伊豆高原へいらっしゃい[11]犬の多頭飼い突入
── 松林あつし ──

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犬と私の10の約束今巷では「犬の十戒」という、作者不詳の短編詩が広まっていますね。僕は「犬と私の10の約束」という映画の宣伝を見るまで、その存在を知りませんでした。単なる10編の「犬を飼う上での注意事項」のようなものなのですが、犬が本当に語りかけてきているような気がして、ぐっと来ます。原文は英語なので、翻訳者によってニュアンスが微妙に違っていますが、映画の中で使われいる解釈が、要点を単純化してあり、表現も柔らかくしてあるので、一番分りやすいのではないでしょうか。

実は、一か月半ほど前から二頭目の犬を飼い始めました。一頭目の「チョコ」は前にも書いた通り、やんちゃで活発なジャック・ラッセル・テリアです。そして二頭目はトイプードルとミニチュアシュナウザーのハーフで、生後二か月ちょっとの子犬でした。飼い始めた時は真っ黒だったので「ピアノ」と名付けました(その後どんどん色が変わり、今ではシルバーグレーになってしまいましたが)。


二頭目ということで犬の飼い方もわかっているつもりでした。しかし、チョコがうちにきたのは生後八か月の時だったのに対し、ピアノは二か月……子犬は初めてだったです。やはり、子犬だからこそ気をつけなければいけないことなど色々あり、多少戸惑いました。

まあ、それでもチョコの時の経験は大いに役立ちました。家に来たときの反応はチョコの時と同じだし、トイレのしつけや「あま噛み」の対処などは同じです。ただ、大きさが全然違います。僅か1kg……手のひらに乗るような大きさだし、なでなでしても背骨が手のひらに当たり骨と皮だけみたいな感じです。扱いも慎重になります。

チョコとピアノ
< http://www.nexyzbb.ne.jp/%7Epeppy_atsushi/digi_cre/08_03_27 >

そんなピアノもうちに来て一か月半……体も倍ぐらいになり、チョコに負けない早さで走り回るようになりました。少々壁にぶつかっても、ソファーから落ちてもへっちゃらです。やっぱり犬は元気に走り回るのがいいですね。しかし、活発で無邪気なピアノが来てから、元気が取り柄だったチョコに大きな変化が起こったのです……

ちょっとその前に、何故二頭目を飼ったのか、というお話をしたいと思います。

なぜ二頭目を? と言われれば「チョコが一人だと寂しそうだったから」と答えますが、それは人間の勝手な思いこみかも知れません。しかし、普段僕は仕事場にこもり、チョコの相手をしてあげられるのは朝晩の散歩と食事の時、夕方のテレビを見るときぐらいで、その他の時間チョコはずっと寝ています。それがやはり寂しそうに見えるのです。

しかし、ピアノがうちに来て、二頭で楽しそうに遊び、疲れると仲良くお昼寝する姿を想像していた飼い主は、期待を裏切られます。ピアノは最初から人間大好き、飼い主大好き、まわりは楽しいことだらけ……って感じではしゃぎまくり。しかし、チョコは最初こそしっぽを振って喜んだものの、数日するとこの訳の分らない「黒い毛玉」をどう扱って良いのやら、という感じになってしまいました。

これが「おもちゃ」ではないことは良く分っているようですが、かといって姉妹でもなければ、親子でもない。突然家にやって来て自分の好きなソファーの上で、大きな顔をしている。定位置の飼い主の膝の上で好物の「骨型ガム」(通称ホネホネ)をかじってる。それどころか、チョコが遊んでいるオモチャを横取りする、ホネホネを横取りする、顔やおしりに噛みついてくる……段々と煩わしくなって来たようなのです。

チョコは優しい犬です。相手が自分より小さな子犬だと分っており、本気で噛みついたり排除しようとしたりはしません。だからこそストレスが溜まっているようです。ピアノに攻撃されるチョコは「あう〜ん」と悲しげな悲鳴を上げるばかりで防戦一方……ピアノはますますつけあがるばかりです。

