デジアナ逆十字固め…[62]彼岸の花/上原ゼンジ

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なぜ自分が「ゆがんだ世界」を写したいのかは分からない。しかし、マグリットの絵が好きだったり、LivePictureで写真を変形させて遊んだりということ好きだったから、何か変形フェチのようなものなのかなあとも思う。

今だったらPhotoshopを使えば画像を簡単に歪めることはできるけど、何かそれだとちょっと面白くない。自分のイメージに従って変形をコントロールするよりも、歪んだガラスのせいで、図らずも歪んでしまった、という偶然性が面白いのだ。


ガラスカッターを買ったり、七輪を買ったり余計な回り道をしていたが、ネットで手作りのガラス小皿を発見してしまったので、とりあえずはそれを使い、フィルター代わりにした撮影をすることができる。

また、以前買ったまま使っていなかったボトルカッターも、ようやく役立てることができるようになった。なぜボトルカッターを買ったのかと言えば、コップの底の部分だけを切り取って使いたかったからだ。しかし、私が切りたかったコップというのはお猪口のような小さなものだったので、サイズが合わずに底を切り取ることができなかった。

私はまた余計なものを買ってしまった自分の愚かさを呪い、ここ何ヶ月かは無気力な日々を送っていた。しかし、ある日100円ショップで何か工作に使えるものはないかと物色していたおり、またいい事を思いついた。

「小さいコップじゃなくて、大きいコップなら、あのボトルカッターで底が切れるんじゃないないだろうか?」

なぜこんな当たり前のことに気づかなかったんだろう。分かっていればチャッカマンでガラスを焙って溶かしてみようなんていう、アホな実験をせずに済んだのに……。

ボトルカッターというのは小さな台にガラス切りの刃が付いたものだ。その台にワインボトルなどを乗せてクルクルと回転させれば、ボトルにくるりと筋が入る。その部分をロウソクであぶり、さらに氷や冷たい水に浸ければ、筋に沿って亀裂が入るという仕組みだ。

私はそのボトルカッターに合いそうな太さのコップを二つ買い、実際に切ってみた。結果は半分成功。半分というのは、切り離すことには成功したが、うまく筋に沿って切れなかったからだ。たぶんカッターで入れた筋が浅かったのだろう。しかし、実用的には問題ないので良しとする。最後に紙ヤスリで切り口を削っておしまい。

WEBのほうに、歪んだガラス小皿を使って撮影した写真をアップしたのでご覧下さい。ギャラリーの「ゆがんだ世界」というタイトルのものです。ちょっと歪み過ぎ? という気もするが、まあまあ面白い感じに撮れた。赤い花は彼岸花なんだけど、この彼岸花はちょっと新しいんじゃない?
< http://www.zenji.info/ >

●写真とは実験なり

なんでこんな実験ばかりしているのかと問われたら、「好きだから」というのが第一の答えだ。いろんな思いつきを試してみるのが、楽しいのだ。第二の答えは毎週締め切りが来てしまうので、苦し紛れにやっている、というのもある。なんかネタはないものかと、知恵を絞っているのだ。

最後の答えは、写真っていうのは実験することなんじゃないの? という考えがある。20年も前に森山大道氏に写真を見ていただいていた時によく言われたのは、「おれが見たことない写真を見せてくれよ」という言葉だ。

これは個人的に言われたのではなく、一緒に写真を見てもらっていた連中みんなに放たれた言葉だ。みんながモノクロで撮影し、コントラストの高いプリントを持ってきていた。つまり森山さんのヘタな真似のような写真ばかりだったから、見たことのない写真でビックリさせてくれ、ということだ。

当時森山さんは「写真時代」で連載を持っていて、フォトグラムをやってみたり、一枚の写真からトリミングで何枚もの写真を切り出したり、といった実験的な写真を見せてくれていた。だから、みんなにもどんどん実験をするように勧めていたのだ。

つまり、物真似ではない新しい写真を見せることが重要だということ。これは発明家とか研究者に似ているかなと思う。今まで誰も考えつかなかったような概念を見いだし、時代を前に進めるという意味でもある。

そういう実験的写真の対極にあるのが、たとえばただのきれいな風景写真だ。風光明媚な場所に、それなりのカメラを持っていけば、きれいな風景は写る。でも、きれいな風景写真が撮れたって「きれいだね、それがどうしたの?」という話だ。風景写真がすべてダメとかって話ではないけど、ドキドキ感はない。

写真に対する取り組み方というのは人それぞれで、みんながみんな実験的で新しい写真を撮る必要はまるでない。でも自分としては写真の実験を続け、見たことがないような写真を提示できないものかと思っている。

【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇上原ゼンジのWEBサイト
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◇「カメラプラス トイカメラ風味の写真が簡単に」(雷鳥社刊)
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