笑わない魚[221]句読点はいかに使うか/永吉克之

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文章に用いられる句読点、つまり「。」と「、」は一種の「親切」である。読み手が理解しやすいようにつけられた目印ともいえるわけだから、これをないがしろにしている文章書きは、極道者か無政府主義者の類いである。

句読点は別名「苦闘点」と呼ばれるくらい、それを使いこなすには不撓不屈の精神力と、微に入り細を穿つ心配りが不可欠となる。しかし、句読点を巧みに用いたからといって、この作家の句読点の美技は他の追従を許さない、などと読者から賞讃を受けることはない。どんなにソツなくこなしても、誰からも誉められることのない家事労働のようなものである。

ちなみに、私の句読点様式は、桐之宮家の流れを汲むもので、貴族的な香りを漂わせつつも、その根底には仏教的な無常観が据えられている。海外を見渡しても、これほど精緻かつ典雅な句読点を使う流派はない。


●読点

日本語には、英語のように単語ごとにスペースを空ける決まりがなく、時に単語の区切りさえ判らなくなることがある。たとえば読点をいっさい使わずに、

「私は宝物にしていたハワイで買った大福餅で三郎を殴りました」

と書くと当然、読む側は頭の中で、

「私は宝、物にしていたハ、ワイで買った大福、餅で三郎を殴りました」

と、区切ってしまうはずだ。つまりこの人は自己愛が強くて「私は宝」などと言っている。また「ワイで買った」と言うところを見ると、大阪の男性らしい。しかし「餅で三郎」とは、どこまでが苗字なのだ。「餅・で三郎」なのか「餅で・三郎」なのか。しかし「物にしていたハ」とは何なのだろう。訳が分からない…とかなんとか混乱して読むのをやめてしまうにちがいない。こんな場合、桐之宮様式に従って、

「私は、宝物にしていた、ハワイで買った大福餅で、三郎を殴りました」

といった具合に点を打つと、突然スッキリと意味が通るようになる。あたかも、一週間、腹の中に溜めに溜めた便が、堰を切った怒濤のごとく噴出し、便器を埋め尽くしたような爽快感があるではないか。読点とは下剤にほかならない。

そもそも桐之宮様式を極めた読点遣いの匠なら、どんなメッチャクチャな文章でも、理解できる文章に仕立て上げることができるのだ。たとえば無作為に平仮名を羅列して作った、

「ぼひらねちゃんげどぼざじょいほまきゃぴまぐんゆ」

という、密教の呪文のように難解な、文章とはいえない文章でも、

「ぼひら、ねちゃんげど、ぼざじょい、ほまきゃ、ぴまぐんゆ」

のように点を打てば、つまり墓碑らというのは、実は根ちゃんだけども、ぼざ女医だから、帆を巻けば、ぴまぐんなのであるということが、突如として理解されるのである。

あたかも、悪酔いしてバスに乗り、揺れるたびに戻しそうになるのをこらえながら、なんとか目的地までたどり着き、バスを降りるやいなや歩道の上にぶちまけ、反吐の池の中に、未消化のラーメンを見つけたときのようなカタルシスがあるではないか。

しかし、こんな錬金術とでも呼ぶべき読点遣いは、今の日本の文芸界では、あまり見られなくなった。今後、廃れる一方であろう。残念なことだ。

●句点

数学的に考えると、「点」とは位置を示すことができるのみで、長さも面積もない、一次元の存在でなければならない。

だから、「句点」とはいっても、円形をしているから、点ではなく面であり、面積がある。ちなみに罰点(×)も点ではなく線だから長さがある。本来なら「句円」「罰線」と呼ばなければならないところだ。

また「早合点」には面積はないが、位置を示すことができない。「交差点」には人生があるが、面積もある。「紅一点」は美人なら好きだが、面積どころか体積まである。「笑点」の大喜利はマンネリを極めていて、むしろ笑える。

正統性を重んじる桐之宮様式では、これら、点に似て点に非ざるものは、受け入れがたいのであるが、使わないと文章の終わりがどこか分らなくなるので、いやいやながら使う、あるいは、ふて腐れて使うことを旨としている。

野ブタ。をプロデュースシナリオBOOKところで、小説『野ブタ。をプロデュース』や「モーニング娘。」の句点遣いはいただけない。本来は打たない所に句点を打つことの意外性を目論んだのだろうが、まだ甘い。小説が芥川賞「候補」で終ったのは、その甘さを選考委員が見逃さなかったからだ。句点を始めに打って『。野ブタをプロデュース』にすれば、受賞していたはずである。また「モーニ。ング娘」あるいは「モーニング娘°」なら、間違いなく、上方お笑い大賞を獲得していたであろう。

【ながよしかつゆき/門番】katz@mvc.biglobe.ne.jp
前回は、私にしては珍しく虚偽の少ないコラムになったが、ブログを閉鎖するとか、仕事を辞めて餓死するとかいったあたりは、デマである。いったい誰がそんな無責任なことを言ったのだ。

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by G-Tools , 2007/04/12