デジクリトーク 雪道をバイクで走る方法/Will

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タイトルを見て「はぁ?」と思った人がほとんどだと思うが、こっちは大まじめなのである。実際、地吹雪舞う中をバイクで走っているのは、郵便カブ・新聞カブくらいなものだ。

※カブ=日本が世界に誇る業務用バイクの名車・ホンダ・スーパーカブの略称
< http://www.honda.co.jp/motor-lineup/supercub/ >

業務系として、夏場には出前カブ・電力カブ・銀行カブ・ピザ屋スリーター・ポリスカブ・ヤクルトおばさん特装スリーター・山仕事、山菜採り、畑仕事カブなどが見られるが、12月中旬から4月中旬までは冬眠する。

一方、雪の降らない地方の人は、雪の上でもタイヤにチェーンを巻けばバイクもフツーに走れるというイメージを持っている人が多い。ところがギッチョン(死語)大違い。雪のあるなしは、バイクの挙動に大きな変化を与える。

東京で「バイクに乗ってるよ」という人を連れてきて、「はいよ」と冬装備のバイクに乗せても、たぶん300mも進まないウチに脳挫傷か心臓麻痺で雪に埋もれて、春の雪解けと共に発見されることになるだろう。雪道に果敢にバイクで挑む(ウソ)通勤ライダーの極意をここに紹介しよう。


●通勤手段としてのバイク

夏場はともかく積雪期にバイク通勤する主な理由は、「ビンボーだから」だ。地方で現業職として働くブルーカラーは薄給で、パソコンやバイクの維持費・生活費などを差し引くと、クルマのローンに回せる余裕はない。じゃあ車体価格が安くて(しかも中古)燃費のいいバイクで通えないか、という発想に至る。

しかし夏場はスイスイと気持ちがよいバイクも、雪の上では危険この上ない。フロントがチラとでも滑れば即転倒。転倒だけならまだいいが、そのまま滑って対向ダンプトラックの下に滑り込む可能性だってある。除雪の行き届いたフラットな道路は希で、大半はシャーベット状の泥雪が溜まり深い轍が出来た悪路か圧雪路だ。

おまけに除雪した雪(排雪しない限りなくならない)で路肩や歩道スペースはほとんど埋まっているので必然的に四輪と同じところを走ることになる。後ろの四輪に気遣って轍から出入りしようものならたちまちハンドルを取られて転倒する。

どんなに後ろからあおられても轍を譲ってはいけない。大型車の多い道路では、圧雪が砕かれ、鬼の洗濯板状態になっているところも少なくなく、激しい振動で小さいバイクは空中分解しそうになる。

雪道をバイクで「走れる」とは思わない方がいい。「半分転んだ状態で前へ進んでる」と表現するのが正しい。乗ってる本人は、「絶対転ぶ、もう転ぶ」とパニクりながら、悪路で暴れるバイクのハンドルに引きずられているに過ぎない。引きずられる→スロットルを戻せない→さらに引きずられる、の悪循環だ。

実際、心臓が口から飛び出すことも多い。春になると通勤ルートの道路脇にフキノトウがポコポコ顔を出すが、その種は自分の心臓だ。

バイクに跨っていられるのはまだ幸せな方だ。路地裏などは除雪されておらず、集団登校の小学生が踏み固めた幅10cm程の獣道が出来ているだけで、一旦それを踏み外すとバイクが雪に沈んでしまい、全力で押して歩かねばならない。下手すると通勤距離の8割は押しまくる(吐きそう)。

やっと広い幹線に出られると思えば、除雪車が置いていった固くて分厚い雪の壁がある。足で一部をケリ崩して、バイクを押しながら勢いを付けて雪の壁を突破せねばならない。バイクは進まないし、息は上がるし、心臓はバクバク。メットからは湯気が立ちのぼりゴーグルは曇るし、意識が白濁してくる。絶望的な状況の中で、自分はなぜバイクを押しているんだろう、なぜ会社に行くのだろう……自分探しの旅に出られます。

●ハードウェアの選択

雪道走行に適したバイクというのは

【軽い・足つきがいい】→転けそうになってもすぐに立て直せる
【ホイールが大きい】→小さいホイールでは悪路に弱くハンドルを取られる
【カブに近いタイヤサイズ】→スパイクタイヤの入手が比較的楽
【排気量は50~100ccくらい】→やたらパワーがあっても雪をかきむしるだけ
【スクータータイプでない】→くるぶしでバイクをホールド出来ないとコントロール出来ない→ブレーキワイヤが床下を通っているとケーブル内に浸水して凍結することがある
【フェンダーとタイヤの間隔が広い】→跳ね上げたシャーベットが堆積して凍り、タイヤを止めてしまう

