた)

アシスタントを、デビューするための修行に来ている後輩と考える、ある社会
経験も長い先生は、同じくらいの時間、世間で肉体労働をしたくらいの金額を
基本給に、その後能力・経験に応じて上げていく方式をとっている。月の合計
額が、最低でも東京で一人暮らしをしていけるくらいの金額、と決めて出して
いる先生もいる。

少年漫画で、知らぬ者のない某誌からデビューを果たしたC君も、やはり収入
は厳しいが、一緒にデビュー前に苦労した仲間に、一昼夜1万円で手伝っても
らって日々をしのいでいる。救いは、少女漫画界よりはギャラが多少高く、ま
たそのデビューした出版社が、新人に対して非常に気前よくお金を出す会社だ
ったことだ。

同じ少年誌を出している出版社でも、新人賞はあっても、ほとんど入賞者を出
さない会社も、ちょっとでも読める作品には、すぐにお金を出す会社もある。
それは新人に対しての、出版社の考え方の差だ。ちなみに支払いが甘いと、原
稿持ち込み仲間で有名な某社は、そのせいかどうか2002年現在、少年誌でトッ
プを突っ走っている。

●あるアシスタント経験者の話

ところで、冒頭の少女漫画家のA先生に、アシスタントとして1年間ついた女性
がいる。今は「やおい系」と言われるジャンルの人気作家として、今度は月に
二回、アシスタントを自宅に呼ぶ身だ。本業収入にプラスして、コミック・マ
ーケットで販売する同人誌の売上が同額程度あり、例えばMacを買うときは必
ず周辺機器を含め、店員に薦められるまま、100万程度は軽く使う。年に数回、
贅沢な海外旅行をする。マンションを買える程度の貯金はある。人気は安定し
ていて、まずは悠々自適な状態だ。

彼女にA先生のアシスタント時代の話を聞くと、もちろんつらかったと言う。
A先生の仕事場を出た後、いろんな現場を回り、ライバルのB先生の仕事場等も
経験してわかった事は、食事代はおろか飲み物代も徴収し、住所から交通費を
割り出して最低金額しか払わないこの両先生が、一般世間に照らしても超弩級
のケチで守銭奴だったということだった。(もっと具体的にいろんなエピソー
ドがあるのだが、一発でバレると思う。今回の各部分は事実だが、わざと入れ
違えて書いている。ご勘弁下さい)

でも彼女はあまり後悔はしていない。
「だって、実力の世界だもん」

A先生、B先生とも、社会人としては問題があるが、漫画家として実力があるの
は、疑うことのない事実なのだ。「売上と実力は関係ない」「才能ないのに売
れやがって」とうそぶくのは、本当に簡単なことだが、日本の少女たちはおろ
か、香港、台湾からも熱狂的なファン・レターが届く二人の漫画が、多くの人
を惹きつけ、感動させていることは否定できない。

それは創作を取り巻く、世界の事実の一部なのだ。目をそらしたら、それは自
己否定になってしまうことを、彼女は本能的に理解したのだと思う。そしてそ
の経験は特に生かしもせず、彼女は彼女のやり方で、漫画家になって生計を立
てている。

●文化を支える人々

まず少女漫画から紹介したのは、彼女たちが、割と無欲な人々だからだ。世俗
的ないい生活~いい家・いい車・いい女を手にするために漫画家を目指す男性
は結構多いが、女性漫画家の場合は、そういう世間一般の欲望とちょっとズレ
て、世間の価値とあまり関係なく、単純に創作をしたい人たちが多い。
 
A先生のアシスタント出身の彼女も、本当に行きたくて海外旅行に行っている
ようなぎらぎらしたものは感じられない。お金や生活は、彼女の目標ではない。
彼女が本当に生き生きしているのは、自分の好きなキャラクターの話をしてい
るときか、新宿二丁目の話を夢中になって聞いているときだ。

