[2154] しょせんホーム。

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<「悶々」上手になろう>

■音喰らう脳髄[24]
 瓢箪からコマ
 モモヨ

■創作戯れ言[6]
 トレーニング
 青池良輔

■泰国パパイヤ削り[X10]
 しょせんホーム。
 白石 昇


■音喰らう脳髄[24]
瓢箪からコマ

モモヨ
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1980年のライブDVDリリースにともない、インストアライブ敢行月間が4日の日曜日、下北沢でのそれを終え無時終了した。

2月末日の土曜日、大阪梅田のタワーレコードで開催した折にはデジクリの濱村さんが見にきてくれたり、少々、驚いた。いろいろとハプニングに富んだ一ヶ月であったが、つつがなく終了できたことはめでたいとしか言いようがない。

最初は、市場に並ぶサンマになる覚悟でシリーズに突入した私なのだ。前にも書いたが、なかばヤケクソだった。

話があった数か月前には、生ギターでよくバンドマンが演奏するアンプラグド、そんなスタイルを想定していた。それと平行して、ループマシーンという機械に、リフ部分などを既に録音しておき、そのうえにライブで音を重ねてゆく方式を模索。機材もそろえた。

いわゆるアーティストが舞台でソロを演ずる場合、伴奏環境としては、みなさんおなじみのカラオケがあり、またMIDIをつかった打ち込みというものがある。かつては、テンポがえや頭出しが不自由なカラオケに対し、フレキシビリティのある打ち込み、という違いがあった。が、現在のテクノロジーでは両者に違いはなくなっている。

というか、両者を同期させて混合するスタイルが現場の主流。それに照明や映像すらシンクさせるのが今風のメジャーである。ロックミュージシャンが、ときにアンプラグドを敢行するのは、こうした時流に対する反時代感情が主たる動機である。

例えばクラプトンのそれを思えばわかる。むきだしのクラプトン、ギタープレイを目にすれば誰もが脱帽するだろうし、聴く側の意識は、自然と音楽そのものに向く。大規模な舞台では、バンドメンバーがステージ上で動き、照明がドラマを描く。その場合、素朴な歌ほど、歌そのものの力を発揮することは少ない。歌よりアレンジ、演出が力を発揮する。

加えて、現今の状況では、カラオケがうまくてCDデビューすれば誰もがアーティストと呼ばれる。このような状況下、何が効果的かを考えれば、自然とアンプラグドに逢着するというものだ。

しかし私はアンプラグドを選択しなかった。いろいろ悩み、試行錯誤した結果、マイクロキューブという小型のアンプ、汎用のマルチエフェクト、そして愛用のエレキギター、この三つを採用してステージを構成することにした。

私は、歌い手であるとともにギタリストである。同時にエレクトロニクスを使ったサウンドクリエーターでもある。そうしたありさまを反映する機材というものを考え、それに適した最小限のセットを選んだのだ。これを使い、歌の演出や間奏部分では歌の背後にあるイメージをディレーループやエレキギターで描いてみせる、そんなステージをつくってみた。

これが、けっこううまくいったから世の中わからない。そのうえ気にいった。世の中は不思議である。まさに瓢箪からコマというべきか、必要は発明の母というべきか、販促のためサンマになる覚悟で飛び込んだ暗闇の彼方、本当に飛翔する道が開けているとは思ってもみなかった。あと二〜三曲、レパートリーを追加すれば、普通にライブが敢行できそうだし、本人、勝手にそのつもりになっている。

これまでもいろいろなタイプのプロジェクト、リザードを試みてきたけれど、今回は、期せずしてその最少セットが完成してしまった。うれしい誤算である。このセット完成のあかつきには、一人でどこまでも行ける。

濱村さん、大阪、また行くつもりでいます。その時、来られるなら前もって教えてくださいね。

モモヨ(リザード)
管原保雄
< http://www.babylonic.com/ >

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■創作戯れ言[6]
トレーニング

青池良輔
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WEBサイト、ショートアニメ、モバイルゲーム……「コンテンツを作っています」と言えば、様々な案件が舞い込んできます。デジタルというくくりではあるものの、デザインや脚本、企画、インターフェース等仕事としては多岐に渡ります。得手不得手はありますが、仕事内容をより良くするにはどうしたらいいかと考えると、これら全てのプロジェクトのスタートは、

「頭で考える」

だと。コンテンツを成果物と考えれば、クリエイターの脳は「畑」ではないかと思うのです。良い作物を穫る為には、豊かな畑が必要です。しかし、農家の人が耕したり、肥料を撒いたり、雑草を駆除するような時間と手間を自分の「脳」にかけているかというと、はっきり言って自信がありません。

