Otaku ワールドへようこそ![48]愛ゆえに人は美しい撮影会
── GrowHair ──

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ベルサイユのばら~昭和版~ベスト和歌山にカメコ遠征してきた。3月25日(日)、中世の地中海の港町をモチーフにしたテーマパーク「ポルトヨーロッパ」で開かれたコスプレイベントで、「ベルサイユのばら」のコスを中心に撮ってきた。

会場は、ヨーロッパの古めかしく重厚な町並みがいい具合に再現されている。土色の壁に挟まれて狭く曲がりくねった路地あり、噴水の脇に彫像の置かれた中庭あり、遠景には城壁ありと格好のロケーション。それを狙ったように、日本のトップレベルのコスプレイヤーたちが集まり、場と一体になったファンタジーの世界を作り上げてくれた。

写真は上々で、ヨーロッパでロケしてきたと言ってもまかり通りそうなほど。それが和歌山で撮れるのだから、むしろお手軽とも言える。
< http://growhair2.web.infoseek.co.jp/PortoEuropa070325/PortoEuropa070325.html
>


●背景が美しいところならどこへでも

ここ一年ぐらいは、おそらく毎週日曜には欠かさず東京近辺のどこかでコスプレイベントが開かれている。屋内のイベント会場系のときもあるが、最近は遊園地系のほうが多い。日によっては 二か所三か所で同時開催になるときもあるが、それでもどこも盛況だったりする。イベントのスケジュールは「イベント情報誌 C-NET」で調べることができる。
< http://cnet.cosplay.ne.jp/
>

この環境は、五年くらい前に比べると、劇的に変わったと言える。あのころは、東京ビッグサイトや大田区産業会館PiOといった屋内イベント会場系しかなく、開催頻度も月に一〜二回ほどで、しかも半分は同人誌販売スペースだったりして、来場者数も数百人のレベルにとどまり、なんとなく「日陰者の集い」みたいな地味な雰囲気だった。

反面、世の中から知られていないところで、人々の想像の及びもしない異様な空間が形成されているという、秘密めいた雰囲気がわくわく感を盛り上げ、共犯者的連帯感に満ち満ちていた。世間の常識的な基準からすれば、俺たちどう見たって変人の集まりだよな、まあ、仲良くしようぜ、みたいな。

それに比べると、今の環境は開かれすぎて平板になってしまったという寂しさがなくはない。しかし言い換えれば、オタクが世の中に認知されつつあり、以前ほど異様には映らなくなってきたわけで、そのおかげで、遊園地などで一般来場者と混ざってのイベントができるようになったとも言える。

コスプレ環境がこれだけ整ってきても、わざわざ遠征する狙いは、ひとえにロケーションの美しさである。漫画やアニメなどの作品への思い入れを原動力に、全精力を傾けてコスチューム制作に励む、筋金の入ったコスプレイヤーにとっては、適当な会場で記念撮影的な写真を撮ったのでは満足がいかず、背景も入れた全部で作品の世界を表現したいものである。

というわけで、昨秋、バラ園で個人撮影させてもらった汐音(しおね)さんからお誘いをいただいて、和歌山まで行ってきたというわけである。

●宝塚入門DVDで美しさつまみ食い

ベルサイユのばら特集本 (1)つい最近まで、私は宝塚歌劇団や「ベルサイユのばら」について、何も分かっていなかった。だけど、知りたいとは思っていた。

ひとつには、カメコたるもの、コスプレイヤーの扮するキャラをある程度は理解しておくべし、との信条がある。守れてないけど。元の作品を知って撮るのと知らずに撮るのとで写真の仕上がりに歴然と差異が表れるというほどではないかもしれないが、撮るにあたって作品の感想など、二言三言、言葉を交しておくと、撮っているときに作品への思いが共振しあって増幅され、どんどんノリノリになっていくという感覚はある。

もうひとつには、個人的に今までたまたま宝塚に縁がなかったけれども、見ればきっとのめり込む素質のようなものが自分には備わっているだろうという予感が漠然としていた。新宿の地下道などでポスターを見かけると思わず立ち止まって見入ってしまい、ふと我に返ったとき、「傍目にどれだけ変なおじさんに映ってたか」と恥ずかしくなることもあった。

