[2209] 火種と点火

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<作りたい作品はあるんだけどねぇループ>

■創作戯れ言[11]
 火種と点火
 青池良輔

■曜日感覚のないノラネコ[9]
 どういうわけかWebを見下す人たち
 須貝 弦

■ブックガイド
 平野甲賀『僕の描き文字』/CD-R「コウガグロテスク06 漢字篇」

■セミナー・イベント案内
 扇町クリエイティブクラスターミーティングVol.8
 ユニバーサルデザイン開発の最前線
 起業家異種格闘技トークバトル in YOKOHAMA


■創作戯れ言[11]
火種と点火

青池良輔
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何か作品を作りたいと思っていても、

「仕事に時間を取られて、余裕がない。」

と諦めてしまう事がよくあります。この時、諦めるとはいっても「中止」ではなく、とりあえず「無期延期」であるのですっきりと忘れる訳にもいかず、頭の中にいつまでもくすぶり続ける状態になります。

今、自分の状態を考えてみると様々な種類の火種が脳味噌の片隅でブスブスブスブス煙をあげています。映像化してみたい作品の具合的な内容から、企画書に落とし込みたいアイデア、誰々と一緒に仕事がしてみたい、なんだかわからないけどとにかく気持ちが踊る作品をやってみたい等々、タイプの違う火種が点々としています。

自分がそうだから他の人もと、決めてしまうのは良くないのかもしれませんが、「作りたいんだけどねぇ、時間が無いんだよねぇ……」という人の表情には、なんとなく悔しそうな雰囲気が出ている事があります。僕の場合、この悔しさの矛先は往々にして自分に向いています。なんで悔しいのかと言えば、自分の姿を「何かを創りたいやる気十分な目線」で見直すと、理想と現実のギャップに驚かされるからです。

作りたい作品への理想には、作りたい作品を作っているカッコいい自分の姿も含まれているのでしょう。「あの時、あんなにお酒を飲んでいなければ」「あの時、ネットで遊ばなければ」「あの時……」「あの時……」と、創作に無関係と思われる時間の使い方が全て「罪」の様に自分の背中にのしかかってくるのです。この罪悪感が、またいい具合に「作りたい作品」をくすぶらせる燃料になって、ブスブス、グズグズの永久ループを始めます。この罪悪感も、仕事だの私用だので忙しくなってくるとすぐに忘れてしまうのですが……

自分自身の明るい未来の為にも、この大変不健康な「作りたい作品はあるんだけどねぇループ」の脱却方法はあるのか考えてみたい所です。

もちろん、火種なのですから点火して炎と燃え上がらせてしまえるのがベストでしょう。僕は、普段からちょっとしたテクニックや、デザインのエッセンス等すぐ実行可能なものについては、クライアント仕事の中に滑り込ませたりして「仕事で消化」してしまう場合が多いです。

これで先方に満足してもらえれば一石二鳥です。このようなケースを大切に咀嚼していると、結構罪悪感から解放される場合が多いものです。美味しい事がある分、逆にクライアントに拒絶されてしまうとダメージが大きかったりするのですが……。

また、こちらから働きかけて誰かに点火してもらう場合もあります。これは企画書をつくって、「誰かに気に入ってもらって、プロジェクトにしてしまう」ケースです。オリジナル企画はこの場合が多いです。時間や努力や、人の協力が必要になりますし、運が左右する事もあるので気長に待てる時ならいいようです。

またその中間として、人が持っている火種と自分の火種を合わせて、燃え上がらせてしまうというのもあるでしょう。ある意味これが関係者にとって一番幸せなプロジェクトになるかもしれません。相手もくすぶっているのですから、お互い「やりたいことがあったのに、仕事にしか時間が割けずにいた」のに、「それが仕事にできてよかった」となるでしょう。

ここまでは、多少の違いはあるにしろ結局「自分のやりたい事を仕事にできたら幸せだよね」という話です。しかし、人間贅沢なもので「お金がもらえる仕事としてやれるのは嬉しいけど、でも本当にやりたいことっていうのはそういうもんでもないんだよねぇ」というアナーキズムというか、商業主義との決別を良しとする芸術家気質への憧れみたいなものがむくむくとこみ上げてきたりもします。

しかし、一番の基本点に戻れば、作品を作るために必要なことは、「作品を作り始めること」でしかないようにも思えます。

「時間を作っても人のお金に頼りたくない」「納得の行くまで作品と取り組んでみたい」これらの美しい理想が火種をくすぶらしている一番の原因かもしれません。

「時間がないなりに」「出してくれるって言う人がいるんならそのお金で飯を食いながら」「期限内にできるところまで」ぐらい風通りを良くしてやると、火種は勝手に炎となる場合もあるのではないでしょうか?

