Otaku ワールドへようこそ![29]人さがしのその後:傷心につける薬/GrowHair

投稿:  著者:  読了時間:10分(本文:約4,800文字)


去年の8月に、サンフランシスコ在住のアメリカ人男性からメールをもらい、大学時代から14年間思いを寄せている日本人女性を探すのに協力してあげたという話を1834号(05 9/30)に書いたが、今回はその続き。と言っても、見つかったというわけではないのだけれど...。

●これまでのあらすじ

Luisからの最初のメールは、さくらこさんを私のホームページのコスプレ写真の中に見つけたので、連絡をつけてもらえないかという内容だった。大学時代に友達づきあいをしていて、卒業後もしばらくは帰国した彼女と手紙をやりとりしていたが、引越しに紛れて連絡先をなくし、音信が途切れてしまったのだという。その後も思いは募るばかりで、一日たりとも忘れたことがなく、他の人に思いを向けようにも本気にはなれないのだという。可能ならもう一度会って、今度こそは思いを伝えたいという。

そういうことなら、とさくらこさんにメールを送ってみたところ、あっさり人違いだと判明。ありゃりゃ。Luisによれば、それほどよく似ていて、名前も同じなので、てっきり本人に違いないと思ったのだとか。

もうひとつの手がかりとして、記憶の断片から復元した住所があるというので、該当する姓の人が住んでいるか、見に行ってみた。このときは、かなり葛藤があった。もし、自分の思いにばかり忠実で、相手のことを慮る心の余裕のない、猪突猛進の人だったりしたら、迷惑なストーカーの加担をすることになってしまう。聞いてみると、会って思いが伝えられればそれでよく、すでに結婚していたり、関心がなかったりしたら、きっぱりと諦め、絶対に迷惑はかけないという。しかし、返事次第では、何もかもかなぐり捨てて、すぐにでも飛んで来たいとも。

行ってみると、その住所に10軒ほどの家が該当したが、表札を見る限り、その姓は見当たらなかった。ひどく落胆していたが、それでも私の手助けには大いに感謝しているとのことで、できることは何でもするという。ならばカリフォルニアあたりのアニメやコスプレのイベントに行って、どんなふうだったかレポートしてくれないか、と言ったのだが、その種のヲタ話(オタクの話題)には乗って来なかった。


●それはそれ、これはこれ

その後も、新たな手がかりが見つかったと言ってはぬか喜びに終わる、の繰り返し。日本に住むことになったときに備えて日本語の勉強にも怠りないそうで、それなら教材にはアニメが最適、と言ってみたが、やはり反応なし。

4月15日に来たメールでは、ほとんどあきらめムードだが、それはそれとして、一度日本に来たいという。しばらく暮らしてみて、できれば新たに日本の女性とつきあいを始めたいとも。しかし、日本では子持ちの男性はモテないと聞くけど、どうなのだろう、と。え? 子持ち? 聞いてないぞ。2000年に、当時つきあっていた女性との間に男の子ができたのだという。今は別れて、相手の側に親権があるが、週に一遍、会いに行くのだという。

その事実があるのとないのとでは、さくらこさん探しの意味合いがずいぶんと違ってくるではないか。「一日たりとも忘れたことはない」とか言っておきながら、誰かとつきあって子供までいるとは、矛盾していないか? それを問いただすと、さくらこさんへの気持ちに嘘はないという。つきあった相手とこじれた原因には、それもあったのだとか。

その話はさらっと流され、コスプレイベントを見て来ようか、という話に移っていた。ヲタ話を持ち出してきたのはそのときが初めてで、それがかえって、話をはぐらかそうとしているかのようであった。

●なんだか腹が立ってきた

そもそも、最初の時点で私が迷いながらも手を貸すことにしたのは、ひとつには、一途な思いを14年間も抱き続けているという、今どき珍しい純粋さを美しく感じ、そういう思いはぜひかなうといいと思ったこと、もうひとつは、そのときの状況が精神的にずいぶんつらそうなので、できることをしてあげることで、救いの手を差し延べたいと思ったことである。

