デジアナ逆十字固め…[46]印刷局でバイトしてた頃/上原ゼンジ

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1981年春。一浪して大学に入学した私は、日刊スポーツ新聞社の印刷局でバイトを始めた。当時私はマスコミ関係への就職を希望していたが、筑地の日刊スポーツ社に通うようになったのは、たまたま友達のオヤジさんが勤めていたからだ。

当時の新聞の印刷というのは、朝日新聞が電算写植のシステムにちょうど変わったばかり。日刊スポーツの場合も活字から電算写植への移行期で、ある面は活版印刷、またある面は電算写植という感じで、二つのシステムが混在する不思議な状況だった。

活字というのは熱い鉛から作るので「Hot Type」。活版印刷はHTS(Hot Type System)と呼ばれた。一方、非金属活字で文字版下を作るのはCTS(Cold Type System)と呼ばれていたので、スポーツ面は「CTS」、芸能面は「HTS」という言い方をしていた。「CTS」は「Computer Typesetting System」の略でもある。


アルバイトは活版の現場にもCTSの現場にもいたが、私はCTSの方で働いていた。活版の現場で働いている友達は爪の間にインキが入り、手が真っ黒になってしまうので、空調の効いたコンピュータルームで働く私を羨ましがった。私ももちろん、活版現場で働きたいとは思わなかったが、今となっては少しぐらいは活字を拾う経験をしておけば良かったと思う。

活字はもちろん手で拾うわけだが、一方のCTSではキーボードによる入力が行われていた。といっても、現在のパソコンのキーボードとはちょっと違う。やたらとキーの数が多い漢字キーボードで、ファンクションキーを押しながら入力すると裏文字の入力が出来た。スポーツ新聞なので、麻雀パイや白黒の碁石の記号なども使うのだが、それらがすべてキーに割り当てられているわけで、オペレーターのお姉さんはよくそんなものを覚えていたものだと思う。

ただ、画面に表示されているのは仕上がりのレイアウトではなくて、文字の大きさや書体の指示なども入ったテキストの羅列だ。だから実際にゲラが出てくるとけっこうとんでもない間違えというのもあった。たとえば、碁盤の上が見たこともないような、やたら難しい文字で埋め尽くされていたり……。これは特殊な記号の裏に、やはり特殊な漢字が割り当てられていたからだ。

また、入力をすると鑽孔式紙テープに情報は書き込まれた。これは紙テープに穴が空いていて、その穴の空き方によって、テキストの情報や組版指示なんかを伝えることができるもの。といっても、見たことがない人にはまるでイメージできないだろうなあ。こんなことを書いていると昔の人みたいだけど、とんねるずとか、松田聖子とか、馳浩とか、クラッシャー・バンバン・ビガロと同い年なので、そんなに年寄りではないですよ。

●活字から電算写植へ

で、私が何をやっていたのかというとJEM室という所に配属され、自動現像機から出てくるフィルムを切り取り、大貼り担当に運ぶという作業だ。フィルムはポジで文字が現像されている。レイアウトされていない棒ゲラなので、それを新聞一面分が載る大きなライトテーブルの上で貼り合わせ、新聞の体裁にしていく。当時は印刷の知識もなく働いていたが、たぶんその貼り合わせたフィルムから凸版を作って印刷していたのだろう。

たまにこのコンピュータを使ったシステムが、ダウンしてしまうことがあった。そうすると急遽活版に切り替える、というようなことも起きたので、試験的な運用をしながら、徐々に活版から電算写植へと移行していったということだ。

コンピュータルームにはメンテナンスのための要員が派遣されてきていたが、何も起きなければ、空調の効いた部屋で居眠りをしたりしていた。コンピュータはでかいロッカーのようなもので、記録はオープンリールのような磁気テープ。何億もするようなシステムだったけど、現代のMac Miniのほうが断然賢いだろう。

当時はまだ、原稿が手書きだったところが、現代との大きな違いだ。そう言えば、原稿用紙に書かれた原稿というのは、カプセルに入れて空気圧で送っていたなあ。ビルの中には透明なチューブが張り巡らせてあり、記者が書いた原稿はその中を通って入力オペレータの所へ届く。入力したデータは鑽孔式の紙テープになり、さらにそれを読み取ってコンピュータへと渡る。

活版から電算写植への移行で、活字を拾う作業はなくなったが、記者がワープロやパソコンを使うようになると、さらに文字入力の作業がなくなった。電算写植も当初は、フィルムを使って切り貼りしていたが、画面上でレイアウトが出来るようになると、大貼りの作業もなくなった。

考えてみれば、私が知っている印刷局の部署はほとんどなくなっていることになる。記者が書いた原稿やカメラマンが撮った写真は、デジタルで貰えば、後の工程はすべてパソコンで処理することができる。まあ、やろうと思えばウチのパソコンでも新聞組版の真似事ができてしまうわけで、世の中随分変わったもんだと思う。いや、ちょっと前の話なんだけどね。

【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇キッチュレンズ工房
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