デジアナ逆十字固め…[79]クライアントはどんな色を見ているのか?
── 上原ゼンジ ──

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前回はWEBのカラーマネージメントについて書いた。最近のディスプレイには、色再現域の広い製品が増えてきている。鮮やかな色再現が売りのディスプレイを使い、カラーマネージメントをせずにサイトを閲覧すれば、写真やイラストなどのコンテンツは色鮮やかに見えてしまう。

鮮やかになったからキレイでいいや、という話ではなく、クリエイターの見せたい色でなくなり、商品の色も別の色になってしまうという話だから、ちょっと問題だ。従来のWEBのカラーマネージメントというのは、「みんながsRGBで運用していれば、大きな違いはない」というような考え方だった。

でも、ディスプレイの急激な進化により、見ている色の違いも大きくなってしまった。これからは、WEBでもカラーマネージメントの運用をきちんと考えていかなければいけないということだ。


ここで言うカラーマネージメントとは、画像に対してプロファイルを埋め込んで運用するということ。閲覧する側が、カラーマネージメントに対応するブラウザを使い、ディスプレイのキャリブレーションもしていれば、色は正しく伝わる。

たとえば、MacでSafariを使っていれば、デフォルト状態でカラーマネージメントに対応している。コンテンツを作る側が、きちんとディスプレイのキャリブレーションをとり、画像にはプロファイルを埋め込んでおけば、イメージした色が伝えられるということだ。

ここで、一つお詫びと訂正。

前回「現状で、どういう環境だったらカラーマネージメントに対応しているのか、についてきちんと検証したわけではない。私の普段使っている環境(Mac OS 10.5.3)では、Safariはオーケー、FireFoxとOperaは非対応という感じだった」というふうに書いた。しかし、FireFoxの場合も設定を変えることにより、カラーマネージメントに対応させることが可能。失礼しました。で、変更の方法は以下の通りです。

1)URLを入力するロケーションバーに
about:config
と入力する。

2)gfx.color_management.enabled をtrueに設定して再起動する。

この操作を行えば、前回アップしておいたページの画像の明るさが違って見えるようになるはず。つまりプロファイルを認識して、画像の忠実な色再現ができるようになるということだ。
< http://www.zenji.info/color/browser.html
>

制作サイドでプロファイルを埋め込んでおけば、ユーザー側で正しい色の観察が可能という話だが、カラースペース自体はAdobeRGBなんかにはしない方がいいだろう。もし、AdobeRGBにした場合、相手がカラーマネージメントに対応した環境であれば問題ないが、非対応で色再現域の狭いディスプレイを使っていた場合には、成り行きで彩度が落ちてしまう。

あくまで、カラースペースはsRGB。そしてプロファイルは埋め込んでおく、という方法がいいんじゃないかと思う。

●エミュレーションの方法

以前、友人に頼まれて、某下着屋さんのサイトの手伝いをしたことがある。色鮮やかでスケスケの下着をネット販売するお店で、ふだんは買いづらい製品がネットで購入できるということで、そこそこ繁盛していた。

私はその商品の画像の担当をしていたのだが、クライアントのチェックが厳しくて、けっこうしんどい思いをした。「もっと鮮やかに」とか、「生地の質感をもっと出して」というようなリクエストだったのだが、校正のイメージが伝わらなかったり、「それは無理!」というような要望だったからだ。

クライアントには色鮮やかな下着の現物のイメージがあるから、それを出して欲しいというのだが、クライアントの使っていた古いCRTのディスプレイでは絶対に再現できないような色だった。

私は、出せませんよと言うのだが、クライアントには理解できず、「もっと鮮やかに」と言う。しょうがないから調整してアップすると、それを見て「今度は質感がなくなった」とのたまふ。単純に彩度を上げてしまえば、飽和して質感がなくなるのは当然なことだし、特に色域外の色を現物に合わせろというのは無茶なリクエストだ。相対的に鮮やかには見せることはできても、絶対的な色は出ない。

しかも、何のキャリブレーションもしていない、色域の狭いディスプレイで画像を確認しているのだから、話は合わない。毎度毎度同じようなやりとりがあって消耗してしまった。

もう二度とああいう仕事はしたくないものだと思うのだが、今だったら、少しマシな方法もあるかなと思う。それは、クライアントのところに行ってディスプレイを測定し、モニタプロファイルを作成して、自分のディスプレイでエミュレーションする方法だ。

もともとPhotoshopには、画面で校正を行う機能は備わっているが、自分のディスプレイの色再現域が広がり、クライアントのディスプレイの色再現域を完全にカバーできていれば、どんな色でクライアントが見ているのかということが、かなり正確に分かるようになる。

このエミュレーションの機能というのは、ディスプレイに備わっている製品もあるし、なければPhotoshopで設定を行う。「ビューメニュー/校正設定/カスタム」から「校正条件のカスタマイズ」画面を表示させ、シミュレートするデバイスの項目で、クライアントのディスプレイのプロファイルを選択する。

こちらで、クライアントのエミュレーションが出来たからと言って、クライアントの不満が解消されるわけではないが、最低限同じ色を見ながら、意見交換をするというワークフローになっていれば、話は通じやすくなる。たとえば、クライアント側でこんなふうに見えてるんだったら、直して欲しいと思うのも無理ないか、とったことも理解できるようになる。

WEBの世界というのは、ユーザー側の環境がバラバラだから、何を基準にコンテンツを作ったらいいのか悩むところだが、とりあえずはクライアントの環境をエミュレーションするとか、Windowsではどう見えるか? Macではどう見えるのか? ぐらいの確認はしておいたほうがいいだろう。

紙媒体の場合も、同じ校正紙を見ながら、意見交換をするというのが原則だが、互いに信頼できるディスプレイを使い、きちんとキャリブレーションを行えば、校正の回数を減らしたりできるようにもなる。高いディスプレイをみんなが使う必要はないが、編集部や制作に一台、校正用の信頼できるディスプレイを用意しておけば、色のトラブルも減っていくはずだ。

【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇上原ゼンジのWEBサイト
< http://www.zenji.info/
>
◇「カメラプラス トイカメラ風味の写真が簡単に」(雷鳥社刊)
< http://www.maminka.com/toycamera/plus.html
>

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