ネタを訪ねて三万歩[36]非公開となってしまった"隠し球"
── 海津ヨシノリ ──

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年末年始の話をするには、あまりにも間抜けなタイミング。本当にタイミングというのは大切ですね。一歩間違えると逆の結果を招き入れてしまいます。早すぎても遅すぎてもダメとなると、本当にナマモノそのもの。私はナマモノが苦手なので、勢いでタイミングをごまかすしかないわけです。でも勢いをつけすぎるとまたまた逆効果。なかなかうまくいきません。

まっ、全てを外してしまっても、本質を一人でも理解してくれる人がいれば合格ではないでしょうか。そのくらいの自己中も時には必要だと思います。そんなわけで、かなり間抜けなタイミングですが、今年も月に一度の「なんの役にも立たないユルーイ」文章にお付き合いください。


●非公開となってしまった"隠し球"

連載34回で書いた「隠し球をひとつ発見」の結論を、35回目にアップする予定でいたのですが、結論を先に言うと「没」になってしまいました。ゲームに例えれば、全てのアイテムをゲット、ボスキャラもクリアして体力も万全。あと一歩、まさにワンクリックすればゴールというところで、通常は出てくるはずのない変則キャラが突然背後から現れ、攻撃を受けて大パニック。かなりの数の助っ人が私をカバーしてくれましたが、予想外の攻撃は防御不可能で、ゲームオーバー。

結果として、最後の審判が原稿アップに間に合いませんでした。正確には間に合ったのですが、12月の私は尋常ではないスケジュールに振り回されていたため、結果を待たずにアップしたというわけです。そんなわけで、意味深な「それ」が何であったかについては、関係各位にご迷惑がかかってしまうために公開できなくなってしまいました。また、この結末を予想できずに原稿ネタにしてしまい申し訳ありませんでした。しかし、いまだにこの「どんでん返し」は理解不能の不快な悪夢です。

とにかく2007年の12月は尋常ではありませんでした。明け六つに起きてそのまま外出し、丑三つ時に戻って爆眠。翌朝は明け六つ起床で昼まで作業&確認メールの送信を済ませて外出。夕方帰宅して丑三つ時まで作業、といった繰り返しの日々でした。食事はほとんど二分で済ませる速攻飯。まさに分刻み状態でした。しかも、そんな状況の時に限って絶対にあり得ない「ナンデ?」というトラブルが発生したりするのは「お約束?」なんでしょうね。

●私の定番映画とは

第三の男「ナンデ?」で思い出したのが、暮れの授業で知った学生達の意外な映画知識。「第三の男」「北北西に進路を取れ」「用心棒」といった名作を知らない学生が多くて、少しびっくりしてしまいました。今は我々の学生の頃と違い、見たいと思えば安価で簡単に鑑賞することが出来るのに、そんな状況は残念で仕方がありません。

もちろん、名作が何であるかは人それぞれですが、映画史に残る作品は一応見ておかないとね。好き嫌いに関わらず。まっ、そんな私も突っ込まれるとかなり怪しいです。とにかく、親の世代の作品なんて普通は無関心が当たり前だと思うと、さすがに40年、50年前の作品は辛いかもしれませんね。

白蛇伝ただ、そんな昔のVFXなどなかった頃の作品でも、意外と迫力があったりします。黒沢明の作品はその典型ですね。アニメにしても、夏休みの定番であった東映まんが祭りの初期の作品は今見ても遜色のない完成度です。特に、1958年から1962年にかけて公開された「白蛇伝」「少年猿飛佐助」「西遊記」「安寿と厨子王丸」「アラビアンナイト・シンドバッドの冒険」の五作品はおすすめです。

私はこれらの作品が、いまだに脳裏に焼き付いています。まさに忘れられない作品というわけです。もちろん、見るのではなかったと落ち込んでしまう作品にも色々と出会っていますが、あれほど悲しい瞬間はないですね。

●似顔絵風イラストが忘れられない仕事に

映画ばかりでなく、普通の生活の中や仕事でも、忘れたいことや、忘れたくないことの繰り返し。例えば明確なコンセプトで受けた仕事としては、初めてとなった似顔絵風のイラスト作成という案件が入りました。点数が多かったこともあり、また、手慣れた仕事というわけではなかったので、イメージをある程度統一させるためのスケッチに、かなりの時間を費やしてしまいました。

それに、情報の多い人と、ほとんどない人との落差が大きいのには参りました。だいたいこんな状況下では、必ずといっていいほど「受けるのではなかった」という後悔の海に沈みそうになります。しかし、仕事なので「外れ」は許されません。そしてそんな気持ちが少しずつプレッシャーに変わるわけです。まさに「早く忘れたい」と感じる瞬間です。

