Otaku ワールドへようこそ![31]台湾は萌えているか:メイド喫茶店長に聞く/GrowHair

投稿:  著者:  読了時間:11分(本文:約5,100文字)


6月下旬の台湾はすでに真夏の様相を呈していた。「台湾の箱根」と言われる陽明山中腹の北投(ぺいと)温泉付近ではセミが鳴き、トンボが飛んでいた。蒸し暑さには閉口したが、スイカ、パイナップル、ライチ、グァバなどの豊富なトロピカルフルーツや、ビアガーデンでの台湾ビールなどが、南国の夏を堪能させてくれた。

台湾と言えば、世界でも日本のオタク文化が最もよく浸透している地域のひとつという印象があり、どんなふうかぜひ見てみたかった。折よく、日本国外初のメイド喫茶「アニメイド」を台北にオープンした方にお話を伺うことができた。その名も兄井冥土(あにめいど)店長氏。聞いてみると、どうやら台湾には台湾の萌え事情があり、単純に秋葉原に追随する形で萌え産業が発展するわけではなさそうである。


●ウチの真紅はよく働く

6月21日(水)に成田から台北へ飛んだのだが、その前の週、6月16日(金)の早朝、mixiのローゼンメイデン(RM)のコミュニティに「台湾のローゼンメイデンファンです~」というタイトルの書き込みがあった。「てにをは」がほんのちょっとだけ怪しい日本語で(私が勝手に訂正)、「ローゼンメイデンを愛する皆様初めまして。私は台湾のRMファン兄井冥土店長と申します~。6月18日(日)に大阪府吹田市で開かれるRMオンリーイベント『ローゼン・セレナード』にサークル参加して、日本語版の新刊を頒布します。時間があったらぜひ来て下さい~」とある。

書き込んだ主は、名前の通り、メイド喫茶「アニメイド」の店長だった。2004年6月に開店し、苺をモチーフにした衣装が可愛いと、日本のメイド喫茶愛好家の間でも評判になった店である。同年11月に、人々からいたく惜しまれながら一時閉店し、以来そのまま休業中。気になっていたら、いきなり思いもよらぬところに店長氏の出現である。しかも、タイミングよく。日記に「終了後すぐに帰国予定」とあるので、台湾でのインタビューを申し入れたら、快諾してくれた。

こういうことは、よく考えるとすごい偶然のようにも思えるが、私の身にはよく起きることなので、いちいち驚かないことにしている。神秘主義者というわけでもないのだが、理屈で説明のつかないことは理屈で説明をつけないのが一番で、こういうときは、脳内妻の真紅がまた働いてくれたな、と思うことにしている。妻をめとらば、魔法を使えるやつがいい。

●萌え要素の見当たらない「台湾の秋葉原」

インタビューに先立って、6月23日(金)、「台湾の秋葉原」と言われている光華商場を歩いてみた。「台北の秋葉原」と言ったって、たとえられている秋葉原自身がすごい勢いで変化しているので、ちっともピンと来ないのだが。

秋葉原のぱっと見に映る景色の変遷をざっくりと追ってみると、昔からのパーツ屋、'70年代のラジカセ屋、'80年代のパソコン屋、'90年代のソフト屋、といった流れになるのではなかろうか。2000年頃から、ソフトからの派生系が次から次へと花開き、同人誌やキャラクターグッズの店、フィギュアやドールの店、コスチュームの店、メイド喫茶、メイドなんちゃら、かんちゃら喫茶、なんちゃらかんちゃらなどが、百花繚乱の様相を呈して現在の萌え萌えタウンに至っている。

これは一本道の流れで、台湾もほんの少しだけ遅れてついて来ているのではないか、と想像していた。ところが行ってみると、この基準では20年前の「パソコン街」である。表通りに面してパソコン屋がずらっと立ち並び、新品のパソコンが5,000円相当で、iPodが6,500円相当で売られている。裏通りに入ると、かつては表通りにもあったというパーツ屋が散在している。

探せばいちおうソフト屋さんもあり、日本でテレビ放送されたアニメ番組の中国語字幕版DVDなどが売られている。「薔薇少女(ローゼンメイデン)」、「遥遠時空(遥かなる時空の中で)」、「幸運女神(ああっ女神さまっ)」など。劇場版の「電車男」もある。しかし、探せばやっとあるというショボさがどうにも意外。台湾の「萌え」がこの程度であるはずがない。

