デジアナ逆十字固め…[67]火を噴く大口径ガラス玉レンズ GX100改
── 上原ゼンジ ──

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この連載では「フニャフニャシフトレンズ」に始まり、数々の名レンズを送り出してきた私ですが、久しぶりにかなりマヌケなレンズの開発に成功したので、本日ここに発表させていただきたいと思います。

今回の新たなレンズ開発にいたる背景には、ビー玉レンズシリーズというのがあります。これは、まあ、ビー玉の中に逆さまに映った世の中を撮影するというイメージ。中心はピントが合うんだけど、周縁部にいくに従いボケてきて、そのボケ具合や歪み具合がけっこうきれいなので、いろいろと実験をしてきた。

普通の透明なビー玉に始まり、レトロな気泡入りのビー玉、天然水晶玉、アクリル球、光学レンズ球など。それぞれに描写の違いがあってなかなか面白い。その中で気に入ったのは天然水晶玉の柔らかな味わい。


その後もインターネットやDIY店で、透明な玉はないかと思ってチェックしてたんだけど、つい最近見つけたのが、クリスタルガラスの玉。東急ハンズ池袋店で見つけたのだが、なぜこれが今まで目に入らなかったのだろう。大きさもいろいろ揃っている。

普通のビー玉のサイズというのは、17mm程度。少し大きめのビー玉には25mmぐらいのものもある。ただ、ビー玉というのは透明度も低く、いまいちレンズには向いていない。アクリル球の場合は大きいサイズのものもあるが、レンズとしての味わいという点からいくと、ガラスの方がいい感じ。そこで、ちょっと高い光学球レンズにまで手を出したんだけど、これは10mmという小さなサイズの物しか入手することができなかった。

できればサイズが大きくて、均質のガラス玉が欲しかったわけだが、今回発見したクリスタルガラスの玉というのが、その条件にぴったり合ったというわけだ。

ビー玉をレンズとして使う場合、ただ一眼レフのレンズをはずして、ビー玉を代わりにつけてもピントは合わない。そこで、マクロレンズをセットしてピントを合わせるのだが、マクロレンズのレンズフードを延長して、先の方にビー玉をくっつけると、けっこう大きな工作物になり、望遠レンズのような大げさな佇まいのものが出来上がってしまった。

今回買ってきたクリスタルガラス玉のサイズは直径50mm、40mm、30mmの三種類。これに私が持っている、マクロレンズ(30mm、60mm、90mm)を組み合わせたり、レンズをひっくり返してみたり(こうするとマクロになる)して、いろいろ試してみたのだが、結局コンパクトデジタルカメラのマクロ機能を使うと、うまくいきそうだということが分かった。

●大口径レンズを携え、お散歩に

RICOH Caplio (キャプリオ) GX100 VF KIT工作に使ったカメラはリコーのCaplio GX100。最短撮影距離が短く、広角側(35mm換算、24mm)で1cmまで、寄ることができる。使うガラス玉が小さい場合、広角で撮影するとケラれる範囲も大きくなってしまうが、今回はガラス玉が大きいので、画面いっぱいにガラス玉内の宇宙を広げることができる。

使用したのは、50mmのガラス玉。けっこう重たいので、きちんとした工作が必要。いつもは菓子箱などを使ったチープな工作で遊んでいるが、それでは重みに耐えきれない。そこでアクリル管を買ってきてノコギリで切り、鏡筒として使うことにする。

GX100にはフードやフィルターを取り付けるためのアダプターが用意されているのだが、これにつなげれば、しっかりとカメラに固定することができる。

出来上がりの写真はWEBにアップしたので、ぜひ見てみて欲しい。鏡筒にガラス玉が半分埋まっているが、あと半分が25mmも前にはみ出した魚眼レンズのようなフォルム。作っていた本人が思わず笑ってしまった、不思議なレンズの誕生だ。

< http://kitschlens.cocolog-nifty.com/blog/
>

今まで作ったビー玉レンズはけっこうデカイし、工作がちゃちかったので、家の中で三脚を使って撮影していた。しかし、今度はコンパクトカメラにしっかりと固定できたので、外に連れ出すことも可能だ。

ただし問題もある。逆さまに映っちゃうんだよねー。ビー玉をのぞくと世の中が逆さまに映るということは、日常的に経験できるけど、それをそのまま撮影しているような状態なので、液晶に映る画像も天地が逆転してしまうのだ。

しかもオートフォーカスが使えない。オートフォーカスだとカメラも困ってしまうようで、ピントは全然合わない。そこでマニュアルでピントを合わせるんだけど、だいたい焦点距離2〜3センチのところで合焦するような感じだ。

工作が完成し、テスト撮影を行った日は雲一つない快晴だった。池袋から北池袋、大山方面へ、東武東上線沿いに歩くことにする。このあたりは「超芸術トマソン観測センター」のメンバーからの情報で、けっこういい感じの地帯であると聞いていた。

とはいうものの、トマソン探査が目的ではないので、街を歩いてもトマソンは一切目に入ってこない。私のアンテナはかなり指向性が強いのだ。で、何を撮影していたのかと言えば路傍の草木が多かった。なぜかは分からないが、ほおって置けば、草木の方面へと寄っていくことが多くなってきた。年かね?

露出はけっこう難しかったので、ヒストグラムを確認しながらマニュアルで行った。ヘンテコなレンズをくっつけられてしまい、カメラもどうすればいいのか困惑しているようだった。

そして、ひじょうに強い日差しの中、逆光で撮影していた時に、その事件は起こった。レンズから一筋の煙がスーッと立ち上がったのだ。

エエッ!!!

とっさに構えていたカメラを下ろす。確かに煙のようなものが見えた気がする。幻ではなかったと思う。考えてみれば、強い陽の光とレンズがあるのだから、光が集められて発火したとしてもおかしくはない。見なかったことにして、そのまま撮影を続けたが、内心はけっこう動揺していた。

レンズや撮像素子が焦げていたらどうしよう? もしそんなことが起これば、その時点で撮影はできないか……。冷静に考えてみれば、太陽に向けてカメラを構えていたわけではない。だから、レンズや撮像素子方向に焦点を結んだというわけではなさそうだ。

鏡筒に黒いパーマセルテープを巻いていたので、たぶん斜めから入ってきた光が、鏡筒の部分で焦点を結び熱くなってしまったのだろう。それにしても、レンズが発火するなんていうことがあるんだな。いや、発火は大袈裟です。ちょっと煙が出ただけなんだけどね。でもすごいショックだよ。だってカメラが燃えたんだから。いや、燃えちゃいないけど……。まあ、いづれにせよ、得難い経験をしました。

GX100には、真四角で撮影できるモードが付いている。撮影したイメージの縦横比が1対1になるということ。そこで今回はこのモードを使って真四角の写真にした。今までは一眼レフに90mmマクロ(35mm換算135mm相当)を使っていたので、けっこうボケてふんわりとした感じに写ったが、今度のは広角側で撮影しているので、もう少ししっかりした感じに写る。透明玉の材質の違いだけでなく、カメラの方のレンズの違いでもけっこう描写は変わるようだ。

また、遠近感が異常につき、寄って撮影するとかなりの歪みが発生する。ちょっとこのレンズオンリーで、いろいろ撮ってみると面白そうだ。作例は「zorg」にアップしてみた。もしこのレンズの真似する人がいたら、火災にだけはご注意を!

< http://www.zorg.com/photo/zenji/
>

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◇上原ゼンジのWEBサイト
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◇「カメラプラス トイカメラ風味の写真が簡単に」(雷鳥社刊)
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