今までの経験から、何も形になっていない物に外部から「点火」してもらえたことはありません。紙一枚でも「形」になっているだけで実現の可能性はゼロではなくなります。その紙一枚を作っていないが為に、くすぶり続けているプロジェクトがまだまだあります。

何故できないのか……。企画への不審感、自分の怠惰、そして罪悪感の残すちょっと排他的な居心地の良さもあるのかもしれません。

生意気言いました。

【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
< http://www.aoike.ca/
>
1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。

・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/
>

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■曜日感覚のないノラネコ[9]
どういうわけかWebを見下す人たち

須貝 弦
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●たぶん自分に自信がないから見下すんだと思う

紙メディアで飯を喰っている人の中には、どういうわけかWebを見下す人が少なからずいる。紙メディアで仕事をしてきた以上は、紙メディアの優位性を信じたい気持ちはわかるが、どうしてWebを見下さなくてはいけないのか、自分にはよくわからない。

例えば「カタログはやっぱり紙がいい。Webでは商品の魅力が伝わらない」だとか「何でもディスプレイで読むのは感性の劣化」だとか、ちょっと信じ難いがそういうことを真顔で言っている人がいる。好き/嫌いならわかるが、職業人としてはどうなのかと思う。

例えば商品のカタログについて考えてみると、街で見かけたり、たまたま読んでいた雑誌に掲載されていた何かしらの商品がすごく気になったとき、もしくは何か明確に欲しいモノがあるとき、今や多くの人がYahoo!やGoogleでその商品について検索をし、情報を収集する。まずメーカーなどのWebサイトで商品のスペックなどを確かめ、さらに検索によってすでに買った人の評価などを読む。

目的としている商品が例えばデジタルカメラなら、すでに買った人がブログなどにアップした写真データを見ることだってできるだろう。そして次にヨドバシカメラなりビックカメラなりに行ったとき、実機を触るなどしてほしい商品を確認し、決心がつかなければ紙のカタログを複数もらって、帰りがけにドトールでアイスコーヒーをすすりにながらそれを眺めたり、電車の中でカタログスペックを読み比べたりする。

自分に必要な情報を収集し知識を深めるために、複数のメディアを回遊することが、すでに「当たり前」になっている人がたくさんいるわけだ。そういった状況の中で、例えば「カタログはやっぱり紙じゃなくちゃいけない」などと言うことの意味が、どれほどあるのだろうか。現に、あなたがたのクライアントは複数のメディアを使い分けることを「当たり前に」やっているのに。紙のカタログなり販促物なりを作るとか、紙メディアに広告を出すというのは、メディアの使い分けの中でわざわざ「紙」を選んで下さっているのだということだ。

紙の仕事を発注するということは、紙メディアの特性に期待する部分があるからだ。作る側は、紙にしかできない、紙ならではのクリエイティブを提案し、作ることが求められている。しかしその過程で、Webを見下す必要は一切ないはずだ。必要なのはWebを見下すことではなく、複数のメディアや複数のクリエイティブの中で確固たるポジションを築き、その上で他のメディアとも連携できる体制を作ることだ。

【すがい・げん】< http://macforest.typepad.jp/mac/
>
以前、この欄に「小田急線に忘れ物をして小田原まで取りにいった」という経験談を書いた。それからしばらくして、再び小田急線に忘れ物をして、小田原まで行くはめに。二度あることは三度あるというが……。

