気になるデザイン[16]ヌ、ヌレバイ? それって何なの!?/津田淳子

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世の中では近年、大人の社会科見学がブームですが、私も日々、いろんな現場を見学させてもらっている。これがすごくおもしろい。

私は、『デザインのひきだし』というデザイナーの方にむけた、デザイン/印刷/紙/加工に関する媒体を作っているので(他にもデザイン/印刷関連の本をつくっていますが)、お陰で印刷や加工の現場取材をさせていただくことが非常に多いのだ。

本で読んで知識は得ていても、やはり現場に伺うと、どうやってそれが印刷されているのか、加工されているのか、そしてどんなところがキモなのか、ということを直接見せていただけるので、毎度毎度、大変に勉強になる。百聞は一見に如かず、とはまさにその通りですな。



今年になって見学させてもらった現場は、うーん、ちゃんとは数えてないけど20〜30カ所は伺っているはず。

現場ではその作業を見て「おぉー!」とか「すごい!」とか感動しているわけですが、もうひとついつも「へぇー」と思って伺うのが、それぞれの現場/業界で使われている「業界用語」だ。

前号の『デザインのひきだし』では、紙の型抜き現場をいろいろと突撃させていただいたが、最初はもう何が何だかよくわからなかった。だって「うちはビクだよ」とか「トムソンやってます」とか、「ブッシュやってるところは少ないからなぁ」というのから始まって、「ピナクルだと細かいものが抜けるよ」とかいろいろ教えていただいても、うー、それってなんなんっすか!?(これらが何なのか知りたい方は、最後に簡単に説明を付けておきますのでご参照ください。もっと詳しく知りたい方は、『デザインのひきだし4』をご覧くださいまし)

こういう業界用語/専門用語を使っている現場の方々を見ると、「かっこいい」と思ってしまい、ちょっとうっとりする。これってなんでなんでしょうか(笑)

それ以外にも、ファンシーペーパーを作っている抄造(しょうぞう:紙を漉く)現場に伺った時に聞いて印象的だったのが、「色はヌレバイですから」というもの。「ヌレバイ」ってなんなんっすか?

実はこれは、紙は濡れているとき、乾いたときの倍くらい濃い色だ、ということを指す言葉だそうだ。抄造工程では、紙の原料であるパルプは水と合わさっているので当然濡れている。色紙を作るときはそこに染料などを入れて色付けするが、パルプと水が合わさった状態で色を付けても、それを乾燥させると、本当に色が薄くなってしまう。

この現場に伺った時には、何枚か色を付けさせてもらったのだが、パルプの状態ではけっこう赤くても、それを乾燥させるとピンクになって、なるほど確かに「濡れ倍」ですな、と思ったものだ。ちなみにいい気になってどんどん染料入れて濃い色をつけたら、なんだかすごくきたない色の紙ができてしまったのはご愛嬌。

出版/印刷業界の専門用語としては、ゲラとかルビとかドブとか、知らない人にとっては「なんだそりゃ?」という言葉がいろいろあるが、調べてみると他の業界にもいろいろな専門用語があるもんですな。
< http://ja.wikipedia.org/w/index.php?oldid=20862882 >

いやぁ、これからもどんな専門用語が聞けるのか、そしてそれを話すかっこいい現場の方にどれだけ出会えるか、楽しみ、楽しみ。

※ビクというのは「ビクトリア打ち抜き機」の略。基本的に一枚ずつ紙を打ち抜き機に入れて型抜きする方法。

※トムソンは、ビクなど平打ち抜き機で使用する「刃型」のこと。木の板に刃を埋め込んだもの。なぜ「トムソン」と呼ばれているかは、調べたけれど諸説あって、真相はわからずじまい。ご存知の方がいらっしゃったら教えて下さい。なんか「トマソン」を思い出してしまいます。

※ブッシュは、ビクと違い、何枚も重ねた紙の束を鋳型の刃で一気に型抜きする方法。トレーディングカードとかトランプとかはこれで型抜きされていることが多いようですな。

※ピナクルとは、平打ち抜き機で使う刃型の一種で、トムソン刃と違って、一枚の金属を腐食して作られた刃型のこと。

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