創作戯れ言[9]クリエイターの背中
── 青池良輔 ──

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先日、数年来の知り合いのお坊さんに会う機会がありました。久方ぶりの会話は懐かしく、心和むものでした。このお坊さんは、デジタルコンテンツ制作という僕の職業に関しては、漠然とだけ知っている感じで、こちらとしても「まぁ詳しく話したところで、オタクみたいになるし」と遠慮していました。そんな時、

「やっぱ、電博みたいな代理店がらみのとかやってるの?」

と僧職らしからぬ発言が。改めて伺ってみるとこのお坊さん、若い時には東京で代理店関係の仕事をこなすデザイン事務所を抱えていたということ。田舎のお寺の風景と、彼の穏やかな風貌と、話の内容が噛み合ず何となく奇妙なおかしさがこみ上げてきました。


彼曰く、仕事は回っていたし、全国展開するようなそれなりに大きなプロジェクトにも関係していたけど、徹夜が続き、仕事のプレッシャーもあり体力的にも精神的にも限界を感じで一線を退かれたということでした。

「デザイナーとしてやっていけているのは嬉しかったけど、辛い仕事をお金の為にこなしているのはやっぱりねぇ……」

正直、「またか」とも思いました。クリエイションの仕事をしている人の中には、厳しい条件下で神経をすり減らしながら、「何の為に?」と悶々としている人達は少なくありませんし、そこで弱音を吐いてしまう人にも沢山あってきました。まるで挨拶代わりのように愚痴をこぼし合ったりしています。

自分もコンテンツ制作者として仕事をしている上で、追い込まれる状況になることもままありますし、そういった状況を理解した上で良いクリエイションができるようにいろいろ知恵を出してやっていっているつもりですので、ちょっとこの手の話には辟易している部分もありました。

「自分のクリエイションは反映されないが、金額的に魅力的な仕事」「自分の創作が多く反映されるが、金銭的にはあまり期待できない仕事」という両者のバランスについては、プロとして仕事をするうえでの命題でもあり、繰り返し繰り返し語られてきたことでしょう。誰もが「自分の創作でかつ金銭的にも充実している」レベルを目指しているのですから。そう思いながら、生返事をしていると、

「どっちを選ぶもの自由。でも、その仕事をしている父親の背中を子供は見て育つよ。」と。

コンテンツ制作をして行く上で、努力、葛藤、苦悩、嫉妬、不平、不満はつきません。自分の実力に対して冷静な視線を保とうとすれば、常にポジティブでいる事は難しいでしょう。「人が喜ぶものを創ろう」と思っていても、物理的に厳しい状況下では、表情も硬くなります。

ただ、その背中を見ている人がいると意識した時、いったいどうしたら良いのでしょうか。このお坊さんは、子供という形で、僕に問いかけてくれましたが、これは子供だけに限らず、人間関係がある所すべてにおいて通じる話だと思います。

上司の背中を見ながら、部下は自分がやっている仕事のやりがいを感じ取ることもあるでしょうし、先輩クリエイターの背中を見ながら、若いクリエイターは自分の未来を考えるでしょう。立場的に逆の場合も考えられますし、友人同士だって考えられます。

また、クリエイターとしての仕事だけに留まらず、全ての職種、そして人としてのあり方にまで話は広げられるでしょう。

「自分の背中はどうなんだろう?」

可能であるならば、良い背中でいたいとは思いますが、日々の雑多な業務をこなしながら、さらに自分の背についてまで気を配れません。何より、ここでいう背中とは一朝一夕に、笑顔や、やる気を取り繕ったところでどうにかなるものではないでしょう。

と、ひとしきり考えて、ギブアップ。

あまり難しく考えてゆくと、坊さんの罠にはまって仏門に入らざるをえない気分になりますが、基本的には精神的に「良い感じ」でいられるかどうかというレベルで捉えておけばいいのかなぁと。「背中」と言ってしまうと、自分の性根から正してゆかないといけないような、なかなかに手強いものに感じられますが、まず手始めとして、「悪い空気を出さないような日常を過ごす」ということから手を付けてゆければと思っています。

締め切りや、クライアントワークのごたごた等、ストレスの原因となることの方が多い状況で、心穏やかにいるのは簡単ではなさそうです。不条理、無理難題に向かい合いながら、周りを不快にさせず過ごしてゆく為には、

「アホになる。」

のが一番かと。頭を空にして、アホのふりしてやって行けばいいのかなぁなどと考えたりもします。まぁ、言い換えればそれが「無我」ということなのでしょうが……。

「のんきなアホ」でいいなら、気が楽です。アホでいれば、子は育つ。というところでしょうか。

生意気言いました。

【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
< http://www.aoike.ca/
>
1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。

・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/
>


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