[1875] プロファイルの仕組み

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1875    2005/12/01.Thu.14:00発行
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           <一日だけ僕を売ります実験>          

■カラーマネージメント三角絞め…[32] 
 プロファイルの仕組み
 上原ゼンジ


■子育てSOHOオヤジ量産プロジェクト[88] 
 零細企業が人材交流するための作戦
 茂田カツノリ

■ショート・ストーリーのKUNI[16]
 いちじく
 やましたくにこ





■カラーマネージメント三角絞め…[32] 
プロファイルの仕組み

上原ゼンジ
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●プロファイルは辞書やIDカード

カラーマネージメントの基本は、あるカラースペースからあるカラースペース
へ、なるべく見た目の色が変わらないように変換することにある。この際に変
換元のカラースペースと変換先のカラースペースを規定するのがプロファイル
であり、プロファイルの精度が色のマッチング精度に大きな影響を及ぼす。

では、プロファイルとはいったい何なのか? よく喩えられるのは辞書だ。あ
る言葉を別の言葉に置き換えるのに使われる。たとえば、日本語から中国語へ、
日本語からスペイン語へ。言語の数だけ辞書を作っていたのが従来の色変換。
一方カラーマネージメントの場合には中心にCIEカラーという共通の言語を持
ってくることにより、翻訳をシステム化して辞書の数を減らすことができるよ
うになった。

たとえば、この共通言語を英語とすれば、それぞれの言語と英語との辞書さえ
揃っていれば、どんな言葉にも翻訳ができることになる。和英・英和辞書、中
英・英中辞書があれば日中・中日辞書は不要だということだし、独英・英独辞
書が加われば日本語・中国語とドイツ語間の翻訳も可能になる。

同じ日本語の中でも方言というものがある。これはRGBやCMYKにも種類がある
のと同じ。正確に翻訳したければ、それぞれ専用の辞書=プロファイルがあっ
たほうがいい。辞書がなければ翻訳はできないし、辞書を取り違えれば、翻訳
も間違ってしまう。

つまりカラーマネージメントの運用においても、プロファイルを付けなかった
り、取り違えてはいけないということだ。

●様々なプロファイル

プロファイルには種類がある。馴染み深いのはモニタやプリンタのデバイスプ
ロファイルだ。モニタやプリンタの色に関する特性が記述された辞書の役割を
果たす。これらには、メーカーで作られた機種毎の汎用的なプロファイルとユ
ーザーが個々のデバイス毎に作成するプロファイルがある。もちろん、それぞ
れのデバイス毎にプロファイルを作成することが重要だが、入門者は最低限汎
用的なプロファイルの設定だけでもすべきだろう。

この他sRGBとかAdobeRGBというのは、モニタのプロファイルではあるのだが、
机上で考えられたバーチャルなカラースペースということになる。このカラー
スペースが規格化されたり、一般に浸透すれば標準色空間ということになる。

デバイスプロファイルの中でもスキャナやデジタルカメラといった入力機器の
プロファイルはインプットプロファイルと呼ばれ、モニタ、プリンタ、印刷機
等の出力機器のプロファイルはアウトプットプロファイルと呼ばれる。

ソースプロファイル、ディスティネーションプロファイルという言い方がある
が、これはそれぞれ、変換元、変換先のプロファイルという意味で、インプッ
トプロファイル=ソースプロファイル、ディスティネーションプロファイル=
アウトプットプロファイルというわけではない。Japan Color 2001 Coatedか
らAdobeRGBに変換するという場合は、アウトプットプロファイルであるJapan
Color 2001 Coatedが、ソースプロファイルになるというわけだ。

