わが逃走[22]学校のセンセイの巻 その2・課題を考える/齋藤 浩

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みなさんコンニチハ。グラフィックデザイナーの齋藤です。

以前も書きましたが、私は某専門学校でグラフィックデザインのセンセイをやっています。

で、我ながら自画自賛していることがあるのです。それは何か?
「オレの出す課題はイイ!」ということです。
そんな訳で、今回はこの自画自賛している課題を紹介し、その意味することなどについて語らせていただきます。



●オレの課題は奥が深いぜ

さて、どんな課題かというと、こんな課題です。
これは最近出題したもので、「靴を見せずに靴を語る」の条件のもと、学生諸君にはフェラガモとニューバランスの広告を作り分けてもらいました。
サイズはB3W(天地364ミリ×幅1030ミリ)。車内吊りを想定しています。
ちなみに、学生に配った課題文はこんなです。

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 『サルヴァトーレ フェラガモの広告』と『ニューバランスの広告』を
 制作せよ。
 また、今回の制作の流れとコンセプトをB2縦のプレゼンテーションボード
 一枚にまとめ、提出せよ。

 条件
 ・靴を出さずに靴を語るべし。ビジュアル表現として具体的な写真、
 イラスト等の使用は禁止とする。
 ・連動感は不要。それぞれ独立した広告として制作。
 ・車内吊りを想定、サイズはいずれもB3W(天地364mm×幅1030mm)。

 ↓こんなかんじのものを制作。
 
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こいつを、5月末に開催されるうちのガッコウの学生作品発表会で展示するってことで進行しました。ちなみに発表会は一般公開されます。制作期間は約3週間。ちょっと時間を与えすぎたかも。

さて、課題とひとことに言ってもオレのは奥が深いぜ。
そんな訳で、出題者の意図というヤツを語らせてください。

◇商品を出さずに、という条件。

そもそも広告づくりにおいて、安直に商品そのものを出してしまうとツマラナイものになってしまうことが多いのだ。作り手がぺーぺーの場合は、それが特に顕著。

つまり、いまどきの若いモンはMacの使い方が上手い。で、流行りのテクを使って丁寧に仕上げるだけで、“それっぽい見てくれ”のものが簡単にできてしまう。

でも、それはオペレーターの仕事であってデザイナーの仕事ではない。まずその点を理解していただきたい。その上で、デザイナーの仕事とは何か? を考えてみてください。

さて、デザイナーの仕事とは。簡単に言っちゃえば、デザイナーの仕事とは通訳です。いかにして受け手(消費者)を振り向かせ、送り手(今回の場合は靴メーカー)の言いたいことを伝えるか。その方法を考えることこそがデザイナーの仕事なのです。

デザインとはいわば考え方自体であり、決して色だの形だのといったディテールの話に収まりきるようなものではないのです。と、声を大にして言いたい。

そういった訳で、学生諸君にはテクニックに走らず、頭と体で考えることでデザインというものを体得してもらいたい。そもそも「靴を出さずに」という条件は、課題をよりクリエイティブな方向に持って行きたくてつけた条件であり、決して学生をイジメてる訳ではないのだ。なんか意地悪ととらえている者もいるような気がするんだよなー。違うのにー。

私が思うに、グラフィック広告は1コマ漫画だ。最初からオチを知って読む漫画がつまらないのと同様、全てを語る広告は「ふーん、そうなの。だから何?」で終わってしまうことが多い。すなわち、送り手側からの一方通行な広告は印象に残りにくく、すぐ忘れられてしまうことが多いのだ。

ところが情報の全てを語らず、残された部分を読者の想像力に委ねることができたならどうだろう? うまく導くことができれば、その方が送り手と受け手とのコミュニケーションが成立しやすいのではないか?

