音喰らう脳髄[5]ある地方紙の記事から/モモヨ(リザード)

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ROCK is LOFT -Red Disc- ~SHINJUKU LOFT 30th ANNIVERSARY~全国紙ではとりあげないニュースがネットで話題になり、思った以上のひろがりを見せることがしばしばあるが、今回とりあげるニュースもそんな一つ。友人の報せがあった後、指摘されるままにあちこちの掲示板を見るとこの話題はケンケンガクガクそれなりの盛り上がっていた。

「はじめに書いておく。以下は暗いニュースである。気分が鬱の時は読まないほうがいい」

友人からのメールは、そんな前置きの後に

「モモヨがマンション六階から投げ落とされたと書いてあるので、まさか、モモヨさんちかと思ってしまいました」

と続く。何が何だかわからないが、鬱でなくても、これだけで充分に暗くなる。いや、不幸の手紙とか、そういう類ではない。そのモモヨは、北海道、札幌に住んでいたという。そして、モモヨは、真実、マンションの六階から投げ落とされ命を奪われたのである。


実を言うと、そのモモヨ、人間ではない。フレンチブルドッグである。なんだ犬か、とお思いの方に言っておくが、犬とはいえ一つの命だ。それをマンションから投げ捨てるなど、尋常なことではない。私はそう主張したい。ちなみにモモヨは漢字で百代と書く。

ニュースが掲載されたのは北海道新聞9月3日の朝刊である。記事によると、先月の28日、百代は飼い主の買い物につきあい散歩に出た。買い物の際に飼い主は百代を店の外につないでおくのだが、おとなしい性格の百代は、静かに飼い主が買い物を終えて出てくるのを待っていたという。

が、その日ドラッグストアでの買い物を終えると、つないでおいたはずの百代がいない。そこで、110番に通報して、友人らに相談、必死に近所を探し回ったそうだ。

29日、知人のブログを通じてネットで呼びかけたところ、全国的な情報提供の輪が生まれ、ネット掲示板には百代の写真が掲載される。この写真の犬を見たという情報提供者から連絡が入る。「百代に似た犬をつれている女がいる」というのである。それも札幌市内同じ区内マンションの六階に住んでいる。

さっそく飼い主と知人は、この女性のマンションを訪ねて百代のことで交渉にはいる。話の途中、その女性は部屋に戻り、室内の百代を六階のベランダから投げ捨てた。飼い主は110番通報、大騒ぎになったという。百代は、即、動物病院に搬送されたが助からなかったという。

考えれば考えるほど嫌な事件である。同名ということもあるが、それだけではない。この投げ捨てた女の心性を思うと同じ人間としてやりきれないのだ。ネットの掲示板などでは、買い物中の飼い主が犬を店の前につないでおいたことを指摘して、そのマナーを問題にする声もあるが、この事件は、そんなちっぽけな話ではなかろう。百代が人間であれば当然のごとく、誘拐から殺人までの罪に問われるはずであった残虐なその女性の心性こそが問題なのである。

そもそも、この犯人(私はあえて犯人と呼ばせてもらう)の行動はあまりに低劣である。その行動は、保育園であれば三歳児のクラスでよく見受けるそれである。

私は、二人の子供を育てている。複数の幼児が集まる場所において、一つの玩具のとりあいになった際、自分のものにならないと思うとそれを遠くに投げてしまったり、壊してしまう子供がいる。実際にそんな行動を目にすることが幾度かあった。

いわゆる小児性の反射行動とも思われるが、通常、このような行為は長ずるにつれてなくなるはずである。家族相手に甘えるようにしてなかなか悪癖がとれない人(それが家庭内暴力だ)も見かけるが、普通の社会的な行動でこうした発作的な行動をとることはまずないし、こうした行動をとるようでは社会の一員として生きていくことは不可能なのが一般的である。

保育園でも年中組にあがれば、通常、このような感情的反射は当然少なくなるし、なによりも生き物を高所から投げ捨てるようなことはしなくなる。

興奮していた、とか、心身喪失していたとでもいうのだろうか。興奮して他人の目が見守る最中に百代をアスファルトに投じたとすれば、その心性はやはり危険である。周囲で生きる者にいつか害が及ぶ可能性大である、そう言わねばならない。

これに前後して、私の周辺で高名な作家の動物の命を軽視する発言が話題になった。が、その風潮の先端を行くのが、この百代殺害犯なのかもしれない。このニュースは、そうした危険性の警鐘を鳴らす意味でも、本来は全国紙に掲載されるべきものだと思う。

男の子や、中年の女性をマンションから投げ落とそうとした男がいたが、そうした男と百代を投げ捨てた女性の距離はそう遠くない。それを人間の邪悪のように語る者もいる。しかし私に言わせれば、冗談じゃないのである。彼等は泥のような凡愚におちたまま、成長していないだけである。先の幼児の行動を例にみれば、それは明白だ。

暗黒の側に身をおく立場から、そのことは断言させてもらおう。邪悪とは、高度のモラル意識あればこそ理解できる高所に存するものだ。神聖なるものを理解する者だけが邪悪をもまた理解しえる。しかしながら、凡愚、愚劣というものは理解不能なものである。そうした心性を精神的に解析しようとする学者もいるが、解析の前に、こうした者の手から子供や小動物をどうやって守るか、いまを生きている私たちとすれば、今はまさに危機的状況だ。この犯人のような心性の持ち主から弱きものをどう守るか、その具体的な方策を考えねばならない。

Momoyo The LIZARD
管原保雄
< http://www.babylonic.com/ >

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LIZARD
リザード
インディペンデントレーベル 2004-08-25

by G-Tools , 2006/09/05