超弩級ケチのA先生もB先生も、実はそうだ。これほどケチであっても、蓄財術
の面から見ればぼろぼろで、公務員の年金的な安定志向は感じられない。それ
は単にストレスのはらし方の一部のようにも見えるという。

そんな人たちが、業界の底を支えている。好きでなければ、常識はずれの低賃
金での、過酷な労働に耐えられるはずもない。大体本人達は労働と思っていな
いだろう。そんな人たちが多数存在することが、きちんと漫画界を支えている。

生活を無視してまで、作り手になりたがる者のいない業界というのは、衰退す
る一方なのだ。自分の暮らしを省みない低賃金労働者が文化を支えていること
はどこにでもある現実で、それを直視せずには、何一つ始まらないと思う。

現場の話はまだまだ続きます。実は漫画から出発するのは、Gペンと開明墨汁
による描線から始まる、アナログ極まる職人的な現場だからだったりする。

【8月サンタ】ロンドンとル・カレを愛する33歳 santa@londontown.to
今週はとても大好きな元気の出る曲。Fifth Avenue Bandの"Nice folks"。福
山雅治さんの日曜午後のFM番組のジングルに使われているので、聞いたことの
ある人もいるはず。1969年のNY、グリニッジ・ビレッジ。時代の輝き。山下達
郎さんは自分のバンド、シュガー・ベイブをこのFifth Avenue Bandのように
したかったそうです。これにピンと来たら買い。小西康陽ファンも押さえてお
いた方がいいかも。

・ロンドン好きのファンサイト
http://www.londontown.to/

・デジクリサイトの「★デジクリ・スターバックス友の会★」
http://www.dgcr.com/

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■デジクリトーク
アイデアはいかにして生まれるか 

永吉克之
───────────────────────────────────
よく「作品のアイデアはどうやって考え出すんですか?」と聞かれる。あたか
もアイデア・ジェネレーティングとでもいったような、アイデアを生成する手
段があるかのごとく思っている人がいるが、そんなものはない。

発想法に関する本はよく目にするが、それらを読んだからといってシステム化
されたアイデア生成法など教えてはくれない。

だからといって「アイデアを生成する方法なんかないよ」とすがすがしく言っ
てしまうと今回のデジクリトークは6行で終わってしまうので、覚悟を決めて、
書いてみるが、アイデアの出し方なんて一般化できるものではないので、あく
まで私自身の場合という前提で述べることにする。

                 ●

まず現象面から見ると、作品のアイデアとは神の啓示のように、あるとき突然
湧いてくるものなのだ。それはアイデアをひねり出そうと七転八倒している時
は出てこない。だいたい、無理矢理ひねり出したアイデアなんて不自然だった
り、作為的だったりして面白くない。

むしろ、ぼんやりとテレビを見ているときに画面の端っこにチョロっと出た他
愛のないものを見て「あ、これだ。これだってば!」と絶叫するときがある。
あるいは、家にいて、耳から血が出るほど考えてもアイデアが出ないから、気
晴らしに一時間ほど散歩に出て、戻ってきてゴロンと寝転ぶやいなや、ボコッ
という音とともに天才的アイデアが浮かんでくることもある。

では、アイデアをひねり出そうと七転八倒して苦しむのは徒労かといえば、と
んでもない話で、ああでもないこうでもないと、のたうちまわるプロセスが必
要なのである。例えていえば、ネット検索でいろんなキーワードを入力してい
るのと同じような作業をしていることになるわけだ。

だから、キーワードが出尽くしたら、検索ボタンをクリックして、あとはサー
チ・エンジンにまかせて、結果が出るまで凧上げでもして待っていればいい。

アイデアが浮かぶことを、ひらめきとか霊感とかインスピレーションとか、い
かにも無から何かが生じるような表現をすることがあるが、実は無意識の世界
で上のような計算が密かに行われていて、何の前触れもなく、あるいは何かの
きっかけで突然アウトプットされるのである。

