NYCの個展は成功したのか? そしてその後の展開
── 筒井海砂 ──

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皆さまコンニチハ。無名でも大赤字でも海外活動は楽しいぞ普及委員会の筒井です。

夏にニューヨークで行なった初めての個展について、デジクリに記事を書かせていただいた時には、大変多くの方からエールをいただき本当に有難うございました。正直、出発直前はプレッシャーに押しつぶされて息も絶え絶えな状況でしたが、皆さんの暖かい言葉に救われました。

何もかもが驚きと感動の連続だった個展から既に8ヶ月、今更事後報告というのも何とも格好が悪いのですが、新たな展開のご報告もふまえて少し御紹介したいと思います。


●個展ではアーティスト!

まずは去年のNYC。どんなに励まされても自分の作品がアートとして受け入れられる訳がない、という気持ちは払拭出来ませんでした。だって日本ではそう評価された事がなかったから……。

設営のお手伝いに行って初めて見たギャラリーは、昔出版工場だった建物を改装し沢山のギャラリーが入ったビルの三階にありました。どこもかしこも真っ白で、天井が高くとても広い。これはデカイぞ! と思って作った1メートル以上の作品も、飾ってみたら何だかこじんまり。なんだ、もっと大きくてもいいんじゃん。

NYCでは展示した作品は販売するのが当たり前。オーナーと一緒に値段を決めていきます。まずは奥様(日本人)と相談。私が考えていた金額の倍以上の値段をポンポンと付けて行きます!! 私は心の中で「えっ、ちょっと待って!それはあり得ない!!」と思いつつ、引きつり笑いをしながら絶句。

すべて決まったら旦那様がチェック。きっと「これは高いよ」と言うに違いないと思ったら「reasonable!」の一言。あ〜あ〜あ〜。

自分の絵に値段をつけるのはとても難しい。安ければ売れるかもしれないけど、自分の評価だけでなくアーティストを扱うギャラリーの評価も下げてしまう危険性があるからです。

オーナーの旦那様はとても優しいジェントルマンで、いつもニコニコしている人なのですが、絵を見る時の目は怖いくらい鋭いです。そのオーナーが決めた金額にケチを付けられるはずもなく、冷や汗タラタラな金額が貼られたのでした(笑)。

私が最も緊張したのがレセプション。日本ではオープニングパーティにあたるものですが、知人友人が集まる楽しい一時ではありません。

NYCのギャラリーでは作家が常駐しませんので、レセプションは作家に会える唯一の機会とも言えます。ですから、興味を持った専門家やコレクターはレセプションに集まって来ます。とにかく、何でも物怖じする事なく聞いてくるアメリカ人ですから、一体どんな事になるのか想像するだけでも胃が痛みました。

それより何より「誰も興味を示さない」事の方が怖かったのですが……。

レセプションの一時間前にホテルからタクシーで出発しましたが、生憎の渋滞に巻き込まれ少し遅れて到着しました。ギャラリーのドアを開ける時は全身が痺れるほど緊張していましたが、まず目に飛び込んで来たのは握手を求めるお客さまの笑顔でした。あのおじさまの顔は恐らく一生忘れないと思います。

その後も次々と質問が飛んで来て深呼吸する暇もなく、自分が何をやっていのかはっきりと覚えていません。とにかく喋り倒しです。

質問は、技法から使っているツール、日本での仕事、作品のテーマなどの話から、ANIMEとMANGAの違いはなんだ、とか日本のANIMEは何故暴力的なのか、という質問まで、多種多様でした(最後の質問にはちゃんと答えられませんでしたが<笑)。

全く時間の経過を感じなかった二時間、今思えばもっと良い答え方もあったのにと思いますが、でも皆さんが作品を誉め倒してくれた事は(半分がお世辞だとしても)新たな力となりました。自分は堂々とアーティストと名乗っていいんだなぁと思えるようになったのも大きな変化です。

ちなみに、私は英語が全然出来ませんので、バイリンガルな友人が通訳してくれてます。

「NYCの個展は成功したのか?」さて、どうなんでしょう?

絵が驚くほど売れた、仕事のオファーが入った、エージェントが付いた、そんなポイントで見れば失敗なのかも知れませんが、私は大成功だったと思っています。何を得たのか具体的に説明するのは難しいけれど、これからも「絵を描いて食べていくヒト」を続けて行こうとしている私にとって、物凄く大きなものを沢山得たし、新しい発見をしました。

●イベントではピエロ?

その後の展開……なのですが、個展の興奮も覚めやらない10月、今度はLAの「JAPAN EXPO」にブース出展しました。これは個展がきっかけで誰かから誘われた、という訳ではなく、自分で探して参加を決めました。もうすっかり海外活動のとりこな訳ですよ(笑)。

JAPAN EXPOはアートフェアではありませんから、来場者は芸術とは無縁の人達も多いのです。それだけに「一般人の反応」というのが楽しみでした。それにLAはコミックアートやアニメーションの土壌、現代アートの土壌であるNYCとは違った反応が返ってくるかも知れないと思っていました。結果、予想適中。

まず絵の好みが違います。NYCでは渋めなテーマが好まれましたがLAでは可愛いもの、ANIME風な要素の強いものに人気が集まりました。また堅苦しさがないので、質問も一層ズケズケ……いや、フレンドリーで、通訳さんを雇っていたのですが対応しきれなくなり、私のヘッポコイングリッシュで説明する事も多々。

もともと3万人の入場者があるイベントですから人の集まり方が段違いで、おしゃべりな私が話すのに疲れてしまう程でした。

でもイベントは面白い! 在廊できない個展と違って本当に沢山の人と直接話しができるし、絵を見た人の反応をダイレクトに見られる。これは私にとって本当にエキサイティングな体験でした。

このイベントで分ったのですが、アメリカの人が私の絵を表現すると「MANGA(またはANIME)ART」となるようです。私としては漫画もアニメも経験がないので何か違う気がしているのですが、日本のアニメとアメリカのANIMEはちょっと感覚が違うらしい。現在なにかピッタリくる言葉を模索中です。

LAのイベントは、個展より絵も売れたし仕事のオファーもあったし、その他色々な人からコンタクトがあって別の実りがありました。やはり何より「対面式」の魅力を知ってしまった事は大きい。個展ではアーティストですが、イベントではピエロ。パフォーマンスも重要な要素です。私はやっぱりピエロ向き。

思い付きで始めた海外活動。一年もすれば熱もさめるかと思いきや、今年は更にヒートアップしてしまいます。やればやるほど赤字にもかかわわらず全然懲りてません(笑)。

まずは3月27日から、個展をやったNYCのギャラリーでグループ展を開催。NYCではまだ珍しいCG作家だけを集めた5人展です。私以外の作家さんは見事なコンテンポラリですので、私だけ見事に浮いています! 私は前回の作品数点に加え、3点の新作を描き下ろしました。現在渡米に向けて準備中。精神面はプレッシャーで下降中……。(注・原稿執筆は約一週間前)

そして8月には南仏、10月はパリのアートフェアに参加が決定しました。夏のコート・ダジュール、秋のパリ。あぁ、なんて私に似合わない……(笑)。

筒井海砂(MISA TSUTSUI)
日本ではイラストレーター、海外ではアーティスト。中味は野生人のフリーランサー。やる事は突拍子もないですが、イラストは案外平凡です(笑)。

NYCグループ展の詳細はサイトにて!
昨年の個展、LAイベントは「Special」コーナーにて。
< http://www.seasand.net/
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