創作戯れ言[1]新連載着想について考える
── 青池良輔 ──

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『コンテンツ』という言葉にとらわれながら飯を食っている青池と申します。数年前よりインターネットを中心に、ショートアニメやプロモーションサイトの制作をしているのですが、どういう仕事にしろ『アイデア』を求められる事が少なくありません。もちろん、そこにはクライアント様がおり、または代理店様なんかとブレインストーミングをすることもあるのですが、そういう仕事が続くにつけ、ふつふつと『自分のアイデアは無限か?』などという漠然とした不安にかられています。

コンテンツの『着想』は、ケースバイケースでその扱われ方の重みが変わってきます。世間的にクリエイターを名乗る仕事をしている限り、自分でも納得のいくモノを提示していきたいと願っていますが、現実ではなかなかそこまで到達できなかったり、ニーズとの不一致からうまくいかなかったりする場合が多いです。


着想を得るにもテクニックはあるでしょう。テーマAと関連の薄いと思われるBという要素を掛け合わせて、そこに産まれる奇妙なバランスに面白さを見いだす方法。プロジェクトに課された条件を丸呑みしていきながら、消去法の末に残された素材をどう料理するかという、冷蔵庫にあるものだけで作るおかんの晩ご飯の献立のような方法。同じようなタイプのコンテンツを微妙に避けながら、裏を読みまくる隙間産業のような方法。ありモノを知らん顔してアレンジしちゃう方法……しかし、そういう技術を使いながら企画書をまとめていくと、何となく体がむずがゆくなってくるのです。

「違う」

これは、あくまでも理想論なのかもしれませんが、着想はもっと別の所からやってきて欲しいと願う自分がいるのです。それが何かと言えば「自分がこれがやりたい」もしくは「欲しい」と思う『願望』なのではないかと。モノを作るという行為は突き詰めていけば『願望の成就』なのではないかと思うのです。「みんなが楽しめるコンテンツ」は「自分の作るコンテンツでみんなを楽しませたい」という願望ですし、「最先端を感じさせるデザインを構築する」のは「デザインで最先端になりたい」という事なのだろうと。

先程の着想の為のテクニックは、どこかで自分にリミットをかけている状態なのだと思います。クライアントの意向が、自分の欲している方向とずれれば、その分自分を抑えなければいけないというストレス。代理店の理不尽な締め切りの前にやってみたかったディティールを削除しなければいけなくなる不満。修正の末に自分のアイデアの形が見えなくなった時の失望感。大なり小なりそういう現実と向き合っているうちに、ホームランを打ちたいという『願望』を失なってしまうのではないかという恐怖が体の中に溜まっていくのではないでしょうか。

社会一般の通念として、全ての願望を通そうとすれば、軋轢があり摩擦があり「まぁどっちにしろ、ろくなことはないよ」というのが常識です。僕も仕事の大半は「あはははは、最高ですね」とか言いながら無難にこなしています。大人なんだから協調性をもってやっていけばいいのだと思います。それが『仕事』であれば。

着想に『自己表現』を求めるのはロマンティックすぎるのかもしれません。しかし全てのコンテンツを『自分の作品』と捉えるのであれば、やはり少しでも自分の体臭のようなものをマーキングしておきたいと思うのが、動物としての本能だろうと思うのです。作品の基礎が着想であるならば、やはりそこから『自分臭い』ものを出せればいいなぁと夢見てしまうのです。自分が見たいと思うもの、自分がみんなに見せたいと思うもの、その願望を丁寧にすくい上げていけば、ストレスの呪縛から逃れられるのではないかと感じています。調整され、修正されてもどこかしら『自分臭』が残っていれば、幸せを感じられるだろうと。

しかし、それが『自己満足』にならない為のバランス感覚も必要になると思います。名作と言われる文学でも、あらすじだけを乱暴に解釈すればただのエロオヤジの妄想話というものも少なくありません。それが名作となり得たのは、オーディエンスとの距離感ではないでしょうか? それは感性であったり、経験であったりするのかもしれません。「技巧を尽くして願望を成就させる」ことができれば、着想は良い状態で形になっていくのでしょう。

なにはともあれ、自分が形にしたいと思える程の着想を得なければ話は始まりません。そして、着想のベースが「〜したい」という願望なのであれば、自分の欲望がどこに向いているのかという、欲望の整理整頓をしていくのが着想を得る一番の近道かもしれません。そして、その作業の過程には「願望が見つからない」とか「自分の願望が稚拙な感じがする」とか、その瞬間にしか得られない旬なネタがゴロゴロと転がっている感じがしています。

生意気言いました。

【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
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1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。 Flashアニメシリーズ『CATMAN』でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、 Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行なう。

・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/
>

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青池 良輔
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