わが逃走[4]寝台列車のすゝめの巻/齋藤 浩

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列車ファイル寝台特急みなさんこんにちは。『わが逃走』第四回です。

今回は「私の価値観を皆様に押し付ける企画その1」と題しまして、今や絶滅危惧種指定という噂すらある、日本の寝台列車について書かせていただきます。

飛行機や長距離バスにおされて、かつては長距離移動の花形だった在来線の寝台列車は、一部の豪華列車を除いて衰退の一途をたどっています。それは特に東京と九州を結ぶ列車に顕著で、往時は日に何往復も走っていた九州特急がいまや一往復のみ。

早さや安さと戦うために、食堂車やロビーカー、売店等を廃止して合理化を進めてきた訳ですが、そもそも時間や値段でライバルに勝てるはずもなく、結果として汽車旅の魅力を自ら切り捨て、客離れを促進させてしまったようにも思えます。小学生の頃のブルートレインブーム直撃世代としてはなんとも寂しいかぎりです。

とはいえ、北海道へ向かう列車は個室寝台も充実しているし、食堂車も健在。また山陰・四国へ向かう全車個室の列車は、シンプルかつ美しい内装でアメニティも充実しています。そんな訳で、まだまだ魅力的な寝台列車は日本列島を走り続けているのです。


その1●寝台列車を知ってくれ。

〈図説〉夜行列車・ブルートレイン全史―日本の主要夜行列車・車両を完全網羅!! (歴史群像シリーズ―Gakken rail mook)私がブルートレインを初めて知ったのは小学三年生のときだった。ヘッドマークを掲げた機関車が牽引する、青いボディの美しさに激しく感動したのを覚えている。夜はベッドになるという座席の存在も、変型合体好きな少年の心をとらえるのに充分だったし、なにより旅情というか……夜のうちに出発して食堂車で食事して、ベッドで休んで気がつくと朝で、いつもと違う風景を車窓から楽しみながら終着駅に向かう……なんざ「た、たまんねぇ。いつかは乗りてぇ」と幼心に思ったことを思い出す。

オトナになったのをいいことに、ここぞとばかりに寝台列車に乗るようになったのはここ数年のことだ。こんなにも楽しく充実した時間を味わえる乗り物だったとは! という訳で、以下寝台列車の楽しみ方について語らせていただきたい。

寝台車には大きく分けてA寝台とB寝台がある。A寝台はビジネスクラス、B寝台はエコノミーと考えればよい。ただ航空機のそれに対し金額的な差は少ない。

また、座席(ベッド)の構造にはA寝台・B寝台ともに開放タイプと個室タイプが存在する。開放タイプは、通常の列車の座席が二段ベッドになっているようなもので、間仕切りはカーテン一枚。それに対し、個室は狭いながらもきちんと“部屋”になっている。最近は個室の需要が増えており、先述のとおり全車個室の列車なんてのもある。

個室の利点は、部屋を占有できて、すげえリラックスできること。長旅においてプライベートな空間を確保できるということは、何ものにも代えられない価値がある。例えば、酒とつまみを買い込んでウィっと飲んだくれて踊っていたとしても、個室であれば他の乗客に気兼ねすることもないわけだ。

そこで得られるシアワセ感たるや尋常ではないので、私としては個室をオススメする。当然A個室の方がベッドの幅も広くクッションもやわらかく、良く眠れる。ただ、寝てしまうと景色を楽しめないので困ってしまう。そう、個室には当然照明のスイッチがあるので、部屋を暗くすれば刻々と変化する夜の日本の風景を楽しむことができるのだ。

月と星の映り込む水田、黒い海に浮き立つ白波。「車窓は映画である」と大林宣彦監督のエッセイで読んだことがあるが、まさにそれ。主観と客観という視点の違いを改めて実感できる。天動説と地動説。自分を中心に窓を見れば世界が動いているのが分かるし、夜の通過駅で一瞬見えた人の立場にたってみれば、私の方が動いているであろうことが分かる。こんなことをゆっくり考えられる時間なんて、普段の慌ただしい生活にはもうないんじゃないか?

誰にも邪魔されない時間を持つことこそ、寝台列車ならではの旅の醍醐味なのかもしれない。また長距離列車に乗ると、日本という地がつながっていることを特に実感できる。見慣れた風景が、少しずつ思い描いた風景に変わっていくのだ。始点の景色の次に、いきなり終点の景色が現れる飛行機との大きな違いである。

その2●寝台列車に乗ってくれ。

さて、では具体的に寝台列車の旅とはどんなもんなのか。過去私が乗車した『サンライズ瀬戸』と『北斗星』を例に語ろう。いや、語らせてください。

特急サンライズ瀬戸出雲殺人旅行東京発高松行き『サンライズ瀬戸』は1997年「オール二階建&全席個室」をウリにデビューした比較的新しい寝台特急だ。シンプルでモダンな内装はミサワホームが手がけており、居住性は全寝台車中トップクラスと言っていい。照明も電球色のものを用いており、木目調のインテリアとのマッチングが実によい。残念ながら食堂車は連結されてないが、シャワー室やミニロビーの設置など、送り手側の努力が伝わってくる。

