わが逃走[11]沖縄は、わりと好き。の巻/齋藤 浩

投稿:  著者:  読了時間:9分(本文:約4,100文字)


沖縄大好き! とかいって、スローライフがどーとかこーとか書いてある文章はよくみかけるが、オレ的にどうもしっくりこない。

別に老後に住みたいとも思わないし、今そこで仕事をしたいとも思わない。でも、年に一回、最低二泊三日は必ず行きたいし、できれば秋に二週間くらい滞在したい。いまの仕事のペースじゃ絶対無理だけど。

行って何するでもなく、特に予定もたてずその日思いついたら「今日は沖縄そばを食べに行こう」とか、「備瀬のフクギ並木をぶらぶら散歩しよう」とか、好き勝手に過ごせたらスゲーしあわせ、とか思うのです。

みんなが言ってることだけど、確かに沖縄は時間の進み方が違う。東京と比べて確実にゆっくりと時が進む。一日が36時間か、それ以上あるんじゃないか?以前どうしても沖縄に行きたくて一泊二日旅行を実行したことがあるのだが、それでも、ものすごいゆっくりできたのだ。おそろしい程に。

そういった訳で、私が沖縄に行くときは、確固たる目的をもって行くのです。

1)ぼーっとすること
2)おいしいものを食べること
3)つまんないことをしないこと

そんな訳で、沖縄はわりと好き。


●沖縄のわりと好きなところ。その1《海》

私が初めて沖縄の地に降り立ったのは2000年11月。極親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)が島好きだったので、彼女の仕切りで本島と宮古島に滞在した。そこでまず最初に思ったこと。海の色がヘン。どこかで大量にバスクリンを投入しているのではないか。

これは第一印象というよりも、いつ行ってもそう思ってしまうのだ。まあ、わかりやすく言えば海が美しすぎてびっくりしてしまう。

私はそれまで海が嫌いだった。小学二年生のときに初めて連れて行ってもらった油壺海水浴場は、廃油ボールの浮くゴミだらけの岩場だったので、海とはこういうもんだと思っていたのだ。

それがどうだ。うさんくさいシルクスクリーンの版画に描かれた南の島なんか比較にならない。つーか、比較の対象なんかに挙げたら海に失礼だ。

なんたる美しさ。この美しさが特別なものでもなんでもなくて、この地では当たり前という点がまた美しさをゆるぎないものとしている。

見ていて飽きない。波の形も砂の色も、一瞬たりとも同じじゃない。微細な変化を繰り返しながら、刻々と変化していくのだ。

今年は瀬底島の砂浜で、大きな牛に出会った。飼い主のおじさんと共に波打ち際で夕陽を見ている後姿がなんとも美しかった。すると突然、その牛は凄い勢いで凄い量のウンコをしたのだ。あっと思った瞬間、波がそのウンコをさらい、わずか二波で再びよどみのない美しい海になった。



そうなのだ。そもそも海とはウンコ水溶液なのである。そういえば、水族館で見る魚たちも、年がら年中ウンコしているではないか。バランスを崩さず、適度なウンコの量ならば、それらはきちんと分解され、浄化される。

これぞ自然の摂理。自然を目の前にすれば、難しい問題を解決するヒントを学び取ることもできそうだ。そんな訳で、沖縄の海が好きだ。

●沖縄のわりと好きなところ。その2《沖縄そば》

出汁の味。これにきちんと気づいたのは、沖縄が初めてなんじゃないか。恥ずかしい話だが私は食に関してはかなり無頓着な人生だったのだ。出汁といえば「だしの素」だったし、醤油や味噌などに比べて出汁はインパクトが少ないので、存在を意識せずに素通りしていたというか、その偉大さに気づかない人生を送っていたのだ。

ああ、もったいない。もちろん旨いものは好きでいろんなものを食べてはいたが、「意識」をしていなかった。それを気づかせてくれたのが、沖縄そばだった。

初めて食べたのは那覇にある「御殿山(うどぅんやま)」という、古民家を移築して店舗としている、沖縄そば(この店ではすばという)の名店。どんぶりに入って出された「すば」は一見地味でそっけないようにも見えたが、一口食べて「!」だったのだ。なんだ、この微細な広がり感は!!

砂浜に寄せた波が海に引くと、砂の表面が徐々に色を変えながら細かい泡とともに波の後を追う。舌の上がそんな感じになるのだ。人工調味料は一切不使用とのこと。

そして、ああ、こういうことだったのか、と。海とか魚とか草木や火や動物があって、それらを分けてもらって採ったり煮たり焼いたりした上で私はこんなにも幸せな味わいを得ることができるのですね。

幼少の頃からグルタミン酸ナトリウムに慣れ親しんだ私たちの世代こそ、本物を食べるべきだと気づいたのだった。本物からは、「理(ことわり)」を学び取れるのだ。

どーでもいいけど、「スター・ウォーズ」第一作公開当時、フォースを「理力」と訳していた。凄いセンスだと思う。そんな訳で、フォースを感じる味、沖縄そばが好きだ。

●沖縄のわりと好きなところ。その3《メカ蝉》

いつも秋に行くからたまたま鳴いているのか、それとも春からずっと鳴いているのか。特に調べてないので何という蝉なのかは知らん。でも、あの独特の人工音のような鳴き声は一度聞いたら忘れられない。私はそれをメカ蝉と呼んでいる。