という条件に当てはまるものである。

そうするとベストマシンは、50~80ccのオフロードタイプのバイクであるが、日本ではこのカテゴリのバイクは廃れてしまった。残りはカブクラスのビジネスバイクしかない。冬期、郵便配達がこのカテゴリバイクを使っているのも、そういう裏付けがあるからだ。

キャブレターのアイシングにも注意が必要だ(バイクはインジェクションではなくほとんどキャブだ)。キャブレターは、常にガソリンを気化させているため、熱を奪われている。極寒地でしばらく走ると、キャブレター内のスロットルバルブが凍ってしまいスロットルを戻してもエンジンの回転が落ちなくなる。

当地ではよほど条件が悪くならないとアイシングは起きないが、必要ならキャブとシリンダー周りに段ボールで防風カバーを作ることも考えねばならない。

郵便カブには排気ガスの一部をキャブレター外側のジャケットに導入して凍結を防ぐアンチアイスが装備されている。サスペンションも大量の荷物を積んでもへこたれないように強化タイプが装着され、サイドスタンドも特別製だ。一般のカブはそのような装備はないので、たまに放出される使用済み中古郵便カブの人気は高く、入手は困難だ。

バイク以上に重要なパーツは、スパイクタイヤだ。ほとんどの雪国では四輪のスパイクタイヤ同様に、バイクも条例などで規制されている。当地でスパイクが履けるのは、125cc未満の原付だけだ。さらにこれにタイヤメーカーの自主規制が加わる。125cc未満のバイクでもホイールサイズが200ccなどと共通あるいは近似だと、意図的に200ccのバイクにスパイクを履かせてしまう可能性もあり、メーカーはこれを嫌う。

それで、タイヤメーカーが作るスパイクタイヤのサイズは50~90cc程度のビジネスバイクかスクーター用に限られている。さらにスパイクの需要は少ないため、夏に受注した分しか製造しないから、買える時に買っておかなければならない。ちなみにタイヤチェーンは、舗装路を走ると30kmくらいで切れて長持ちしないので、ほとんど使われていない。

ビジネスバイクでマッドガードが外せるバイクは、外しておいた方がいい。深雪や深い轍では、マッドガードが引っかかって危険だ。

●ウェア・装備

上着は、使い古しのアノラックやウィンタージャケットの更にその上にカッパを着て防水性を高める。パンツには防水性の高いオーバーパンツを着用する。足下は丈の長い長靴だ。パンツの裾はゴム入りかベルクロ止めで長靴に被せ、積雪原を闊歩しても内部に雪が浸入しないようにする。

四輪から大量の泥水(多くの人が一斉に排雪するため、流雪溝が雪で詰まって洪水が起きる)を浴びせられることもあるため、頭から爪先まで完全防水が必要だ。グローブは、バイク用の防水タイプのウィンターグローブだ。ここだけはゴアテックス製を奢り、可能な限り防寒性と操作性を確保する。

グローブは1~2シーズンで防水フィルムがやられてしまうので消耗品と考えるべし。ハンドルカバーは、付けると確かに別世界のように暖かいが、転倒した時に手を着くことができないので危険だ。世の中そううまく行かない。指が冷えて千切れそうでもガマンなのだ。最近は小型の使い捨てカイロをインサート出来るグローブもあるが、毎日の通勤では不経済すぎて使えない。

ヘルメットはオフロードフルフェイスタイプを薦める。理由は、ゴーグルを使用するため曇りにくいことと、大きなつばが付いているのでゴーグルに着雪しにくく視界を確保出来ること。また、隙間が多いためバイクを押した時に酸欠にならない。内装が取り外し出来るものも多いので、「押し」で汗くさくなっても洗濯出来る。ゴーグルにはミラーレンズを使用すると、割り込んでくる四輪に睨みが利く。

●運用

バイクと装備が揃ってもすぐに道路に出てはいけない。会社までの通勤経路を考えなければならない。

積雪期間は、国道やバイパスのような幹線はなるべく走らず、住宅街や路地裏を走り繋ぐ方が安全だ。幹線は、交通量が多いためあおられやすい。住宅街の交通量の少ない道路を、轍から出ないで走れるようなルートを、出来れば2~3ルート考えておく。抜け道を探して入り込んだ四輪がスタックして、道を塞いでいることがたまにあるからだ。夏の間にルートの下見をしておくのが賢いやり方だ。

