音喰らう脳髄[23]サンマ、天空を翔ける
── モモヨ ──

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ロックンロール・ウォーリアーズ Live’80日曜日の新宿は、東京マラソンで朝からてんやわんや、激しい雨にもかかわらず大変な人出だったようだが、昼も間近い頃になると、さすが冷たい雨降る天候に似つかわしい閑寂なそれに戻っていた。

その閑寂な街路をぬけて新宿タワーレコードを目指す。氷雨と言ってもいい冷たい雨だ。本当なら、氷雨そぼ降る中、出かけるのもためらわれるところだ。天候にかこつけて逃げたいところだが、仕事であれば逃げるわけにはいかない。何をぶつぶつ言っているのか不審に思われる方もあろう。タワーレコードで何があったのかというと、前回のコラムで書いたようにインストアライブを敢行したのである。それもエレキギター一本での弾き語りだ。


エレキギター一本での弾き語りは、これまで何回かライブハウスで試みてきたが、インストアというやつは初めてだ。その昔、店頭ライブというのを幾度か経験したが、全てバンドでの演奏だった。弾き語りなど、そもそも人前でやったことがないばかりか、エレキというのは弾き語りに不向きなところが多々ある。単なる弾き語りなら、アコースティックギターの方が楽にきまっている。コードをジャカスカやればいい。

「ならばエレキを使わなければいいじゃないか」

そう思われるむきもあろうが、私の場合、エレクトリックにとことんこだわっているところがある。なぜそれほどこだわっているのか、我ながら理由が見つけられない。不条理であることは百も承知だが、それでもこだわっている。まさに理由なき反抗である。私はとことんパンクス、あるいはロッカー向きに生まれついているのかもしれない。

新宿タワーレコード七階奥の、小さな舞台を目の前にして緊張がさらに高まる。なにしろインストアライブである。昔ながらの言葉では、店頭演奏あるいは店内演奏である。言うなれば、口上をうなって物販するテキ屋さん、路上での実演販売そのものである。CDを照らすのと同じ白色の照明がステージをも照らす。剥き出しの光だ。

そのミニステージ上に、鮮魚店の店先に並ぶサンマのような自分の姿を脳裡に描いてみる。まさに晒し者ではないか! 舞台特有のギミックを何一つあてにできず白金の光にさらされて、自分は耐えられるだろうか……不安のあまりに腹痛を覚えた。いや吐き気すら覚える始末だ。しかし、これは仕事である、覚悟はできていたはず、などと自分に言いきかせつつリハーサルをこなす。

この段階を終えてやっと覚悟が固まった。

フリップ&イーノに似たエレクトロニクスよりのアプローチで、新しい弾き語りスタイルを確立する。今回のコンセプトはそれだ。ために数多いリハーサルもこなしたし、ライブハウスのステージで実験も済んでいる。なにも晦(くら)ますことのない状態で、断固たる気合で筆を和紙にはしらせる、エレキギターでの弾き語りに必要なのはそんな覚悟である。覚悟が固まれば、あとは……。

それから本番まで、正直をいうと信じられないほどに天恵の連続だった。どういう事情からだろうか、新しいメロディやコード展開、歌詞などが次々と心のうちに湧いてくる。そのアイデアを形にすることに追われさえする。そして、天翔ける心地のうちにライブが終わっていた。なにが起こったのか、わからない。ライブは上出来だった。そればかりか歌の種さえ心にきざす至福の数分間だった。

考えてみれば、インストアという環境は覚悟を固めるに最適だったのかもしれない。どこでも演奏させてもらえる場所があれば出かけていく。その覚悟の果てに、いまだ見たことのない風光が見えてきた。人生とは不思議なものである。今週末は、この覚悟を持って大坂へ行く。梅田のタワーレコードでもサンマは天を翔けるだろうか? すべては覚悟一つにかかっている。

Momoyo The LIZARD
管原保雄
< http://www.babylonic.com
>

photo
ロックンロール・ウォーリアーズ Live’80
リザード
ビデオメーカー 2007-01-27

フリクションザ・ブック MANIACS 東京ROCKER’S 79 LIVE BABYLON ROCKERS 彼岸の王国

by G-Tools , 2007/02/20