Otaku ワールドへようこそ![43]台湾女僕珈琲萌萌巡礼
── GrowHair ──

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台湾〈’07〉台北・台中・高雄・台南・花蓮会社から台湾出張を仰せつかった。1月18日(木)〜20日(土)の3日間で行ってこい、と。去年の6月以来、約半年ぶりである。あの時点で台湾にはメイド喫茶が二軒あった。今はどうなってるかとググってみると、なんと、五軒に増えているではないか。急成長する台湾、侮りがたし。

今回、天の声により授かった任務は、仕事の時間にはちゃんといたというアリバイを成立させつつ、短時間にできるだけ多くのメイド喫茶を回ってくること。まかり間違っても、メイド喫茶のレシートが出張経費精算の書類に紛れ込んで会社に渡ったりなどというミスがあってはならない。


●完全犯罪計画

前回の時点で営業していた2軒のメイド喫茶とは、台北の「Fatimaid」と高雄の「月讀(つくよみ)」である。台北と高雄は台湾のほぼ最北端と最南端に位置し、それぞれ第一と第二の規模の都市になっている。その間、約350km。1月からは両駅を結ぶ新幹線が開業する予定だったが、現在のところ、両端を端折って、台北のひとつ手前の板橋と高雄のひとつ手前の左営の間で暫定開業している。開店半額セール中。それにも乗ってみたい。

というわけで、西村京太郎の推理小説よろしく、電車と飛行機を駆使して綿密なアリバイ工作を企てる私なのであった。台湾女僕珈琲連続出現事件……。19日(金)、午前中は台湾北西部の新竹(しんちゅう)でお仕事の予定。ここは「台湾のシリコンバレー」とも呼ばれるところ。その足で高速鉄道新竹駅から13:55の新幹線に乗り、15:10に台南着。メイド喫茶「白雪」でご主人様な時を過ごし、鉄道で約1時間南下して、高雄へ。メイド喫茶「月讀」で再びご主人様して、20:55高雄発の飛行機で台北へ。21:45着。

20日(土)は、台北市内の西門町(せいもんちょう)にある「萌點珈琲(萌えポイント)」へ。この街は前回行ったが、街全体が、昼過ぎにならないと起きない。帰りのフライトが15:00、台北桃園国際空港発の成田行きでは慌しいので、17:25発のに変更。名古屋行きだけど。20:50に着いて、どうやって東京に戻るかは、そのときになってから考えることにして。

●いきなり計画にほころびが

19日(金)、予定通り午前中に仕事が片付く。後で振り返ってみると、順調に進んだのはここまでだった。新幹線に乗るところで、いきなり計画がつまづく。全車指定席なのだが、これが、普通車もグリーン車もすべて満席。それなら立席特急券を発行してくれるのかと思いきや、そうしてはくれず、乗れないのである。在来線だと3時間半かかる。どうしよ? 呆然と途方にくれること、約30秒。

恋は障害があるほど燃えるというが、これだって、ご主人様とメイドとの道ならぬ恋みたいなもんである。障害があるほど萌える。この程度のことでめげててどうする。そうだ、飛んじまおう。タクシーで台北松山空港へ。

14:10、空港に到着。時刻表では、15分後の14:25発高雄行きがあるが、もうチェックイン締め切りで、電光掲示板の表示からは消えていた。やむを得ず、X線チェックをぴゅーっと走り抜け、後ろからの公安による銃撃を右へ左へとかわし、一目散に機内へ。即、逮捕され、ゲームオーバー。……となっては元も子もないので、カウンター前で土下座して無理を聞いてもらい、乗せてもらった。遠東航空、多謝多謝。

15:45、高雄空港からタクシーで台南へ。バナナ畑を横に見て1時間。元の予定からは約2時間遅れの17:00着。あたりは台湾によくあるごみごみした商店街。立ち並ぶビルが車道ぎりぎりまでせり出し、一階部分が歩道になっていて、四角い柱が連なる。よくあるように、衣料品店、食料品店、医者、バイクの修理屋など、何の関連性もなく軒を連ねる。そのひとつが「白雪」であった。「え? こんなところにいきなり?」という印象。
< http://blog.yam.com/shiroyuki/
>

