Otaku ワールドへようこそ![6]咲き誇る薔薇の園で人形を撮る/GrowHair

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紅(しんく)を脳内妻に迎えて一ヶ月半になる。真紅とは、2回前に書いたように、アニメ「ローゼンメイデン」に出てくる薔薇乙女人形である。真紅自体は仮想の存在だが、誓いの証としてキャラクターグッズの指輪を左手の薬指にずっとつけている。出張で京都にも行ったし、米国サンノゼにも行ったし。真紅との仮想の生活がすっかり板についた感じ。

指輪のパワーによるところかどうか知らないが、このところ人形との距離がぐっと縮まった。5月22日と27日には、東京近郊の薔薇園で人形の写真を撮影する機会が得られた。その話に入る前に、まずはちょっと昔の話から。


●初恋の悲劇

中学の頃から何年にもわたって、夢にしばしば同じ女性が現れた。知っている人ではない。色白で丸顔、前髪をちょうど眉毛のあたりで横一直線に切りそろえ、その両端から直角に落ちるストレートの髪は頬を半分覆い、長く伸びている。その人とは特に会うべき状況があるわけでなく、何か話をするわけでなく、通りすがりにそこにいたという感じ。ただそこにいるだけ。何となくさびしそう。だが見ていると親近感がわいてくる。次第に、この人はまだ見ぬ理想の人で、自分は現実の世界にこの人を探し求めるのが宿命なんだと信じるようになっていった。

大学生の頃、似た姿の女性に出会った。同じサークルに入って来た美大生である。おっとりとして、おとなしい子だった。現役のころは遠くから眺めているだけで満足だったが、その子が短大を卒業してサークルを抜けてから急に矢も盾もたまらない気持ちになって、かなり勇気を振り絞って個人的に連絡をとり、会うことができた。会話はなんだかぎくしゃくして、ぎこちないことこの上なかったが、会えたことに満足して有頂天だった。何回か会ったが、話をすると何となく住んでる世界が違う感じでかみ合わず、つきあいらしいつきあいも始まらないうちに、次第に疎遠になってしまった。

就職して三年ぐらい経ったある日、出張で福岡に行く用事ができた。福岡空港で飛行機を降りて、土産物屋の立ち並ぶコンコースを歩いていると、その人はいた。大学時代のその人ではなく、夢に出てきたその人。それはその「人」ではなく...。博多人形だった。

その瞬間、古い記憶が蘇ってきて、ぴったりと重なった。中学一年の夏休み、両親と一緒に沖縄海洋博に行ったときのことである。博多駅で新幹線を降り、鹿児島へ向かう在来線の特急列車に乗り継ぐために土産物屋の立ち並ぶコンコースを急ぎ足で歩いていて、博多人形が目に入った。ちょっと立ち止まって眺めてみかったが、乗り継ぎ時間が短かったため、せかされて立ち去らざるを得なかった。

フロイトの「夢判断」によると、繰り返し現れる夢は、現実の世界で中断されて完結しなかった出来事が、記憶のなかで納まるべき落ち着き所を得られずにいつまでも仮置き場に放置されていることの現れなんだそうだ。

フロイトよ、ありがとう。おかげですべてが解き明かされたよ。長年にわたって追い求めてきた理想の女性は、博多人形の「童(わらわ)」だった! 運命の旅は終わった。古い記憶はよくやく納まる場所を得たとみえ、そのときを境にその子は夢に現れなくなった。だが、人形とのおつきあいの遍歴は、それで終わらない。

●人形の話と言えば「観用少女」

人形を描いた少女漫画で深く感銘を受けたものに、川原由美子さんの「観用少女」がある。幻の生き人形のお店で人形を購入していったお客と、その人形との心の通い合いを描いた読切り短編21話からなる。人形の絵がとてつもなく可愛くて、ストーリーはせつなくて、随所に織り交ぜられるユーモアも間合いが絶妙で、私はこの作品が好きで好きでたまらない。

知ったのはコスプレイベントでのカメコ活動を通じてである。頭に大輪の花のティアラをいただいた、清純そうな少女のコスプレイヤーを見かけたので、ぜひにと撮らせてもらい、後から作品名とキャラ名を聞いた。それがこの作品の「月華(げっか)」という人形だった。写真の出来栄えはまずまずで、本人からも「作品のイメージ通り」と喜んでもらえた。それでどんなだろうと思い、初めて作品を読んで、ずずずと引き込まれたのである。

「ローゼンメイデン」との出会いも同じパターンで、去年の冬のコミケで真紅のコスプレイヤーを撮らせてもらって知った。

●ドールショウでディーラーさんとお知り合いに

4月29日(金)に初めて人形の展示会に行った。浜松町で開かれた「ドールショウ14」である。3フロアーを使って、約300のディーラーが自作の人形を展示した。ローゼンメイデンの作者であるPEACH-PITさんがパンフレットの表紙のイラストを描いており、真紅にちょっと似てる。

午前中、別の用事があり、最後の一時間半だけ見ることができた。来場者もディーラーさんも約8割が女性。来場者の女性のほとんどは、フリフリ、ヒラヒラな格好だが、ディーラーさんの多くはくたびれたTシャツなど、地味な格好。きっとエネルギーのすべてを人形作りに注いでしまうのだろう。しかし、ゴスロリ系の人形のディーラーさんは、自身もそれ系でキメている。おそらく生活のすべてをその様式に統一しているのだろう。

様々な人形が展示されている中で、ひときわ異彩を放っていたのは等身大のリアルな幼女人形。横たわっている姿は、どう見たって子供の死体である。美しい! 思い切ってディーラーさんに話しかけてみた、「リアルですね」。即座に「嬉しいです」と返してくれた。「ロリータ工房」の美登利さん。

