ショート・ストーリーのKUNI[33]占い/やましたくにこ

投稿:  著者:  読了時間:6分(本文:約2,600文字)


ぼくの彼女はとても泣き虫だ。三日に一度はしくしく泣きながら電話をかけてくるので、ぼくは気の休まるひまがない。

「あたしよ。しくしく」
「どうしたんだい、ぼくのキューティーパンプキンちゃん」
「いま、ネットで占いをしてたの」
「うんうん、それで?」
「占いの結果をみたら、『あなたはいまの恋人と別れることになるでしょう』と出たのよ、しくしく」
「いまの恋人って」
「あなたに決まってるでしょ、大風呂敷広げほうだいさん!」

断っておくが、ぼくと彼女はネットで知り合った。キューティーパンプキンも大風呂敷広げほうだいもハンドルネームだ。


「怒らないでくれよ、キューティーパンプキン。その占いっていうのは?」
「いくつもの質問があって、それのひとつひとつについて、三つの選択肢からひとつ選ぶの。」
「つまり、その質問のひとつひとつが運命の分かれ道ってわけだな。キューティーパンプキン、君はどこかで選択を間違った。『1』を選ぶべきところで『3』を選んだ。『2』を選ぶべきところで『1』を選んだとか、そういうことだね。君がどんなふうに答えたか教えてくれるかい?」
「いいわよ、しくしく」

「最初の質問は『あなたの休日の過ごし方は』」
「うん」
「選択肢は 1:おしゃれをしてデートに出かける 2:会社の仕事のやり残した分を片付ける 3:お昼まで寝て、午後はパジャマ姿でネットざんまい」
「で、どれを選んだんだい?」
「1に決まってるじゃない! あなたとデートをするのよ! そんなこともわからないの、しくしく」
「ごめんごめん。ぼくが悪かった。次の質問は」
「『レストランに恋人と行きました。あなたが注文するのは?1:恋人と相談して決める 2:恋人にすべて決めてもらう 3:自分の好きなものを注文する』」
「で、どれを選んだんだい?」
「3に決まってるじゃないの! そんなこともわからないの、しくしく」
「ごめんごめん。次の質問は?」
「『恋人からプレゼントをもらいましたが、あなたの好みと少し違います。あなたはどうしますか? 1:喜んで受け取る 2:受け取るが、さりげなく好みでないことを伝える 3:受け取るが、その場で捨てる』」
「どれを選んだんだい?」
「もちろん3よ! そんなこともわからないなんて、どうかしてるわ! しくしく」

「ああ、ご、ご、ごめんよ、怒らないでおくれ、キューティーパンプキン。次の質問は?」
「『恋人が風邪をひいて寝込んでいます。あなたは? 1:ケーキを持ってお見舞いに行く 2:花を持ってお見舞いに行く 3:うつるから行かない』 3を選んだわ」
「次は?」
「『宝くじで100万円当たりました。あなたは? 1:恋人にすぐ知らせ、賞金を分け合う 2:恋人に知らせるが、賞金は1万円だったという 3:当たったことは言わない』 3に決まってるわよね」
「つ、次は?」
「『恋人がほかの異性と歩いているところを目撃してしまいました。あなたは? 1:その場で怒る 2:そっとその場を去り、ひとり悩む 3:どうせ自分の方が魅了的だから気にしない』 これも3ね」
「…次は?」
「『あなたがほかの異性と歩いているところを恋人に目撃されました。あなたは? 1:仕事仲間だと説明する 2:人違いだと言う 3:開き直る』もちろん3だわ」

ぼくはだんだん心配になってきたが、そんなことは言わなかった。

「次は?」
「『地球最後の日、あなたがすることは? 1:恋人と静かに過ごす 2:家族や友人とパーティー 3:いままで食べたことがないものを食べ歩く』これ、すごく迷ったのよ。ねえ、大風呂ちゃん、あたしがどれを選んだと思う?」

急にふられて、ぼくはあせった。どれだろうか? 当然「1」であってほしいが、その確率は低そうだ。いや、地球最後の日なのだから、ここはやはり、でも。いやひょっとして。ぼくの頭脳は最適解を求めて12倍速で回転し始めたがそれを途中でさえぎり、
「2か3ですっごく迷ったのよ! パーティーもすてきだし、でも、最後となったら食べたいものがあるじゃない? ○○堂のスイーツも、××屋の松花堂弁当も食べたことないんだもん。で、とてもつらい選択だったけど、3にしたのよね。これってひょっとして重要なポイントかしら?」

知るか!

「えーっと。これで質問は全部おしまい。で、結果が『あなたはいまの恋人と別れることになるでしょう』だったの。しくしく」

ぼくはこの事態をどう考えるべきか、しばし悩んだ。誰が作ったのか知らないが、この設問はあまりにもあからさまだ。占いといえるかどうかもあやしいレベルだ。結果がどう出るか、だれでも推測できてしまう。これに素直に回答する彼女も彼女じゃないか。でも、現にしくしくと泣いている彼女を前にして(電話だけど)ぼくはなんとかしたかった。ぼくの頭脳はまたしても20倍速で回転を始めた。

すると、ぼくは思い至った。

ひょっとして…この占いは当たってるかもしれないじゃないか?!

「ねえ、ぼくのキューティーパンプキンちゃん」
「ん?」
「その占いは三つのうちから選ぶだけだった? ほかに入力した事柄はなかった?」
「うーん、と…もちろん、最初に名前を入れておくのよ。あたしと、そして、あなたの」
「そのとき、間違えたりしなかっただろうね? いや、万一の場合だけど」
「そんなこと間違えるわけないでしょ! ひどいわ! あたしを信じてないのね! しくしく」
「いや、だから、万一の場合だと…」
「いいわよいいわよ、確かめてみるわ。えっと…あら?! ほんと。あなたの名前を『大風呂敷ひろげまくり』にしていたわ!!! 『大風呂敷広げほうだい』に直したら…ああ、なんてこと! 回答はそのままなのに、今度は『あなたと恋人は永遠に幸せに暮らせるでしょう』ですって! ありがとう!ああ、うれしくて涙が出るわ、やっぱりあなたとあたしはベストカップルなのね! しくしく」

うれしそうな彼女の声を聞きながら、ぼくもうれしかった。たとえ地球最後の日にいっしょに過ごせなくても、宝くじが当たったことを教えてくれなくてもかまわない。ぼくと彼女は占い通り、永遠に幸せに暮らすだろう。ぼくは電話口でいつまでもにこにこしていた。でも、恋人のハンドルくらいちゃんと覚えておいてもいいんじゃないかい? と、口の中でつぶやきながら。

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