[2438] 人の美しい心を信じていたい

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<ラストシーンに泣くだろう>

■映画と夜と音楽と…[377]
 人の美しい心を信じていたい
 十河 進

■うちゅうじん通信[23]
 ミナカの物語ソレトモ誰かの記憶モシクハ時空の視座
 高橋里季

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■映画と夜と音楽と…[377]
人の美しい心を信じていたい

十河 進
< https://bn.dgcr.com/archives/20080606140400.html
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●ウィリアム・P・マッギヴァーンが好きだった

ウィリアム・P・マッギヴァーンという作家が好きだった。40年以上前のことである。当時、主に創元推理文庫で作品が出ていた。いや、ハヤカワ・ポケットミステリでも出ていたのだが、中学生の身では手が出なかったのだ。僕は、とりあえず創元推理文庫の彼の作品を読破した。

昔、創元推理文庫はジャンル別にマークをつけていた。サスペンスものは黒猫、ハードボイルド・警察小説はリボルバー、本格ものは帽子をかぶった男の横顔にクエスチョンマークが入っていた。ウィリアム・P・マッギヴァーンの作品はリボルバーマークに分類されていた。

その頃、僕はミステリ分野では本格ものからカトリーヌ・アルレーのサスペンスものやダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラーのハードボイルドものにシフトし始めていた。ホームズものを小学生で読破し、エラリィ・クィーンやディクスン・カーの代表作を読んだもののアガサ・クリスティやヴァン・ダインの不自然さに違和感を感じたからだった。

そのハードボイルド・ジャンルで異質の評価を受けていたのが、ウィリアム・P・マッギヴァーンだった。私立探偵が主人公のハードボイルドものが主流の中、マッギヴァーンは悪徳警官もの、犯罪者ものを多く書いていた。それまで、正義派の主人公ばかりを読んでいた僕は、犯罪者が主人公であることや警察官が犯罪者に堕ちていく物語に衝撃を受けたものだった。

昨年、たまたま大沢在昌さんとお会いしたとき、大沢さんがウィリアム・P・マッギヴァーンの愛読者だったと聞いて盛り上がった。大沢さんは悪徳警官を主人公にした作品は書いていないが、「新宿鮫」シリーズなどで脇役の悪徳警官を書きながらマッギヴァーンを思い出しているのかもしれない。

マッギヴァーンの悪徳警官ものには「悪徳警官」というそのものズバリのタイトルの作品や「殺人のためのバッジ」という間接的な表現の作品がある。ちなみに僕はずっと、キム・ノヴァクのデビュー作「殺人者はバッヂをつけていた」(1954年)は、マッギヴァーン原作だと勘違いしていた。

トマス・ウォルシュの「深夜の張り込み」を読んだのは、やはり中学生のときだったが、こちらが「殺人者はバッヂをつけていた」の原作だった。三人の刑事が銀行強盗犯の情婦を張り込んでいる。ひとりの刑事(「うちのパパは世界一」のフレッド・マクマレー)が情婦(キム・ノヴァク)に誘惑され、犯人を殺して金を奪うというストーリーだった。

マッギヴァーンは悪徳警官ものだけではなく、10作目の「ファイル7」などは誘拐ものの名作として名高い。そして「緊急深夜版」を経て、12作目が「明日に賭ける」だった。これは、軽装の箱入り(裏表紙の定価表示のところだけ切り抜いて窓にしてあった)だった頃の、ハヤカワ・ポケットミステリから出ていた。

それまで僕は、ポケットミステリは高松市の田町商店街にあった「高松ブックセンター」という古書店でしか買ったことはなかった。僕は新刊で買った創元推理文庫を売りにいき、狭い棚に並んでいたポケミスの古本を買った。そう言えば中学生だった僕は、親の承諾書を持って本を売りにいっていたなあ。

しかし、マッギヴァーン・ファンだった僕は、どうしても「明日に賭ける」が読みたくなり、清水の舞台から飛び降りる思いで新刊を買った。もったいないなあと思いながら、その夜、僕は「明日に賭ける」を読み切った。泣いた。感動した。銀行強盗の話であんなに心を奮わせたのは、14年間の人生で初めてのことだった。