その他、デバイスリンクプロファイルという2つのプロファイルを統合したも
のだ。たとえば印刷のCMYKからプリンタのCMYKに変換するような場合にCIEカ
ラーを通さずにCMYKからCMYKにダイレクトに変換することができる。通常のカ
ラーマネージメントでは、いったん3チャンネルのCIEカラーに変換し、さらに
4色に分版されるわけだが、ここで墨版だけで構成されていた色も4色に分解さ
れてしまう。これを避けて印刷のCMYKの墨版の保持ができるのがデバイスリン
クのメリットで、プリンタのカラーマネージメント機能に組み込んで使ったり
する。

インプットプロファイルや最終出力用のデバイスプロファイルというのは、画
像データに対して直接影響を及ぼすので、単に色が合うということだけではな
く、階調再現性にも注意が払われている必要がある。具体的にはスキャナやデ
ジタルカメラあるいは印刷機のプロファイルを作るためには、専門的な知識や
スキルを要するということだ。質の悪いプロファイルを使えば実画像にダイレ
クトにダメージを与えてしまう。

一方、印刷結果をシミュレートするために使うモニタやプリンタのプロファイ
ルの場合、多少問題があっても、すぐに実データにダメージを与えてしまうと
いうものではない。実画像を「のぞき見」するためのものだからだ。ただしそ
れを元にレタッチを行なうわけだから、なるべく正確にシミュレーションでき
るにこしたことはない。ぜひプロファイル作成ツールを利用してプロファイル
の作成にチャレンジしてみて欲しい。

●プロファイル変換の仕組み

プロファイルの中身はディスプレイ、スキャナ、印刷機等、デバイスの別によ
って変わってくる。基本部分はICCの規定に添う形で作られるが、メーカー独
自の領域もある。プロファイルというとブラックボックスのようなイメージも
あるが、Mac OS附属のColorSyncユーティリティー等を使って中身を覗くこと
も可能。プロファイルを身近に感じるためにもぜひ試してみて欲しい。

プロファイル変換とは変換元のプロファイルと変換先のプロファイル、そして
マッチング方法などを決めて別のカラースペースへと変換することだ。実際に
カラーマネージメントの計算を行なうのはCMMだ。たとえばAdobeRGBからJapan
Color 2001 Coatedに変換するということで考えてみると、CMMはまずAdobeRGB
のLUT(ルックアップテーブル)を参照し、CIEカラー(CIE XYZ、CIE Lab)に
換算する。さらにJapan Color 2001 CoatedのLUTからCMYKの値を導きだしてい
く。

Japan Color 2001 CoatedのプロファイルをColorSyncユーティリティーで見て
みると、「A2B0」とか「B2A0」といったタグがある。「A2B」は「A to B」の
意味で、RGBとかCMYKといったデバイス依存値からCIEカラーへの変換テーブル
だ。CIEカラーからデバイス依存値への変換には「B2A」のテーブルを使う。
「A2B」の後の0とか1とかいう数字はレンダリングインテント(マッチング方
法)の違いだ。たとえば、AdobeRGBからJapan Color 2001 Coatedに「知覚的」
で変換するのであれば「B2A0」のテーブルを参照することになる。

【うえはらぜんじ】zenji@maminka.com
写真撮影からデザインまでを生業とする。JPCカラーマネージメント委員会副
委員長。MD研究会所属。「デジタルフォトグラフィー─エキスパートのPhoto
shopテクニック」(オライリー・ジャパン刊)監修

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■子育てSOHOオヤジ量産プロジェクト[88] 
零細企業が人材交流するための作戦

茂田カツノリ
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どうも~、なんだか人生好調か不調かわかんない茂田です~。

僕は20代の終わりから10年ちょいの間、会社に属さずフリーもしくは自営で稼
いできたわけで、これ自体はとても満足している。まあ、とりあえずまっとう
な勤め人の給与くらいは稼げていたし。

でももっと上を目指してと思うと、現状には不満が多く、新たに会社作ったり
策を講じたりしてジタバタしているわけだが、そんな中で考えたことのひとつ
が今日のネタ。

●より大きな仕事がしたいと思って

SOHOで仕事することで子育てに深く関われたことはとても幸せだし、現状の会
社が抱えている業務をこなすこと自体は楽しいのだが、この先さらに自分の存
在を大きくしたいと考えたときに、もうちょっと社会の中心に近いところに影
響を与えたいなあ、という考えがふくらんできた。

