音喰らう脳髄[48]1980年 夏の記憶
── モモヨ ──

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Joy Division: Piece by Piece: Writing About Joy Division 1977-2007この5月17日より、渋谷シネアミューズでバンドJOY DIVISIONのドキュメント映画が上映されることになっている。その試写を見た。
< http://joydivision-mv.com/
>

JOY DIVISIONというのはマンチェスターのバンドで、私がデビューアルバムをレコーディングしたロンドンのエデンスタジオで、彼らはその前日までデモを録音していた。そんなこともあり、私とは、妙に縁があった。映像のあちこちに私と縁のある人物が顔を見せていた。もちろん、それだけではない。私はこのバンドの音楽性にぞっこんなのだ。


バンドは、80年の5月にヴォーカリストの自殺で活動にピリオドを打ち、残されたメンバーは、ニューオーダーというバンド名で活動を再開した。一般には、この後の名前のほうが知られている。

今回の作品は、そんな有名なバンド、ニューオーダーのものではなく、JOY DIVISIONという不幸なバンドの物語に焦点をしぼっている。有名になったバンドのメンバー全員が登場しているものの、映画はというと、70年代から80年に移行する時代と、当時のマンチェスターで何が起きていたか、そしてその最中で逝ってしまったイアン(ヴォーカリスト)が何をしようとしていたか、何を考えていたか、そうした点を丁寧に掘り起こしていく。いわゆるパンクムービーではない。

パンクという文脈の中で幾度も語られた、70年代後半における大都市ロンドンのデッドエンド。何もかもが行き詰まり、覇権を米国にうばわれた英国が、大航海時代以降の拡大路線の放棄を迫られ、路線の転換をはかるあの時。サッチャーが登場して、弱者を切り捨てて無理やりのようにして新時代へと舳先を向けさせたあの時代、である。その余波は、地方都市であるマンチェスターに遅れて到達し、マンチェスターは八十年代を前にして疲弊の極致にあった。

そんな時、パンクムーブメントが町を襲った。映画はここから始まる。そして、JOY DIVISIONが産声をあげるにいたる。そんな流れを私たちは俯瞰で眺めるように映像につきあう。当然、最後はイアンの自殺が待っている。当たり前のようにして、イアンの自殺で彼らの冒険物語は幕を閉じる。

であれば、見終わった後は、脱力感というか、絶望感が残るはずなのだが、私にとってこの映画は、むしろ希望を垣間見せてくれた。1980年、イアンが逝った夏、私もまた個人的な絶望を抱えて街を彷徨していた。その際の、寒々しい心象を思い出しもする。が、それだけではない。この映画は、むしろ希望のようなものを、今の時代に生きる私たちに提示してくれている、そう強く感じたのだ。

2008年の今、私たちが直面しているのは、まさに当時の英国に似た退廃と堕落だ。シャッターが下りた地方都市は現在日本の姿そのものだ。工場で働くしか他に生き方を見出せないマンチェスターの若者たちは、まさに私たちに他ならない。それでも彼らは脱出を試みた。それが大事なのだ。

大切なのは諦めないことだ。

Momoyo The LIZARD 管原保雄
< http://www.babylonic.com/
>

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ロックンロール・ウォーリアーズ Live’80
リザード
ビデオメーカー 2007-01-27

BABYLON ROCKERS 彼岸の王国 東京ROCKER’S 79 LIVE LIZARD フリクションザ・ブック



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Joy Division: Piece by Piece: Writing About Joy Division 1977-2007
Paul Morley
Plexus Pub 2008-01-28

Peter Saville Estate 1-127

by G-Tools , 2008/04/22