普段仕事をしている時には、「その時の状況」の中で出てきたことを、それなりに面白い物にしようと努力しています。苦労することや、リサーチを必要とする場合もありますが、基本的には自分のキャパシティの中で経験に基づいた発想をしているに過ぎないような気もするのです。ここで、クリエイターとして「畑」を豊かにする為には何が出来るのでしょうか。

「多くのコンテンツを見る」「本を読む」「映画を観る」「見聞を広める」「人と会う」……などなど、引き出しを豊かにする方法はあります。多くの表現方法を学べば、それらをステップとして、新しい表現を生み出すチャンスは比例して増えていくはずです。引き出しを増やすのは重要です。しかし、個人的にはそれではクリエイターとして豊かになれないような気がするのです。

世界一多く映画を観た人が、素晴らしい映画監督ではないでしょう。

もちろん、表現の幅を広げる為に、様々な物を観て、知り、学ぶ事は不可欠だと思いますが、その為に膨大な時間を割いてしまえば、表現力を得る為の情報収集が、自己満足の為の収集活動になる危険性もあります。僕自身、何かのプロジェクトの為のリサーチを行っていると、芋づる式に次々に出てくるインフォメーションに翻弄され、ある程度の情報が集まっているにも関わらず、「一番面白い事を取りこぼしているのではないか……」と不安になってしまうのです。

情報に流され易い僕としては、「情報は必要なだけでいい」と思っています。クリエイター脳を豊かにする為にはもっと別の要素があるような気がします。

それは、「創造力」「柔軟性」「巧緻性」「応用力」などでしょうか。しかし、これらが豊かな頭というのは、残念ながら個性や能力に左右される感じもします。「3年間のトレーニングで、創造力が倍増!」なんていう愉快なトレーニング法があればいいのですが、聞いた事はありません。ただ、先人の創造のメソッドや、そのパターンを分析して知識として吸収する事はできるでしょう。そうしていくと、これらの能力を伸ばすのもまた、知識という事になるのではないでしょうか?

しかし、クリエイター脳という畑の土壌を豊かにしたいと願っても、知識を詰め込んでいくだけでは、肥料の多すぎる土地になってしまい「独自性」という芽を枯らしてしまうかもしれません。

自分としては、知識に依存せず、ただの頭でっかちではないもっと「地力」というか「馬力のある」頭が欲しいと願うのです。

豊かなクリエイター脳とは、「限りない試行錯誤を繰り返せる体力のある脳」ではないかと。どんな人でも「アイデアが浮かぶ」瞬間はあります。ただそのアイデアを「オリジナリティのある商品」にまでもっていくには、多くのトライアンドエラーを必要とします。その労力を惜しまない事が、コンテンツを磨く秘訣のようにも思います。多くの才能あるクリエイターといわれる人は、その試行錯誤を納得いくまで悶々と繰り返せる人ではないかと思うのです。そう考えれば「悶々」上手になるのが、クリエイターとしての豊かさの鍵のように思えてきます。

良い畑をつくるには、「悶々」とできる思考を維持する為に、時間と環境を整えてやる必要があるのかもしれません。悶々としようと決めれば「思考を中断しない」「雑音を少なくするか、多くする」「腹八分目」「過剰に幸せにならない」と具体的な策も浮かびます。そして、その適度なストレスとループする思考の中で、アイデアは練り上げられていくのではないでしょうか。

ストレスに耐える「タフネス」を脳に与えたいのであれば、「悶々」を繰り返しているうちになんとかものにできるのではないかと。今、自分が良い物を作れるようになる「頭」に必要なのはその「持久力」だと思うのです。

「考える力」とは、「考え続けられる力」であることを願いつつ。

生意気言いました。

【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
< http://www.aoike.ca/ >
1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。

・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/ >

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■泰国パパイヤ削り[X10]最終回
しょせんホーム。

白石 昇
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白石昇です。

なぜ彼がここにいるのだろう? と僕は思ったが、彼が上下のトレーニングウェアに身を包んでいるのに気づいて、僕は、ああ試合なのだ、と思った。彼のリングネームはヨドシン・チュワタナ。国際式の泰国バンタム級チャンピオンで、確か東洋太平洋チャンピオンにもなったことがあるはずだ。

僕は一度彼のジムを取材に行き、スタジアムでタイ式の試合を見たことがあった。彼の試合は半身に構えて遠い距離からミドルキックを蹴る珍しいスタイルで、そのとき観た試合では見事に判定勝ちした。