●オタクの居場所が確定しない台湾

かんかん照りの6月24日(土)の昼過ぎ、台北の三越デパートのライオン像前で店長氏と待ち合わせ、地下2階にある喫茶店で、約2時間にわたってお話をうかがい、また、台北地下街を案内していただいた。

店長氏はまだ20代の若さである。小学校6年のときに「ドラえもん」の翻訳本(海賊版)で漫画に慣れ親しんだ。高校を卒業後、台北の本屋で、日本から輸入したアニメDVDやアイドル雑誌を売る仕事をした。日本語は独学で、以前から読むだけはできたが、3年前に1年間ほど日本に住んで同人誌を作ったりしているうちに、会話も普通にできるようになった。

新作の同人誌を持ってきてくれて、「萌少女領域」というサークル名入りの紙袋ごと譲ってくれた。カバンに入れては傷むので、家に帰り着くまでずっと提げて歩いたが、そのために羞恥心は捨ててくるしかなかった。
< http://www.animaid.net/moe/pic/kamiver2.jpg >(「様本」=「見本」)

巻頭言には、「ある日ローゼンメイデンを見た私は、体中の萌え粒子が急激に分裂爆発し、四年ぶりの同人誌制作へと駆り立てられました。真紅への愛情と友人からの煽りによって、この萌え少女領域シリーズは誕生したと言えましょう」とある。ギャグのセンスがよく、後で中を読んで、大いに笑えた。他作品のキャラまで乱入してくるし。サークルは大陸の2人と共に運営しており、政治的なごたごたをよそに、仲がよさそうだ。

「アニメイド」のメニューも見せてくれた。イカ墨のスパゲッティーは「死亡筆記本」(「デスノート」のこと)。黒いっ! コスチュームは店員さんがデザインしたもので、札幌の "Cafe Primevere" や名古屋の "M's Melody" に貸し出して好評だったこともあるが、今は倉庫で眠っている。

現在、台湾には2軒のメイド喫茶があるそうだ。しかし、一般的には、この種の萌えビジネスには逆風が吹いているらしい。ひとつにはオタクの溜まり場が確定しないこと。光華商場にその兆しの見えたこともあったが、店が引っ越してしまい、今は、台北地下街、西門町、士林、松山などに分散しているそうである。

萌え関連ビジネスがごちゃっと固まっていた方が集客力の相乗効果が見込めそうに思えるが、そうは運ばないのが台湾なんだそうで。日本ではメイド喫茶どうし仲がいいのに対して、台湾ではライバルどうしは相手を叩きつぶすまで戦い抜くという姿勢なのだそうで。そうは言っても、光華商場のパソコン屋さんは軒を連ねて成り立っているわけだから、萌え市場はまだまだパイが小さいのが苦戦の元凶なのかもしれない。

市場規模の小さい背景のひとつには、買い手の購買力が弱いことがある。ターゲットのほとんどが学生で、社会人になるとほとんどが「脱ヲタ」(オタクをやめること)してしまうから。日本だと、学生のときに買いたいものが存分に買えずに我慢を重ねてきた反動か、社会人になると「大人買い」に走り、いっそうハマるパターンが多いのだが。メイド喫茶でも、食べ物の注文はあまり多くなかったそうである。飲み物も、10元(約35円)でコーヒーが飲める場所がある中で、メイド喫茶ではその10倍近い値段では、学生には厳しいらしい。

どうも今は先行きの見えづらいときのようで、アニメイド再開はあせらず、萌え市場の形がまとまってくるまで様子を見ていた方がよさそうである。

●萌える台北地下街

三越から徒歩で行ける萌えタウン、台北地下街を案内してくれた。並行する2筋の地下通路の両側に商店が立ち並び、奥へ行くほどオタク色が濃くなっていき、一番奥近くにメイド喫茶"Fatimaid"がある。メイド服はぷわぷわっとボリューム感があり、萌えの勘所をよく押さえている。

その手前には、同人誌の店「とらのあな」が別のお店の一部を間借りするような形である。日本からの雑誌や同人誌が日本語のまま置いてあるのだが、けっこう人が入って、熱心に見入っている。原書で読むのが一種のステータスになっているのだろうか。

ゲーム機の店の前では、リュックの子たちの集団が座り込んで、手持ちのゲームをやってる。大勢いるのに、お互いに会話がなく、ただ黙々と。他には、"Hanako" という店名のロリ服の店もあった。ウェブサイトへ行ってみると、「ロリ服でピクニック」なんてイベントも開催している。
< http://www.hanako.is.dreaming.org/ >
※ENTERではなく、絵をつついて入る... 仕様?