あ、いまのお客さまたち、決していただいている仕事が矮小だとかセコいとか
やってらんねえとか単価低いとかゆってるわけじゃなくて、一個ぐらい社会の
あり方に影響を与えるようなことやりたいない、っていうだけですっ。

そのためには僕自身がそれなりの進歩なり成長なりをせねばならないわけで、
そうなるともうちょっと違う枠組みでの仕事もやってみたいなあ、と思ったの
だ。

大企業に勤めている人の話を聞くと、彼らは頻繁に「出向」などの人材交流を
図っている。これは、ちょっと羨ましいぞと僕は思うのだ。

現実的に、僕自身が出向するというのはいまは無理だけど、ある程度余力がで
きたらそういうのもアリかなあと。ていうか、そんな余力欲しいなあ。

●人材はあまり固定的に考えない方が良いんだろうなあ

もうちょっと考えると、たとえば僕の助手になってくれる人がいたとして(ま
だ決まってない.....)、ある程度仕事覚えてもらった段階で、より修行を積
んでもらうために別の会社に一定期間出向してもらう、ということをぜひ実行
したいなあと考えている。業務委託契約とかでもいいかな。

また逆に、ほかの会社でWebとかFileMakerとかの仕事してる人が、たとえば3
か月とか半年とか僕の仕事手伝ってくれる、というのもアリかと思う。いろい
ろ仕事覚えてもらえば、それなりに役には立つだろう。

せっかく時間とお金をかけて育てた人材を、単なる退職という形で失なうのは、
規模の小さい会社にとってリスクが大きすぎる。退職する人は自分の現状に不
満を持ち、より上を目指すという人が多いだろうから、だったら出向などの形
で経験を積んでもらって、最終的には経営移譲するから頑張ってね、という感
じにしたい。

もちろん小さな会社に、人材を一時的とはいえ外に出してしまう余力なんてあ
るはずもないのは重々承知。でも、単に退職されてしまうよりはずっといいで
しょ。

●一日だけ僕を売ります実験

こんなことを考えるのは、いろんな環境に身を置いてみることの大事さを、僕
自身が痛感しているから。そして大企業は、これを実践して人材を育てている
んだから、零細企業もなんとかせねば、である。

でも実際問題、経営者レベルになると他社に出向というのは当然に無理。自分
の会社ほったらかすわけにはいかないし。

ということで、じゃあ一日だけ僕を売ります、っていうのをやってみようかな
あ。条件は、遠隔地であることと、交通費・宿泊費を出してくれること。僕は
子連れで行くので、仕事中誰かが面倒見ててくれること。遠隔地とゆってもシ
ベリアとかじゃなくても、小田原とか熊谷とかでも大丈夫でございます。

たとえば金曜の夜に伺って、土曜日にみっちり仕事して、日曜は子供といっし
ょに観光してから帰る、っていう感じではどうだろうか。

これって単に他人のお金で子供と旅行したいだけだろって思われるかもしれな
いけど、実はその通りです。まあ一日あれば、FileMakerでちょっとしたソリ
ューション作ったり、ある程度の問題解決したりはできるでしょう。

ギャラは、う~ん、タダでいいやっ。その代わり僕が行きたいと思ったとこに
しか行きません、ってことで。「うちに来てねっ」と思った方は、私にメール
くださいませ。

なんでこんなこと考えたかというと、僕自身が東京以外の日本をあまりにも知
らなくて、もっと見識を広めておきたいなあと考えたから。

この場でこういうこと言って、どんな反響があるかっていうのも、実は楽しみ
だったりして。どうなるかなあ、ドキドキドキ。

まあこれはひとつの案だが、それ以外にも人材交流をする方法についてアイデ
アがあったらぜひお教え頂きたい。

●イベントのお知らせ

次回の[FileMaker Fun Night@Apple Store 銀座]は12月17日(土)14時~
15時です。僕がスピーカーしますのでよろしくです。

第5回:「インポート/エクスポート徹底研究」
僕の回だけ誰もこないと悲しいので、適当に用事作って銀座来てくださいお願
いします。
詳細はこちら:<http://www.sevensdoor.com/>

