笑わない魚[209]スパムメールに抵抗する
── 永吉克之 ──

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明けない夜はない、醒めない二日酔いはない。崩壊しない金正日体制はない。だから、深い雪の中で春を待つツクシのようにじっと耐えていれば、朝、パソコンを起動させるたびに、日課のようにわれわれを悩ませている大量のスパムメールの削除という苦役にも必ず終りが訪れるはずなのだ。

スパマーとて人の子である。木の股から生まれてきたわけではない。木の股から生まれてきた人間なら、大量のスパムを同時に送信するといった高度な技術をもつのは困難だ。つまりスパマーも「そりゃあできることなら真っ当な稼業について、堂々とお天道様を拝みてえ」と思うことのできる心をもった、われわれと同じ血の通った人間だということなのだ。

疑うのなら街に出て、その辺を歩いているスパマーを呼び止めて「スパムメールを送るのはよいことですか?」と聞いてみるがいい。彼らは「まあ少なくとも、よいことじゃないでしょうね」と答えるはずだ。つまり善悪の判断ができるということなのである。いつか必ず良心の呵責に耐えきれなくなってスパムを送るのをやめることだろう。それまで根気よく待ってやろうではないか。


と、人の真心を信じて、かれこれ一週間待ったが、スパムが減る気配がない。それどころか、ますます増えているような気がする。裏切られた。信じた私がバカだったのか。スパムに終わりなど訪れるものか。明けない夜もあるのだ。たとえば地底人の世界の夜は永久に明けないだろう。

スパマーとは骨の髄どころか、細胞核まで腐った救いようのない悪漢、卑劣漢、無頼漢、暴漢、大食漢、頓珍漢である。これから街でスパマーを見かけたら、片っ端からぶん殴ることに決めた。そうやってみんなで協力して、スパマーをひとりひとり駆除していく以外に方法はない。

●スパマーの質の低下

私の場合、あちこちのサイトに自分のアドレスを載せているのせいか、善良な「普通のメール」よりスパムの方が圧倒的に多く、どっちを普通のメールと呼べばいいのかわからなくなってきた。

今、パソコンから2時間ほど離れていた間に10件ほどスパムが溜っていたが、最近では、そのくらいの数のスパムを削除するのは、服についた糸屑でも払い落とすような感じで、腹も立たなくなってしまった。

ほんとうに腹が立つのは、現在のスパム全盛に増長し、スパマーが自分が世間の裏街道を歩く日陰者であるという謙虚な気持を失なっていることなのである。

スパムといっても、相手に興味をもたせたかったら、それなりの門構えにするべきだ。以前は偽装アドレスといえども「hitozuma@yari_houdai.com」のように、一応それらしくする工夫が見られたが、最近はそれを考えるのも面倒になったのか「xfhjkrqvi@aavklptonf.com」といった、いかにもキーボードをテキトーに打って出てきた文字列をそのまま使っているようなアドレスが多い。私はバカ正直だから「アアヴクルプトンフ」ってどういう意味だろうと辞書で調べたりしたものだ。

また件名だが、いちばん重要な部分にもかかわらず手抜きをしている。「test」とか「Re: 」とかいった投げやりなものが増えてきたが、なかには件名そのものがないメールまであるのだから、こいつら、ほんとうにこの世界で生きていこうという気があるのか疑ってしまう。そもそもこんな連中がスパマーをやっていけるのだろうか。

●スパムをないがしろにする

スパマーたちの野望を打ち砕くためにもっとも効果的な手段は、彼らが送信してきたメールをぞんざいに扱うことである。

外国からのスパムには画像がリンクしてあるメールが多いのだが、それに対抗して、私のメーラーではリンク画像を読み込まない設定にしている。せっかくスパマー諸君が作った画像だが、残念ながら私のメーラーには「?」しか出ないのだよ。いったい何の画像だったんだろうねえ、はははははは。

また、私が加入しているプロバイダの「迷惑メールブロックサービス」という機能を使っている。キーワードをいくつか設定しておくと、それに引っかかったメールはスパムと判断されてサーバ上で削除されてしまうために、ユーザはその、おぞましい姿を見なくてすむのである。

図々しいスパムメールたちがサーバの中でズタズタに引き裂かれて、断末魔の悲鳴をあげているのかと思うと実にいい気味だ。私のアドレスに送信されてきたスパムはメーラーで受信する前に抹殺されてしまうのだから。きっと今頃、スパマーたちは地団駄踏んで悔しがっているにちがいない。

そこでスパムに苦しめられている読者のみなさん、スパム処理は私にまかせていただきたい。もしあなたのパソコンにスパムが届いたら、件名に半角英字で「セックス」という語を加えて私のアドレスまで転送していただければ、その語がひっかかってサーバー上で削除されるので、あなたが削除する手間が省けるというわけだ。まあこれも読者サービスである。

【ながよしかつゆき/朴念仁】katz@mvc.biglobe.ne.jp
肝臓が弱くなったせいか酒があまり飲めなくなった。おかげで酒代が節約できる。内臓疾患のポジティブな側面といえよう。

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