私の悲しい習性で、また話が飛躍するが、2500年前インドのゴータマ・シッダ
ールタ、つまりお釈迦さんは、真理を見い出そうと「苦行林」と呼ばれる、修
行者が集まるところに入り、断食や、呼吸を止める、イバラを寝床にするなど
の苦行を六年間続けた。しかし、真理を見い出すことができず、苦行が無意味
に思われ、苦行林を出て尼蓮禅河で骨と皮だけになってしまった身体を洗って
いると、その哀れな姿に同情したスジャータ(そういえば、こんな名前の乳酸
製品?があったな)という村娘がシッダールタに乳粥をあたえた。彼はそれを
食べて、生きることの素晴らしさを悟り、健康な身体で修行をすることの必要
性と苦行の無意味さを知ったのである。また「琴の弦は強く張りすぎると切れ
てしまうが、弱すぎてもいい音が出ない。ほどよく張るのがいい」と誰かが歌
うのを聞いて、中道(中庸)の大切さを悟ったということだ。

結果的に苦行が無意味であったとはいえ、苦行があったからこそ、生きること
の素晴らしさや中庸の大切さを知ったのである。いってみれば、「弦はほどよ
く張るのがいい」という歌がきっかけとなって、6年間続いた計算がアウトプ
ットされたのだといえるだろう。

しかし、いうまでもなく、よいサーチ・エンジンを持っている人もいれば、そ
うでない人もいるし、初めっから持ってない人もいるだろう。とにかく頭がオ
ーバーヒートするまで苦悶してみることである。

                 ●

アイデアが出ないとき、なぜ苦しむのか? それは、そのアイデアが面白くな
くてはならんということを前提としているからである。面白くなくてもいいの
なら、いくらでもアイデアは出せる。われわれの頭脳は汲めど尽きせぬアイデ
アの宝庫となるだろう。

しかし「こら、おもろいで」と確信したアイデアを、実際に作品化してみると、
ちーとも面白くないことが、しばしばある。これは絵でいえば画力のなさ、映
画や演劇でいえば、演技力、演出力のなさが原因である場合があるが、人間の
想像力のええ加減さも大きな原因になっている。

例えば、ニューヨークの自由の女神を想像してみよう。実際に見たことはなく
ても、たいていの人はテレビや写真で見たことがあるだろうから、想像はでき
るだろう。では、それを観察してみよう。トーチはどちらの手に持っているか、
もう一方の腕に抱えている本の表紙にはどんな言葉が彫ってあるか、履いてい
るサンダルはどんなデザインか。

頭に浮かんだイメージは観察することはできないのである。観察もできないの
に分かっているような気になっているだけである。ましてや、まだ作品化した
ことのないアイデアを、想像の中で作品化しても、どこまで表現可能なものか、
経験を積んだ人でもなかなかわからないものだ。

                 ●

以上、なかなかいいアイデアが浮かんでこない場合について書いたが、もちろ
ん、すんなり浮かんでくることもある。しかし、たいていは七転八倒である。

で、主題の『アイデアはいかにして生まれるか』の結論であるが、私流にいう
ならば、創作物に限らず、いろんなものを見て聞いて、大脳が腫れあがるほど
考えて、ラフスケッチいっぱい作って、ボーっとしてから散歩して神の啓示を
待つ。それを繰り返すしかない。

【永吉克之/CGアーティスト】katz@mvc.biglobe.ne.jp
最近どうもテレビが面白くない。ほとんどNHKのニュースかNHKスペシャルしか
見ない。日本史が好きなので大河ドラマは見ているが、今年から始まった『利
家とまつ』は、現在失望中である。松島菜々子、反町隆史、唐沢寿明・・・・
これは「大河トレンディードラマ」か!
URL / http://www2u.biglobe.ne.jp/~work/