今年の春乗車した、一人用A寝台個室『シングルDX』は想像以上に広かった。ベッドに小さなデスクとスツール、そして洗面台。壁から天井にかけて設置されている窓も大きい。デパ地下で買っておいたワインとオードブルをひろげ、22:00の発車と同時にディナー。駅のホームには、背広を着た会社帰りのサラリーマンの姿が目立つ。そんな人達を車窓から見下ろしながら、飲んだくれる俺様。

東京からちょっと離れるだけで海が見えてくる。東海道の景色を在来線のスピードで味わうのは新鮮だ。三時間も飲み食いしたところでまだ浜松。きりのいいところでお開きにし、少しだけ寝る。でも楽しくて寝られない。結局窓の景色を眺めながらうとうとした感じだ。

空がうっすらと明るくなってきた頃に目がさめた。瓦屋根の集落の感じが関東とは違っている。6:31岡山発。瀬戸大橋にて朝日を見る。ちゃんと東から昇ることを実感。7:26終点高松。九時間半は、あっという間だった。せめてもう一時間乗っていたかった。

青函トンネル開通とともにデビューした札幌行きの寝台特急『北斗星』は、日本における豪華列車の代名詞的存在だ。『ロイヤル』と呼ばれるハイグレード個室を筆頭に、一人用、二人用の個室寝台も充実。そして何といっても食堂車が連結されている点がエライ。

列車通りClassics 寝台特急北斗星 宇都宮~上野昨年夏、臨時の北斗星81号に乗車した際は、18:00からのディナーを予約、夕陽に染まる関東平野を見ながらのコース料理は、さながら食における野音ライブとでも言うべきか。どんなレストランにも真似ができない素晴らしい演出。少しずつ北海道に近づいていく期待感がより一層高まるのだ。

食材もこれから向かう北海道のものを中心としており、こだわりを感じる。ワインはもちろん十勝産。列車内の厨房という限られた条件の中でこれだけのものを提供するのには、相当の苦労があるのだと思う。なので、ときどき通路を通るスウェットを着たシャワー帰りのおっさんと目が合うのもご愛嬌というもんだ。ちなみにディナーは予約制で、列車のチケット購入時に申し込むことができる。

インテリアに関しては、サンライズと比べるとやや古くささを感じる。しかし2人用A寝台個室『ツインDX』は快適だった。ベッドは二段式ではなく並列タイプ。窓も広く、壁から天井にかけて湾曲した状態で設置されていので星もよく見える。洗面台も設置され、収納スペースも充実していた。

快適すぎたせいか0:00を過ぎた頃、盛岡あたりから眠くなり、なんと目覚めると朝の5時。すでに函館を過ぎていたのだ。寝台列車でぐっすり寝てしまうとはなんたる不覚。青函トンネル侵入も見逃した。しかし、それだけ寝心地のよいベッドであったと言えよう。ちなみにベッドは枕木方向に配置されており、北へ向かう列車にもかかわらず北枕にはならない。

食堂車の朝の営業は6:30から。広大な北の原野を見ながらの朝食は素晴らしいのひと言。料理長こだわりのスクランブルエッグが旨い。部屋で食休みをしつつ荷物の整理をしている頃、車窓の民家の数が目立ってくる。そして9:52札幌着(私が乗った北斗星81号の場合)。約十六時間半の旅だった。

以上、寝台特急の旅・具体例でした。なんか食って飲んで寝てるだけのようですが、そこから得られる充実感たるや相当なもんです。

その3●国内旅行に出かけよう。

唐突ですが、戦争で一旦リセットされた後の日本という国は、経済的価値だけをものさしとして成長してきたらしい。なので、短時間でどれだけ移動できるかとか、一回の旅でどれだけ多くの観光スポットを廻れるかとか、そういった考え方が一般化してしまいました。

それは、古いものはどんどんブッ壊して、新しいものに作り変えた方が儲かるという考え方と似ています。鉄道にしても新幹線ネットワークの広まりとともに巨大な四角い新駅が建設され、その影響で日本中に同じような風景が増殖しています。同時に廃止される在来線は増加し、その土地ならではの特徴をもった駅前風景だけでなく、その地名すらなくなりつつあるのが現状です。

合理化の弊害と言ってしまえばそれまでですが、私にはどうにも寂しく思えるのです。まあ確かにその方が解りやすく儲かるんでしょう。でも、例えば100年後にパリに行ったとしても、今と変わらない街並を見ることができるはずです。しかし、100年後に日本の地方都市に行っても、このままでは今と同じ風景を見ることはできません。これってどうなのよ?

そういった訳で皆さん、今こそ国内旅行に出かけましょう。失われる前に日本の風景を脳に焼き付けるのです。その際、帰りは飛行機でもいいので、行きはぜひ寝台列車を利用してみてください。自分の町とその町との違いが楽しめると同時に、つながりも感じることができるはずです。

[齋藤浩]saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。
1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
URL < http://www.c-channel.com/c00563/ >