うちゅうじん通信[23]ミナカの物語ソレトモ誰かの記憶モシクハ時空の視座
── 高橋里季 ──

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こんにちは。イラストレーターの高橋里季です。日刊デジタルクリエイターズの隔週金曜日に連載を始めて、ほぼ一年になろうとしています。

30歳を過ぎたあたりから、三年に一度くらい身体の調子が悪い時というのがあって、昨年の今頃、私は、ものすごく身体の調子が悪かったんです。ミネラルをサプリメントで補うことを覚えたり、漢方薬も飲んでみて、今年は、昨年に比べると、ずっと楽になった感じ。

少しくらい身体の調子が悪くても、会社に通うわけでもないし、子供もいないから、どうしても家事に追われるとかいうこともないの。絵を描く前に、紙にホコリがつかないように掃除機をかけるけど、絵を描く気にならないときは、一日読書していても、気持ち的には、「仕事してる」訳なのね。

実際、ず〜っとイラストのことを考えているので、昨年は、「身体の調子が良くなるまで、あんまり自分から営業活動をする気にもならないかも、だけどデジクリに文章とか書くのならできそう。」と思ったの。



イラストの作品集もゆっくり作ろうかな。とか思っていて、ぜんぜん進んでいませんが、ほら、作品集って、ちょっと「作品づくりの姿勢」みたいな文章も載せたりするじゃない? だから、書くことって、そういう準備にもなると思って。デジクリに書いていれば、柴田編集長のアドバイスも、もらえるしね!素敵な文章が書けたら、それを作品集に収録するのだわ! って。

そうしたら、文章って、難しいのよね〜。すごく時間をかけて、直しても直しても、「普通すぎてツマンナイ」「言い過ぎでイヤな感じ」とか、結局、ほんの少しの言い回しのアイデアがうまくいくと、いい感じだと思う。これって、イラストレーションの悩みと同じ。書いてみると、私の「女性のイラストレーション」にも変化や影響があるみたいで、不思議&うれしい感じ。

デジクリに、イラストを載せるということで、編集長、デスクの濱村さんにも、画像データのやりとりなどで、お世話になっています。ありがとうございます。イラストレーションって、つまり筆のタッチひとつ線の幅数ミリを自分で決めていく、とっても孤独な作業なの。だから、絵を描くときに、柴田さんや濱村さんに見せる(デジクリに載せる)っていうことを思いながら描くのも、とっても気持ちの支えになるのです。

ところが、途中で気がついたんだけど、たまにコンペの応募規定などに「未発表の作品(WEB上でも発表した作品は不可)」というのがあるのね。私は、イラストレーションのコンペが大好きなの。仕事の締切が優先なので、「今年は、あんまりコンペに出せなかったな〜」とかいう時もあるんだけど、とにかく出せるところには、全部出品したいと思っています。

それで、デジクリには、「イラストレーションのコンペに出品するイラスト」とは、違う感じでアイデアを出していこう。と思って、そしたら、この頃ね、「究極の未来美生物」のことを考えるのが楽しくってしょうがないの。

・究極の未来美生物については
< https://bn.dgcr.com/archives/20080509140200.html
>

本当にこまったわ。きのうも今日も、コンペ用の作品を仕上げる予定だったのよ。作品集のことも考えなくちゃなのに、どんどん違う方向に行ってるわ。もしかしたら私、「やるべきこと」から、逃げてるんじゃないかしら?

という訳で、今回はミナカのストーリーを作ってみました。小説とか脚本とか、ぜんぜん読まないし、知らないので、変だったらゴメンナサイ。書いてみて思ったのは、主人公(今回の場合ミナカ)の内面、考えてることって、どうやって書くのかな? ということ。

ミナカひとりしかいないし、「私」じゃない場合って、どう表現をすればいいのか、わからないまま書いてみたので、読んでみてね。こういうことに詳しい方がいたら、アドバイス、ご意見いただけると、うれしいです。もしかして、意味がわかんない文章になってるかも?