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■ブックガイド
平野甲賀『僕の描き文字』/CD-R「コウガグロテスク06 漢字篇」
< http://www.msz.co.jp/book/detail/07291.html
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●平野甲賀『僕の描き文字』(みすず書房)発売中
四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/264頁
定価2,940円(本体2,800円)
ISBN 978-4-622-07291-1 C0070 2007年5月18日発行

独特ののびやかで骨太な描き文字で、60年代後半から現在まで、本の世界を愉快にいろどってきたグラフィックデザイナー平野甲賀。好きな本のこと、装丁のこと、演劇ポスターのことから、作業日誌、描き文字作品、対談まで。ひとりごちる描き文字師のノンシャランなエッセイから見えてくる、クラフトマンシップのこだわりとこだわりたくないこと。40年の生活と意見がつまった平野甲賀ヴァラエティ・ブック!(表4より)

◇トークショー&サイン会『コウガさんと話そう』
< http://www.tokyodoshoten.co.jp/
>
平野甲賀×祖父江慎 朗読・山下順子
日時:6月23日(土)15:00〜17:00
会場:東京堂書店神田本店6階
参加方法:要予約。参加費500円
電話(03-3291-5181)または、メール(tokyodosyoten@nifty.com)にて、件名「コウガさんと話そう イベント希望」・名前・電話番号・参加人数、を知らせる。

●CD-R「コウガグロテスク06 漢字篇」 2007年6月1日発売
平野甲賀氏が2004年発売した「コウガグロテスク 仮名篇」に続き、およそ4,500字収録の漢字篇をリリース、100部制作という貴重なCD-ROM。デザインを手がける方はもちろん、平野甲賀氏の装丁のファン! という本好きな方にもおすすめ。「CD-Rコウガグロテスク06 漢字篇」はオ−プンタイプ・フォントである。描き文字のコピーは自由にできるが、他商品への転用、意匠登録などはできない。
制作・発行:平野甲賀 限定100部 定価60,000円(税込)
「コウガグロテスク06 漢字篇」は店頭販売しない。注文、問い合わせはメール(no12tokyo@yahoo.co.jp)まで。

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■イベント案内
扇町クリエイティブクラスターミーティングVol.8
< http://www.mebic.com/meeting/vol-8.html
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日時:6月6日(水)18:30〜20:00(交流会20:00〜21:30)
会場:梅田センタービル ホワイトホール(大阪市北区中崎西2丁目4番12号)
内容:メビック扇町では、扇町・天満・南森町界隈で活動するクリエイター、デザイナー同士が互いに知り合い、顔の見える関係づくりの「場」を提供するため「この街のクリエイター」による公開ミーティングを毎月一回開催しています。ミーティングにはスピーカーとして、メビック扇町周辺のクリエイター、デザイナー、メビック扇町入所・卒業企業、運営協力団体などの方々に集まっていただき、互いの活動やクリエイティブに対する考え方や思いなどを意見交換していただきます。この公開ミーティングには、オーディエンスとしてどなたでもご参加いただけます。また、ミーティングへの飛び入り参加も大歓迎です。ミーティング終了後は交流会も開催いたします。ビジネス創出、ネットワークづくりのきっかけにお集まりください。(主催者情報)
参加費:ミーティング無料、交流会1,000円(税込)
詳細・申込:< http://www.mebic.com/meeting/vol-8.html
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■セミナー案内
ユニバーサルデザイン開発の最前線
< http://www.pref.osaka.jp/oidc/college/h19_5.html
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日時:6月6日(水)、13日(水)、20日(水)、27日(水)14:30〜17:00
会場:マイドームおおさか4階セミナー室
内容:今やユニバーサルデザインはビジネス戦略の一つとして、また企業の社会的責任という側面でも重要視されている。本コースでは「ビジネス戦略の一環として、ユニバーサルデザインをどのように捉え、社内体制を構築し、商品開発を行っているのか」について解説する。(サイトより)
・日立グループのユニバーサルデザインポリシーと事例紹介
・オムロンのユニバーサルデザインポリシーと事例紹介
・イトーキのユニバーサルデザインポリシーと事例紹介
・NECのユニバーサルデザインポリシーと事例紹介
参加費:10,000円(4日間)
詳細・申込:< http://www.pref.osaka.jp/oidc/college/h19_5.html
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■イベント案内
起業家異種格闘技トークバトル in YOKOHAMA
< http://www.ventureport.jp/
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日時:7月1日(日)13:30〜16:30
会場:横浜市教育文化ホール(横浜市中区万代町1-1)
内容:IT、3D、PV作家、演出家など北海道から沖縄まで日本や世界に通用する技術をもつ起業家が11名横浜に集結し、トークバトルを展開する。出演者のプロフィールに注目。
出演:木村誠司(ウェブシャーク)、こみやまたみこ(ウィンアンドウィンネット)、紺田敬二(ウォール)、今駒哲子(アイビー・ウィー)、佐藤裕久(バルニバービ)、丹下紘希(イエローブレイン)、野澤浩樹(シーポイント)、平田大一(タオファクトリー)、藤田伸一(ココロ・プラネット)、和田清華(私には夢がある)、渡辺康一(ウェブマックス)、吉田雅紀(あきない総合研究所)
参加費:無料
詳細・申込:< http://www.ventureport.jp/
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■編集後記(5/29)

