笑わない魚[217]ペーパードライバーを脱する/永吉克之

投稿:  著者:  読了時間:7分(本文:約3,000文字)


そろそろ運転免許証を更新しに行かなければならないのだが、どうも気が重い。というのは、ずいぶん長いこと車を運転していないので、もう恐くて公道では運転ができないにもかかわらず、免許の更新ばかり毎回することに、違和感と虚脱感と空腹感を覚えるからだ。

しかし日本の道交法もいい加減なものだ。私のように、20年前に免許を取得した直後に、レンタカーで一度、家の周囲をぐるぐる回っただけで、以来まったくハンドルを握っていない怠慢な人間でも、免許証さえ有効であれば、今すぐにでもハイウェーを爆走したり、ブルドーザーで土砂を運んだり、戦車を操縦したり砲撃したりできるのだから危険きわまりない。


実は、20年ぶりに車を借りて運転してみようかと思っているのだ。というのは、歯医者の待合室で読んだ某女性週刊誌のアンケート「こんな男とは絶対に結婚したくない」のランキングで「暴力をふるう男」「浮気性の男」「マゾの男」「放火癖のある男」「肛門から食べて口から排泄する男」などを大きく引き離して「車の運転ができない男」が上位に食い込んでいたからである。

それに、たまにモノを運んだり、車がなければ行けないようなところに行くときなど、人に頼んで運転してもらうのだが、これがまた惨めでやりきれない。特に相手が若いと、まるでATMの操作がどうしても覚えられなくて、振り込みをするたびに銀行の案内係に操作してもらっている年寄りになったような気分になるのである。

助手席に乗っていると、ドライバーの横顔から「へ、なんだい、いい歳こいて車の運転もできねえのか。今どき車なんて、あんた、中学生でも運転してるぜ。それに可愛い女の子ならいいけど、あんたみたいなオヤジ乗っけて、俺、もうゲンナリだよ」と思っているのが明らかに分るのだから居たたまれない。そのくせ口先では、またいつでもどうぞ、僕、運転するのが大好きなんですよなんてしらじらしいセリフを言うのである。

去年、女性のKさんには、山奥にある美術館にまで車で連れて行ってもらって申し訳なかった。車の中がオヤジの加齢臭ムンムンでさぞや不快だったろう。私が恐る恐る頼んだら、あら、私も行きたかったんです、嬉しい、と見かけは快く引き受けたが、実は、「ちぇ、こんなみすぼらしいオッサンと一緒にいるとこ知り合いに見られたら困るわー。だいたい車が運転できない男なんて、男じゃないわよ。それに何、この臭い、ヤだもうこの生ゴミ!」と心の中で私のことを悪し様に罵っているのを知って消沈し、美術館にいても何も目に入らず、何を観たのかも覚えていない。

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私だって、若い人たちや、女性たち、子供たちに好かれる努力はしてたのだ。関西テレビの『発掘!あるある大事典』で、加齢臭の原因であるノネナールを抑えるには、満月の夜に笑顔で便秘をすると効果的だと、アメリカの医学者のコメントつきで紹介していたので、私は毎週、満月の夜にはニコニコしながら便秘をしていたものだ。

また、口臭を消すために口内洗浄剤「お口クチュクチュ!モンダミン」を毎朝、一本飲んでいたが、口臭を元から断つためには内臓を洗浄しなくてはならないので「クリームみたいな石鹸。花王石鹸ホワイト」も毎日食べていた。

石鹸なんか食べられるのかという疑問を抱く方もあるだろうが、私が子供のころ住んでいた家には、ネズミがたくさん棲みついていて、風呂場においてあった石鹸によくネズミの歯形がついていた。ネズミでも食べられるのだから、あらゆる生き物の支配者、人間様が食べられなくてどうするのだ。

しかしそんな努力にもかかわらず、依然として私は彼らにとっては生ゴミなのである。そんなわけで、私はもう金輪際、人に運転してもらうのはやめることにした。もし私自身が運転して、誤って車道に乗り上げて、歩行者を10人ばかりはね飛ばしたとしても、私は責任はとらない。私が運転できないことをバカにした者たちが悪いのだから。

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役立たずと誹られても、安全を第一に考えて運転はやめるべきか、あるいは、誰かを轢き殺すかもしれないという危険性には目をつむり、人の命よりも自分のメンツにこだわって運転をするべきか。このふたつの間で引き裂かれながら、両者を公平な視点から比較してみた。

《運転しないことのメリット》

・交通事故に遭う可能性が低い。
・地球温暖化の片棒を担がなくて済む。
・好きな時間に好きなところでアルコールが飲める。
・なんの気兼ねもなく友人と麻雀ができる。
・飛行機で海外旅行ができる。
・冬でも室内温水プールで泳ぐことができる。
・貝柱のムニエルを食べることができる。

《運転することのデメリット》

・交通事故に遭う可能性が高い。
・地球温暖化の片棒を担がなければならない。
・好きな時間に好きなところでアルコールが飲めない。
・運転中は危なくて麻雀ができない。
・車に乗ったまま飛行機で海外には行けない。
・冬は、車に乗って室内温水プールで泳ぐことはできない。
・車に貝柱はない。

こういった事情から総合的に判断すると、やはり運転することよりも、しないことの方がメリットが多いと考えざるをえない。そんなわけで車に乗るのはやめることにした。それに警視庁の統計によると、昭和33年の運転免許保有者数は500万ほどだったそうだから、当時の日本の人口からすると、わずか5%ほどで、なだまだ少数派である。運転ができなくても恥じることは何もないのだ。なんら臆することなく陽の当たる道を歩めばよい。

【ながよしかつゆき/屯田兵】katz@mvc.biglobe.ne.jp
前回もお知らせしたが、インディーズ系の映画二本に出演した。もちろんどちらも主役ではない。『フリフリ坊主』(2/26 13:25〜)は、出番は少なかったが、リハーサルなし台本なしのアドリブで、ずいぶんセリフを噛んだり変な間ができてしまった。うまく編集してくれているだろう、多分。『イエスタディ・ワンス・モア』(2/26 19:05〜)は、血が飛び散ったり、首が吹っ飛んだりはしないが、ホラーである。私は主人公の父親のような別人のような、亡霊のようなゾンビのようなジェイソンのような、あいまいな存在として登場する。かなりきついメイクをしたり仮面を被っているので、それが永吉だということが分らないかもしれないが、私の顔を知らない方はどっちみち分らないのだから、そんなことはどーでもいいのだ。はーっははは!

・CO2映画上映展
< http://www.co2ex.org/co2_no3/co2eiga/sakuhin/syousai.html >
・大阪/2月26(月)27(火)28(水)/梅田HEP HALL
< http://www.co2ex.org/co2_no3/co2eiga/index.html >
・東京/3月13(火)14(水)15(木)/アテネ・フランセ文化センター
< http://www.co2ex.org/co2_no3/co2eiga/tokyo/index.html >
※東京会場での上映スケジュールはまだ未定。

・ちょ〜絵文字< http://emoz.jp >au&Yahoo!ケータイ公式サイト
・無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz >
・EPIGONE < http://www2u.biglobe.ne.jp/%7Ework >

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