20人ほど入れそうな店内に、大学生とみえる青年が二人、離れて座っていて、どちらも熱心に何かを読みふけっている。ガラスの引き戸を開けるとメイドさんが応対に来てくれてたが、申し訳なさそうに日本語で「今、入れないんです」と言う。5時から15人の団体客の予約が入ってしまっているという。そうでなければフリーで入れたのだが、相当運が悪かったらしい。仕方なく、引き下がる。店の感じは日本のに比べてまったく見劣りなく、可愛らしさと品のよさが、ほどよくアレンジされていた。

周辺にアキバ系の空気がないところに単独でメイド喫茶は存在しづらいのではないかと思い、あらためて歩き回ってみると、疎らながら、それっぽい店があるではないか。向かいは24時間営業のゲームセンターだし、近くにはパソコンショップがある。ガラス扉には「三国無双」や「ラグナロクオンライン」のポスターが貼ってある。また、日本からの輸入品専門店では「59番目のプロポーズ」のDVDなどが置いてあり、日本語が通じた。

18:04台南発の急行列車で引き返し、高雄へ。新幹線にお客を取られてがらがらかと思いきや、激混み。全車指定席なのだが、在来線は立席もありで、通路が人で埋まっていた。ほとんどが大学生ぐらい。正月休み(台湾の正月は2月)の帰省ラッシュ? そう言えば飛行機も残り一席だったっけ。

19:00、高雄着。駅から少し歩いて「月讀」を発見。何というか、秋葉原のメイド喫茶の黎明期のセオリー通りの位置。電気街の裏通りの目立たないところにひっそりとあり、ビラ配りするでもなく、知っている人だけが来られるという、オタクのオアシスのような感じ。ガラス越しに見える店の内装も、センスがよく、女の子の部屋〜って感じの暖かげな雰囲気。「白雪」もそうだったけど、周辺に漂う生活感丸出しのごみごみ感から極端に隔絶された美しすぎる空間が非現実の空気を醸し出し、大変よろしい。
< http://www.uni-c.com.tw/
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だが、だが。店内は満杯で、外のベンチに三人座って待っている。うぇ〜、時間ないのに〜。いちおう扉を開けてメイドさんに聞いてみると、日本語が通じなくて、だけど英語は通じて、少なくとも20分待ちだという。今、19:30で、フライトが20:55、え〜っと...。無理だ。

苦労してここまで来たというのに、二軒とも入れないとは。俺、メイド喫茶から結界張られるようなこと、何かしたかなぁ。まあ、普段の行いはあんまり威張れたもんじゃないけど。いやもう、こうなりゃ意地だ。明日こそは結界を一刀両断にたたき斬ってやるぞっ。どこかに入れるまでは帰国するまじという不退転の決意で。

20:00ごろタクシーを拾って高雄空港に向かったら、思いのほか時間がかかって、着いたのは20:40、出発15分前だ。ぎりぎりセーフ。あせった。

●空振りは続くよどこまでも

19日(土)、10:00過ぎにシェラトンホテルをチェックアウトして、徒歩で台北地下街へ。ここは前回来たときに、兄井冥土店長氏に案内されて歩いたところだ。11:00前は開いてる店がほとんどなく、シャッターが続くばかり。なのに、中高生とみえる若者たちがけっこう歩いている。

一番奥にメイド喫茶「Fatimaid」がある。閉じたシャッターの上の壁には[御茶ノ水←秋葉原→浅草橋]と、JR秋葉原駅の表示が描かれている。前回は横目で見ながら通りすぎたのだが、一瞬の印象が非常によかった。トーンを落としたえんじ色の、厚めの生地のロングドレスがエレガントで。
< http://www.piware.com/fatimaid/
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11:00を少し過ぎたころに戻ると、開店していたが、メイドさんがすまなそうに日本語で、「予約満席」という。え? 予約が必要だったの? しかも満席って...。またしてもアウトか。あー、帰国できるのか、俺。

●頼みの綱は「萌點珈琲」だけ

徒歩で西門町へ。「萌點珈琲」は番地から難なく探し当てることができた。一階は流行服のお店だが、二階以上が「萌萌動漫資訊館(萌え萌えアニメ資料館)」となっていて、二階がコミック本やアニメDVDなどのお店、四階がコスチュームのお店になっている。三階フロアーほぼ全部が「萌點珈琲」で、100席ほどあろうかという大店舗。こんな大きなメイド喫茶、日本でも見たことないぞ。
< http://www.moe2.com.tw/main.html
>