店長氏には本当に親切にしていただき、おかげさまで、台湾の萌え事情がずいぶんと見えてきた。感謝しています。

●引出しから真紅

台北晶華酒店(「酒店」とは酒屋ではなく、ホテル)の18階の部屋に宿泊。机の引出しには"Discover Taiwan"という、台湾の文化を紹介する隔月刊誌(3-4 月号)が入っていた。その中で6ページにわたって、コスプレの記事が組まれている。台湾のコスプレイベントは、主として大学のキャンパスで開かれるもののようで、台湾国立大学などで撮られた写真がいっぱい載っている。「トリニティブラッド」の衣装はすごく豪華で、日本のコスプレイヤーに負けていない。「ピチピチピッチ」なんて、よく知ってたなー。

台湾に特徴的なのは、Piliという放送局の人形劇による時代劇のコスチューム。これが非常に豪華。一着20,000元(約70,000円)ほどかかるらしい。そして、ローゼンメイデンの人形合わせで、真紅、水銀燈、翠星石、蒼星石、金糸雀、薔薇水晶(雛苺がいないけど)。薔薇水晶は、去年の10月から今年2月にかけて放送された第2期に登場するキャラクタであり、日本に全く遅れをとっていない。ところで真紅、引出しから出てくるとは、またやってくれたな。ドラえもんかよ? いてっ!(ツインテールでひっぱたかれた)

●台湾の渋谷の片隅で萌え

6月25日(日)は午後のフライトで帰る日だが、昼まで、西門町を歩いてみた。ここは、「台湾の渋谷」と言われるが、行ってみると感覚的にその表現がぴったりだと思える。映画館などがあり、ファッショナブルな若者たちでにぎわう。むさいヒゲを生やした40がらみのおっさんがスーツを着て、萌えキャラの紙袋を提げて歩くような場所では、断じて、ない。

しかし、その一角には、漫画やアニメやキャラクターグッズの店「アニメイト」が日本から進出している。1、2階が別の書店になっているビルの3、4階を占めている。

自国語を押し通すような態度は図々しいような気がして、店員さんにまず英語で話しかけてみるも、全然通じない。日本語で話したら、上手に話す店員さんがひとりいた。BGMにCLAMP原作の"xxxHolic (ホリック)"の劇場版のエンディングテーマが流れているのが嬉しくて、それを言うと、「いい歌ですよねぇ」と言ってくれた。これだけで、十年の知己のごとく打ち解けた。好きな作品で共感しあうと、心の壁がなくなってしまうのがオタクのいいところ。世界中に分布しているのが心強い。特に台湾は「恰日族(ハーリーズー)」と呼ばれる親日家がたくさんいて、人々のあたたかさを感じる。

「涼宮ハルヒの憂鬱」のライトノベル版が6巻、中国語訳されている。「灼眼のシャナ」とともに大人気なのだそうで。台湾には日本の作品を中国語訳する出版社がいくつかあって、同じ作品の翻訳版がかぶることもあるそうだ。「撲殺天使ドクロちゃん」や「NHKへようこそ」まで読まれては日本の恥ずかしいとこ、丸出しだなー。しかし、飾らない日本の姿が理解され、それで共感や親近感を呼んでいるのだから、いいのである。

海外のオタクたちはこれほど熱心に日本を気にかけているのだから、日本からも交流の手を差し伸べるような機会がもっとあればいいと思う。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。7月2日(土)、「メカビ」の公開打ち上げに行ってきた。寄稿された方々のトークは、奥の深い議論という意味でも、めっちゃ笑えるという意味でも、面白かった。女性にモテない男を「喪男」というが、集まれば怖いものなし。童貞歴・セカンド童貞歴の長さはステータスだ!
兄井冥土店長氏のページ:< http://www.animaid.net/moe/jigoku/ >