蹴り足を捕まれたまま殴り合い、片足で立っているのに相手に殴り勝っていたほど、彼のパンチが強かった。半身に構える不思議なスタイルはテコンドーのナショナルチームに所属していたからなのかもしれないが、僕はそんな彼のスタイルが不思議で記憶に強く残っていたのだ。

彼は比較的温厚な人格の人が多いボクサーの中でもさらに温厚な人で、僕が試合を見に行ったときは、セコンドやジム関係者がまだ一人も来ていないのに、控室でひとりでつっ立ったままセコンド道具一式を手に持ち待っていた。

その彼が今、空港のゲートにいる。彼は僕がいることに気づかず電話で話し続けていたが、彼の近くに座っていたジムの人が、僕の姿に気づいて挨拶してきた。試合に行くんですか? と僕が合掌しながら聞くと、ジムの人は、うん、東京で試合するんだ、と言った。

こんな寒い時期に東京で試合だなんてすごいなあ、と僕は正直そう思った。五日前に日本から来て毛穴が開いたくらいで日本に帰るのを恐れている僕とはレベルが違う。この暑い国に住んでいる人間が寒い日本に行っていきなり日本のチャンピオンクラスと試合をするのだ。

僕はさっきまで不安におびえていた自分が恥ずかしくなった。日本はなんだかんだ言って僕にとってホームでしかない。今、この目の前で電話している彼にとっては、まぎれもなくアウェーなのだ。家族想いの人だと聞いていたので、おそらく、奥さんと話しているのだろう。

彼の電話は全然終わらなかった。そのうち、僕の搭乗時間が来たので、立ち上がってジムの人に挨拶し、まだ電話をしている彼のところに行って、勝って下さいね、と言って無理矢理受話器を持ってない方の手を握りしめた。彼は慌てたように僕の手を握り返して、ほんの一瞬だけ笑顔を見せた。僕はどうやら間違いなく、出発前の彼と奥さんの会話を邪魔したようだった。

飛行機に乗ってしまうと、なんだか悩んでいたのが全て馬鹿馬鹿しくなって来た。日本に送った二千七百冊ものエロ本が完売することが難しいことのはわかっていた。半分売るのだって難しいだろう。

取次を通していないし、そんなに集客数が集まる販売サイトで売れるわけでもない。でも僕は既に、そんなことで悩むのが馬鹿馬鹿しくなっていた。

離陸した飛行機の座席で、僕はすかさずビールを注文し、ほとんど一気と言っていいほど飲み干す。飲みながら、売れなくても売り続けるのだ、と思った。

ヨドシンさんが十二月の日本での試合を受け、応援する人がほとんどいないアウェーのリングで戦うのと同じように、僕も日本でエロ本を売り続けなければならないのだ。

契約を交わした以上、どのようなリングであっても試合するのがプロのボクサーなら、本を作った以上、どんな状況でも売り続けるのがプロだ。それにいま僕がこの飛行機に乗って向かっているのは日本だ。僕のホームである、日本なのだ。

世界的に物価が高いことで知られる経済大国なのだ。たとえ一冊も売れなくても、四ヶ月もアルバイトを続ければ出版費用はきれいさっぱり返済できる。何も怖いものはない。機内食を食べてビールを飲みながらそんなことを考え、僕は新たに機内食をおかわりしてビールを飲み干す。

そして新たに渡された機内食をビールで流し込みながら僕は、売れないことを日本の書籍流通システムのせいにして愚痴を言うのは簡単だけど、そんなことしても意味はない。どう行った形であれ本を作って売り続けることに意味があるのだ、と思った。

飛行機は次第に高度を下げて台北に向けて着陸態勢に入りつつあった。降りて一度乗り換え、次に降りたときはもう九州だ。

僕は、窓の外に見える雲の切れ間を視線でなぞりながら、死ぬまで売り続けてやる、と思っていた。〈了〉

皆様へ。

今バックナンバーを調べたらこの連載の第一回は平成十三年の「No.0865 2001/05/24.Thu.発行」となっておりました。途中何年か休みましたが、五年間も読んでくださった読者の皆様、どうもありがとうございました。特に、いろいろとご尽力いただいた柴田編集長、濱村デスクには感謝の気持ちでいっぱいです。みなさま、長い間本当にありがとうございました。

