Otaku ワールドへようこそ![20]人妻コスプレイヤーを直撃取材:テレビ収録
── GrowHair ──

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前回の続き。

●まるで結婚式のような「お迎えセレモニー」

12月7日(水)、秋葉原のメイド喫茶に続いての取材地は、スーパードルフィーのお店「天使のすみか」原宿店である。スーパードルフィーは、身長55cm前後を標準のサイズとする球体関節人形。非常に精巧にできており、その姿の愛くるしさはたとえようもないけれど、あまりのリアルさゆえ、どう見たって何か考えていそうである。

原宿店は閑静な裏路地にある広いお店で、大勢の人形たちが暮らしているだけでなく、「お迎えセレモニー」の部屋もある。今回は、この儀式が取材できるということで、楽しみにしていた。

だが、実際に蓋を開けてみると、まあ何とか形にはなったものの、反省点の多い出来であった。まず、配役。スーパードルフィーについて英語で滔々と語れる人が事前に見つけられなかった。メインの取材テーマではないので、そこまで手が回らなかったということもある。


取材当日の朝、集まった出演者たちの中で、一番なじみがあるということで上条トモコさんになった。コスプレイヤーとスーパードルフィー愛好者はけっこう重なり領域が大きいようなので、無理な設定とは言い切れず、手駒からは妥当な人選と言える。私でもよかったのだが、それは見苦しさという点で無理があろう。

店長さんにはうまく話が通っていなかったようで、当日の事前打合せで、お店のドールを借りたいという申し出にちょっとたじろいでいた。が、上条さんに選ばせてくれた。特に目を輝かすというふうでもなく、「じゃ、これ」と男性ドールを選んだ。

お迎えのセレモニー自体はすばらしかった。私は部屋の外からドアのガラス越しに見ていたが、教会で挙げる結婚式のようであった。問題は直後のインタビューである。トビーがいきなり「人形は好きか。一見、ただのプラスチックのように見えるけど」と不躾な聞き方をしてきた。トビーからすると「いやいやそうではなくて」と単なる作り物以上の意味を語って欲しかったのだろう。

が、上条さんの側からは、こういう聞き方が常套手段であることになじみがなかったようで、侮辱されたように受け取ったようである。「別に好きじゃないし」。あーあ、ふてくされた答えになっちゃったよ。それに続く質問も「男性ドールのようだけど、イチモツはついているのか」だったりして、およそ会話の体をなしていなかった。

店長さんから駄目出しを食らった。「このシーンはボツにしていただけませんか」。当然である。代わりに、店長さんがみずから店内を案内し、MABOさんが通訳することに。が、当たり障りのない説明で、人形を愛する心にまでは話が及ばなかった。人形の楽しみ方は多種多様であり、店からは特にこうあるべきという教条めいたことは言わず、お迎えする側に委ねる方針なのだそうである。

結果から振り返ると、配役選びの段階で英語の制約を外せれば、もっと熱いコメントがとれたように思え、心残りである。私の知り合いにもスーパードルフィーを我が子のように寵愛する人は何人かいたのだが。

●コスチュームのお店

同日、夜までかかって、もう一件。「コスパ」渋谷店、コスプレ用のコスチュームや装飾品などを売るお店である。上条さんと椎名朔哉さんがお店から借りたガンダムのモビルスーツを着てモデルとなり、MABOさんが案内役を務めた。椎名さんはいつもはスターウォーズの登場人物を中心にコスプレ活動をする、けっこう有名なレイヤーさんである。私は店外の階段に腰掛けてうつらうつらしていたが、無難にまとまったようである。

●ラーメンは泣けてくる食い物だ

それからしばらくは、なんだか情緒不安定な日々を過ごした。ああ言えばよかった、こう言えばよかったと後悔に七転八倒したり。適切な単語が出て来なくていい加減な言い回しで取り繕ったのを、急に思い出しては赤面したり。「うが~!」っと叫んで走り出したいような。まるで青春時代の入口。

ブラウン管(あるいは液晶? プラズマ?)を通じて不特定多数の人に見られるということをあらためて意識すると、自意識がひどく揺さぶられる。テレビに出たい人は他にごまんといるだろうに、なんの因果あって、目指したこともない方面で不器用な姿をさらしているのだろう。「私」なんぞが、注目に値する「何か」を持っていたりするもんか。

どうやら、MABOさんも似たような心境に陥っていたようで。2日後のmixiの日記によると...。(以下引用)昼食に中華セットを注文し、ぼんやり待ってて、「お待たせしましたー」と持ってきた瞬間...。ぼろっと涙。意味分からん。何で泣いてんじゃ我!! にぃちゃん困ってるがなっ! とりあえず担担麺のびるから食ったけど、鼻詰まってうまさ二割引き。いや恥ずかしかった。久々の羞恥だ。何が原因とか分からんが、泣きながらラーメン食らう女。なんてロマンチック!(引用ここまで)

●晴海のコスプレイベント

同じ週の12月10日(土)は、晴海のコスプレイベントでの取材。ここの場所選びにはずいぶん苦労した。一般的に言って、報道メディアはコスプレイヤーたちから好かれていない。混雑したイベントでは、テレビカメラを向けたとたんに、集団がモーゼの十戒よろしく真っ二つに割れたという話も聞く。人口密度の低い遊園地系は取材の許可が下りず、次善策として晴海にした。また、無関係なコスプレイヤーが映ってしまうのを避けるため、内輪で20人ほどの背景要員を集めた。

それと、イベント参加者の守るべきルールはぜひ放送に含めるよう、お願いした。テレビを見て日本まで見に来る人だって、少なからず出てくるかもしれない。それでトラブルが頻発するようになってはかなわない。今までに、外国人によるトラブルをたびたび見かけている。

