音喰らう脳髄[18]ショックな年の瀬
── モモヨ(リザード) ──

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これほどショッキングな年越しを、私はいまだかつて経験したことがない。なにがショックかと言えば、フセイン元大統領の処刑である。ネットなどで処刑の隠し撮りムービーが流出していたようだが、私が受けた衝撃はそうしたもの由来ではなく、その処刑理由についてであった。その一つ、人道についての罪、これである。

その後、幾人かの論者が私と同じショックを受けたようで、テレビでも論じていたが、これはまさにこの国が第二次大戦敗戦処理の中で行われた東京裁判の断罪事由そのものであり、この法的根拠のない判決のおかげで、私たち日本人は長きに渡り苦しみ、論争を続けてきたはずのものである。


いま、私は『法的根拠のない判決』と書いた。しかし、この文章は実は既に破綻している。実は、判決というものは、常に法的根拠を持たねばならないはずのものだからだ。いや、そもそも裁判というものは、ある法規制のもとで裁かれるべきはずのものである。一定の法をもたずに人を裁くなど、考えてみれば、たんなる裁判ごっこ、茶番でしかない。

この点、裁判中「この裁判は茶番だ」と叫んだフセイン元大統領は正しかった。

せっかく裁判という手続きを設けたのだから、まさかこれほど拙劣な最後を迎えるとは思わなかったが、結局、この私刑に等しい処刑である。数年の長きに渡ったイラクの問題もたぶんさらに紛糾するだろう。同じ事が繰り返されていけば、この国から血の臭いが消える日は遠のくばかりだから。

そんな年の瀬の出来事があったせいで、正月は東京裁判に関して手持ちの書籍をあちらこちらと眺めていた。この裁判があって、鵺のような似ても焼いても食えない保守政党の一党独裁に似た体制のもと、私たちは高度経済成長期と称される冷戦時代を過ごしたのだ。そんなことを考えていたのであった。

背後にその鵺のような怪物がうごめいている。私には、そうとしか見えないのが、年明け、首相が口にした『美しい日本』である。白を黒といい黒を白という、あるいは白黒をはっきりさせずに灰色の中に全てを誤魔化す、戦後期の日本は、そうやって難局をしのいできたが、それが日本人の美徳だとは思えないし、美しいとも思えない。

水墨画のごとき、白紙に墨で美を現出させたことがあるのが日本人である。明晰なものを見る目を忘れてしまえば、美しさも見えなくなろう。

なんて少し気張った新年。今年は勝負だ。

Momoyo The LIZARD
管原保雄
< http://www.babylonic.com/
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by G-Tools , 2007/01/09