入り口で、メイドさんに「入れますか」と訊く。緊張の一瞬。日本語が分からなかったようで、戸惑ったふうに、店内にいた若い男性に目配せした。店長さんらしい。彼が近づいてきて、「どうぞ」と言ってくれた。瞬間、涙出そうになったよ、ホントに。漫画だったら滝のようにでーっとな。

11:30ぐらいで、店内はがらがら。五〜六人の高校生ぐらいの男の子のグループがいるだけ。適当な席につくと、青いロングドレスのメイドさんがやってきて、スカートをちょっとつまんで片足を引いて腰をかがめるごあいさつ。かっ、かわえ〜〜〜。(赤面)

カルボナーラとモカコーヒーを注文。見てると、このメイドさん、ちょこまかぴひょぴひょ、あっちちょろちょろこっちちょろちょろ、あートチった、ひえ〜、どうしよどうしよ、うろたえうろたえ、あーあっちも行かなきゃー、てとてとてと、ごちっ、痛っ、背中ぶつけたー、と、落ち着きのないこと...。あ〜、初々しくて、かあえ〜。

次に入ってきたのは、中学生ぐらいの女の子四人のグループ。それから、もさっとした男の子一人。高校生ぐらいのカップル。12時を回ると次から次へと入ってきて、あっという間に店の7割ぐらいの席が埋まった。日本のメイド喫茶よりも客層がずっと若いぞっ。それはそうと、みんな入口脇のテーブルに置かれた紙をチェックして入ってくる。あれ? もしかして本当は予約が必要だったとか? 店長さんの一存で、特別に情けをかけてくれたとか? 俺、そんなに切羽詰った顔してた? かもな。

ひえ〜、ありがたいやら恥ずかしいやら。もしそれがなかったら、今ごろ日本に帰って来れなくて、街に住みつく野良犬たちと食い物を奪い合っていたかもしれない。どれだけ救われたことか。

店長さんが、お店の伝言ノートを持ってきてくれた。ざら紙の分厚いノートで、黒い表紙には銀色の文字で "Death Note" と書かれている。開いてみると、もうほとんど最後のページ近くまで、100人以上のイラストやコメントで埋まっている。イラストは、メイドさんや流行りのアニメキャラの絵が多かったけど、これがまた、みんなめちゃ上手い。

日本の漫画やアニメは、メジャーなものはほとんどすべて、相当マイナーなものまで、あっという間に中国語訳され、大量に出回っている。「すき。だからすき」と「好きなものは好きだからしょうがない」という似ても似つかない別作品が同じ「喜歡所以喜歡」というタイトルになっちゃったりしている。こういうのにどっぷりと浸って学生時代を過ごす環境が台湾には整っている。作品が逆向きに翻訳される日が来るのも、時間の問題か。

完璧な日本語のコメントもある。日本人が書いたのではないことは、「萌」の字の草かんむりが割れていることぐらいでしか判別がつかない。日本人のコメントはふたつだけあった。ひとつは、大阪日本橋のメイド喫茶よりもよいとほめている。もうひとつはページいっぱいに「萌え」と大書し、下に「2007.1. 15. 日本代表」とあり、ふりがなつきで署名までしてある。"Death Note" に自分の名前書いちゃったS.I.君、お元気ですか?

もういつ死んでもいい気分だったが、西門町をぶらっと散歩して、帰路に。帰りもすんなりとはいかず、日本亜細亜航空と中華航空のカウンターを巻き込んでみんなで悪い汗を一汗かいたのだが、最終的には無事帰国。22:09名古屋発、最終の「のぞみ」で帰京できた。台湾の新幹線に乗り損ねて、日本のに。台北の空港では時間がないどころの騒ぎじゃなかったので、職場への土産はういろうになってしまったが、どう言いつくろったものか?

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
国際遊び人。日曜日は岡田斗司夫氏の「落語 2.0」を聞いてきた。四人の演者の持ちネタをくくるテーマは「美女と水爆怪獣」。男の子を夢中にさせるもの。来場者の7〜8割は男性。岡田氏の話は、男性とは、何かに夢中になると、本来の目的を忘れてのめり込んじゃう馬鹿な生き物なりとの軸に沿って、特撮系映画の自主制作の経験と核兵器開発の歴史をからませて。笑えるだけでなく、じっくり聞かせる面白さ。密度の濃い時間を過ごせた。日曜の渋谷センター街より土曜の台北西門町の方が人混みすごかったなー。