デジクリトーク フリーの身で骨折して絵を描くのはハッキリ言って大変っぽい/武藤 修

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フリーでイラストレーターをやっている武藤修です。

フリーと言えば何となくそれっぽい(どれ?)わけですが、結局仕事がなければ無職と同じ、病気や怪我して仕事が出来なくなればこれまた無職同然という、体が資本の職業です。

そんな自分の環境を思い知らされたのが今回の骨折で、手術とリハビリ生活の半年間がスタートした「フリーの身で骨折して絵を描くのはハッキリ言って大変っぽい」のお話です。


当日、週末の仕事も終え、プレゼンも通ったので、いつもならバスで出かける所を自転車に乗って出かけ、調子こいてバスと競争してたんですねー、いい歳こいてるのに。

抜きつ抜かれつのいい勝負でした(笑)。デットヒートの最中、歩道と車道の段差に前輪が捕まってしまい、走馬燈のように、いや、マトリックスのように時間の感覚がスローになり、前方に放り出される自分。

歩道に落下した私の上を、愛車が飛び越えていきます。体の左側面を強打し、しばし起きあがれず……。何とか立ち上がり左肘を触ってみると、思いっきり腫れてる、いや、異常に腫れあがってる。

その時点で骨折は覚悟し病院へ。結果は、「はい、左肘の骨折ですねー、入院手術になると思いますが、週末なので月曜日にもう一度来てもらって日程決めましょう。今日は帰宅して下さいねー。」

えっ、月曜日までこのまま? え、入院と手術? え………。めでたく人生初手術の運びとなりましたー。簡易ギブスしたのでじっと、ホントにじっとしている限り多少痛みは和らいでいるのですが、帰宅後横になれません。

しかも仕事色々入ってるんだよねー。目先の仕事は一本キャンセルだなー、クライアントには迷惑かけてしまい申しわけない。レギュラーの仕事はやらないといけないので、骨折当日も仕事しました。他の仕事も何とか納品したいし、病院でパソコン使えないかな。MacBookは持ってないけど、使えるなら買っちゃおうかなー。

まずは医者に交渉して、一日二日程度で退院させてもらわなきゃ。講師をしている学校も二回休ませてもらい、間近かの展示会も断念。自営業のつらいところですね。

幸か不幸か、週末のために即入院でなく中一日の猶予が与えられたので、翌日の日曜日に、入院中でも仕事なるべく進めるためにMacBookを購入。はい、骨折の翌日、奇しくも骨折前に自転車で向かった目的地の量販店にタクシーで行き購入しました。

この時点で入院の費用は出ていく、仕事は少なくなるので収入は減る、しかもMacBookを購入という出費も加わり、収入と支出のアンバランスさはピークに達しました。

そして月曜日に再診察。肘の複雑骨折で手術と入院(一週間から十日程)が必要ということに………。一日二日程度で退院させて、という甘すぎる考えは無理という事が判明。

医者「明日入院、翌日検査し、明々後日手術しましょう。局部麻酔は痛いこともあるので全身麻酔で。」
私「………え、全身麻酔ですか。ちなみに肩も打ったので、肩もすんごっく痛いんですが。」
医者「そうですかぁ、骨折はしていないと思うけ………あ、ここ、肩胛骨も骨折してますね」
結局左肘の骨折に加え、肩胛骨も骨折ということになりました。

個室も用意できると言われましたが、6人部屋をお願いしました。退屈な入院ライフ、普段は会えないような人たちと話ができたので、それに関しては正解でした。

入院中、手術前は検査以外は夕方までパソコンで仕事、しかし術前後24時間は点滴、そして麻酔医による麻酔事故に関する告知で軽くびびる……。手術当日はベットごと移動して手術室へ。裸でいろんな物を装着された後、点滴用チューブから麻酔剤を注入し10秒程で爆睡。気がつくと手術は終わり、左腕にはギブスされてレントゲン室へ移動。

意識もうろうのまま、その後は病室へ。当日夜は、隣の人の強烈なイビキと前の人のリアルな寝言と発熱で眠ることが出来ず、恥ずかしながら看護師さんに座薬で熱を下げてもらい、朝方にはウトウトと。

翌日はカテーテルも抜いてもらい点滴のチューブのみとなり、ちょっと楽になりましたが、点滴と言えば一度かなり空気が入ったんだよねー、極力入らない方が良いはずだけど、なんかこわかったな。

ちなみに腕にはワイヤーが大小数本入っており、抜糸に二週間、ギブス取るのに一か月、リハビリやって、ワイヤー抜くのは三か月後という予定でした。手術では、けっこう骨がバラバラになっていて、拾い集めてくれたそうですし、麻酔からなかなか目覚めなかったようで、予定の一時間半が二時間半かかったみたいですねー。

手術後は、ギブスの中で腕が腫れているので数日は仕事にならず、腫れがひいてからようやく仕事も出来るようになりました。で、保証のない自営業ですので仕事のためと頼み込んで、六日間で退院させてもらい仕事開始。

検診の時、肘よりも肩が痛いのでその事も言うと、緊張しているのでしょうね、肩は動かしてもかまいませんと、ギブスを持ち上げて上下左右に動かす……あの…私……肩胛骨、骨折してるのですけど??? はい、主治医は完璧に肩胛骨の骨折忘れてます。ちなみに、その後も検診時毎回忘れます。

手術した肘は憶えてるけど、肩胛骨はなにもしないので忘れちゃうんだよねーって……。肋骨同様ギブスはしないので、そのまま治癒するのを待つだけなのですけど、たまには思い出して欲しかったな。