やはりこういった仕事は、慣れているか否かで違ってきます。ただし、そっくりに描くという似顔絵ではなく、イメージを合わせるといったニュアンスでしたので救われたのかも知れません。新しい仕事はいつだって不安と期待の五目御飯(まぜごはん)だと思います。そして、それが私に色々なアイデアと刺激を与えてくれます。

どちらにしても先方は大変喜んでくださったので、かなり気を良くしてしまいました。まさに忘れられない仕事と作品に変貌した瞬間でした。とにかくこの仕事で、今まで曖昧かつ未整理状態であったイラストのタッチが自分なりに整理出来たことだけでも大収穫です。

●MS-Office三昧で脳を刺激

収穫という意味では、クローズなセッションでかなりの少人数の方達を対象に、なんとExcel、Word、PowerPointをレクチャーする事になりました。私はインストラクターの資格はありませんが、実践的必要最低限の機能を速習という括りでの依頼です。案外それは正論かも知れませんね。もちろんWindows環境です。いつもと違うことをするのは脳を刺激するので、いいかも知れません。むしろ積極的にそれを意識しないとまずくなりかけている年齢ですからね……。

例えばクッキー作りは楽しいものの、相変わらずオーブンや電子レンジの使い方で毎回苦労しています。また、居酒屋で流行り出しているタッチパネルによる注文も使いにくくて嫌いです。素直に番号で指定できればいいのに、余計な操作を強要して広告を拝ませるデザインは最低ですね。設計段階では素面でインターフェース開発しているわけですが、使うのは酔っ払いですから。だいたいあれに依存している店の店員さんのミスは、そうでない店より多いと思うのですが、それって気のせいかな?

●写真コンテストの審査員に

気のせいではなくて、5月ぐらいまで「マイコミジャーナル」にて、連続して写真コンテストの審査員を行うことになりました。ふたつのコンテストで合計四つの審査会というわけです。デザイナーやイラストレーターが撮影した写真というのは、写真家とは違う視点であることが多いのでかなり面白いんです。だから声を掛けていただけたようです。実はあまり知られていませんが、私は一時期デザインと並行して、中判カメラ(6×7)で商品撮影の仕事も行っていました。

そのルーツは学生の頃に遡り、ロールフィルムで何100本も撮影したスナップ写真。正直呆れるほど撮影しては自作の暗室で現像、プリントまで行っていました。それではどうして写真家にならなかったのかと言われると、「色々やりたいから」という答えしか出ません。今だったら写真家がデザインしても不思議ではないのですが、当時は住む世界が違うような感じで区切られていました。つまり、その時のタイミングが、色々やりたいと思っていた私に背を向けさせてしまったわけです。

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南佳孝 ゴールデンJ-POP THE BEST◇今月のお気に入りミュージック
"憧れのラジオ・ガール" by 南佳孝 in 1980
"Theme From 'Mahogany'(Do You Know Where You're Going To)"
by Diana Ross in 1975

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◇アップルストア銀座のセッション 2月18日19時より
Made on a Mac として画像処理セッション『海津ヨシノリの画像処理テクニック講座Vol.19 Illustratorのライブ機能をちょこっと小細工』を行います。Illustratorのライブカラーとライブトレース、そしてライブペイントの実践的な使い方を整理・検証してみます。便利な機能だからこそ、色々と工夫しながら仕事の中で遊んでみましょう。(予約不要・参加無料)

【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター
yoshinori@kaizu.com
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●聴講終了と涙腺を刺激した拍手の嵐

聴講していた授業の最後の日、担当の先生と相談の上、聴講を快諾してくれた学生達への感謝の気持ちとして手作りクッキーを持参したところ、大歓迎され多いに盛り上がりました。私としては後期だけの聴講でしたが、多くの学友もでき、授業に連動した本を数冊読破するなど大変有意義な時間を過ごすことが出来ました。

最後のレポートも学生と同じように年末年始に書き上げ、締め切り日までに先生のご自宅に郵送しました。8,000字弱。ちょうどこの原稿の2か月分ぐらいになりました。もちろん単位とは無関係の聴講ですが、最後まで筋を通したいという私の酔狂です。先生にとってはかなり迷惑なことかも知れませんね。しかし、かなり癖になっているので、別の先生の講義も新年度から聴講しようと画策中です。それとは別に、文化論系講義を担当されている先生から授業へのゲスト出演依頼もあり、今年は益々学校で遊び回る年になりそうです。

そして、2007年度から新たに開講したコンピュータ画像処理論の最終講義修了時に、予想していなかったハプニングが発生。なんと学生達から一斉に拍手がわき上がったのです。ディズニーのピノキオを何度見ても、ラストで泣いてしまうほど涙腺の弱い私は、かなり危ない状態になってしまいました。総文字数21万余字、図版410余点まで暴発した62ページに及ぶプリントが影響したのかもしれませんが、とにかくお疲れさまでした。みんなの真摯な授業態度に感謝しています。本当にありがとう。また飲みに行こう!