今回の和歌山行きに先立って、汐音さんが、宝塚入門DVDを送ってくれた。「ようこそ!『ベルサイユのばら」の世界へ」というタイトル。これがとてもよくまとまっている。時代背景、登場人物、宝塚歌劇のキャスト、ステージのハイライトシーンなど。映像がものすごくきれい。

もし、もっと若くて、純粋で、多感だったころに宝塚に出会ってたら追っかけにすべてを投げ打っても、何の後悔もないと言い切れたろうなぁ。ヅカファンの気持ちがちょっとだけ分かった気がする。

●ヅカファンを無理矢理オタクと対比してみる

本来ならば、ここで「ヅカファン」とはどういう生態の生き物であるかを、実態に即して解説したかったところである。しかし、前述のとおり、昨日今日初めて少しばかり扉を開き、まだその世界に足を踏み入れてもいない私にそんな大それたことのできるはずもなく。

宝塚(ヅカ)読本中本千晶氏の「宝塚(ヅカ)読本」がなかなかよろしいようである。この世界に触れたことのない人にも分かるように、素朴な疑問にていねいに答えている入門書で、多くのヅカファンからも評判がよい。

まじめな解説はそちらの本に譲ることにして、ここには、いつか私自身が宝塚の世界をある程度理解できてきたころに振り返って「あのとき俺は、こんなことを言ってたぞー」とネタにして笑い飛ばす材料として、今の時点での印象を書いといてみようと思う。

それは、一言で言って「ヅカファンってオタク〜」ということである。いや、ヅカファン全体をオタクという網でひとくくりにするのはいくら何でも乱暴すぎる。だけど、濃ゆ〜いオタクから非オタに至るまでのオタクスケール上に広く連続的に分布していて、多様ではありながら、たどっていけば、少なくともオタクの世界と地続きにはなっているよな〜、ということである。

ベルサイユのばら―完全版 (1)宝塚歌劇の十八番である「ベルサイユのばら」は、池田理代子氏の漫画が原作である。その関連からか、少女漫画やアニメにも親しんでいる人たちが多くいる。実際、日曜にベルばら合わせをした四人と、イベント終了後にお茶したときは、オタ話に花が咲いた。「のだめカンタービレ」を絶賛する人あり、「プリンセス・プリンセス」や「桜蘭高校ホスト部」といったやおい系漫画の話題にもついてくる人あり。

ヅカファンとオタクが、ある種のメンタリティを共有しているなーと思える点は、もうひとつある。それは、世間から「特異な人」という目で見られがちで、実態がなかなか正しく理解されないことが、あたかも刺さりっぱなしの棘のようにどこかでうずいているようだ、という点である。

最近はずいぶんイメージが向上したとは言え、ステレオタイプなオタク像として「性格が暗い犯罪者予備軍」、「現実逃避して非社会的」、「虚構の世界を現実と混同している」というイメージが根強くある。それが実態とかけ離れている上に、何か悪い事件が起きるとスケープゴートにされて叩かれてきたことに対して恨み辛みを述べる人が多くいる。

ヅカファンも、世間からは、「清く正しく美しく」の純粋で閉鎖的な世界に浸りきるあまり、埃っぽく胡散臭く粗雑な現実と折り合いがつかなくなっている人たち、というイメージで語られやすいことは否定できない。型にはめて単純化したがる元凶として、マスコミを嫌っている人もいる。

私もけっこうそういうところがあったが、最近、違ったふうにも考えるようになっている。社会の常識の中心から外れた位置に置かれることにより、あたかも、動物園の動物の檻の中から人間を観察し返すような視点を獲得できたのではないかと。これはクリエイティブに生きる上で大事な素養のひとつであり、よいものを頂戴したと喜んでいいのではなかろうか。

このように、興味の対象と、社会的位置という二重の意味で、ヅカファンとオタクに共通する空気を感じるのである。...要らぬことを書いたような気がして、ちょっとむずむずするが、先へ進もう。