しかし、子持ちという事実が加わったことにより、当初の認識に比べて、急激に話が安っぽくなったことは否めない。まずもって、思いは全然一途じゃないじゃん。14年間募る思いはそれとして、別の誰かを口説いてるわけで。それも「本当は好きな人がいるけど、見つからなくてさびしいから、とりあえずつきあってくれないか」と言ったとは思えないから、自分の気持ちを偽って、その人しか思っていないようなことを言ったのだろう、きっと。結局はそれがばれて、相手をひどく傷つけているわけだ。

まあ、私とてピューリタンではないから、本命がどうにもならないときに、気持ちを保留して二番手とつきあうことが絶対にいけないと主張しているわけではない。しかし、オトナの態度としては、適当なところで妥協してしまうカッコよくない自分、とか、気持ちを偽ってまで、とりあえず誰かとつきあっていなくては寂しくてやっていられない、弱々しい自分、というものとしっかり向き合って、しょうがねぇなぁ、と自嘲気味に自己肯定してやる、ぐらいがほどよい加減なのではあるまいか。

本気でもない相手とほいほいつきあうような軽さをもって、結果的に人を傷つけておきながら、一途な心を持った自分を自己礼賛してしまう神経には、自分にはない図太さが感じられ、こういう人間に特に親切にしてやる必要はなかったように思えてきた。

それに、「つらそうだから」に関してだって、14年間、彼女への思いに忠実で、誰ともつきあわなかったというのならともかく、適当な相手がいたのなら、つらさの度合いがさほどのものとは思えないし、同情したくもならない。ちょっとしたかすり傷でぎゃーぎゃー大騒ぎする子供のようではないか。その程度で大変だと言うのなら、最後に3次元とつきあったのは '97年12月という私の方がずっと偉くないか?

断片的な情報で美化された話にほだされて動いた自分が馬鹿に見えてきた。なぜインターネットでは、バケツ一杯、水をぶっかけてやれないのだろう。

●言葉の槍でぶすっと

どうやって冷や水を浴びせてやろうかと思案し、思いっきり冷笑してやった。

 お前、こっちじゃ、いい笑い物だよ。純愛話かと思いきや、ありがちなチープな話じゃん。こぶつきかどうかなんて問題じゃなくて、意中の人がいながら、それはそれとしてやることはやってる、なんて奴は、こっちじゃ洟も引っ掛けないよ。ある女性は「男ってみんなこうなの?」と。
 またある女性は「少年のような純粋な心を持つと見せかけてモテ続けることのないよう望みたい。きっと問題を起こし続けるね」と。男性でさえ、「これって現実逃避って言わない? 別れたとき問題の原因を全面的に相手に押し付けて、過去の誰かを理想化するって、典型的じゃないか? 釣り逃がした魚は大きいってね」。(4/24)

絶交メールが来た。

 厳しいお言葉と忌憚なきご批判をありがとう(訳注:皮肉ですね)。
 確かにルックスに惹かれてつきあった私は馬鹿だった。結局彼女は当時の私の給料に惹かれていただけ、全社的なレイオフにあって、給料の下がる職に移らざるを得なくなったら、彼女の態度が変わったのだ。したければ、どうとでも批判し、仲間ぐるみで笑い草にしてやってくれ。あなたは友達かと思ってたけど、思い違いをしていたようだ。さようなら。(4/25)

それから1時間後に長~いメールが届き、私の言ったことひとつひとつに釈明してきた。泣きながら書いているふうだった。日本に行きたいのは決して現実逃避ではなく、前々からいつかはと考えていたことで、祖母からの4分の1は日本人の血が入っているせいか、まだ行ったことのない日本になぜか懐かしさを感じるのだとか。アメリカ人の物質主義的な価値観や、他人への思いやりの欠如には迎合できないとも。それと、私の理解の域外だったのだが、さくらこさんへの思いは本人なりに真剣なのであった。