見えない部分を想像してもらうことができれば、それがそのまま記憶として残る可能性も生まれる。その結果、その商品に興味をもってもらえることもありうる訳だ。なんて思うのだ。

ちなみに以下に紹介するのは、以前私が作った「カレーを見せずにカレーを語る」広告。




ほら、カレーが食べたくなってきたでしょ? でも、ここにカレーそのものの写真が入っていたら、ここまで伝わらないと思うのだよ。そんな訳で、この“見せずに語る”という条件は、伝わる広告を作りやすくするための道標として設定したのだ。そこまで読み切れずに、ナゾナゾとして受けとめた者もいたと思う。

今回の広告の目的は靴を出さずに靴を語ることではなく、その靴に興味を持たせ、買ってもらうことなのにね。

◇異なるブランドを二つ設定した理由

特にペーペーの場合、仕事を選ぶことなんてまず不可能である。お酒が飲めないのに焼酎の広告を作らなければならないこともあるし、iPodを溺愛していても東芝ギガビートの広告を作らなければならない場合もある。

でも、こういった経験があるかないかで後々デザイナーとしての資質が決まってくる! と言っても過言ではない!!

そう、デザイナーは脳のモード切り替えができてこそ一人前と言えるのだ。それぞれの商品の良さを理解した上で、その良さを最も分かりやすい形で相手に伝えることができてこそ、いっぱしのデザイナー。

特性の全く異なる二つのブランドの広告を、カジュアル脳と高級脳とを切り替えながら同時進行で作り分けることは、それぞれの魅力を客観的にとらえる力を身につけ、その結果自分本位な思い込み仕事から抜け出すことができる(かもしれない)。この条件はいわば、デザイン脳養成ギプスなのである。

◇プレゼンテーションボードの存在

今回は、それぞれ車内吊りポスターを二種ずつ作ってもらった訳だが、仕事はそれだけでは終わらんのだ。いくら良いポスターを作ったとしても、黙っていたところで仕事は来ない。仕事がなければ収入もなく、生活はできない。当たり前のことである。

デザインは芸術ではない。商業活動である。つまり、デザイナーとはデザインの仕事をして収入を得ている者をさす(ちなみに、そうでない人のことは『自称デザイナー』といいます)。

では、デザイナーとして食っていくにはどうすればいいか。答えは簡単。プレゼンテーションすればいいのだ。自分のデザイナーとしての能力がいかに優れているかを相手に分かる言葉で伝えるのだ。

この場合の相手とはもちろん、発注者のことをさす。発注者は常に優秀なデザイナーを探している。恋愛と同じだ。待ってるだけでは素通りされてしまう。アピールして気づいてもらってこそ、そこに幸福な関係が生まれるのだ。

年4回の学生作品発表会は、言わば実弾演習みたいなもんだ。標的、即ち審査員や見学者は全て発注者だ。彼らは企業の宣伝担当であり、広告代理店のクリエイティブディレクターであり、著名なアートディレクターなのである。

そこんとこをきちんと! しっかり! 理解した上で学生諸君には緊張感をもってプレゼンに臨んでもらいたい。とはいえ、一日中作品の前に立ってる訳にもいかないだろうから、プレゼンテーションボードの設置を義務づけた。

つまり、本人に代わってプレゼンテーションボードが相手を説得するのである。ここでしくじったら全てが水の泡。つまり、プレゼンテーションボードこそ今回の主役なのだ。

●次回の課題はどうしたかと申しますと

はい。以上が今回の課題と出題者の意図。ここまで考えてんだからなあ。目からウロコの50枚も落としてほしかったのだが、結果はどうだったのでしょう。

けっこう理屈っぽく考えすぎて自滅した者や、思いつきまではスゲー良かったのに、そこで止めてしまった者など多数。

でも、中には「なるほどー」とオレ様をうならせる作品があったのも事実。こういった作品に引っ張られるように、ゼミ全体のクオリティが上がっていけばなあ、と思う今日このごろです。

さて、次回の課題はどうしたかと申しますと、茹だった脳を水洗いしてほしい気持だったので思いきりバカなものにしました。

『UFOの写真をねつ造せよ』というもの。

リアルなもの、笑えるもの、美しいもの、なんでもアリ! 驚かせた人が勝ち!という訳で、コンペ形式で採点して、優勝者には『UFO映像DVD(わりとインチキくさい)』を贈呈。期間は一週間。けっこう楽しみにしているオレなのさ。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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