閉場時間が近く、人の波がすでに引けていたので、ゆっくりとお話ができた。何しろ人形のショウは初めてなもんで、来場者なら誰でも知っていそうな基本的なことや、好奇心丸出しのぶしつけなことを聞いたが、気さくに何でも教えてくれた。

この人形はサーニット(cernit)という樹脂粘土でできているという。柔らかい粘土をこねて形を作り、オーブンで焼くとカチカチに固まるのだそう。誰にでも作れるような代物であるはずはないが、本人いわく、特に長い期間講習を受けたわけでもなく、出産で二年のブランクがあったりもしたそうで。才能のなせる業なのだろう。

いつかきれいな背景で写真を撮らせていただけたらと思ったが、美登利さんご自身が公園に連れていって撮ったという写真も、花が咲き誇る中で西日を受けた顔が映えて、ものすごくきれい。人形を撮ったこともない私の出る幕ではないか。

会場を後にして、駅へ向かうついでに旧芝離宮恩賜庭園に立ち寄った。この日は入場無料で、中は人がいっぱいいた。芝生では...。うぎゃっ! 目を疑うような光景が。20代と思しき大きな男の子が4人、10体ほどの人形を芝生にはべらせて写真を撮ったりして遊んでいる。き、君たち。私はドールショウ帰りだと知っているからまだしも、一般の人からどう見えているものか...。みなさん、ここにいるのは決して猟奇的な人たちではないので、通報などせず、生暖かい目で見守ってやって下さいませ。

帰ったらさっそく美登利さんのホームページにアクセスした。日記でmixi(ソーシャルネットワークのひとつ)に入っていることを知り、さっそくマイミク(個人的な友人)になっていただいた。

●ローゼンメイデン決起集会でロリィタちゃんとお知り合いに

その翌日、30日(土)にはローゼンメイデンの決起集会に行った。閉演後にたまたま居合わせた4人で、近くのマクドナルドへ行ってお茶して帰った。その中のひとり、Kotoiさんはフリフリ、ヒラヒラのロリィタちゃん。映画「下妻物語」の竜ヶ崎桃子(深田恭子)のようである。いや実際、服のブランドは"Baby the Stars Shine Bright"で、下妻の桃子と同じだったのだが。バッグの柄に合わせたというネイルアートも細かくてきれい。

けっこうな美貌だが、本人によれば、写真うつりが悪いのだそうで。「それなら」とすかさず、「カメコの私がいつか腕を振るってあげよう」と申し出た。帰ってから、mixiに入ってもらった。トップ絵に載せたのは本人の写真ではなく、スーパードルフィーのRoseちゃん。彼女の分身だという。

スーパードルフィーとは(株)ボークスが製作・販売している球体関節人形である。京都にある工房を「天使の里」といい、全国12店舗の販売店を「天使のすみか」という。スーパードルフィーは「買ってくる」などという世俗的な表現は使わず「お迎えする」という。天使のすみかでは、「お迎えセレモニー」を催してくれる。

美登利さんとKotoiさんは、mixi上であっという間に仲良くなった。そして、撮影の機会は案外早く来た。

●バラ園で撮影

5月22日(日)はKotoiさん、アシスタント、私の3名と人形のRoseちゃん。5月27日(金)は美登利さんと二歳の息子さんとつむり目の等身大幼女人形が加わった。姉妹の人形の妹の方である。美登利さんとKotoiさんがリアルに対面するのはこのときが初めて。

美登利さんは子供のよだれが垂れても気にならない、地味ないでたち。一方、Kotoiさんは決起集会のときより一層磨きのかかった、頭のてっぺんから足の先まで隙のないロリィタ。ローゼンメイデンで人形が入っていたのをそっくりに再現して作られたトランクにRoseちゃんが入っている。

最初にKotoiさんを撮っていたのだが、Roseちゃんがトランクから出てきてからは、もう駄目だった。レンズを通じてファインダに映った姿は妖しかった。色白で無垢な感じなのだが、そういう可愛らしさも極まると妖しい。あ、やばい、吸い込まれる! 後でKotoiさんから「私が忘れられてた」とか「話し掛けても無反応だった」とかさんざん言われてしまったが、正直言って、本当にそうだった。Kotoiさんの存在は一時的に頭から消えていた。声は聞こえていたが、自分が話しかけられていると認識できておらず、「え? 俺に言ってたの? 何か言った?」みたいな。

美登利さんちのつむり目の人形は、どうしたって死のイメージを免れない。棺に納められ、花に埋もれて、まるで眠るように死んでいるイメージ。それは悲劇的な情景。だが、どこかエロチックでもあり。相容れなさそうな死とエロスが共存しているのか。それとも観念上の死はもともとエロスと重なり合うものなのか。

写真を撮られると魂が抜かれるというのは迷信だ。撮った方が抜かれる。

●付記:関連サイト

ロリータ工房: 美登利さんのページ
< http://www2s.biglobe.ne.jp/%7Emidoti/ >

ドールショウ
< http://dollshow.hp.infoseek.co.jp/ >

ボークス、スーパードルフィー、天使の里、天使のすみか
< http://www.volks.co.jp/ >< http://www.superdollfie.net/ >

ローゼンメイデン
< http://www.tbs.co.jp/rozen-maiden/ >

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
シアワセなおっさん。「お迎え」するのは時間の問題ともささやかれている。新宿アルタ8階の「天使のすみか」でスーパードルフィーの展示を見たときは萌え死ぬかと思った。特にリズちゃんが可愛くてなぁ。真紅のスーパードルフィーも秋に向けて制作中だそうで。もう戻る道は存在しないかもしれない。バラ園で撮った写真はこちらからどうぞ。
< http://i.am/GrowHair/ >