美術系学生たちの生態 〜元非常勤講師の極私的ソーカツ・その2
── Rey.Hori ──

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本題に入る前に、前回の弁解。前回「(少なくとも一旦は)講師生活にピリオドを打った」と書いたところ、「じゃあ結局講師生活は続いてるのね?」というご指摘を頂戴した。要らぬことを書いて自ら誤解を招いたようなのだが、筆者は現在どこの講師でもないしその予定もない。「少なくとも一旦は」の意図は「今回は辞めたが、今後絶対に講師を引き受けないと決めたわけではない(=いつかまたやるかも)」というところにあったのだ。
ニホンゴムズカシイ……。

見苦しい弁解を済ませたところで本題。前回に続いて今回は、筆者の非常勤講師生活で相手にした9年分の学生たちの傾向というか生態について思ったこと。挨拶しねーヤツとかタメ口たたくヤツとかは、もうすっかり免疫になった。講義しだすと、デキる学生がなぜかすぐに見分けられるのが不思議。単位数の関係とやらで、期の途中から係の人に連れられて講義に加わる学生(*5)がまず例外なく最後までもたないのもまた不思議。筆者自身は理工系学生だったので、美術系学生たちの生態がそれだけで興味深かった。そうした諸々の学生たちから見える傾向について並べてみた。


◇学生たちの傾向

・学生たちの傾向(1)デジタル離れ/冷め
9年前から緩やかに進行する傾向として感じられたのがこれ。筆者のいた学校はデジタル専門ではなく、明確にデジタルを主眼にしたコースも最近までなかった。それでもというか、だからこそというか「ゲーム制作やウェブデザインを目指したいので、デジタルのツールに精通したい」という学生は逆に目立ったのだが、年を追ってその数は少なくなった気がしている。猫も杓子もデジタル、という熱狂状態から適正なところへ戻りつつあるのかもしれない。

・学生たちの傾向(2)のんき
これは学校による差が大きいかもしれない。9年前といえば就職氷河期がピークを迎えようとする辺りで、筆者自身がバブルへの登り坂にさしかかる超売り手市場時代に学校を出たこともあって、学生たちが大いに不憫に思えた。が、彼女/彼らはとてものんき。淡々とその状況を受け入れているように見えた。のんきに見せてただけかなあ。ともあれ、就職状況は多少持ち直したようなので、少し安心……してもいいのかしらん。うーん。

・学生たちの傾向(3)講義が頭に入らない
筆者の講義は最大40名、実質20名前後の少人数相手だったのだが、講義内容がなかなか学生たちに届かない。私語は禁止したし人数も少ないので、学級崩壊していたわけではない(寝てる奴は寝てたけど、これは前回書いた通り、他人に迷惑をかけないのでヨシとした)。講義内容が特に難しすぎたとも思えないし、筆者の講義のウデについては正々堂々とタナに上げて柏手を打っておくとして、ハンドアウトを配布し「他は忘れても、これだけは押さえておけよ」と強調しまくってもなかなか覚えてくれない。ハンドアウトに書いてあることの読み落としも多い。でも、例えば質問されてそれに答えるなど、一対一で説明すると理解してくれる。だからアタマが悪いわけではないのだ。集中力の問題なのかしらん。

・学生たちの傾向(4)質問しない
ところが肝心のその質問をなかなかしてくれない。講義途中で何度も「困っている人?(は手を挙げて)」と呼びかけても挙手してくれることは少ない。で、席を見回ってみると(*6)できていなかったりする。あるいは作品制作に移って、「こういうことがしたい」と思ってそれがうまくできない場合、質問するよりはアキラメて妥協してしまうほうが多いようにも思う。どんな進路に進むにせよ、彼女/彼らについて一番心配に思うことの一つである。

・学生たちの傾向(5)メモを取らない
毎回喋ることはハンドアウトにして配布していたし、ノートを取るよりは実際にマシンに触れて欲しいこともあったので、ノートを取れとは言わなかったが、それにしてもメモを取らない学生がびっくりするほど多い。(3)に書いたハンドアウトの読み落としの原因はここにあるとにらんでいる。ちゃんとした学生はハンドアウトの余白や自分のノートにメモを取っていたが、そうでない者が多く、更には筆記具を持たずに講義を受けに来るトンデモ者が何人もいた。ここまで来ると、安くはない学費を払って学校へナニヲシニキテイルノカがわからない。ともあれ、メモを取らないことも彼女/彼らについて心配に思うことだ。

・学生たちの傾向(6)アイデアスケッチを大事にしない
多くの学生はクロッキー帳やスケッチブックを携帯していて、作品制作時にはそこにアイデアスケッチを描いていた(これも前回書いた通り、マシンに向かう前に必ずアイデアスケッチを描け、という条件を課した)。でも中には小さな手帳やハンドアウトの裏、何かわからないくしゃくしゃの紙、などに描く者もいた。どうかするとそれをスキャンして下絵にし、裏映りやルーズリーフの罫線を消すのに四苦八苦していたりする。下絵はさておき、条件を課したのに描かない学生は論外として、そうしたアイデアスケッチはボツネタでも(ボツネタこそ?)大切だと思うのだが。手帳はまだしも、せめて散逸しない綴じた紙に描くのがいいと思うぞ、ってわざわざ言うことかなあ。

・学生たちの傾向(7)理数系に弱い
これは美術という進路を選んで進学してくる学生たちの気質なのか、このところのゆとりナントカのせいなのか、特に理数系の考え方に弱いところが顕著。ここ60年分の理系思想と技術のカタマリであるコンピュータという画材の“本性”を教える基礎的な講義なので、多少は技術的/原理的な話もしたが、途端に聞いている学生たちの目に線が入る。微分積分の話をしているならまだしも(しないけど)、どうかすると三角関数も一次関数もアヤシイ。大丈夫かなぁ。

・学生たちの傾向(8)ネットに強いのか弱いのかわからない
平成生まれを相手にせずには済んだが(今年の一年生から平成生まれのはず)、彼女/彼らは物心ついたときからコンピュータやネット環境が身近にあった世代。何かというとネットやケータイで答え(例えば絵のネタとか、って美大生でそれはモンダイなんじゃねーの?)を探す習性があるようなのだが、そのくせ絵に描き込む英単語のスペルを間違えたりする(当然減点対象)。ちょっと確認すれば済むものを。また、架空のポスターや案内状を描かせるとURLやQRコードを入れることを思い付けないでいたりもする。不思議だ。

*5:このまま行くと単位が足りず進級や卒業ができないので、本来受講対象や受講希望ではないのだが、受講人数に余裕のある選択科目を受けさせて単位数の帳尻を合わせてやろうという親心なのだろうけど、そもそもそんな自己管理もできない学生だから、まあ空振りしますわな。

*6:筆者の講義では名前と顔を早く一致させるために学生の席を決めて固定した。で、説明しながら教壇を下り、その席の間を歩き回ることがよくあった。そんなことをしなくても内職しているヤツは壇上から一発で判るのだけど、まあ癖ってことで。

【Rey.Hori/イラストレータ】reyhori@yk.rim.or.jp

筆者のサイトは滅多に更新しないことで有名になってしまった。仕事にかまけて後回し、ということもあるし、納品したての作品をすぐにはアップしづらい、ということもある。先日はアクセスカウンタのデータが飛んでしまった。
50,000オーバーまでは確認していたのに……。何にせよ、いい加減にフルリニュアル&新作追加しなくてはなぁ。3DCGイラストとFlashオーサリングを中心にお仕事をお受けしてます。
サイト:< http://www.yk.rim.or.jp/%7Ereyhori/
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