創作戯れ言[17]誰の声に耳を傾けるか/青池良輔

投稿:  著者:  読了時間:6分(本文:約2,500文字)


コンテンツ制作では、様々なレベルで「他者」を意識しなければいけません。作品を創るという視点で考えれば、最も重要な「他者」は観客であり、その人達が発すると思われる「声」を想像し、より喜んでもらえる様に作品をアジャストしていっていると思います。

しかし、実際の制作においては観客に到達するまでに、様々な「声」を聞くことになります。それは、クライアントであり、プロデューサーやディレクターであったり、作品に関わるスタッフであったりします。


ウェブコンテンツ制作では、「ヒット数の稼げる物を作って欲しい」「企業や商品イメージをより強く印象づけられる様にして」という顧客のニーズがダイレクトに伝えられる事も少なくありません。もっと単刀直入に「人気が出る様に」と言われる事さえあります。実際に、ほぼ全てのコンテンツ・クリエイターはそれらの目標を達成できる様に切磋琢磨しているので、基本的前提の前で発せられる「声」は実際問題あまり意味を持ちません。クリエイターは、うなずいてやる気を見せるだけです。

ただそのリクエストがリサーチに基づき、具体性のあるデータであれば「20代前半の女性の趣味嗜好の傾向」など、ある程度指針にできると思いますので、それは素直に従えばいいかと思います。ただ、結果的に流行をトレースするだけに終わる事もあります。

プロデューサーやディレクターの「こうした方が面白いよね」という「声」は、制作過程において向かうべき方向性を示してくれることが多いですし、その言葉のままに作品を修正する場合も少なくありません。しかし、個人的に注意をしているのは、その「声」が「どのくらいのトーンで発せられているか」です。

僕は作業の工程で「ここは、○○の様にしたほうが良いと思うよ」と提案を頂いた時に、自分が向いている方向性と一致しない場合、そのプロデューサーが「どういうつもりで言っているのか」と戸惑う時があります。ブレインストーミング的な意味合いで軽く発せられているのと、確信に基づいて必要にかられて述べられているのでは大きく意味合いが異なります。

最近では、そのような状況になった場合は、

「『絶対に直せ!』を100ポイントとするなら、今そのご意見を何ポイントくらいのつもりで言われていますか?」

と尋ね返す様にしています。ちょっとしつこい感じがするのも承知していますが、ここで「声」のトーンをポイント換算する事で、お互いが納得して制作を進められるので、後々のトラブルが少なくなったと思っています。ちなみに判断基準としては、自分の中にも「どのくらい直したくないか」ポイントを設定して、それとの比較で折り合いを付ける様にしています。

また、クリエイティブに重点を置いた場合、クリエイター同士、またはスタッフ間での意見のやり取りは大変刺激的になる場合が多いです。「何が出来て、何が出来ないか」「それをやる事に意義があるのか?」「制作者として何が面白いのか」を理解しているもの同士の「声」は耳にも入りやすいですし、学ぶ事も多かったりします。

ただ、制作者間の会話では、テクニカルな事やニッチな部分に入り込んでしまい、観客不在のまま作品だけがマニアックな方向に進んでゆくケースも少なからずあるでしょう。大局的にコンテンツのあり方を考えるのであれば、そこにはプロデューサー的な立場の人の「声」は必要不可欠だと思われます。

そう考えると、理想的な状況としてはクライアントの発する「最終目標」という「声」を実現とするために、観客の「感想」への傾向と対策を練り、プロデューサーの「指針」に耳を傾け、スタッフ間で「プロセス」の意見を交わすという状態が最も健康的なのかもしれません。

実際は、なかなかそのようにうまく行かず、どこかの「声」が非常に大きく、その他の声をかき消してしまったり、意見だけが混在する中、目的を見失ってしまう事もあります。そこで、「どの声に耳を傾けるべきか意識し、情報を整理する」意識をもつ必要を感じています。

それら様々な「声」のある中で、さらに一番影響力の大きい「自分の声」というのもあります。「自分が面白いと思うもの」「自分として譲れないもの」等、絶えず自分に問いかけてくるこの声が一番厄介かもしれません。「自分の面白い」は本当に面白いのか、はっきりと判別する方法はありません。さらに、この「声」はのさばらせておくと「エゴ」に成長する危険があります。逆に完全にスルーしても無個性なコンテンツを周りに言われるがまま作る人になってしまう場合もあるでしょう。

クリエイターとしての「耳」を鍛えるのには、経験が必要に思えます。何にせよ「どんな意見にも一度耳を傾ける」心の余裕が欲しい所ではあります。

生意気言いました。


【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
< http://www.aoike.ca/ >
前回のコラムで触れました僕の名刺代わりになっている作品「CATMAN」がフジテレビ・お台場ランドで順次公開されています。過去の14作品公開後には、新作を公開します。この新作が名刺代わりになるといいのですが……
< http://www.fujitv.co.jp/game/catman/ >

1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。

・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/ >

・連載「創作戯れ言」バックナンバー
< http://bn.dgcr.com/archives/22_/ >

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