ローマでMANGA[8]問題の子・ロベルト
── midori ──

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今回は不安のもと、ロベルトにつき合おう。

●「示唆」でなくて「指示」

ロベルト。「薄い色の髪に銀縁眼鏡、ヒョッロと背が高く、たおやかな感じ」と前回表現した青年。

ギリシャ神話を題材にした話を用意している。孤児が神々に呼ばれているのに目覚めて、オリンポスで修行をして神になる話。何度もお願いした成果で、A4の紙を縦にして、見開きを上下に置く形にネームを描き始めてくれた。

ネームと言っても吹き出しがなく、コマに割って、中に丁寧に絵を描いている。そんなに丁寧に描かなくてもいいよ、と言っても「こういう描き方になれているから……」とそのまま続ける。時々、手が止まって貧乏揺すりをして、持って来た参考書(アメコミ)をぱらぱらとめくったりしている。


「(そんなに丁寧に)描かなくていいよ」というような言い方をしてはいけなかった。それとなく教えては通じない。「だいたいの位置を決めるだけにしてください」という指示を出さねばいけないのだった。

この週は他に作業を進めて来た参加者があって、そちらにかかりきりで、丁寧に描き続けるロベルトをそのままにしてしまった。私の言い方で言って、すぐに理解してくれないと、困惑してしまう新米工房指導者なのであった。

もともとこれは「工房」であって、授業ではないのだから、今更何か教えるという立場はとらないつもりだった。あくまでもサジェスチョンにとどまる。それは、MANGAの構築法に無理に当てはめないで作家のオリジナル性を大事にする、ヨーロッパ風でもいいじゃないか……というつもりだったから。

でもそれでは足らない子がいるわけだった。そこまでレベルが行っていないのがロベルトだった。ロベルトに困っているのは私だけではなかった。本人も困っているのだった。どうして良いのかわからないのだ。

●進むべき方向を示す

次の週。不安がっていても仕方がない。ロベルトをなんとかしなければ。

作業を進めて来た女性陣二人にまずとりかかり、一人はケント紙に下書き開始。もう一人はネームをさらに進めて、ちょっと削ったり台詞の位置をずらしたり、本格的なネーム作りをしている。どうしてもこのエミリアに時間を割いてしまう。でも今週はロベルトだ。

私がロベルトの隣に座ると、ほっとした感じ。今描いている場面を、柔らかくRを発音するしゃべり方で解説してくれる。
「それ、作者にはわかってるけど読者にはわかりにくいね」
「……」
イタリアでは「沈黙は同意の印」と言う格言があるけれど、このロベルトの「……」はまさにそれだね。そこで最初から、一緒に見直して行く。

 主人公の少年が、何度もギリシャの女神の夢を見る。
 その女神のシンボルであるクジャクの羽が、印として枕元に現れる。
 主人公は皆と交わらずに、いつもギリシャ神話を読んでいる。
 池の鯉が、印としての金のコインをくわえて水面に現れる。
 それを悟った主人公が、施設のお金を盗んでギリシャ行きの飛行機に乗る。
 ギリシャに着いて神殿へ行く。

この場面が、最初の見開きで一気に語られてしまうのだ。語られるというより、場面の羅列がロベルトのコマ割りなのだった。主人公の感情ではなく、状況を並べて物語を進めて行くヨーロッパ式にしても、あまりにも急ピッチで、一つのコマから次のコマへのつながりがなさ過ぎる。

「クジャクの羽のシンボルは絵としても美しいけれど、ここに出てくるだけで、後どこにも出てこないのでは、読者には意味が分からないね。金のコインも。」
「じゃ、女神と会う時に女神にクジャクを抱かせるよ。コインの模様を神殿で着せてもらうマントの留め金に使う。」
「うん。ただ留め金をしっかりと見えるような構図にしてね。」

問題はそれだけじゃない。
「主人公が誰とも打ち解けられないで孤独でいる事、何度もギリシャの夢を見る事、大事な要素だけどそれを主人公の感情で語って行くMANGA式だと、これだけで10ページは必要じゃない?」
そうか、ロベルトは100ページくらい必要な話を20ページでやろうとしてるんじゃないか。だって、ギリシャに渡った後、神になるための修行があるんだもの。ロベルトはむしろ神々の事を描きたいのだから。

新人賞の最高枚数は50ページ。そもそも50ページ描く気があるかどうか、その器があるかどうか疑問だ。別の方法を見つけないと、もう2月だし新人賞締め切りに間に合わないのは目に見えている。

最初にロベルトは、ストーリーをかなりはっきりした形で文字で書いてプリントしてきた。書くのがお得意なタイプらしい。それなら……

「グラフィック・ノベルの形にしたら? そしたら言葉でかなり補充できる。こんな風にたくさんコマで割らないで、大事な場面を選んで、大きめのコマにして、それぞれ一枚のイラストのように描き込んで行ったら、このネームをかなり使えるんじゃない?」

あまり表情に変化のないロベルトの顔が、一瞬輝いたようだった。それから饒舌になって、ここにこれをいれて、ここは見開きを使いたいとアイデアが出て来た。

テキストの量と位置をきちんと考えることもサジェスチョンして、もう一人の問題児ルチアーノへ移った。

ロベルトは機嫌が良くなって、あれこれとおしゃべりをした。舌足らずなRと小さい声のおかげで他の子達にわかりにくく、返事をもらえないでいるのが気の毒だったけど、進むべき道が見つかったのは良かった。

グラフィック・ノベルの形が本当に良いのかどうか、やってみないとわからないけれど、ロベルトにMANGAの構築法を2月一杯で身に付けてもらうのは無理だから、唯一の逃げ道なのは確か。

その次の週、ロベルトは来なかった。どんな風になっていくのか見たかったのだけど。さて、次はルチアーノ。

【みどり】midorigo@mac.com
郊外の我が家から、マンガ学校まで車で通っている。学校のそばの元中央卸売り市場の大きな駐車場が、そのまま市の駐車場になっていて都合が良い。この近辺はピッツェリアやパブが多くて、私の授業がある花金(死語?)には車が多くなる。ローマ人は駐車場所をでっち上げるのが上手で、この駐車場も並列の正式駐車の後ろに一車線分のスペースを残して縦に駐車するのが花金の夜恒例。おかげで、正式駐車をする私の車の後ろにはわずかなスペースしかない。

しかも私が乗ってるのはステーションワゴン。2月15日のことでした。ハンドルを切り替え切り替え出ようとして、縦駐車の車にお尻をぶつけてしまった。はい、神様、そのままトンズラしようとしたのは私です。そこに神様は、小うるさいおじさまに扮した天使をつかわしてくださいました。

天使曰く「あなたはこの車に被害を及ぼしましたね? そのまま行ってしまうのですか? それが正しい行いですか?」。天使の諭しに私は「私がしました」と書いた名刺をワイパーに挟んで帰りました。

翌日、車の持ち主から電話があって「今時めずらしい正直な方で、感心しました!」「……」
保険を使わずに修理代を立て替える事で話をつけた。話をつけたのはダンナだけれど。事故って保険を使うと保険代が跳ね上がるので。

金曜の夜、口をきいてくれなかったダンナだけれど、ただでさえやりくりに困ってるのだから、この余計な出費はほんとに余計なのはよくわかってます。はい。「車の長さがわからないのか!!」と怒る旦那様、怒られてもわかりません。本当に。女性脳がそうらしいから、私は本当に女性らしいということになる……次回は、アクセルを踏み込まないでゆっくりハンドルの切り替え切り替えをします。はい。

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