・ミナカについての今までのことは
< https://bn.dgcr.com/archives/20080523140200.html
>

「ミナカの物語りソレトモ誰かの記憶モシクハ時空の視座」

◇ミナカの目覚め

ミナカが気がついた時、まわりには何もなかった。ただそれは、なにかの内部であり、壁があった。明るかったけれど、眩しいような光源はどこにもない。どこかの部屋という感じがしないのは、壁がゆるやかな曲線でミナカを包んでいたからだ。どれくらいの広さなのかもわからない。壁の表面は均一でどこまでも透明だった。とにかく、透明な素材の中に空いたひとつの広々とした空間の中にミナカは目覚めた。

ときどき、どこからともなく壁の曲線を伝わるように、玉が転がってきた。ちょうど掌に乗るような大きさだった。液体? ゼリー状? とにかく玉の形をして、ミナカのそばまで転がってくるそれは、転がる時にキラキラ輝き、その形にふさわしい音をたてた。ミナカは、それに気づいたが、気にしなかった。ただ、自分ではないと思った。いつの間にか、それは消え、また同じような音と形が転がってきて、しばらくすると消えてなくなった。たまに、そうゆうことがあるのだと、ミナカは慣れた。

ミナカは、自分の身体を眺めた。最初に気にとめたのは、手の指だった。動かしてみて、両手でシンメトリーないろいろな形を作ってみて遊んだ。擦ったり弾いたりして、音を楽しんだ。ミナカの貝虹色の胸には、ペンダントがあった。でも、なんだか恐かったので、ミナカはそのペンダントのことは気に止めずに、自分の動く指で、飽きずに遊んだ。

身体のあちこちに興味はうつり、全身を使って、転がってみたりした。ずいぶんたってから、手の指の爪の形が前とは少し違うことを確認した。それから、身体が変化することに気づき、その変化が、ある時、止まり、また本(もと)に戻るような変化をすることに気づいた。

ミナカは、ペンダントだけが、何も変化しないことが不思議だった。壁とペンダントは、似ていた。自分とは違う。ペンダントをはずして、眺めることもなく足許に置いて、そこから少し離れて座り、遠くからペンダントと壁を眺めた。

眺めながら、身体を横たえて、なおも眺めていた。何か、考えているのかもしれなかったけれど、それを見つめたまま、じっとしていた。

◇ペンダント

そのペンダントは、硬貨ほどの大きさの透明な石でできていた。その石の中に、ある記号が刻まれていた。


◇ミナカの欲望と初めての破壊アルイハ原初の罪

ペンダントの中の記号の一部にミナカの気持ちは、少しずつ近づいて行った。なぜ、「記号の一部」が気になるのかは、わからないけれど確信的な気持ちだった。

その記号の一部に、ミナカは触ってみたいと思った。けれどもペンダントも記号も小さいので、ミナカの指で、記号の一部だけに触れることはできなかった。ミナカは、視覚的に確認したかったのだ。その、一部に、触れている自分を。自分の小指の爪の先端で、そっとペンダントの一部に触れ、横から眺めてみたりした。

ミナカは、ペンダントの石で壁に傷をつけてみた。記号を拡大して描くつもりだった。大きく描けば、触ってみることができる。

悲痛な音が、空間に響いた。ミナカは、その叫び声のような音を聞いて、初めての決定的な不安に襲われた。躊躇(ちゅうちょ)。壁かペンダントか、それとも両方か、とにかく傷ついていた。そのことは、ミナカにもわかった。けれど、ほかには何もなかったのだ。そこには、ミナカとペンダントと壁しかなかった……。

悲痛な音は、ミナカに決断を促す。些細な行為、些細な欲望が、決してたわいのない遊びだけで完結することはないのだろう。不快な音に耐え、何かを傷つける不安に耐え、自分の衝動を実現することを選ぶか? 壁を傷つけるごとに、拡大図の完成に近付くごとに、悲痛な音は、いっそう叫び声のようにミナカを責めた。けれども、ミナカは、描いてみることを選んだ……。断行。 つづく

【たかはし・りき】イラストレーター。riki@tc4.so-net.ne.jp

・高橋里季ホームページ
< http://www007.upp.so-net.ne.jp/RIKI/
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