・松岡大臣の死の報道の中で、安倍首相は「慚愧に堪えない」と言っていたが、違和感を覚えた人は多いと思う。慚愧の意味は「はじて心におそれおののくこと」(広辞苑)「恥じ入ること」(岩波国語辞典)である。慚愧に堪えないことを山ほど積み重ねてきたわたしには、それ以外の意味を知らない。ちょっとまずいコメントじゃないかと思っていたら、案の定今日の新聞でこのことが記事になっていた。「『残念だ』という意味で使ったのであれば、間違っているという指摘が出ている。(略)首相周辺では『最近は反省の意味でも使われており、問題はない』としている」(読売新聞)。間違っているという指摘は正しい。首相周辺(どの範囲までが周辺なんだ?)の、最近では別の意味でも使われているからいいだろうと理屈は正しくない。でも、「反省の意味」があるからいいだろうというのには笑える。何に対する反省だ? 疑惑の噂される議員を農水相に起用したこともそうだろうし、「ナントカ還元水」問題(笑)で日本中から総スカンをくらっている彼をひたすら擁護し続けたこともそうだろう。ということは、安倍首相の正直なコメントと言っていい。しかし、人が死んだのだからもっと適切なコメントがあってしかるべきだろう。首相周辺とやらがよけいな弁護するもんだから、かえって恥の上塗りになってしまった。しかし、謎の多い死である。/昨日の「週刊現代」で、「八百長を指示したのは北の海理事長」なんてものすごい記事も出てしまったのに、夕方の横審ではわずか10分、あっさり満場一致で白鵬の横綱推薦が決まったとかで、本当にいいのかね。あ〜、もうどうでもいいやって気になってきた。(柴田)

・先週の公判の弁護団の主張といい、大臣の自殺といい、自分の中の怒りや悲しみの感情が増幅され、明るい話が埋もれてしまってなんだか気が滅入る。あ、カンヌがあったよ。他にはなかったか?/何を食べても美味しくないので、精神的にまいっているのか、それとも体調が悪くなっているのかと思ったら黄砂が。これのせいか? 日本列島真っ赤っかだったわ。窓は閉めているのになぁ。/電話機の「コードねじねじ現象」が発生する理由。いまはこういうネタがほっとするよ。もっといいニュースをTVで流してくれよぅ。(hammer.mule)
< http://www.jma.go.jp/jp/kosa/
>  黄砂情報
< http://www.jma.go.jp/jp/kosa/kosafcst.html
>  黄砂予測図
< http://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0705/28/news018.html
>
コードねじねじ現象

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黄砂―その謎を追う
岩坂 泰信
紀伊國屋書店 2006-03
おすすめ平均 star
starやはり有った黄砂学

感染爆発―鳥インフルエンザの脅威 万物の尺度を求めて―メートル法を定めた子午線大計測 陰謀国家アメリカの石油戦争―イラン戦争は勃発するか!? 眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く ここまでわかった「黄砂」の正体―ミクロのダストから地球が見える

by G-Tools , 2007/05/29