●「明日に賭ける」は「拳銃の報酬」になった

昨年、「レッドパージ・ハリウッド」(作品社)の筆者である上島春彦さんとお会いしたのは、ちょうどその本が日本推理作家協会賞の特別賞の候補になっていたときで、上島さんはちょっとドキドキしているようだった。残念ながら受賞は逸したが、朝日新聞の読書欄で中条省平さんが取り上げるなど、話題になった本である。

「赤狩り体制に挑んだブラックリスト映画人列伝」とサブタイトルにあるように「レッドパージ・ハリウッド」は赤狩り時代を詳細に捉えた労作である。よく調べているなあ、と僕は感嘆した。その第六章は「『拳銃の報酬』ハリー・ベラフォンテとポロンスキー」となっている。その「拳銃の報酬」(1959年)が「明日に賭ける」の映画化作品である。

ところで「レッドパージ・ハリウッド」を読むまで、僕は「拳銃の報酬」の脚本を書いたのがエイブラハム・ポロンスキーだとは知らなかった。僕がポロンスキーの名を知ったのは「夕日に向かって走れ」(1969年)の監督としてだった。当時、赤狩りでハリウッドを追われたポロンスキーが復活したと言われた。

「夕日に向かって走れ」は「明日に向かって撃て」(1969年)と出演者が重なる西部劇だという理由から、そんな二番煎じのタイトルが付けられたのだろう。原題は「ウィリーボーイはここにいると奴らに告げろ」という意味だ。ウィリーボーイを演じたのが「冷血」(1967年)のロバート・ブレイクだった。

恋人を連れて居留地を抜け出したインディアンのウィリーボーイを保安官が追う。ウィリーボーイの恋人はキャサリン・ロス、保安官がロバート・レッドフォードだった。ポール・ニューマンが出ていれば、「明日に向かって撃て」の続編が作れる。

そのポロンスキーは、マッギヴァーンの「明日に賭ける」を映画化するにあたって原作の後半部分を捨て、かなりハードな映画に仕上げた。それは、前年に作られた「手錠のままの脱獄」(1958年)に対するアンチ・メッセージだったのかもしれない。

「手錠のままの脱獄」はトニー・カーチスが演じた黒人嫌いの白人とシドニー・ポワチエの黒人が手錠につながれたまま脱獄し、憎み合い反発しながら次第に理解し友情を深めていく物語だった。それは、ケネディが大統領になり、公民権運動が盛り上がる直前に公開された問題作だった。

おそらくポロンスキーは、白人と黒人が理解し合い友情を結ぶ「手錠のままの脱獄」の甘さが気に入らなかったのだ。あるいは、制作者であり主演者であったハリー・ベラフォンテの意向だったのかもしれない。ハリー・ベラフォンテは、若手の有望な黒人俳優シドニー・ポアチエへの対抗心があったに違いない。

しかし、僕は白人と黒人が対立したまま死んでいく「拳銃の報酬」のラストは不満だった。子供の頃に見た「手錠のままの脱獄」に感動したように、「明日に賭ける」のラストに僕は強く心を揺さぶられたのだ。だから、それを演じるロバート・ライアンとハリー・ベラフォンテを見たかったのである。

●落伍者である男にたったひとつ残っていた「誇り」

「明日に賭ける」が出版されたのは1957年。もしかしたら「手錠のままの脱獄」は、マッギヴァーンの「明日に賭ける」の影響を受けているのかもしれない。「手錠のままの脱獄」はスタンリー・クレイマーがプロデュースし、ふたりのシナリオライターがシナリオを書いた。設定が「明日に賭ける」にひどく似ている。

余談だが、石井輝男監督の大ヒット作「網走番外地」(1965年)は、「手錠のままの脱獄」からヒントを得たことを明言している。こちらは凶悪犯(南原宏治)と手錠につながれていたため心ならずも脱獄する羽目になった模範囚(高倉健)の物語である。

