曜日感覚のないノラネコ[10]「東京近郊区間」を行く
── 須貝 弦 ──

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●ぐるっと回らないか

友人Kがメッセンジャーで話しかけてきた。
「JRの東京近郊区間をぐるっと回らないか」
彼はヒマなのだ。

JRの都市圏の路線には「大都市近郊区間」という制度があり、大都市近郊区間の範囲内では、どんなルートで乗っても「ルートが重複しない、同じ駅を二度通らない、途中下車しない」限り、目的地までどの経路で行っても構わないことになっている。

つまり結果的に、どんなルートで乗っても運賃を最短距離で計算することとなる。この範囲の外側を繋いで関東を一周し、乗った駅の隣の駅で降りれば、運賃は130円というわけだ。


かくして7月のある日、新宿駅からJRに入った私は、中央線と京浜東北線を乗り継いで上野駅でKと落ち合った。ここから東北線(宇都宮線)の電車に乗り、小山を目指す。小山と言えば、まともに考えたら東北新幹線で行く場所。車窓から筑波山が見えちゃうような場所だ。

平日の午前、上野から小山に向かう下り方面はさすがに空いていて、雑談したりiPodに入れたおバカなムービーを見ているうちに、小山に着いてしまった。

小山からは両毛線に乗らなくてはならない。ただ、もっと気合の入った人は上野から東北線で一直線に小山を目指すのではなく、上野から常磐線で友部に行き、そこから水戸線で小山に出るらしい。しかし私もKもそこまでの気合は入っていなかった。

小山で乗り換え時間を利用し、構内にあるコーヒーショップでコーヒーを買う。しかし、都会では考えられないくらい、店員の動作がノロイ。余裕時分はコーヒーを入れたり蓋をしたりという動作でどんどん消費され、そして少し離れた両毛線ホームに到着したときは発車寸前だった。とにかく乗り込んで、終点の高崎を目指す。

両毛線はなんだか「北関東」という感じがした。そして、思っていた以上に「街なか」を走る路線でもあった。私もKも、以前群馬方面にバイクでツーリングに行った際に「北関東の若い女の子には、北関東特有の独特の雰囲気がある」という認識で一致していたのだが、今回両毛線を乗り通すことで、それを再認識することとなった。

ただ、曇り空であまり景色が楽しめない。また、東京の電車と同じ長椅子に腰掛けて1時間以上を過ごさなくてはいけない両毛線は、少々退屈な電車だった。もっとも、両毛線の電車が長椅子(ロングシート)なのは、朝夕ラッシュの利用客が多い一方で、ほとんどが単線なので列車本数が少なく、どうしても1列車あたりの利用客がが多くなってしまうからだろう。かといって、全線複線にするほどの乗客がいるわけでもなさそうだ。

とにかく、高崎に到着である。構内のそば屋でカレーを流し込み、八高線に乗る。八高線の北半分はディーゼルカーで運行されていて、関東圏ではもはや貴重な存在だ。平日だが、旅行者っぽい人も多い。ディーゼルカーの音や、電車とは異なる加速感自体がすでに旅の雰囲気で、両毛線よりも楽しい。アップダウンも多くて、上り勾配に入るたびにエンジンがうなりをあげる。車内にも少し経由の匂いが入ってきてしまうのは、しかたのないところか。

チップスターを食べながら車窓を眺めているうちに、高麗川についた。「こんなところにも」と言ったら失礼になるが、マンションが建っている。ここ高麗川で、八高線の列車はディーゼルカーから電車に交替。目指すは八王子だ。途中で雨模様になり、ろくに景色も見ず、横田基地をかすめてダラダラと走るうちに八王子に到着。

実は友人Kのプランでは八王子から横浜線〜相模線〜東海道線と乗り継ごうというのだが、私は自信をもって「中央線で新宿に戻ろう」と提案した。私の腰が限界だったからだ。そもそも高崎から八王子に行くにも、新幹線で東京まで行き中央線に乗った方が速いようなレベルなのだ……。

八王子からオレンジの中央線快速に乗り、中野で黄色い各駅停車に乗り換え、東中野で下車。私はいったん改札を出た。そう、私は新宿からJRに乗ったので、そのまま新宿には戻れない。

東中野の改札を出て、自動券売機でSuicaの履歴を印字した。確かに「130円」が引かれている。アハハ、130円で大回り達成ではないか。こんなに(311km)電車に乗って130円だなんて、アハハ、アハハハハッ……。池袋で入場していた友人K、新宿で降りて、こちらは無事に150円で大回り達成。アハハ、アハハハハッ……。

何事も経験である。

【すがい・げん】< http://macforest.typepad.jp/mac/
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本当に気合の入っている人は、上野→友部→小山→高崎→高麗川→八王子→橋本→茅ヶ崎→東京→秋葉原とまわれば完璧。何かを得られるかもしれないし、何も得られないかもしれない。