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■サイト案内 Too企画サイト
「クリエイターズ・カフェ」、第7回目にひらいたかこ氏登場
http://www.too.com/communication/cafe/
───────────────────────────────────
プロのクリエイターに迫るTooの企画サイト「クリエイターズ・カフェ」。今
回は、絵本・書籍を中心に制作活動をしながら、カレンダー、グッズ商品、CD
ジャケット他、広告など、イラストレーターとしても活躍中のひらいたかこ氏
を紹介する。

絵本「ある朝ジジ・ジャン・ボウはおったまげた!?」(絵本館)でデビュー。
また、大のミステリーのファンでもあることから、ミステリーのカバー・イラ
ストも数多く、東京創元社のアガサ・クリスティーの30冊の文庫やルース・レ
ンデル、宮部みゆき、最近では紀田順一郎訳の「M.R.ジェイムス怪談全集」上
・下巻の文庫のカバーを手掛けている。他、アガサ・クリスティの作品をテー
マにした画集もまとめている同氏は、ほとんどの作品をドクターマーチン「ラ
ディアント」で着彩。カラーインクの発色に魅せられているという。

第7回目の「クリエイターズ・カフェ」は、20年間変わることのない「本」づ
くりへの熱い思いとともに、精緻な筆使いとカラーインクの透けるような色彩
を自在に操る希有な作家に迫る。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■編集後記(1/17)
・日本SF大賞の「かめくん」(北野勇作)を読む。お話はというと、、、要約
できない。なんだかわからない。ほのぼの系というのか、哲学的なのか、淡々
としていてしかも思索的でもあり、途中で現れる事件やできごとがどういう意
味があるのか不明で、とりあえず最後まで読めばなんとかなるだろうと思って
読んだがよくわからない。なんじゃ、これは。いままで日本SF大賞は半分くら
い読んできたが、いやはやなんとも。かといって読後感は悪くない(しつこい
あとがきには閉口したけど)。わたしには『BRAIN VALLEY』や『言壷』を、古
くは『吉里吉里人』を読み終えられなかった前科がある。読み終えたのだから
まぁいいか(なにが?)ところで、「かめくん」で検索したら1700件もあった。
「かめくん」リンク集まであった。わかる人はたくさんいるんだな。(柴田)

・漫画家さんの話で思い出した。いまは有名になられた元同人漫画家さんの話。
彼女がデビューした時、手紙を書いた。まったく面識はなかったのだが、雑誌
の読者コーナーによく掲載される投稿イラストを見ていて、一読者からステッ
プアップした姿が嬉しかったから。(こうやって書くとあまり自分の本質は変
わっていないかもしれないと思う。)ペンネームが違ったので作風から判断し
ただけなのだが「投稿していた本人です。こういった手紙を貰うのは嬉しい。
脅迫めいたものも来るから」と書かれてあった。聞くと、コンテストの最下位
グループで、彼女の作風にそっくりな、真似したと思えるような人から、「あ
んたには個性がない。いつか抜かしてやる」という手紙が来たのだそうだ。実
力の差は大きかったように覚えている。          (hammer.mule)

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
発行   デジタルクリエイターズ
     <http://www.dgcr.com/>

編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 

情報提供・投稿・プレスリリース・記事・コラムはこちらまで
 担当:濱村和恵
登録・解除・変更・FAQはこちら <http://www.dgcr.com/regist/index.html>
広告の御相談はこちらまで  
メーリングリスト参加者募集中  <http://www.dgcr.com/ml/>

★等幅フォントでご覧ください。
★【日刊デジタルクリエイターズ】は無料です。
 お友達にも是非お奨め下さい (^_^)/
★日刊デジクリは、まぐまぐ<http://rap.tegami.com/mag2/>、
Macky!<http://macky.nifty.com/>、カプライト<http://kapu.cplaza.ne.jp/>、
Pubzine<http://www.pubzine.com/>、E-Magazine<http://www.emaga.com/>、
melma!<http://www.melma.com/>のシステムを利用して配信しています。

Copyright(C), 1998-2002 デジタルクリエイターズ
許可なく転載することを禁じます。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■