西洋では、"candid"と言って、ポーズをとらない、自然な表情の写真がいい写真だという思い込みがことさらに強いようで、ルールを無視して不意打ちショットを狙ってくる人がいる。沈黙による抗議は、まず察してもらえない。冷たくされると、かえって差別されたなどといって大騒ぎしたりする。文化の違いだが、しっかりと意思疎通を図ればトラブルは避けられるはずだ。ついでに言えば、イベントの入場証には英語でも注意を入れるべきであろう。

さて、当日は晴天になった。海風の吹く屋外は寒く、幸い、人がまばら。MABOさんと上条さんは、それぞれアニマムンディのゲオリクとミハエル、スチュアートと椎名さんは、それぞれスターウォーズのスノートルーパーとアナキン。スチュアートはオーストラリア出身で、今までスターウォーズ関連のイベントでしか活動してなくて、一般のコスプレイベントは初めてだそうである。後でメールをくれて、新鮮な驚きが得られ、日本に対する見方が変わったと言っていた。

収録は、まず私がトビーを連れて入場するところから。
ト:今日はどこへ連れていってくれるの?
私:コスプレイベント。ほら、もうみんな来てる。
ト:わ、シュールな光景だね?
私:そう? いつもと変わりないけど?

トビー自身、プロのカメラマンでもあり、写真撮影に関しては注文が多い。コスチュームは既存品のキャラクターの模倣でオリジナリティに欠けるし、決まったポーズしかとらないので、誰が撮っても同じような写真にしかならない、とか。それはそうなのだが、コスプレの根底にはキャラへの愛があって成り立つものである。それが分かるものどうし、共感できるのもまたいい。好きなものの模倣はオリジナリティへの第一歩であって、否定すべきものではない。実際、こういう中からイラストや服飾デザインなどのプロに育つ人も出てくるのだ。

休憩時間。私はいつものカメコ活動。ちょうど「うさだヒカル」が通りかかったので、声をかけて撮らせてもらう。「デ・ジ・キャラット」のキャラで、大きなうさ耳の下に赤いリボンと大きなサイコロ。廃れることのない定番キャラのひとつである。トビーが見にきた。後ろを悪乗りしたテレビカメラがついてきた。おいおい、許可得てないって。その場で聞いてみるとOKがもらえ、取材になだれ込む。

ト:普段は何してるの?
うさだ:主婦です。
ト:えーっ、結婚してるの? ダンナさんは理解あるの?
う:ダンナももともとはコスプレイヤーだったので。
ト:あなたの年は?
(そこまで聞くかー?)
う:26です。
(ちょっとびっくり。10代にしか見えん。)
私:ダンナさんとトラブったときは、ぜひ相談して下さいね。
(一笑に付された)

私の出番は以上。コスプレイベントからの帰途は、なぜかたいてい気分が高揚している私だが、この日は格別の幸福感に陶酔していた。

●渋谷のクラブはアキバ系の対極

同じ日の夜10時から翌朝までは、同じ番組の別のセクションとして、渋谷のクラブを取材したのを、アニマムンディ関係者らと一緒に見学。みんなおしゃれで、踊りの上手い人がたくさんいて、アキバ系とは対極的。舞台に立つのは一流の芸人たちで、気合いの乗った、いい芸を見せてくれた。

映画"Kill Bill"の出演者らによる大立ち回り。模造刀とは言え、もし手がすべったりしたら軽傷では済みそうにないくらいの早い動きで、ものすごい迫力。漁師の家に生まれ育ったという森田釣竿船長氏率いるロックバンド「漁港」。まぐろをさばく、その手さばきがあざやか。

番組の趣旨として、各セクションの出演者間のつながりも見せることになっているので、それに沿って舞台に立ったのは発明家のドクター中松氏。少子化対策に開発したという快感増進剤「ラブジェット」を掲げ、「セックス方程式」がどうのこうのと得々と講釈する姿はどう見たってテキ屋にしか見えないところが不思議だ。向かい合わせに吊り下げたロボット2機にそれぞれ人が乗って操縦し、破壊しあうロボットファイティング。壊れていくのがもったいない。私はまったくなじみのなかった世界を見て、軽いカルチャーショックを受けた。

●地味な制作風景

コスプレの題材となる作品がいかに美しいかを見てもらうことで、理解が深まればという趣旨で、12月18日(日)、アニマムンディの原画を描いた「虎えと狂」さんを取材した。同時に、コスチュームの制作風景も。この地味さとイベントの晴れがましさの対照が、蝶の羽化のようで感動的なのではないかと。私は立ち会わなかったが、割とさらっと運んだ模様である。

同じ日に新宿で打ち上げがあり、他のセクションの人たちとも顔を合わせることができた。テレビに出るだけあって、オンリーワンな人たちである。ヨーヨーの世界チャンピオンのブラック氏や、日本で唯一の英語のしゃべれるチンドン屋である「大和家さん休」氏らが芸を披露してくれた。

●全体を振り返れば

今回の収録、大変だったし、柄にもないことしてびびったという点で精神的にも負荷が大きかった。ならば二度とやりなくないかといえば、案外そうでもなく。いい刺激になったし、いろんな人と会えて楽しかった。またご用命がありますればいつでも馳せ参じます。

制作スタッフも、全体的にはいい絵が撮れたと喜んでいた。日本ではディスカバリーチャンネルで6月ごろ放送の予定。
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カメコ。1月14日(土)、浜離宮で個人撮影だった。レイヤーさんは10代ばかり7人。若い子たちの頭の回転の速いこと、CPUのクロック周波数の違うパソコンを見るがごとし。このごろやけに時間の経つのが早いと思ったら、こっちがスローダウンしてたのか。/ITのあ痛てーに見ゆる下落かな。