カンカンカン…とかヒャンヒャンヒャン…という風に聞こえる、異国のパトカーのサイレンのような金属質な鳴き声。最初は何の音かわからずホテルの人に聞いたところ、
「……? ああ、蝉ですね」。
どうやらあまりに日常的な音ゆえ、私の質問を理解するまでタイムラグができてしまったようだ。

それ以来、毎年かならずメカ蝉の声を聞きたくなってしまう。ある種の常習性というか、くせになる味(味じゃないけど)メカ蝉の声。昨年録音してきてたまに聞くのだが、ぜんぜん面白くないのが不思議だ。やはり生でなきゃこの味わいは出ないのだろうか。そんな訳で、メカ蝉(仮称)の声が好きだ。

●沖縄のわりと好きなところ。その4《ワゴンR》

別に沖縄とは関係ないんだけど、沖縄でレンタカーを借りるときはワゴンRと決めている。ここ数年。

軽自動車がこんなにも面白い乗り物だったとは! やはり日本独自の規格だからなのか、オリジナリティが随所に見られて楽しい。運転席と助手席の間に何もなくスゲー広々していて、心まで広々してくる。乗り降りしやすい。ちょうど腰の高さにシートがあって、「よっこらしょ」なんて声を出す必要もない。

運転席から後ろを振り返ると、後部座席、さらにその後ろにラゲッジスペース。もう、何でも積めちゃう。天井も高く、視界も広い。モノは小さいのに中は広いってスゴイね。ギャップ萌えっていうんですかい?

高速でもへこたれないし、細い道にも安心して入っていける。小回りがきくし、パワフル。普段私は1600ccの車に乗っているのだが、ほとんど差を感じないのだ。軽のエンジン(660cc)は日本の道路事情に合っているのかも。

エンジンのパワーをフルに使える気持ち良さ! おまけに燃費もいい。小さいワゴンRから見る大きい空と海と山。スバラシイのである。作り手側の創意工夫、設計魂を学びとることができる。これを名車と呼ばずに何と呼ぶ?? そんな訳で、いつかはワゴンR。

●沖縄のわりと好きなところ。その5《固有名詞》

さて、那覇で借りたワゴンRに乗って漫湖のほとりを走る。ちなみに漫湖はラムサール条約の登録地でもある沖縄随一の湖。隣接する公園は漫湖公園。欧文表記はMANKO PARK。一部海とくっついていて(いわゆる汽水域)、満潮になったり干潮になったりする。ちなみに前回行ったときは干潮だった。少し乾いた漫湖。



ところがこの湖、少々カワイソウなのだ。古くからずっと漫湖という名前なのに、なぜかNHKで中継のときに女子アナが「いま私は沖縄本島最大の湿地帯に来ています。この湿地帯は……」と紹介するのである。なぜ漫湖と言わないのか。由緒正しい正式名称なのに。本当に不思議でならない。

近所の素敵な飲み屋で知り合った物知りのA氏(50代・男性)によると、漫湖のほとりの中学校の校歌では、この湖の名前を連呼するそうだ。素敵じゃないか。

このように私は漫湖をじっくりと堪能した後、恩納村(おんなそん)のいんぶビーチ方面へと向かうのが定番コースとなっている。景色はもちろん、漫湖からいんぶに向かっているんだ……と思うと、なぜかシアワセな気持ちになるから不思議だ。

さて、こんな沖縄だが、口がさけても言ってはいけない言葉があるそうだ。ここだけの話、「ホーミー」というらしい。その言葉が何を意味するのか残念ながら私は知らないが、とにかく絶対に言ってはいけない言葉だそうだ。巻上公一さん、どうするんでしょうか。ちょっと心配です。ちなみに日産の同名の車は沖縄地区では違う名前で販売されたという……。

さて、他にも金武と書いてきんと読んだり、城と書いてぐすくと読んだりと、車を運転していると目につく沖縄の固有名詞は独自の文化を感じさせるものが多く、興味深い。これらを導入口として、いずれ沖縄の言葉自体について学んでみたいものだ。なぜ今すぐそうしないかというと、まだ「わりと好き」な段階だから。

とはいえ、古代の日本語に近いといわれる独特の音には人を寄せつける不思議な魅力がある。近い将来、オタク的に調べまくってしまいそうでコワイ。そんな気配を感じつつ、また来年沖縄に行けたらいいなあと思う齋藤浩であった。

そうそう、齋藤で思い出したが、沖縄では齋藤も鈴木も渡辺も「めずらしい名前」なのだそうだ。私が毎年滞在する沖縄本島北部の素敵な宿のオーナー渡辺さん(東京出身)は、領収書の宛名を「渡辺で」と頼んだところ「どういう字ですか?」と聞かれて感動したそうだ。すばらしい! それだけでも沖縄に住む価値は充分あるではないか!!
(このへんは『わが逃走 第1回・自己紹介の巻』参照)

そんな訳で、わりと好きとか書いておきながら、書き終わった頃には沖縄に住みてーなどと思う自分に気づく齋藤浩であった。次回はせめて三泊はしたいなあ。

[さいとう・ひろし]saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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