逆に幹線を走行する方が安全な場合もある。大雪で市内全体が大渋滞しているような日は、路地裏は大雪やスタック車輌で通れない可能性があるし、そうなると渋滞の車列に並んでチンタラ進んだ方が結果的に速くて安全だ。会社までの通勤時間もかなり余裕を見ておいた方がいい。

早朝の家の周りの様子や天気予報から、路面状況と除雪状況を推測し、ルートを選ぶ。最高気温も重要な情報だ。下手に気温が上がると裏通りの圧雪路が緩み、四輪もスタックする地獄のような悪路になるからだ。

走行速度は、自転車並みの10~20kmがフツーだ。条件のよいフラットで広い道路でも40kmは怖くて出せない。また積雪路でタイヤが滑るとすぐ足を着きたくなるが、足を取られて却ってバランスを崩すのでガマンすることも必要だ。

バイクによっては、極低温下で混合気の空燃比が変わり、低回転のトルクがスカスカになるものもある。時々止まるアイドリングに四苦八苦したかと思えば、いきなり吹け上がり、ライダーを引きずりまわす極端にピーキーなエンジンになる。

クラッチの貼り付きもある。低温下では、クランクケース内部が結露しエンジンオイルに水が混入する。それが積もりに積もってクラッチ板同士が錆び、くっつくことがある。朝一の始動でクラッチを切ってギアを1速に蹴落とした瞬間、コンロッドが曲がるのではないかと思えるようなものすごい衝撃に突き上げられ、エンストする。

しようがないので、リアブレーキを右足で思い切り踏みつつ、エンストしないようにスロットルをあおり、左足を一瞬地面から離してシフトペダルを蹴落とし、衝撃を利用して一気にクラッチ板を引き剥がすしかない。

何度オイル交換・クラッチ修理をしても直らず、結局、駐車中はクラッチレバーを握った状態にヒモで縛り付けておくようになった。特殊な例とは思うが、そのようなバイクもあるので、自分のマシンの特徴をよく把握しておく必要がある。

スパイクタイヤも万能ではないので、グリップ走行が基本。リアホイールが空転してしまうのは、下手な証拠だ。スロットルとクラッチワーク、体重移動でトラクションをコントロールする。

露出した舗装路ばかり走ると超硬スパイクピンと言えど摩耗する。新品でもピンの突出量は1mm位しかないので、暖かくなってもわざわざ雪のあるところを選んで走ることもある。また圧雪路をグレーダーが削って鏡面仕上げした路面には、スパイクも歯が立たない事があり、なぜ転んだかわからないうちにスリップダウンする。

会社に着いても着込んだまま中に入ってはいけない。泥水や雪を屋内に持ち込むことになる。通用口に入る前に一番外側のウェアを脱ぐ。コンビニや本屋に立ち寄る時も同様だ。面倒なら寄り道せずまっすぐ帰れ。帰宅したら、木槌やプラハンマーで叩いて、フェンダー内に付着した泥雪を落としておく。気温が終日0℃未満では、そのまま凍ってしまう。放置すると、タイヤに接触してホイールが回らなくなる。

●楽しみ

苦しいことだらけの雪道走行だが、楽しいこともある(ウソ)。10cmくらいの新雪ならばタイヤがよく噛んでくれるので走りやすいし、リアを滑らせて遊ぶことも出来る。また、晴れた休みの日にちょっと遠出して郊外のダム湖に行って雪景色の写真を撮ったりできる。四輪でお手軽に行っては味わえない感動だ。

●冬期バイク通勤の終わり

4年前に転職した時に、15年間の冬期バイク通勤も終わった。新しい職場が、どうしても幹線国道を長距離走らないとたどり着けない場所にあったからだ。そのほかの事情や、さる金融機関のご厚意もあり、四輪を購入。現在は、すれ違う郵便カブに心の中で頭を下げる日々。春まであと22日……。

これを読んで「よしっ、オレ(ワタシ)も雪道をバイク通勤したくなった」という人は……いるわけないが、それでも今これを文字にしておけば後世必要になる人も現れるかもしれない、ということで2005年3月記す。

【Will】will.design.works@nifty.com 山形県米沢市在住。喜多方ラーメン評論家(自称)