考えてみると、「明日に賭ける」の核になっていたものを「手錠のままの脱獄」で描かれてしまったから、「明日に賭ける」を原作にした「拳銃の報酬」は逆に甘いヒューマニズムを謳えなくなったのかもしれない。原作通りに映画化すると、同工異曲の作品になる可能性は確かにあった。

「明日に賭ける」の主人公アールは黒人嫌いの前科者だ。情婦の稼ぎに頼って生きているような自分に嫌気がさしている。彼は元警官の男から銀行強盗の仕事を持ちかけられる。仲間には、もうひとり黒人のジョニーが加わる。彼らは銀行から金を盗むのには成功するものの、最後にアールの黒人嫌いが原因で失敗し、ふたりで逃亡するはめになる。

逃亡中、ふたりは協力せざるを得ない。しかし、アールの中に次第にジョニーに対する信頼が生まれるのだ。謂われのない差別意識を持っていたことにアールは気付く。彼は白人であろうが黒人であろうが、信頼できる人間であるかどうかが大切なのだと学ぶのだ。

しかし、アールは自らを守るためにジョニーを裏切り、見捨てて逃げる。だが、彼に逃げ延びた喜びはない。彼は自己嫌悪に陥る。自分が見捨てたものは、ジョニーだけではなかった。自分はたったひとつ残っていた「誇り」を捨てたのだ、と彼は思う。アールはジョニーを助けるために、保安官たちが待ちかまえている場所に戻る…。

白人と黒人の犯罪者は互いを無二の者と認め、厚い友情を確認する。だが、そのとき、彼らを捕らえようとする者たちの銃弾が浴びせられる。死にゆくアールを腕に抱いたジョニーは、慟哭する。かけがえのない親友を失った者の悲しみに充ちたラストシーンだった。

今から思えば、甘い感傷的な描き方かもしれないと思う。そんなにきれいなもんじゃない、黒人嫌いの白人と、白人に憎悪を感じている黒人がそんなに簡単に理解し合えるわけがない、そう言われればそうかもしれない。だが、四十数年たった今も、僕の中には泣きたいほど心を揺さぶられた記憶が刻み込まれている。

甘いかもしれないが、長く辛い人生を経験した今も、僕は「明日に賭ける」のラストシーンに泣くだろう。犯罪者に堕ちた男たちが持っていた心根の美しさに、彼らが守りきった最後の誇りに、人と人はいつか必ず理解し合えるという希望に、どんな絶望的な状況でも救いはきっとあるという確信に、僕は感動するに違いない。

世の中は悪意に充ちている。不幸が蔓延し、絶望があふれている。生きていくのは辛く苦しい。人生には何の意味もない。期待は裏切られ、夢など実現するはずがない。どこを探しても希望などない。しかし…、と僕は異議を唱える。諦めるな、希望を失うな、夢を棄てるな、とつぶやき続ける。人の心の美しさを、その存在を、僕は信じていたい。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
免許を取った当時は一年間で一万キロ以上乗っていたのに、最近、気が付くと二週間運転していないなんてことがある。週末にカミサンが車を使うことが多く、そのせいもあるけれど、一年半、夫婦ふたりで五千キロの走行距離は何だかもったいない気がする。といって、ガソリンも高いし、意味なく乗っても環境に悪いし…とジレンマを感じています。

●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
< http://www.bookdom.net/shop/shop2.asp?act=prod&prodid=193&corpid=1
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受賞風景
< http://homepage1.nifty.com/buff/2007zen.htm
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< http://buff.cocolog-nifty.com/buff/2007/04/post_3567.html
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■うちゅうじん通信[23]
ミナカの物語ソレトモ誰かの記憶モシクハ時空の視座

高橋里季
< https://bn.dgcr.com/archives/20080606140300.html
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こんにちは。イラストレーターの高橋里季です。日刊デジタルクリエイターズの隔週金曜日に連載を始めて、ほぼ一年になろうとしています。

