音喰らう脳髄[47]はなみの話/モモヨ

投稿:  著者:  読了時間:4分(本文:約1,500文字)


はやいもので、すでに花の頃も過ぎようとしている。

近隣の学校では今週あたりが入学式のピークになるようだ。が、ここ何年かと同じく、花は落ちつつある。妙に季節感がふぞろいなのは、こんなご時勢、いたしかたないことなのかもしれない。

桜花もひともとの山桜の下などということなら風情もあるが、大量の桜花、雲のように横にたなびく枝が交錯した満開の花の下というのは妙に非現実感というか、歩いていても奇妙な浮遊感を感じる。あいまい模糊とした霧のようなモノが空間を支配しているような気味があり、植物の魔力じみた力を感じる。むせ返るような生気のあつくるしさを感じさせるせいか、私はあまり好きではない。


杉の花粉が人間の健康を左右するのはプリオンのせいかどうか、ここ何年か論争になっているようだが、それはともかく、杉の花粉が悪者で、桜となれば、先を競ってそれを浴びに行くのは、どうも納得がいかない。むせ返るほどの生の祭典の下、そのもとで酒をのみかわせば、当然ながら魔につけいられる。そうに決まっている。だから、この季節、私はそういう場所には近寄らないことにしている。

しかし、先週末、ひょんなことから、そうした中を半日近く右に左に彷徨せねばならぬ羽目となった。知り合いの老人が花見にでかけ、団体からはぐれて行方不明になったというのだ。それも真昼を過ぎたころ、午後三時過ぎに、である。聞くだに怪しい話ではあるが、とりあえず、電話連絡を受ければ出かけるほかはない。気はすすまないが、重い足を運んだ。

案の定、花見の参加者はみな出来上がっていて鼻と頬を赤く染めている。いや、他の客もみな似たようなもので、大半が鼻を赤くした老人たちだ。これでは花見ならぬ鼻見だ、などと嘯きながらも、私は、付近を歩いて話を聞いて回った。

私は、夕刻近くからそんな花見の現場である満開の桜の下、花しべと花粉が降るなかを右へ左へと走り回り、あちこちで事情を聞いたが、花見客の語るところは、どれもこれも曖昧で、話をきけばきくほどに狐につままれたような気分になる。同行した花見の一団の話しぶりからして、どこかに違和感があった。

その行方不明者についても、みなが微妙に言うことが違う。失踪者が忽然と姿を消したのは確からしいが、それ以外に、どうも妙だ。皆がはっきりモノをいわない。春になると突然病気が出る人もいるから、誰かが言い出したのを皮切りに、皆がボケの予防対策を開陳しあう始末である。最近の老人は妙に薬物に詳しい。皆がカタカナの薬名をそれぞれ口に出すのだが、私とすれば、それに感心するよりも、ことの頓珍漢な成り行きに呆れるしかない。

それにしても、あまりに見事な桜の咲きっぷりだ。夕闇が降りるころには体中から桜の花粉の香りが染み出そうな気分になった。もちろん気持ちのいいものではない。逢う魔が時、である。結局、七時をすぎても失踪者は見つからず、後を警察にまかせて帰ってきたが、顛末は、あっけないものだった。その夜、失踪者が何事もなかったように家に帰ってきたのである。

聞いてみればなんのことはない。花見の席でちょっとした諍いがあり、面白くないので退席した。これだけのことである。当然、諍いの相手は、そのことを知っていたはずなのだが、警察や私たちの捜索が始まったために言い出せないでいたようなのだ。人騒がせな話だが、とにかく、見つかってよかった。

花の季節に欝欝するのは健康に悪い。

Momoyo The LIZARD 管原保雄
< http://www.babylonic.com/ >

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