装飾山イバラ道[12]パリ旅行記(2)ルーブルの装飾美術/武田瑛夢

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ルーブル美術館は、広大すぎて全部回るには数日はかかるという。ガイド誌に載っているおすすめルートをたどるだけでもけっこう大変なものだ。今回は、ツアーではないので、どこでも見たいものからゆっくりと見られるのが利点。

私は自分のWEBサイトに「デコラティブマウンテン」という名付けたほど、デコラティブなものが大好きだ。ルーブルのように古い時代の作品が多い美術館でも、見たいものは絢爛豪華な室内装飾。そういったコテコテのデコラティブなものを刺激的に味わうには、最初から見た方が良いと思ったので、順路を決めていった。好きな食べ物は、まだお腹がすいているうちに食べた方がおいしいですもんね。

ということで、ガイド誌にも載っているナポレオン3世の居間や太陽神アポロンのギャラリーを、初日のメインとしてまわることにした。ルーブル美術館は全体をいくつかに分けて「○○翼」という名前をつけている。「リシュリー翼」がナポレオン3世の居間を含む展示室だ。ここには、あらゆる時代の美術工芸品がある。


展示室はいくつもの部屋に分かれていて、家具調度品や宝飾類を見ることができる。特に17世紀以降の家具や食器の美しさは、贅を極めていて素晴らしい。最初から力を入れて見ていては時間もかかるのに、ついつい足を止めて見入ってしまう。いちいち目が釘付けになってしまうので歩くのが大変だ。

たんすのような家具の引き手金具の装飾や、足となる部分に鎮座するライオンなど細部に至るまで凝りに凝っている。私は日本でもアンティークの宝石やカメオを見るのも好きだけれど、アンティークショップというのはさほど広くなくても全部見るのには時間がかかるものだ。小さなガラスケースをじっくりと視線を移動させて見るし、小物と自分が静かに対話するような感覚。特に際立つものは特別に囲まれたスペースに置かれていたりする(値段も高い)。

それがルーブルでは、広大なスペースに数多く置かれたガラスケースに入っているもの全てがとびきりの品々。どんなにケースの端にあるものでも時間をかけて見るだけの価値があるものだ。値段のつけようがないような逸品ばかり。デジタルカメラで全体写真、細部の写真を撮っていく。今回の旅行では失敗を含めてトータル1000枚位の写真を撮った。

家具類で一番のお気に入りは1819年制作の「化粧台」というもの。シャルパンチエ夫人の依頼で、ニコラ=アンリ・ヤコブが設計したドレッサーで、クリスタルのカットが美しい透明なドレッサーと椅子のセットだ。まるで、お姫さまの使う鏡台そのものというかわいらしさ。そして、すごく保存状態もよくてキラキラしている。

枠や台座は金色で縁取られていて、色はゴールドと透明しか感じさせない。最近のおしゃれなインテリアショップにもアクリルで作られた家具があるけれど、この時代に「透明の家具」とは、なんて素敵なんだろう。現物の綺麗さは写真に全然写らないのがもったいない。
・化粧台
< http://www.eimu.com/dgcol/dres.jpg >

多くの美術品を見歩くにつれ、さすがに流して見られるようになって来る。写真にもテーマが必要な気がしてきて、装飾に多く使われる「動物」、特に「ライオン」ばかりをバシバシ写真に収め始める。ライオンは私の絵のモチーフでもあるし、こんなにいろいろなライオンの装飾品を、しかもレベルの高いものを見られる機会はめったにないので嬉しい。
・けなげなライオン
< http://www.eimu.com/dgcol/leo.jpg >

この「リシュリー翼」で一番多くの人で混雑していたのが、アポロンギャラリーと呼ばれる61メートルの細長い部屋だ。壁面からはじまった金色の漆喰装飾が天上へと伸び、いくつもの絵画で埋め尽くされている。バロック様式の極みとも呼べるような部屋だ。

ルイ14世が、ヴェルサイユの前にルーブル宮を考慮に入れていたというのもなるほどと思う。実際にヴェルサイユにある「鏡の間」のモデルにもなっていて、自分の撮ったデジカメ写真でもこの二か所は似ていて、どっちがどっちか混乱する。
.アポロンギャラリー
< http://www.eimu.com/dgcol/apo.jpg >

こういった部屋は、総装飾づくしといった感じで、すっきりした壁面がどこにもなく、絵と扉の間や壁と天上の間にも、すべて金彩の模様や立体浮き彫りの人物で埋まっている。その装飾は、天上でピークに達するかのごとくまとめられている。

どんな時代でも、この天井を見上げる時の感覚は、見る者の思考に大きな影響を与えていたと思う。それは旅行の終わりの頃に行った、ノートルダム大聖堂でも実感した。人を大きく包む空間の力は、宮殿では権力を示すのに使われ、寺院では信仰心を高める作用があったのではないか。

1861年に完成したナポレオン3世の大広間にも、ルイ14世様式が使われている。金や彩色天井、豪華な絨毯などがあり250人を収容できるという。中央にある巨大なシャンデリアも、振り仰ぐゲストを上から包み込むパワーがある。

当時最高の技術を使ったシャンデリアは、見る者を圧倒したに違いないし、それは「未知との遭遇」の光り輝く円盤のように、何だかとてつもない。当時の人が見ても、自分の知識を超えたところにあるものを作ってしまった人がいるという感覚だったのではないだろうか。憧れや嫉妬、感銘の入り混じったような気持ち。
・シャンデリア
< http://www.eimu.com/dgcol/npo.jpg >

ルイ14世自身も、当時の財務長官であったフーケという人物の城での宴に招かれて、その城の素晴らしさに激しく嫉妬したという。後に横領による罪でフーケは投獄されるのだけれど、フーケの城の調度品のほとんどはルイ14世によってヴェルサイユへ運ばれたというのだから、よほど強い思い入れがあったらしい。

他国の王にも自分の力を認めさせたい。最も効果的なのは、自分の作ったもので包み込んでしまうことだ。ヴェルサイユ宮殿を作るヒントは、自らの過去の感情にもあったのではないか。誰かが作ったものに刺激を受けて、さらにその力を自分に取り込んでいく。それは支配する側も、作り上げる職人たちにも言えることだと思う。

私はクリエイターなので、どうしても技術や完成度に目がいってしまい、権力的なことを考えるのは後回しになりがちだけれど、今回はそういうことを同時に考えざるを得なかった。パリの歴史的芸術品とは、そういうものなのかもしれない。

次回はヴェルサイユ宮殿編です。

【武田瑛夢/たけだえいむ】 eimu@eimu.com
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武田 瑛夢
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