30歳を過ぎたあたりから、三年に一度くらい身体の調子が悪い時というのがあって、昨年の今頃、私は、ものすごく身体の調子が悪かったんです。ミネラルをサプリメントで補うことを覚えたり、漢方薬も飲んでみて、今年は、昨年に比べると、ずっと楽になった感じ。

少しくらい身体の調子が悪くても、会社に通うわけでもないし、子供もいないから、どうしても家事に追われるとかいうこともないの。絵を描く前に、紙にホコリがつかないように掃除機をかけるけど、絵を描く気にならないときは、一日読書していても、気持ち的には、「仕事してる」訳なのね。

実際、ず〜っとイラストのことを考えているので、昨年は、「身体の調子が良くなるまで、あんまり自分から営業活動をする気にもならないかも、だけどデジクリに文章とか書くのならできそう。」と思ったの。

イラストの作品集もゆっくり作ろうかな。とか思っていて、ぜんぜん進んでいませんが、ほら、作品集って、ちょっと「作品づくりの姿勢」みたいな文章も載せたりするじゃない? だから、書くことって、そういう準備にもなると思って。デジクリに書いていれば、柴田編集長のアドバイスも、もらえるしね!素敵な文章が書けたら、それを作品集に収録するのだわ! って。

そうしたら、文章って、難しいのよね〜。すごく時間をかけて、直しても直しても、「普通すぎてツマンナイ」「言い過ぎでイヤな感じ」とか、結局、ほんの少しの言い回しのアイデアがうまくいくと、いい感じだと思う。これって、イラストレーションの悩みと同じ。書いてみると、私の「女性のイラストレーション」にも変化や影響があるみたいで、不思議&うれしい感じ。

デジクリに、イラストを載せるということで、編集長、デスクの濱村さんにも、画像データのやりとりなどで、お世話になっています。ありがとうございます。イラストレーションって、つまり筆のタッチひとつ線の幅数ミリを自分で決めていく、とっても孤独な作業なの。だから、絵を描くときに、柴田さんや濱村さんに見せる(デジクリに載せる)っていうことを思いながら描くのも、とっても気持ちの支えになるのです。

ところが、途中で気がついたんだけど、たまにコンペの応募規定などに「未発表の作品(WEB上でも発表した作品は不可)」というのがあるのね。私は、イラストレーションのコンペが大好きなの。仕事の締切が優先なので、「今年は、あんまりコンペに出せなかったな〜」とかいう時もあるんだけど、とにかく出せるところには、全部出品したいと思っています。

それで、デジクリには、「イラストレーションのコンペに出品するイラスト」とは、違う感じでアイデアを出していこう。と思って、そしたら、この頃ね、「究極の未来美生物」のことを考えるのが楽しくってしょうがないの。

・究極の未来美生物については
< https://bn.dgcr.com/archives/20080509140200.html
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本当にこまったわ。きのうも今日も、コンペ用の作品を仕上げる予定だったのよ。作品集のことも考えなくちゃなのに、どんどん違う方向に行ってるわ。もしかしたら私、「やるべきこと」から、逃げてるんじゃないかしら?

という訳で、今回はミナカのストーリーを作ってみました。小説とか脚本とか、ぜんぜん読まないし、知らないので、変だったらゴメンナサイ。書いてみて思ったのは、主人公(今回の場合ミナカ)の内面、考えてることって、どうやって書くのかな? ということ。

ミナカひとりしかいないし、「私」じゃない場合って、どう表現をすればいいのか、わからないまま書いてみたので、読んでみてね。こういうことに詳しい方がいたら、アドバイス、ご意見いただけると、うれしいです。もしかして、意味がわかんない文章になってるかも?