●イベント当日は、雨のち晴れ

新大阪から特急くろしおで一時間ほど南下すると和歌山駅で、その次に停まるのが海南駅。そこからバスで15分ほど西に行き、海にかかる橋を渡った人工島内に和歌山マリーナシティがある。その中の一区画がポルトヨーロッパである。周辺にはリゾートホテルやリゾートマンションがどーんどーんと建ち、ヨットクラブなどもある。

私は土曜の午後の新幹線から特急に乗りついで、夜、和歌山に到着。直前まで準備を怠っていたら、和歌山市駅近くのカプセルホテルしか空きがなかった。しかも、ひどい暴風雨。駅前のコンビニで買った525円の折りたたみ傘は、あっという間に傘の集合と傘でない物の集合との境界線を踏み越え、発散していった。

翌朝も雨。傘と時間がなく、タクシーで会場へ。すでに長い列ができている。イベント主催者に入場料プラス参加費を払う関係上、一般来場者とは受付が別になっているが、一般来場者の姿はほとんどなく、こんな荒天でも当然のごとくやってきて、にぎわいを見せているのはコスプレイヤーばかりなり。根性あるなぁ。傘がない私は、仕方なしにひさしの下へ入って、伸びていく列を眺めていたら、9:45受付け開始の時点で100人を優に超えていた。

雨はほどなく止み、屋外でも撮ることができた。ラッキー。これだけの人がいて、屋内限定だったら、大混雑で撮るどころじゃなかったかも。午後からはどんどん天気がよくなり、青空が広がった。

大阪から来るにしても時間と交通費がかかる場所なので、コスプレイヤーの気合いの入り方が違うように感じられる。ファイナルファンタジー、アンジェリーク、ハリーポッター、ローゼンメイデン、などなど、重厚で装飾品がいっぱいなコスが多い。みんなレベル高い〜。

だけど、汐音さんたち四人組がベルばらの衣装で登場すると、完全にまわりを圧倒していた。撮っているときは、ファインダーごしに被写体しか見えないのだが、それまでざわざわしてたのに静まり返っちゃって、みんな呆気にとられて見とれてるのが分かる。集まる視線が肌に痛い。もっとも、それは私の主観であって、後で汐音さんに聞くと、それほどでもなかったと否定していたが。

万鯉子さんと蝶子さんにもお会いすることができた。このお二人は、去年の世界コスプレサミットで国内予選を勝ち抜き、名古屋の本戦では、三分間の演技でベルばらの衣装を五着も早替えするという妙技を披露してくれて、結果はブラジルに次ぐ第二位を獲得している。まさに日本のトップレベルのコスプレイヤーである。

のだめカンタービレ DVD-BOX今回は、「のだめカンタービレ」の千秋真一と野田恵で登場。撮らせていただくこっちの腕が一流でもなんでもないところが心苦しい。汐音さんたちとも仲がよく、しばし立ち話。聞いてると、「コミケの前は三晩、寝ないよね」とか「作った覚えもない衣装が出来てるときってあるよね」とか、恐ろしい話がぽんぽん出る。

というわけで、カメコりに遠征すると、すごいコスプレイヤーさんたちを撮ることができ、行けば行っただけの収穫にあずかれるもんだと、嬉しい余韻をかみしめて帰途につくことができた。次回の遠征先としては、5月中旬の燕趙園(鳥取県)あたりが気になっているところである。
< http://www002.upp.so-net.ne.jp/camel-st/Chai-Cos.html
>

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
MANDALA Vol.1 (2007) (1)Mandala、読みました。火曜日の柴田氏のコメントに異論はありません。
...で済ませては手抜きすぎるか。昨今の漫画の潮流が、下手をすると、萌える、軽く笑える、分かりやすい、コスプレしてちょーだい、に収斂して均質化しかねないと懸念していたところへ、いい風穴開けてくれた感じで、嬉しい。漫画を娯楽として「消費」する感覚ではなく、美術として鑑賞する感覚に近い。ただ、描き手の真剣な姿勢をストレートにぶつけて来られると、読んでてつらくなってくる。自身を茶化すような脱力要素を入れて余裕をかましてくれると、のど越しがよくなるかなー、と。必須ではないけど。これがひとつの新しい潮流の始まりになったら、いいなぁ。


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宝塚(ヅカ)読本
中本 千晶
バジリコ 2006-04-20
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by G-Tools , 2007/04/06