気になるデザイン[7]怪しい……、書店店頭でのスリスリ運動。/津田淳子

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デザインのひきだし 4―プロなら知っておきたいデザイン・印刷・紙・加工の実践情報誌 (4)私は小さな出版社で『デザインのひきだし』という、デザイン・印刷・紙・加工情報をマニアックに掲載した媒体をつくっているのですが、そんな仕事のせいか、はたまたただ性格的なものか、印刷物が大好きなんです。

もう家中、本や雑誌はもちろん、さまざまな校正紙から印刷の刷り出し、ヤレ紙、各種見本帳など、紙で溢れかえっています。リビングの一角に、四畳半の畳スペースがあり、そこだけ30cm程の高床になっていて、畳を持ち上げると下がもの入れになっているのですが、その中もすべて紙。家人にあきれられつつも、たまに畳を持ち上げて、中に入ったさまざまな印刷見本や紙などを見て、うっとりとしています(なんか改めて書いてみると変人みたいですね……)。


紙ものの中でも書籍が一番好きで、内容が面白そうな本の他に、カバーなど造本が気になる本も次々に買ってしまう。これはどうやって作られているんだろう。どんな印刷・加工手法なんだろうと、気に入った本の表紙や本文をくまなく眺めて、果てはスリスリ触って。そうして気に入った本は見境なく購入してしまいます。

書籍となると値段をほとんど見ないで買うので、レジで合計金額に青くなることしばしば。持ち合わせの現金がなく、カード払いにしてしまうことが多いので、月末に来るカードの明細書に「トーハン」「トーハン」と並んだ文字を眺め、その時ばかりは反省しきりです(トーハンとは書籍の取次会社、つまり卸商のような会社のひとつ)。

そんな私が最近、造本買いした、気になるデザインの書籍の中から2冊ご紹介します。

『カソウスキの行方』(津村記久子著 講談社 1400円)と『空で歌う』(中山智幸著 講談社 1500円)の2冊。これ、どちらもアマゾンなどWebで見ると帯がない書影が多いので、ぜひとも書店店頭で実物をご覧いただきたいのですが、帯にビックリ。どちらも結構繊細な形に型抜き加工された帯が巻かれてるんです。

カソウスキの行方『カソウスキの行方』は帯上部が王冠の上部分のように、円弧が連続する形に型抜きされていて、驚くことに、型抜きされた部分の頂点のひとつが、背の中央にしっかりと位置があっている。製本屋さんエラい! 

空で歌う『空で歌う』も同じように型抜きされた帯なのですが、こちらは帯上部が、街のシルエットのような形。カバー、そして帯の色と相まって、非常に素敵です。デザインした名久井直子さんに伺ったところ、こちらは背の部分は、強度や製本適性を考えて、細かい型抜きがこないように、デザインで逃げを作った、とのことでした。なるほど。

なんともわかりにくい説明になってしまったなぁ……と思ったので探したら、ここに画像がありました。(本やタウン)
< http://www.honya-town.co.jp/hst/HTdispatch?isbn_cd=9784062145374 >
< http://www.honya-town.co.jp/hst/HTdispatch?isbn_cd=9784062145367 >

どちらも普通の帯と同じくらいの厚みの紙で、これだけ細かな型抜きがされていると、書店店頭で折れちゃったり、切れちゃったりしないのかな、と思ったのですが、書店で見た10冊くらいは、どれもそんなことにはなっていませんでした。

どうしてかな? と思ったら、この帯、「コルスネス」という強度のある紙が使われているんですね。コルスネスはスウェーデン製の紙で、主に包装用紙に使われるもの。封筒や包装紙はもちろん、お米や小麦粉、セメント等が入った茶色い袋を見たことがないですか? そうそう、あれに使われている紙です。ちなみに、その紙見本には、「車を吊っても破れない!」とばかりに、コルスネスのこの紙で乗用車がつり下げられた写真が載っていて、その強さをアピールするインパクトは絶大です!

とは言っても紙なので、型抜きされた紙の端を持ってビリビリやれば破けてしまいますが、少しでも強い紙を、という制作者の意図が伝わってきて、それに気付いた時にはちょっと嬉しくなってしまいました。愛情もって作られているなぁ。

とまあ、こんなふうに本の中味以外の部分も愛してやまないわけですが、神保町や表参道付近の書店で本をスリスリしたり、上から下まで眺め回したりしている怪しい人影を見つけたら、それはもしかしたら私かもしれません。見かけたらそっとしておいて下さい(笑)。


【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp
最新刊『デザインのひきだし vol.4』は、表紙が変! 斜めになって折って切ってある黄色い表紙が目印です。特集は「折り/抜き/紙の加工でこんなことできる!」、ぜひともご覧ください。
最近作った本は『デザインのひきだし vol.3』『田名網敬一 デイドリーム』『デザイン・制作のセオリー』『しかけのあるブックデザイン』など。
< http://www.graphicsha.co.jp/ >