実は「チョコの変化」というのは、ピアノが来てから、ほとんどはしゃぐ事がなくなったという変化なのです。活発で明るく元気が取り柄のジャック・ラッセル・テリアが、おとなしくなってしまい、遊ぶこともあまりせず、ピアノに奪われたオモチャをじ〜っと見ているだけなんて、今までは考えられませんでした。

もちろん人間側も、多頭飼いの鉄則「目上の犬をまず立てる」を忘れず実行していますが、なかなか理解してくれません。ですので、最近はあまり干渉せず、犬のことは犬に任せようと思っています。

それに年齢的には大人になる時期ですので、ピアノがいなくても、そうなったのかもしれません。しかし、少なくとも飼い主が想像した多頭飼いの姿ではありませんでした。

そもそも、チョコは新しいオモチャでは楽しそうに遊んでいましたが、人間との遊びには興味がありませんでした。なので、公園でボールを投げたり、フリスビーをしたりという遊びはチョコにはできません。原因としては、半年以上もペットショップの狭いケージに閉じこめられていた事が考えられます。周りには沢山の犬がいましたが、直接コミニュケーション取れませんでしたし、当然その間、人間と遊ぶという習慣も付きません。考えると可哀想に思えてしまいます。

しかし! これが飼い主の一方的な思いこみなんですね。つまり、物心ついた時からずっとケージに入っていたという事は、本人にとってそれが当たり前だったんです。もちろんそんな環境で一生過ごすなんて事は悲劇ですが、だからといって、チョコが寂しがっていたと考えるのは人間のエゴかも知れません。

昼間一人でずっと寝ている……寂しそうだからもう一頭飼おう……これはあまりにも安直な考えでした。チョコの幸せは、時々遊んでくれてちゃんとご飯をくれる飼い主がいて、好きなソファーの上でじゃまされず昼寝することだったのかもしれないのです。

ここで、冒頭の「犬の十戒」を引用させていただきます。
(コンテンツの二次利用が可能なWikipediaより引用させていただきました)
< http://ja.wikipedia.org/w/index.php?&oldid=18627751
>

1・私の一生はだいたい10年から15年。あなたと離れるのが一番つらいことで
  す。どうか、私と暮らす前にそのことを覚えておいて欲しい。
2・あなたが私に何を求めているのか、私がそれを理解するまで待って欲しい。
3・私を信頼して欲しい、それが私の幸せなのだから。
4・私を長い間叱ったり、罰として閉じ込めたりしないで欲しい。あなたには
  他にやる事があって、楽しみがあって、友達もいるかもしれない。でも、
  私にはあなたしかいないから。
5・話しかけて欲しい。言葉は分からなくても、あなたの声は届いているから。
6・あなたがどんな風に私に接したか、私はそれを全て覚えていることを知っ
  て欲しい。
7・私を殴ったり、いじめたりする前に覚えておいて欲しい。私は鋭い歯であ
  なたを傷つけることができるにもかかわらず、あなたを傷つけないと決め
  ていることを。
8・私が言うことを聞かないだとか、頑固だとか、怠けているからといって叱
  る前に、私が何かで苦しんでいないか考えて欲しい。もしかしたら、食事
  に問題があるかもしれないし、長い間日に照らされているかもしれない。
  それか、もう体が老いて、弱ってきているのかもしれないと。
9・私が年を取っても、私の世話をして欲しい。あなたもまた同じように年を
  取るのだから。
10・最後のその時まで一緒にいて欲しい。言わないで欲しい、「もう見ちゃい
  られない。」、「私ここにいたくない。」などと。あなたが隣にいてくれ
  ることが私を幸せにするのだから。忘れないで下さい、私はあなたを愛し
  ています。

チョコは時々思慮深い目で飼い主を見ます。何を訴えているのか、どうしたいのか、人間は想像するしかありません。しかし、その想像は的外れかもしれませんし、本人は何も考えていないのかもしれません。大事なのは犬に多くを求めすぎず、ただそこにいるだけでお互いに幸せである、という関係を築けるかどうかだと思うのです。

【まつばやし・あつし】pine2656@art.email.ne.jp
イラストレーター・CGクリエーター
< http://www.atsushi-m.com/
>

photo
犬と私の10の約束
川口 晴
文藝春秋 2007-07-28
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