電子浮世絵版画家の東西見聞録[13]市場大好き-2
── HAL_ ──

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広蔵市場の露店には、背もたれのないベンチのような長い椅子があるので、そこに座って待つと、焼きたてのピンデトッは適当なサイズに切り分けられ、スチロールのお皿にのせられて出されます(ここではステンレスのお皿は使われず使い捨てのスチロールの器で、環境問題よりは清潔さを重視したようです。ケンチャナヨ!!)。私たちは見ず知らずの人と一緒に細長いテーブルで頂きました。

その日は雪でも降りそうな寒い日、白い息をはきながらピンデトッ食べていると向かい側に座っていたおじさんと視線が合い「今日は寒いねぇ」と目で言い交わします。ここでハングルが話せたらどんなに楽しいだろうかと思いますが、話せなくても通じるものです。


昼間からマッコリを飲んでピンデトッをつまんでいたおじさんは、私にうなづきかけるように紙コップを口に運ぶ仕草をしてくれました。私がそれに対し、こくりと頷き返すと新しい紙コップを取り出し、マッコリをついで渡してくれます。私は「カムサムニダ」と一つ覚えの言葉と、にこやかな表情を返します。これだけで小さな日韓の民間交流が行われます(やはり使い捨ての紙コップだけれど!)。

韓国は寒い国なので、暖をとるためのオンドルが有名ですが、市場の食堂に座りしばらくするとおしりの方から体がぽかぽかしてきました。木の椅子にウレタンにアルミ箔を張ったシートが掛けられているのですが、座っている椅子をよく見るとコードが繋がっているのです。そう、これは電気毛布ならぬ電気椅子!! こんなところにもオンドルの仕掛けがあったことには、びっくり仰天(仰天は古い言い回しか?)。

広蔵市場は、ソウル市民には繊維の街として知られています。繊維街に足を踏み込んだとたん、絹や麻の真新しい生地のにおいが鼻孔の奥をくすぐります。チョゴリに使われる赤や黄色の華やかな色の反物が山と積まれ、小さな子供のためのチョゴリから、結婚式に使われるような豪華なチョゴリ、清楚な法衣までが裸電球に照らしだされ、独特な空間を作り上げています。そんな一角で黙々とハサミを研ぐおじいさんを発見しました。さすがに繊維の街です。
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もちろん反物だけではなく、服に関わる全ての物がこの広蔵市場では手に入ります。市場の中は迷路のようになっていて、そのほとんどが幅一メートルほどの細い通路になっています。しかし、その通路と思われるところもビルの中であったり外であったりと、初めての人間には神秘の森に踏み込んだ状態になり、方向感覚さえ狂わされます。並んだ反物の街から、一歩足を踏み入れると、ボタンやバックルがまばゆい光に照らし出される街に入り、二歩踏み込むとレースやリボン、三歩目にはチョゴリに付けられる、いかにも高級そうな装飾がガラス棚に並んでいたりします。

そんな繊維中心の市場でも食材を扱う店が建ち並ぶ場所があり、例に違わず豊富な食材であふれかえっており、他の市場と違いはなく比較的広い道には露店が出ています。観光客でにぎわう南門市場では通りの中央に作られた店が広がり、客達はその間をすり抜けながら歩いていく感じですが、広蔵市場では比較的ゆったりしています。

鍾路5街駅8番出口のそばのゲートから入ると、そこにはテントの屋根が長く続く通路があります。一度入ってしまうと、外とは隔離されたような不思議な空間ですが、そこから四方に枝が伸びて広がっていきます。この空間がどこに位置するのかわからなかったのですが、中央らしき雰囲気の広場には木とガラスで作られた小さな建物(?)があり、その上からは太陽の光が差し込んでいました。

広い通りにある食材店街も繊維街と同じように、どこからが建物でどこからが外なのかよく分かりません。食材は漬物屋さん、生鮮屋さん、魚屋さん、肉屋さん、と多種多様です。漬け物店の店頭はほとんどが真っ赤に染められるほど唐辛子を使った物が多く、さらに赤い店は唐辛子だけを売っている店で、乾燥した様々な唐辛子や唐辛子の粉が目にしみます。

魚は日本では見ないような物が多く、その中のホンオ(ガンギエイ)を売るご夫婦の写真を撮ったら、この右側に吊してあった大きなホンオを指さして笑顔を返してくれました。ビニールひもですだれのようにつながれた、小振りのタラに見えるカチンカチンの魚は、要望に応じてナタのような包丁でぶった切ってくれます。市場を廻っていると知らない物がたくさんありすぎて、そんな食材の名前を聞こうにも聞くことが出来ない歯がゆさがのこります。

【HAL_】横浜在住アーティスト hal_i@mac.com
Web < http://homepage.mac.com/HAL_i/
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