・ミナカについての今までのことは
< https://bn.dgcr.com/archives/20080523140200.html
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「ミナカの物語りソレトモ誰かの記憶モシクハ時空の視座」

◇ミナカの目覚め

ミナカが気がついた時、まわりには何もなかった。ただそれは、なにかの内部であり、壁があった。明るかったけれど、眩しいような光源はどこにもない。どこかの部屋という感じがしないのは、壁がゆるやかな曲線でミナカを包んでいたからだ。どれくらいの広さなのかもわからない。壁の表面は均一でどこまでも透明だった。とにかく、透明な素材の中に空いたひとつの広々とした空間の中にミナカは目覚めた。

ときどき、どこからともなく壁の曲線を伝わるように、玉が転がってきた。ちょうど掌に乗るような大きさだった。液体? ゼリー状? とにかく玉の形をして、ミナカのそばまで転がってくるそれは、転がる時にキラキラ輝き、その形にふさわしい音をたてた。ミナカは、それに気づいたが、気にしなかった。ただ、自分ではないと思った。いつの間にか、それは消え、また同じような音と形が転がってきて、しばらくすると消えてなくなった。たまに、そうゆうことがあるのだと、ミナカは慣れた。

ミナカは、自分の身体を眺めた。最初に気にとめたのは、手の指だった。動かしてみて、両手でシンメトリーないろいろな形を作ってみて遊んだ。擦ったり弾いたりして、音を楽しんだ。ミナカの貝虹色の胸には、ペンダントがあった。でも、なんだか恐かったので、ミナカはそのペンダントのことは気に止めずに、自分の動く指で、飽きずに遊んだ。

身体のあちこちに興味はうつり、全身を使って、転がってみたりした。ずいぶんたってから、手の指の爪の形が前とは少し違うことを確認した。それから、身体が変化することに気づき、その変化が、ある時、止まり、また本(もと)に戻るような変化をすることに気づいた。

ミナカは、ペンダントだけが、何も変化しないことが不思議だった。壁とペンダントは、似ていた。自分とは違う。ペンダントをはずして、眺めることもなく足許に置いて、そこから少し離れて座り、遠くからペンダントと壁を眺めた。

眺めながら、身体を横たえて、なおも眺めていた。何か、考えているのかもしれなかったけれど、それを見つめたまま、じっとしていた。

◇ペンダント

そのペンダントは、硬貨ほどの大きさの透明な石でできていた。その石の中に、ある記号が刻まれていた。
< http://www.dgcr.com/kiji/riki/080606/riki_23 >

◇ミナカの欲望と初めての破壊アルイハ原初の罪

ペンダントの中の記号の一部にミナカの気持ちは、少しずつ近づいて行った。なぜ、「記号の一部」が気になるのかは、わからないけれど確信的な気持ちだった。

その記号の一部に、ミナカは触ってみたいと思った。けれどもペンダントも記号も小さいので、ミナカの指で、記号の一部だけに触れることはできなかった。ミナカは、視覚的に確認したかったのだ。その、一部に、触れている自分を。自分の小指の爪の先端で、そっとペンダントの一部に触れ、横から眺めてみたりした。

ミナカは、ペンダントの石で壁に傷をつけてみた。記号を拡大して描くつもりだった。大きく描けば、触ってみることができる。

悲痛な音が、空間に響いた。ミナカは、その叫び声のような音を聞いて、初めての決定的な不安に襲われた。躊躇(ちゅうちょ)。壁かペンダントか、それとも両方か、とにかく傷ついていた。そのことは、ミナカにもわかった。けれど、ほかには何もなかったのだ。そこには、ミナカとペンダントと壁しかなかった……。

悲痛な音は、ミナカに決断を促す。些細な行為、些細な欲望が、決してたわいのない遊びだけで完結することはないのだろう。不快な音に耐え、何かを傷つける不安に耐え、自分の衝動を実現することを選ぶか? 壁を傷つけるごとに、拡大図の完成に近付くごとに、悲痛な音は、いっそう叫び声のようにミナカを責めた。けれども、ミナカは、描いてみることを選んだ……。断行。 つづく