【しげた・かつのり】shigeta@amonita.com
Webプロデューサー/テクニカルライター。事務所もでき、気に入った椅子も
入手し、あとは人間ができれば万事うまくいくかなとか思ってる40歳。

[mixi ―“永吉克之Fan☆Club”コミュニティ]
<http://mixi.jp/view_community.pl?id=94983>

[有限会社アモニータ(プランニング/出版プロデュース/Web制作)]
<http://www.amonita.com/>

[有限会社レクレアル(FileMakerソリューション開発)]
<http://www.recrear.jp/>

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■ショート・ストーリーのKUNI[16]
いちじく

やましたくにこ
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昔々、あるところにジャハブという男がいた。

ジャハブは元は腕の立つ床屋であったが、いまは無一文で、わずかに麻袋には
さみを1丁持っているだけだ。それというのもジャハブは無類の惚れっぽい男
で、彼のいま陥っている災厄もすべて彼自身のこのような性癖がもたらしたも
のだ。そのことはジャハブもよくわかっている。これまで恋に落ちた回数は数
えきれず、そのつど後先みずに思いを打ち明け、交わりを持たずにはいられな
い。結婚は7回したが、妻たちのあるものは愛想をつかして出ていき、あるも
のは病気になり、また別のものは彼を追い出した。さすがに懲りてジャハブも
それ以上結婚することはやめたものの、恋をやめることはできない。

そのジャハブがひと月まえにある女を見初めた。女は若くて賢く、よくしなる
腰とほっそりとした脚を持つ美しい奴隷で、しがない床屋が買えるものではと
うていなかったのに、ジャハブは我慢出来なかった。是が非でも女を我がもの
にしたくてたまらなくなり、返せるあてのない借金をして女を買った。

案の定、金貸しから矢の催促が来ても返せる道理がなく、ジャハブは女を連れ
て逃げ出した。かくしてジャハブはおのれの半分にも満たぬ年齢の若くて美し
い女とはさみだけを持ち、見知らぬ街をさまよう身となった。金貸しはお上に
ジャハブを詐欺だと訴え、ジャハブは見つけられ次第首をはねられることにな
った。

さて、ジャハブと女は何日も歩き回り、流れ流れてある夜更けにたどりついた
街で無人らしい石造りの家を見つけ、そこに転がり込んだ。ジャハブは旅装を
解く間も惜しんでさっそく女と交わり、ひさびさに心地よい眠りにおちた。と
思ったのもつかの間、夜半目覚めたジャハブはさすがに不安で仕方なくなった。

自分はもう若くない。普通なら孫のひとりもいて浮き世の苦労から解放され、
のんびり余生を送っていてもおかしくない。それがこのように見知らぬ街のあ
ばら屋にいて、明日の食糧さえ不確かな暮らしをしている。傍らに眠る恋人は
確かにいとおしいが、罪なことをしているようにも思える。ジャハブはつくづ
く心細かった。そんなことはこれまでの人生で初めてだった。心労のせいか、
最近は女との交わりもうまくいかないことがあった。それもジャハブを気弱に
させている事柄であった。

闇の中、寝床に横たわったまま、ジャハブはいつしか妻たちの姿を思い浮かべ
ていた。他に誰を思い浮かべられよう。両親はとっくに亡く、きょうだいから
は縁を切られ、友人といえるものもいないのだから。

