「遅発性眼鏡チューネンのできるまで」〜又は私は如何にして視力を過信するのを止めて眼鏡を・愛する・ようになったか
── Rey.Hori ──

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諸事情につき、今週もお邪魔することになった。といっても、今回は講師ネタの続きではなく、別の極私的ネタでご機嫌を伺いたい。今回の対象読者は、視力に自信のある人、または自信があったけど最近ちょっと揺らいでいる人、である。

少なくとも30代一杯までは視力に絶対の自信があった。立ったまま床に置いた新聞が読めたし、本屋では一つ向こうの書棚から探している本を見つけることもできた。近くも遠くも何の支障もなかった。会社員時代にもフリーになってからも、長時間モニタに向かったり寝床で本を読んだり、目に悪いこともしまくってきたにもかかわらず、である。

ところがこれが徐々におかしくなったのだ。ん、今日は遠くも近くもフォーカスがイマイチやけどなんでやろ? というのが最初の兆候だった。


ひょっとするといずれは眼鏡なのかと思い始めたものの、そうしたアクロバティックなことができなくなってもそれほど困らないし、気合いを入れればまずまず見えたので、更に数年にわたって慌てることはなかった。ただ、「何を基準に眼鏡を作る判断を下すべきか」が判らない。

「メガネス試験紙をなめてみて赤くなったら眼鏡」というような基準はないわけで、昔から眼鏡をかけている友達、同業者、果てはクライアントさんや学生にまで相談をしてみたのだが、長く眼鏡やコンタクトレンズを使っている人には理解に苦しむ質問らしく、質問の意味をつかみかねた挙げ句に「困ったら作ればいいじゃないの」と言われるのがせいぜいだった。これが回答として物足りなく思えたのは、要はまだ眼鏡が不要だったからだろう。

しかし、そのうちにふと気付いたのだ。仕事でモニタに向かっている時、無意識に顔をしかめてずっと目を凝らしている自分に。こうしないと画面の文字や線がぼやけ始めたのだ。当然これはとても疲れるし、集中力を削がれる。

我々の仕事でこれは死活問題だ。寝床の読書も長続きしなくなった。寝床はともかく、書店で本を選んだり、居酒屋でメニューを眺めたり、電車に乗って行き先表示や路線図を見たりするには困らないが、仕事で困る、というのは明確で厳然とした宣告になった。

これも早くから眼鏡をかけている人には理解してもらいにくいのだが、ずっと眼鏡にエンのなかった筆者には逆にずっと眼鏡へのあこがれめいたものがあった。いわゆる眼鏡萌えというのとはちょっと違い(そのケも少しはあるが、それはまた別の話)、ギミック自体と自分が対象なのだ。

その証拠に幾つも度のない安物のダテ眼鏡を買った。眼鏡をかけるとちょっとした変身をした気分になったし、取り出してかける動作や、指先でブリッジ部分を持ち上げる仕草(=碇司令がやるあれ)をしてみて、いっぱしの眼鏡モノ(?)になった気がしたものだ。そんなわけで、いよいよホンモノの眼鏡デビューについては「やれやれ」という気持ち以外に「わくわく」もかなり含まれていたのである。

まず念のため眼科へ行って病的な要素がないか確認。そして新聞の折り込みチラシなど見つつ、近所の眼鏡店へ。検査の結果では乱視が進んだらしい。「遠くも近くも見えるレンズ」と「近くだけがよく見えるレンズ」のどちらがいいか、と聞かれた。外では困っていない以上、使うのは仕事の時なのだから、レンズ設計に無理が少ないはずの後者を選んだ。

次はフレームである。チラシによれば安いものもあるのだが、ふと気まぐれに少し高い(バカ高いわけではない。少しだけお高い)フレームをかけてみるとこれがウソのように軽い。ディスプレイ用の度のない極薄のレンズしか付いていないことを割り引いても、軽さは大きな魅力だ。結局少し予算をオーバーしたが、上下幅の小さいチタンゴールドのそのフレームを選んだ。何せデビュー眼鏡、一目惚れなのである。

さて、数日後にその眼鏡が出来上がってからというもの、仕事で画面に向かうのと、手で文字を書くことがとにかく楽になった。長時間かけていてもほとんど疲れない。筆者は肩こりを全く自覚しない体質なのだが頭痛持ちではあるので、眼鏡性の頭痛が起きると困るところだった。筆者の眼鏡デビューはこうしてまずまず成功に終わったのだが、少しだけ「しまった」と思うこともある。

薄くて上下幅の小さいレンズはコンパクトだしお気に入りなのだが、画面を見ながら視線を下げて手元のメモ類を見ようとすると視線が眼鏡の外に出てしまうのだ。また、ノート機を持って打ち合わせに臨むと、画面を見ている時はともかく、机の向かい側にいるクライアントさんの顔やホワイトボードを見る時には眼鏡をはずすか、三木のり平@桃屋または大村崑@オロナミンC状態にしなくてはならない。仕事で使うから仕事部屋で画面だけ見られればいいと思ったところが少しアサハカでちょっとした落とし穴があった、というわけである。

まあいいや。大半の時間は仕事部屋で使うから言うほど困ってはいないし、何より気に入ったフレームだし(毎日使うだけに:ココ大事)いよいよ鬱陶しくなったら「遠くも見える」眼鏡をもう一つ作ればいいのだ。それはそれでまた楽しみ、ケースや眼鏡置きなど小物の物色もまた楽しみという、デビューしたての眼鏡初心者なのだ。

【Rey.Hori/イラストレータ】reyhori@yk.rim.or.jp

アンドロメダ…これを書いていたら、眼鏡に関連した映画のシーンが色々思い浮かんだ。最初はなぜか「アンドロメダ…」(大好き!)でレビット博士が眼鏡を取り上げられて「これなしでは白い杖をつかなくちゃ」と愚痴るシーン、「ハンター」でスティーブ・マックィーン、「リーサル・ウェポン(の2か3)」でダニー・グローバーが老眼鏡をかけるシーン。「いちご白書」のブルース・デービスンは丸眼鏡じゃなきゃダメだし、「マッシュ」のドナルド・サザーランド、「羊たちの沈黙」のスコット・グレン、「地獄の黙示録」のハリソン・フォード、眼鏡が似合ってたなあ。「暴力脱獄」ではミラーのグラサンが象徴的に描かれていたし、「ブルース・ブラザース」はグラサンなしじゃ話にならないし(グラサンと眼鏡は分けて論じるべき?)、「十二人の怒れる男」「メジャーリーグ」でも眼鏡は大事なポイント。わあ止まらない……というわけで、あとは十河さんにお任せいたします(って、引き受けてもらえるもんかい!)。
3DCGイラストとFlashオーサリングを中心にお仕事をお請けしてます。
サイト:< http://www.yk.rim.or.jp/%7Ereyhori/
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