【たかはし・りき】イラストレーター。riki@tc4.so-net.ne.jp

・高橋里季ホームページ
< http://www007.upp.so-net.ne.jp/RIKI/
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■イベント案内
CSS Nite shuffle
< http://shuffle.cssnite.jp/vol02/
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< https://bn.dgcr.com/archives/20080606140200.html
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日時:6月13日(金)19:00〜23:30
会場:西麻布スーパー・デラックス(東京都港区西麻布3-1-25 B1F)
料金:4,000円(ドリンク別)
内容:
・住太陽×TAKAGISMトークバトル:クリエーターから作家というキャリアパス/住太陽×高木敏光(TAKAGISM)
・BARIMIのカヤック徹底解剖:脳髄から湧き出るアイデア主導のクリエーション/BARIMI(面白法人カヤック/BM11)
・シャッフルTV@スーパーデラックス/川井拓也(ヒマナイヌ)
・住 太陽×切込隊長トークバトル:「Web衰退時代をどう楽しむか」/住太陽×山本一郎(切込隊長)

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■イベント案内
The Happy Web Weekend
< http://www.actlink.co.jp/ja/
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20080606140100.html
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日時:6月15日(日)10:00〜16:00
会場:Vision Centerお茶の水
料金:12,600円(シアターシート)
スピーカー:John Allsopp(westciv 代表)、神崎正英、Michael Smith(W3Cモバイル担当)
主催:ActLink株式会社
内容:国内でのmicroformatsの第一人者である菊地聡が中心となり、海外のスピーカーを交えて開催するWeb標準関連のイベント。

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■編集後記(6/6)

・今年3月に、(社)日本地理学会地理教育専門委員会が発表した「大学生・高校生の地理的認識の調査報告」が非常に興味深い。高校生に対する調査項目は、地理の履修の有無、10カ国の位置を世界地図上に記した番号から選択、10都県の位置を日本地図上に記した番号から選択、北方領土問題の相手国を解答、食料自給率を語群から選択、原油の輸入先を語群から選択、一日の最も早くはじまる国を地図中から選択、エルニーニョの発生海域を地図中から選択、という5項目。高校生の調査結果では、イラクの正答率は25.6%、ベトナム38.8%、スイス37.6%、なんと宮崎県が42.7%、愛媛県が49.6%という惨状だ。正答率が高い方では、東京都93%、アメリカ83.6%、長野県80.8%、つまり東京都、アメリカ、長野県の位置がわからない高校生がいるという現実が恐ろしい。日本の食料自給率の正答率は36.3%、エルニーニョの発生海域は37.0%、原油の輸入先は53.2%、これも大いに問題だ。日本地理学会からの「国際社会に生きる日本人として必要不可欠な地理教育の充実を」という提言は、あたり前田のクラッカーである。調査票を見て、わたしもさっそくトライ。非常にやさしいので、全問正解の自信満々。ネットの世界地図でチェックしたら、ケニアの位置をコンゴと間違えていた。あなたもやってみましょう。しかし、まあ「バカ世界地図」を眺めていると飽きない。ああ、平和だ。(柴田)
< http://www.ajg.or.jp/ajg/2008/03/post-30.html
> 日本地理学会
< http://www.sarago.co.jp/map/
> 世界地図で各国の位置を調べよう
< http://www.chakuriki.net/world/
> バカ世界地図

・遅まきながら、ドラマ「ルーキーズ」面白いね。前回までが一番盛り上がるところだったらしいのだが、明日からの第二部が楽しみ。録画予約したけど、食事時間をドラマに合わせてリアルタイムで見る予定。くさいし熱いし展開は読めるしお約束だし、なんだけど、これがまぁくさくて熱くて王道でいいのであります。「こうなるのはわかっていた」のに泣いてます。ストーリーは公式やWikipediaで。挫折して夢なんてという生徒達に夢を諦めるなと説く先生は国語の教師で、引用される言葉が気になり、井伏鱒二の「山椒魚」は読んでいなかったなぁ、読んでみるかなと別の効用あり。滑舌良かったら最高よ、川藤先生。役名は阪神の選手名がほとんどで、対戦相手が巨人の選手名らしい。原作マンガも読みたい〜。見たことないんだけど、「スクールウォーズ」と似ているらしいよ。(hammer.mule)
< http://www.tbs.co.jp/rookies08/
>  ドラマ公式
< http://ja.wikipedia.org/wiki/ROOKIES
>  Wikipedia
< http://www.tbs.co.jp/rookies08/sp_goroku/
>  先生語録