そんな中でも、仕事はしないとますます収入がなくなり生活も出来ませんので、働きます。とはいえ、退院直後は体を動かすだけで腫れてくるので、クライアントには近所まで打ち合わせに来てもらうか、なるべくメールで終わらせることに。当時は多くの編集の方に来てもらいましたねー、そのままずっと来て欲しかったけど……。

右利きなので、絵を描くこと自体は致命傷にはならないことは幸いでした。それからギブス後気がつきましたが、左腕は小さく前にならえ状態で固定だったので、ショートカット使うためのキーボード操作はまったくできなかったんですよ。

なのでキーボードでショートカット使うために、ボルトと10円玉で重りを製作し「左指初号機」と命名、後に100円玉、10円玉、1円玉を重ねて、テープでとめた「零号機」を完成させ使用。時間はもの凄くかかりますが、利き腕でなかったためにクオリティーは落とさずに、何とか仕事出来ました。

約一か月後、無事にギブスも取れ、手首も動くようになりショートカットも押さえることが出来るようになりましたが、手首を中心にゴム手袋のように腫れ、腕は90度曲がった状態でほとんどそれ以上は曲がりません。伸ばすのは骨が痛むし……完全に筋肉固まってます。

手首も同様で、リハビリはやはり重要だと思い知らされてます。腫れのひいていない腕は、ほとんど別物のデフォルメされたデザインの腕のようになっておりました。

そして自宅での二週間のリハビリにもかかわらず、まったく動かない肘のため、病院通いのリハビリが開始。ビビリの私としては、うめきながらのリハビリイメージが出来上がっていましたが、マッサージで筋肉をほぐし、肩、腕、手首まで全体の運動を、どんな運動か説明を受けながらやるので案外と楽でした。

もちろん、曲げ伸ばしには多少の痛みはありますが、マッサージしながらなのと、先生の絶妙な加減もあり、「うっ」程度でピタリと止めます。いやぁー、何も知らないで曲げ伸ばしやっていたのとは違うね。自分的には曲げるより伸ばす時の方が激痛がおこりやすいので、心配していましたが、伸ばす方が結構伸びて、曲げる方がなかなか頑固だということも判明。

一時は、一生肘が動かないのでは……と思ったこともありましたが、努力のかいもあり、少しずつ曲げ伸ばしの角度が大きくなってきて、顔にも触れるようになる頃には、リハビリも楽しくなって前向きな気持ちに。

その後約三か月のリハビリも一応終了となり、曲げる方も伸ばす方もまだ完全ではありませんが、それなりに力を入れても大丈夫のようで、先生もリハビリ中ここまで力を入れることが出来るのは珍しいと誉めてくれました。

さぁ、最後は肘のワイヤーの除去手術です。局部麻酔の手術ですが、パンツ姿に手術着、手術台に寝て心電図装着、右腕には血圧計、足の指にも血圧計(?)を挟みます。局部麻酔だから、意識のある手術です。

ちなみに、右腕はというと、たまに痛がって患部をかばう人がいるのでと、マジックテープで手術台に固定されました。え、そんなに痛い場合があるんだ。しかし、全身麻酔の時もなかなか目が覚めなかったし、麻酔はよく効く方みたいで、まったく痛みなし!! ですが、押したり引いたりペンチで針金切って引き抜く時の振動など、何とも言えない気持ち悪さはありますね。

切開から縫合までは20分くらいだったか結構早かったですし、手術中も医者や看護師と談笑しながらの和やかな雰囲気。戦利品として、腕の中に入っていたステンレス製ワイヤーを二本もらってきました。

こういう急な事はこれからも起こりうるので、そのための備蓄は日頃から考えておかないといけないということは痛感しました(金銭的な蓄えは相変わらずないのですけど……)。

そして、もし腕の怪我が利き腕だったら、数か月間は仕事も出来なかったということ。レギュラーの仕事はなくなり、お世話になっているクライアントも離れてしまう、そういう現実もあったかもしれません。

体が資本の仕事では、不注意によるちょっとした怪我でも、仕事上の致命傷になる場合もあるし、ましてや歳を重ねるにつれ、病気、子供にかかる費用、そして親の介護問題も現実となる日は近づいています。

市の高額医療費補填、生命保険からの保険金なども入ってきますが、それでも今回はけっこう出費はかさみ、仕事も減らさなければいけない負の相乗効果。フリーの人間が安定した生活を送るためには、病気や怪我には細心の注意が必要と痛感しました。とりあえず、バスとの競争はやめることにします(笑)。

【むとう おさむ】イラストレーター
企業、雑誌表紙、ポスター等のキャラクターデザインや絵本制作を、3DCGやエアーブラシのタッチで手掛けています。他にはCM、番組タイトル等のアニメーションも。二年前に捨て猫を家族に迎え、すっかり犬派から猫派に変わってしまったのか、ネコ喫茶に行ったり、仔ネコを保護したり昔では思いもよらない経験をさせてもらってます。
e-spers会員。ディジタル・イメージ会員。日本児童出版美術家連盟会員。
< http://www.ne.jp/asahi/muto/hp/ >
E-mail:muto@o.email.ne.jp

・パソコンの上に置いているのが、ショートカット使うためにボルトと10円玉で制作した「左指初号機」です(笑)。使い方は想像できるでしょう。
< http://www.dgcr.com/kiji/20080417/01.jpg >
・肘の部分のみギブスを取りはずせるようになっていて、ギブスのまま抜糸したりしました。
< http://www.dgcr.com/kiji/20080417/02.jpg >