うちゅうじん通信[9]うちゅう人の技法 -序
── 高橋里季 ──

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今日は、おもに技法について書こうと思っていたら、資料集めまでしか書けなかった。

「デフォルメの仕方をどうしよう?」と考えて、私は女性の顔の資料をいっぱい集め始めました。広告写真のモデルの気にいった写真。

いつもだったら、資料集めはそこそこにして、描きたいポーズや顔の角度で自分自身のデジタル写真を三脚を使っていっぱい撮るの。なぜかと言えば、広告写真(フォトグラファーの作品)のモデルを見ながら描くのはイヤなの。絵って、安心してリラックスして描くことがとっても大事だと思う。

自分の写真データだったらパソコン上で試行錯誤ができる。写真Aの身体と写真Bの顔の向きを繋げると、画面の空きがカッコイイとかね。この作業の後に、クロッキーした方が早そうだったらクロッキーする。


資料の広告写真は、写真Aを撮るための資料 1、2、3、だったりする。髪の長さが服のデザインのジャマにならない身体のひねり方は1で、光の方向は2で、とか、風景写真の空の色具合が面白くてドレスの模様のアイデアになったり。

イラストで女性を描き始めた頃は、いろんなポーズの資料や作品データがあれば、自分だけのストックができて、だんだん作業時間が短くできると思っていたけど、この頃は作品が多すぎて、必要なデータを探すより、写真から撮りなおす方が早い。

こういうことを続けていると、似たようなポーズでも、ほんの少しの角度で、今っぽい感じが全然ちがうな〜とか、思う。顎のラインなどは、絵にすると、B1サイズのアップで7ミリ違ったら別人。だけど、今回は(一年前だけど)デフォルメの仕方を変える可能性があるから、髪型の描き方も服の描き方も、絵自体のタッチも全部、未定。

一回目の個展の時は、「曖昧さ」がひとつのテーマでした。それが時代(2〜3年)の旬な気分だと思ったのでした。資料集めは、そういう気分とかノリを確かめるためにも、自分がパッと見て、何を新しいと感じるか、集めた資料を見つめながら考える作業です。



今回の絶望的なコンセプトのために、資料を集めはじめて、すごく「足りない」感じがしました。「曖昧さ」よりも、もう少し「強い感じ」を探していました。仕方がなくて、DVDで美しいと思う女優さんを探して、たくさん見て、そうしても、一瞬の表情しか美しいと思えない自分に気がついたの。

同じ女優さんの斜め右からのアップなのに、この表情はダメでこの表情はイイ。私が過敏になっているだけなのか、ダメな表情は描きたくないほどダメって感じる。

それで、DVDをコマ送りにして、イイ顔を探した。そしたら、ないの。コマとコマの間のブレた一枚を挟む三コマを見ると美しいと思うのに、一コマずつ確認すると、三枚ともダメ。だから、「自分が今、何をイイと思っているか」が把握できなかった。しかたないから、美しいと思う三コマをいっぱい探してみました。

「わかった、わかった、全部、瞳だけが、ブレて、大きく見えるんだ。」美しいと思う一瞬の場面は、驚くほど、不思議なほど、瞳以外はまったく動きがない。瞳ではなくて唇がブレそうな感じがするけど、唇はピクリとも動いていないのに、瞳だけが、ある特定の動きをしている場面ばかりを、私は選んでいたのでした。

もうひとつのパターンは、目もとに影がかかって、一瞬だけサングラスをかけて外したような効果。これは、ずっと前から気がついて、何回も描いてみていた。そんなことをしている時に、リロ&スティッチのスティッチを見て、「負けたわ〜」と完全ノックアウト、ハートを鷲づかみされて、ディズニー恐るべしなのだわ〜、、、とかやっていたわけです。私ったらホントに。

そう、テレビで、動く人を見て育った世代なの。私は。たぶん、親や友だちの顔をじっと見るよりも、映像を見て美的感覚が刺激される脳なのだ仮説。ありのままの自然より、メディアに切り取られた自然を美しいと感じる仮説。

こんなことは、ウォーホルだって気づいていたかもしれない。でも、彼の時代には、たくさんのDVDをコマ送りで簡単に見ることができなかったの。たぶん。瞳はブレて大きく見える。そして、手足がブレると細く見えるのだ。

広告写真の美人や、少女マンガやキャラクターで、私には、イイと思うグラフィックと、イヤだな〜と感じる視覚効果があるんだけど(クリエイティブとしてではなくて消費者的な好みで)もしかしたら、制作側の現実の捉え方が、私とは違うのかもしれません。

そして、私的20才の感動のピカソの、刻々と変わる視点は、構造的に私に現実、虚構、意識、表現などの捉え方を、明確に一瞬にして教えたのかもしれないな〜と、今にして思えばです。そして、分厚い思想書を一瞬にして伝えるほどの絵のチカラを私は今でも信じているのだわ。

【たかはし・りき】イラストレーター。 riki@tc4.so-net.ne.jp
・高橋里季ホームページ
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