俺、いじめちゃった? そこは謝ったが、気持ちを偽ったことでその人を傷つけたかもしれないことはどうなのかと聞くと、「もう、誰ともつきあうのはよした。それは偽りの人生を生きることにしかならないから」と返ってきた。我々オタクには2次元キャラの脳内彼女や脳内妻という強力な選択肢があることは、すでに言ってあった。訓練を積むと、脳内会話ができるようになる。それがすばらしいから是非にと薦めるわけじゃないけど、つまり道はひとつではないということを言いたかったのである。

●夢に現れた

5/1に来たメールには苦しい心の内が綴られていた。

 今、夜中の零時半。本当は寝ているはずの時間なのに、起きている。なぜかというと、泣いて目が覚めてしまったのだ。もう33歳だというのに。さくらこが夢に出てきて、ずっと一緒にいたかったのに、雲のようにふわふわと舞い上がり、暗い空へと消えていったのだ。
 なぜだ。酒を飲んでるわけでもないのに。
 まるで、カトリックのいう煉獄(罪人の霊魂が火で清められる場所)にいるようだ。何の報いでこんな目にあっているのだろう。

私がイタリアにいたときで、ちょうどYuzuたちとの夕食の席でカトリックや仏教の話などをしてホテルに戻ってきたところである。仏教でいう「色即是空」のことなどを書いて返した。

●安住の地を見つけた?

5/30のメールには、うって変わって、アニメ関連のイベントに行ってきたことが書かれていた。

イベントのサイトによると、FanimeCon("fan" と "anime" が掛詞になっている)は、5/26(金)~29(月)の4昼夜ぶっ通しで、サンノゼ(いわゆるシリコンバレーの一部)にあるコンベンションセンターで開かれる、アニメ関連の総合イベントとある。ローゼンメイデンのジュンの中の人(?役の声優)の真田アサミさん他が日本からゲストで招かれている。
< http://www.fanime.com/index_2006.html >

どうでもいいけど、その会場、行ったことあるぞー。去年の6月に半導体関連の学会でしゃべってきたところじゃんか。あん時ゃ緊張したが。そんな楽しそうなイベントがあるんだったら、そういうときに行きたかったなー。

Luisはそのうち3昼夜いたそうで。「コルセットがきつくてきつくて...」。え? 写真を見てぶっ飛んだ。よりにもよって、エロゲー(アダルト向けゲーム)の女子高生のコスプレやってるよ。「俺たちに翼はない」という発売前の学園もの恋愛アドベンチャーゲームの渡来(わたらい)明日香というキャラだ。どうやって知ったんだよ?
< http://www.project-navel.com/navel/oretsuba/ >

しかも、息子さんまで連れて! 彼はナルトか何かのコスしてるし。父と息子でコスプレってちょっと珍しいパターンではあるね。パパの女子高生姿ってのも、小さいころから見慣れておけば、そんなに違和感ないのかな?

ああ、そっちへ行ってしまっていたか! しかし、いつの間に? ひょっとして俺のせい? 恋の悩みなんか相談した相手が悪かったなぁ。オタクの一丁上がり、である。まあこれも一種のハッピーエンドということで。

純愛に殉じてオタクとなりぬ。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
オタクの伝道師。CLAMP(女性4人の漫画家ユニット)の「xxxHolic」(ホリック)という作品によると、この世に偶然はなく、すべて必然なんだそうで。彼もこうなる運命だったのだな。ところでそれに出てくる壱原侑子はよいなぁ。丸顔、離れ目、長い黒髪、年齢不詳が好みのタイプ。何しろ、私の好みの原型は人形なもんだから。
< http://www.geocities.jp/layerphotos/ >