勝ち気だった最初の妻。料理のうまかった二番目の妻。笑うと片側の頬にだけ
えくぼができた三番目の妻。二重瞼の大きな眼をしていた四番目の妻。子犬の
ようなくしゃみをする五番目の妻。豊かな乳房が自慢の六番目の妻。聡明だっ
た七番目の妻。ああ、なんとすばらしい女たちに自分は恵まれていたことか。

別れたとはいえ、ジャハブは今でも彼女たちを愛していた。どの女もいまは自
分と同じく年齢を重ね、その顔にはしわが刻まれているはずだが、彼女たちな
らいまでも自分を理解してくれるのではないだろうか。いまのこの自分の不安
を取り除き、救ってくれるのではないだろうか。それともそんなことは虫がよ
すぎるだろうか。ああ、確かに自分にはいたらないところがあった。悪かった。
自分で自分が見えていなかった。涙がジャハブの両の眼からはらはらとこぼれ
た。許しておくれ。ああ、私を許しておくれ。すると、妻たちの面影がすうっ
と重なり、いっせいにうなずいたようにみえた。

翌朝、目覚めたジャハブは驚愕した。昨晩着いたときは確かになかった大きな
いちじくの木が眼の前に出現している。それはいままで見たこともない巨大な
いちじくで、太い幹に大きな葉があばら屋を覆うがごとくに茂り、数え切れな
いほどの実はいましも食べ頃に熟している。

「こいつは驚いた。この実があれば少しは空腹を満たせるかもしれぬ」

本当のところジャハブはいちじくが好きでなかった。人の手のようなかたちの
葉といい、折ると白い乳のような液をしたたらせる茎といい、緑の幹も睾丸を
思わせる実もかすかに湿っぽいにおいを帯び、どこかぶきみで油断ならない。
実のしゃりしゃりとした独特の食感も好きになれない。だが背に腹は代えられ
ず、ジャハブはいちじくの実をもぎとり、食べた。ひとつ食べるとそれだけで
空腹がかなり治まった。

「不思議ないちじくだ。まるで果物でありながら羊肉とパンの食事にありつい
たように腹に充実感がある。なんだか身の内から力もみなぎってきたようだ」

ジャハブと女はすっかり元気を取り戻した。そればかりか、夜はこれまでにな
いほど激しく愛しあうことができた。ジャハブは有頂天になり、逃亡の身であ
ることも忘れた。ふたりは毎日毎日家から一歩も出ずに求めあい、腹が減れば
いちじくの実を食べた。ジャハブは相変わらずまったくいちじくを好きになれ
なかったが、仕方なく食べているうち、おかしなことに気づいた。彼がいちじ
くの実を枝からもぎ取ったり、幹をさするとき、どこからともなく、くすくす
笑いのような声が聞こえるのだ。空耳ではなかった。

くすくす うふふ
 
眼の前にはいちじくしかなかった。
「そうか。私が触れることを喜んでいるのだな」
ジャハブはそう考えたが恋人にはそのことは話さなかった。彼は昼間はいちじ
くを愛撫してその果実を食べ、夜は恋人とのいつもの行為に励んだ。いちじく
の実はいくら食べても減ることがないようだった。

そんなある日、ジャハブはまた夜半に目覚め、ひたひたと不安が冷たい水のよ
うに胸を満たすのを感じた。一見平安な日々とはいえ、いまもジャハブは多額
の借金を抱え、追われている身であることに変わりはない。そのことがある限
りいくら日が射そうともジャハブの心が晴れることはない。ああ、金さえあれ
ば。金さえあれば。ジャハブはふたたび7人の妻たちの面影を呼び起こし、心
に願った。涙を流し、手を合わせ、許しを請うた。すると、7人の妻たちの面
影はふたたびうなずいたかにみえた。

明くる日、ジャハブがいつものようにいちじくの実をもぎとっていたとき、ふ
と下のほうに眼をやると、いちじくの根元の地面がぽっかりとひび割れ、そこ
に布袋が覗いているのが見えた。なんだろうと思って土をかきわけると、はた
していちじくの根に抱かれるように袋が埋まっていて、布のほつれ目から見え
るのは金貨ではないか。