【しらいしのぼる】< http://www.mag2.com/m/0000012912.htm >
言語藝人。昭和44年5月1日長崎県西彼杵郡多良見町生まれ。『抜塞』で第12回日大文芸賞を受賞。訳書にノート=ウドム・テーパニット『エロ本』『gu123』。

バックナンバー
< http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20050618000038 >
< http://bn.dgcr.com/archives/18_/ >
エロ本販売サイト↓
< http://hp.vector.co.jp/authors/VA028485/erohonyakaritenpo.html >
報道実績
< http://hp.vector.co.jp/authors/VA028485/erohonyakaritenpomedia.html#erhn-press >
書評リンク集(書評wiki)
< http://mystery.parfait.ne.jp/wiki/pukiwiki.php?%A5%CE%A1%BC%A5%C8%A1%E1%A5%A6%A5%C9%A5%E0%A1%A6%A5%C6%A1%BC%A5%D1%A1%BC%A5%CB%A5%C3%A5%C8 >
mixi —エロ本コミュニティ
< http://mixi.jp/view_community.pl?id=38847 >

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■編集後記(3/6)

・防災対応のマンション誕生と、テレビや新聞でも紹介されていた物件を見に行った。もちろん、買いに行ったわけではない。立地や防犯システムなどが非常に優れているようなのでとっくに完売している(空きがあっても買えないけど)。川口市にあるタワーと名が付くマンションといえば、すぐに見当がついた。工事中から気になっていた、円筒形のきれいなビルだ。31階建てだという。タワーといわずしてなんという。この白いビルの真ん前に廃屋かと思われるレトロな木造建築があり、タワーをバックに撮影したら絵になるといつも思っていたのだった。なにが防災対応かというと、上板をはずすとかまどになるベンチ、上に電話ボックスみたいのを載せれば仮設トイレになるマンホール、防災倉庫、太陽光発電による夜間照明灯などがそれ。藤棚代わり(?)の丈夫そうな家型の骨組みもある。シートをかぶせれば避難所にもなる。ニュースで見たときは、そのマンションの要塞化システムかと思ったが、オープンな場所にあるのでいざというときは地域の人も利用できるのかもしれない。でも、意外に小規模で255戸のマンション住民でさえ対応は無理かもと感じた。ところで、ライフラインが断たれた場合、エレベーターは動かなくなり、それまで高層の眺望を満喫していた人たちはいきなり難民となる。ものすごく切実な問題のはずだが、みなさん、個別の対策を立てているのだろうか。我が家は一階だからまだましだな。もちろん、来て欲しくないわな、大地震。(柴田)

・仕事が詰まっていて、ドタキャンになる可能性が高かったため連絡できませんでした。すみません。来阪お待ちしておりますっ!/白石さん、長い間ありがとうございました。エロ本を、太っ腹読者プレゼントできた頃が懐かしいです〜。/ドラマ「ハゲタカ」面白いっす。第二回を見逃してしまって悲しい。公式のあらすじから抜粋。「NYの敏腕ファンド・マネージャーとして鳴らした鷲津政彦(大森南朋)が5年ぶりに帰国する。目的は一つ、日本を買い叩くこと。」銀行員だった鷲津は、銀行の方針による貸し渋りのために担当企業の社長が自殺してしまい、苦悩の末、退行。以前の彼とは違う冷徹な外資ファンド代表になって日本に戻ってくる。以前の上司、芝野健夫(柴田恭平)と不良債権処理の場で対面して……というもの。人間ドラマが嫌いな人でも、渋めのビジネスドラマとして見られて面白いよ。次回からは、西野治(松田龍平)がビジネスを立ち上げ、何かやってくれそうな流れ。父親がバブル期に無理な拡大をはかり、家業の旅館経営がふるわなくなってしまったため、鷲津が旅館を取り上げてしまい、それがきっかけで父親は(事故で)死んでしまった。西野自体は父親の拡大路線に反対ではあったものの、後悔もしつつ。今週、芝野まで退行してしまったよ。栗山千秋、演技頑張れ。予告には菅原文太が出てたよ。(hammer.mule)
< http://www.nhk.or.jp/hagetaka/ >  ハゲタカ公式



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ハゲタカ(上)
真山 仁
講談社 2006-03-15
おすすめ平均 star
star現実の銀行マンの苦悩
star企業買収の水面下
star人情と怜悧なビジネスのハザマ・・
star経済の歪み、マーケットの歪み
star外国から観た日本経済が見える

ハゲタカ(下) バイアウト 上 バイアウト 下 青い蜃気楼―小説エンロン アジアの隼 (上) 祥伝社文庫

by G-Tools , 2007/03/06