「おお、なんということだ。これというのも女たちが私を思って寄越してくれ
たものに違いない、なんと幸せな人間だ、なんと恵まれた人間なのだ、私は」

ジャハブはそこで、土を掘り、はさみでじゃまな根を1本1本切っていった。徐
々に袋は根から自由になるとみえたが、袋は思いの外大きく、作業はなかなか
終わらなかった。

「これは相当な量の金貨が詰まっているようだ。借金を返してもまだまだ余り
そうだ。家を建てようか、新しい店を持とうか、ああ、わくわくする」

ジャハブは興奮していたため、根を1本また1本と切るにつれ、いちじくが次第
にしおれつつあることに気づかなかった。やっと気づいたのはいよいよ最後の
根を切ろうというとき、どこからともなく、笑い声が聞こえたときだ。

おほほほほほほほほ

かまわずジャハブが最後の根を切った瞬間、金貨の入った布袋は地中深く自ら
潜り込んでその姿を隠した。同時にいちじくの木にはまるで全身に毒がまわっ
たかのようにぶつぶつと黒い斑点が浮かび上がり、そのひとつひとつがみるみ
る大きくなり、ついに幹も葉も実も真っ黒になり、ふらふらとよろめいたかと
思うとジャハブの上にばさりと倒れてそのまま醜い芥の塊と成り果てた。驚い
て周囲を見渡したジャハブはあっと声を上げた。

いちじくの木がなくなってよく見ると、なんとそこは金貸しの家の隣だった。
たちまちジャハブは通報され、捕らえられ、一切の抗弁を聞き届けられること
なく、その日のうちに首をはねられたそうだ。

【やましたくにこ】kue@pop02.odn.ne.jp
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■編集後記(12/1)
・似顔絵を変えた。ここ15年以上使い続けていた似顔絵は、「イラストレーシ
ョン」編集部にいた頃、スタッフの女の子が描いてくれたものだ。その人はフ
リーのイラストレーターになったようだ(あ、似顔絵ギャラは未払いだ)。濃
い眉、なぜか目をつぶり、口は大きく「へ」の字型、わたしの偏屈・がんこ・
意地悪の性格がよく表れていて、見た人は一発でわかるという傑作だった。雑
誌や単行本でも顔写真代わりに使用し、ある分野においては有名な似顔絵だっ
た。その原画は、引っ越しのときにどこかに紛れ込んでしまった。スキャンし
たデータは、ここ数年は起動したことのないG4の初期型機に入っているはずだ
が、めんどうなので放置する。このたび、SNSを採用したCGクリエイター専用
の総合掲示板「CG倶楽部」の立ち上げに参加した。そこに参加するのは、おも
にCG美少女作家さんなので、それぞれ自分の娘をアイコンに使っている。わた
しは作家ではないから、娘がいない。そこで、やっぱし似顔絵で行こうかと、
All About仲間の「CG・画像加工」ガイドの土屋さんに「似顔絵アイコン作っ
て」と依頼した。この人は漫画家さんなのだ。おかげさまで、とってもかわい
い(いや、ホント)キャラクターになりました。性格がよくなったようです。
会ったことのある作家さんたちからは、ちょっと若すぎるが(笑)好感度抜群
と評判はいい。(あ、またしてもギャラは未払いだ)       (柴田)

・後記のストックがなくなり、ネタ不足に苦しむ。楽しい話題はないものか。
/週刊プレイボーイの袋とじに南海キャンディーズのしずちゃん登場。「ああ、
週プレ、悔恨の袋とじ!」とあった。企画に乗っちゃうしずちゃんいいわ~。
自分にはできないから、余計にしずちゃんアッパレなのだ。 (hammer.mule)

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発行   デジタルクリエイターズ <http://www.dgcr.com/>

編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 
リニューアル  8月サンタ
アシスト    鴨田麻衣子

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